『それで、風先輩がですね____』
友奈の話を聞き、たまに相槌を打つ。何回目が数えられなくなってきたこの通話も、そろそろ慣れてきた。
(よくまぁ毎日話題が尽きないものだ...)
学校を辞め、大赦に所属することにした俺には毎日ほとんど変化がない。それに比べて、彼女は毎日を相当楽しくやっているように思える。その声音であったり、それ以外だったり。
『椿先輩も今度食べに来てくださいね!うどん!』
「大赦の仕事が落ち着いたらな」
『最近忙しいんですか?』
「個人的な部分は進んでるんだが...どっか遅れてる部署があるのか、しわ寄せが来てるような感じがして、なんだかんだ忙しくなってる」
学校に戻ってこないか彼女に聞かれたことがあったが、俺が応じることはなく、満開の調整が出来ないか等の調査を順調に進めていた。彼女達が戦わなくなっても、敵は全滅した訳ではなく、次世代に継がれる可能性がある。
とはいえそれも、最近大赦内が浮わついているというか、何か起きてそうな感じはするのだが。個人的に調べても尻尾は出てこない。
(今度安芸さんに聞いてみるか...)
『じゃあそれが終わったらですね!』
「そうだな。っと」
話ながら弄っていたパソコンに一通のメールが来て、作業的に開く。
「...悪い友奈。急に追加の仕事が来た。今日はこれで......」
『分かりました』
「ごめんな」
『いえ!じゃあまた!』
「あぁ。またな」
通話を切り、つけていたヘッドホンを外す。椅子の背もたれに倒れかかり、部屋の天井を見上げて大きく一息。
彼女にこの動揺が悟られなかったのか。それを考えるより前に、俺はメールの内容をもう一度確認する。間違いのないように、勘違いのないように、いや、何かの間違いであって欲しいと祈るように。
やがて、全文を読み込んだ俺が呟いてしまったのは。
「嘘、だろ」
辛うじて出た、そんな言葉だった。
メールの件名は『奉火祭について』で__________
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怒った神様を静めるため行われるのが、巫女を捧げる『奉火祭』だという話は、園ちゃんから聞いた。本来選ばれる巫女の人達の代わりに、東郷さんが行ってしまったことも。
心配をかけないように、私達から東郷さんの記憶を消したことも。
真実を知った私達はすぐに行動した。壁の外に行って、東郷さんを連れ戻す。ブラックホールを見た時は驚いたけど、足は決して止まらなかった。
東郷さんを助け出して、全員がいる日常が戻ってきて数日。
「友奈ちゃんは『私の』友達です」
「別にそれを否定してはないだろうが...」
まだ検査入院をしている東郷さんの病室に行くと、扉の向こうからそんな声が聞こえた。誰なのか確認するまでもなく扉に手をかける。
「東郷さん!椿先輩!!」
「友奈ちゃん!」
「あぁ友奈か。よっ」
笑顔で出迎えてくれる東郷さんと、片手をあげて挨拶してくる椿先輩。
「椿先輩も来てたんですね」
「まぁ、休みだったからな。体調に何もないのか気になって」
「っ、と、東郷さん何かある?」
「ふふっ、友奈ちゃんは昨日も来たでしょ?何もないわよ」
「元気だと思うぞ。さっきまで文句を言われてたからな」
「文句?」
「友奈ちゃんの友達は自分で、お前はそうじゃないんだぞって」
「ち、違うのよ友奈ちゃん!!ただ私は友奈ちゃんのことを私の方が好きだっていうのを言って、お互い喧嘩腰になってしまって...」
少しずつ声が小さくなる東郷さんに、何でもないような顔をしている椿先輩。
「東郷さん、きつい言い方はダメだよ」
「はい...」
「椿先輩もちゃんとしてください」
「俺もかよ...」
「だって、私は二人にも仲良くしてほしいですから!」
共通の話題というのが私だけなのか、よく私のことで話している二人。少し恥ずかしいけど、それで二人が言い争っているのは悲しいし、仲良くなって欲しい。
「くっ...友奈ちゃんのため......友奈ちゃんの...!!」
「いや、そんなに思い詰めるなら」
「椿先輩?」
「......これからよろしく。東郷」
「...こちらこそ。古雪先輩」
お互い一度躊躇ってから伸ばした手で握手する。そこに私の手をのせる。
「はい!これでよし!!」
「友奈...」
「そうね。友奈ちゃんの言うとおりね」
「うん!!」
「じゃあね!東郷さん!!」
「えぇ。古雪先輩、友奈ちゃんをしっかり守ってくださいね」
「了解」
日が落ちてから、東郷さんの病室を後にする。雪が降りそうなくらいの肌寒さだ。
「くちっ」
「なんだそのくしゃみ」
「!忘れてください!恥ずかしい...」
「......はぁ」
「えっ?」
白いマフラーが私の目の前を舞ったように見えた時には、隣にいた椿先輩が正面にいた。
「寒いならしっかりしとけ」
私の首元には、さっきまで椿先輩がつけていた筈の白いマフラー。
「えっ!悪いですよ!!」
「今寒くないし、なんならあげるから気にするな」
「気にします!!」
「...じゃあ今度返してくれ。今日は貸すだけ。それでいいか?」
確認するような言い方をしながらも、話は終わりだと言わんばかりに歩き始めてしまう椿先輩。それはただ、私を気遣ってくれているだけで________
「......はぃ」
これ以上言うこともできず、私はマフラーを口許まであげた。
その時、降ろした手が胸の辺りを掠めて。
(ッ!?だ、ダメっ!!!)
「!!!」
「?友奈?」
「っ、な、なんですか?」
一瞬生まれた苦しさを悟らせないように。動揺を誤魔化すように。脂汗を見られないように。
「どうした?」
「いやー、暖かいなと思ったら寒気が逃げていってくれたみたいで。背筋から飛んでいきました!」
「なんだそれ......全く」
強めに掴まれる手に、バランスを崩しそうになる。でも、嫌な強引さではない。
「これならもう少し暖かいだろ」
「...はい!!」
「よし。帰るぞ。東郷に言われたし、お前がブラックホールとやらになられても困る」
手の暖かさは、私の胸まで届くみたいで。その熱に甘えたくなってしまう。
「椿先輩、ありがとうございます」
「何が?」
「...私、東郷さんのこと、忘れちゃってました。絶対忘れないって言ったのに」
「神様がやったことだろ。気にしてもしょうがない」
「それでもです...でも、全部が手遅れになる前に、思い出すことができました」
東郷さんのことを忘れてしまってから、私に届いた一通のメール。内容は『忘れるな。思い出せ』
差出人は、今隣にいる。
「俺はしばらく接触を禁止されてたし、メールも大赦から検閲されないように曖昧なものしか出せなかったけどな。お前ならあれくらいで分かるんじゃないかなとも思ってたけど」
「でも、そのお陰で、私達は間に合いました...」
「これくらいしか出来ないからさ。せめて、な」
「本当に、ありがとうございます」
(できれば、これからも......)
言いかけた言葉を飲み込んで、私は繋いでいた手を握り直した。決して離れないように。
(でも、私は、この手を握っててもいいの?)
「......友奈」
「はい?」
「...何でもない。帰ろう」
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相手に優しくできるのは、それだけ気の良い奴と言えて、それだけ周りへの見せ方を制御できるとも言える。
それが上手い奴が、全力で隠し事をしようとすればどうなるか。
「ほら」
「あっ...」
「赤信号だぞ。気を付けろ」
「す、すみません...」
答えは、完璧に隠し通すか、やりすぎて逆に怪しいか、それを隠せないくらい限界を迎えているか。大方この三択となるのだろう。
(はぁ...)
夕焼けが空を彩る帰り道。隣を歩く友奈は明らかに調子を崩していた。ぼーっとしているし、時折胸を気にしているし、表情は固い。
最も、最初から疑ってかからなければ、俺も気づけてなかったかもしれないが。現に、東郷すらまだ気づいた様子はない。
(でも、ここまで綻びが出ないんじゃ...)
彼女は何かを抱えている、だが、その何かは分からない。本人が話す気がないことは分かっていたから、ここまで聞くことはなかったが_________
(手遅れになる前に聞くべきか、無理矢理通すべきか)
彼女にも彼女の思いがある。後者はその思いを潰す行為に他ならないが、それでも。
「...なぁ、友奈......!?」
横にいた彼女がいない。目を丸くすれば、視界の端に彼女が映った。
「はぁ、はぁ、ハァッ...!!」
「ッ!?」
倒れ込むようにして地面に座る彼女は、明らかに異常だった。
「友奈!?おい友奈ッ!?」
「それで...ありがとうね」
「いえ、自分は...病院に連れていくならお手伝いしますが」
そう聞くと、目の前にいる友奈のお母さんはどこか苦しそうな顔をした。
「夫ももうすぐ帰ってくるし、大丈夫よ。ありがとう」
「......分かりました」
(あの優しさは、遺伝もあるんかね)
僅かな違和感は、今の俺にとって十分すぎる誤差になる。落ち着いた様子でソファーに寝ている友奈をちらりと見て、俺は立ち上がった。
「じゃあせめて、あいつの荷物は運ばせてください。このくらいはお願いします」
「...分かったわ。部屋は」
「大丈夫です」
既に何回か来たことのある家だ。簡単な間取りは把握している。迷うことなく彼女の部屋を訪れた俺は、彼女の鞄を丁寧に置いた。
「......さて」
俺は友奈が苦しそうにしていたのを落ち着かせ、おぶって彼女の家まで来た。寝ているとはいえ倒れた彼女の話をして、彼女の母親はあのような態度を取った。
一人娘が倒れたことを突然言われた反応としてはあまりに不釣り合いな_____まるで、そのことを覚悟していたかのような反応。
彼女の違和感と照らし合わせ、考察するなら。
(何か、家族も把握してる事情が...)
部屋の中を見渡し、ふと俺は目につく場所があった。
『中学に入る時、親が買ってくれたんです。全然見てないんですけどね。あはは...』
以前彼女が話していた参考書。本棚に並んだそれは、一冊だけ不自然に飛び出ている。
直感だけでそれを手に取った俺は、すぐに当たりを引いたのだと確信した。
「...勇者、御記」
中をめくると、彼女の日記が綴られている。それが普通の内容なら良かったのだが、そう世の中は良い方に噛み合っていない。
(......これが、勇者の宿命だってのか?こんなことが?)
神に見初められ、呪われたこと、それによって与えられている苦痛が激しくなっていること、次の春を_____次の彼女の誕生日を迎えることができないだろうということ。
文字だけで恐怖をここまで伝えられるのかと背筋が凍る。
極めつけには、これを他者に話すと呪いが伝播するということ。最も大きいものは車による事故で、それでも話をしようとしただけだと記述されている。
(この本と内容からして、大赦はこの事実を知っていた。偉いわけでもないから話が来てないのは納得できるが、それでも...)
「チッ」
何の生産性もない舌打ちが、俺の口から漏れた時だった。
「ぁ...」
小さく、空気に溶け消えそうなか細い声。振り向くと、赤い顔を隠せていない友奈がいた。
その赤が、少しずつ白くなっていく。
「ゆう」
「忘れてッ!!!!」
「なっ!?」
制御できないのか、する余裕がないのか、苦しいくらいに抱きしめられる俺。しかし、彼女は力をより強めていく。
「忘れてください!!今読んだもの全部っ!!」
「お、お前...」
「そうじゃないとまた不幸になる!!椿先輩忘れて!!忘れてくださいッ!!!お願いしますッ!!!!」
叫びは少しずつ小さくなり、やがて力尽きたのか、俺に寄りかかるように倒れ込んだ。苦しさも、今は服の裾を掴むだけになっている。
「忘れて...」
「......読んだよ。全部」
「っ!!」
「その上で俺の返事は、『断る』だ。友奈」
「どうして...どうしてですか。このままじゃ椿先輩も」
「もしあの時、お前が東郷にそう言われて、はいそうですかと納得したか?」
「そ、それは......」
「それと同じだ。俺は、お前のことも、お前が苦しんでいる現状も、忘れたいとは思わない。例え代償が俺自身であっても」
俺自身、確かに突然の情報ではあったが、覚悟は決まっていた。それが神事を扱う大赦に所属することであり、勇者と関わるということだから。
「な、ならせめてここから出ないでください。どこにも行かないで。そしたら」
「お前に迷惑かけられるわけないだろ」
「!!ダメっ!!」
彼女は手を伸ばしてくるが、来るのが分かってるなら病人相手になす術もなく捕まるわけがない。するりと避けた俺は、玄関に向けて歩きだした。
「お前の言う呪いがお前を基点として全てに伝播するなら、俺が主導したものには伝播しないだろう。今から俺が東郷に伝えれば、彼女達に不幸が来ることなく事態を知れる」
「でもそうしたら椿先輩は!!」
「隣の家に行くだけだぞ。まさかそんなわけ...はっ」
最悪を想定し、スマホに文字を入力しながら玄関を出て、隣の家へ向き________俺は思わず笑った。
「神様は仕事は早いがワンパターンだな。マンガやアニメなら炎上するぞ」
「何を言って...!!」
曲がり角から出てきた『無人のトラック』は、エンジンを吹かしている。いつすっ飛んでくるかは、すぐに分かるだろう。
「先輩ダメ!!逃げて!!」
「いや...ダメらしい」
張り付けられたように動かなくなった足を睨むのはすぐに諦め、手が動くことに感謝しながら友奈の方を向いた。
彼女は今にも倒れそうな顔で、それでも俺を動かそうと足を引っ張ろうとしている。
「友奈」
「先輩ッ!!!」
『人類のために頑張ったあいつがここで終わっていい筈がない。そんなことがあっていい筈がない』
以前、俺が言った言葉だ。
無事に戻ってきた彼女に、こんな苦しい思いだけさせていいわけがない。
それに、俺の無事も含んでくれてるなら_________
「友奈。聞いてくれ」
「イヤッ!嫌です!!ここじゃ聞きたくない!!!」
「俺はお前が望むなら意地でも戻ってくる。俺はもう、お前のものだからな」
病室で誓ってから、そして、仮面を外してくれたあの時から、俺の生きる意味は決して俺だけのものじゃないと決めていたから。
「だからお前は好きにしろ。お前の望んだことをしろ。どんな結末を迎えようとも、お前が幸せでいれるならそれでいい。神とか他の誰かとかじゃない。自分のためにやれ」
「ダメ!!嫌です!!だったら椿さんはいてください!!私は側にいて欲しい!!!」
「......大丈夫」
根拠なんて全く提示できない、普段の俺ならキレてもおかしくない励ましの言葉。そんなことしか言えない俺を、彼女は許さないだろう。勝手に人の日記も見たし。
(でも、今だけは)
トラックが唸りを上げて動き出す。
「神様に好かれるお前が生きてて欲しいって望んでるんだぞ?じゃあ死なないさ」
なにも言わず、涙を溢しながら捕まってくる友奈を、俺は動かせる腕を振るって突き飛ばした。
それでもこっちに来る彼女にメールを送信中のスマホを投げる。今も高熱が出てるとか思えない俊敏な動きで避けた彼女だが、それは彼女の足を一瞬止めるのに十分な仕事をしてくれた。
彼女が手を伸ばしても、決して届かない。
「だから、今度一緒に桜を見よう」
彼女が春まで生きられたら、その時は一緒に__________
「椿先輩ッ!!!!」
そして、世界の全てが暗転した。
(だから、その時は笑顔を見せてくれ)
「約束だ」
「......ぁー」
か細い声を漏らす。動きにくいのは左手にやたらケーブルが繋がれてるからだろう。
「......ぐずっ」
違った。ここが現実味のある天国じゃなければ、俺にくっついてる彼女は俺の無事を喜んでくれているんだろう。
こういった時どんな一言目を告げるべきか。
「...」
「...」
「......ぁー」
さっきと同じ、意味の違うか細い声を上げた俺は、思考が纏まらないまま口にする。
「桜、見れそうか?」
「...ちょっと早いですよ」
「じゃあもう一眠り...嘘嘘うそですからお腹絞めないで」
「...もぅ」
彼女は涙を流しながら、それでも笑って口を開いた。
「お帰りなさいっ!!椿先輩!!」
----------------
『東郷さん!!助けてッ!!!!』
東郷さんが囚われた私を助けに来てくれた時、すんなり助けて欲しいと言えたのは、私のこととは関係なく全力で一度叫んだことがあったからだと思う。
椿先輩が私の日記を読んだあの日、事故にあわされたあの人を助けるために私は全力だった。
車にはねられたあの人は、ピクリとも動かず、赤い水溜まりを作り出して。あの時既にパニック状態だった私は、東郷さんが救急車を呼んだりしてくれている間、ただその水溜まりにいた。
どんどん手は冷たく、顔は白くなっていくのに耐えられず、ただただ悲鳴をあげる。そうすることしか出来ない自分が歯痒くて、苦しかった。
結局。病室に搬送された椿先輩は、なんとか死んではいない状態だった。いつどうなるかは分からない状態ではあったけど。
私はそれを聞いて、なんとか落ち着けて__________一人、山の上を目指して階段を登る。
途中でタタリの痛みが強くなり、体が熱いのか寒いのかよく分からなくて、気持ち悪くて、何度も吐いてしまった。足も肺も苦しい、痛い。辛い。
何度も休みながら、それでも足を止めることだけはしなかった。十分高いところまで来た私は、眼下となった町を見る。
ここまで来たのは、自分の意志を確かめるため。
『だからお前は好きにしろ。お前の望んだことをしろ。どんな結末を迎えようとも、お前が幸せでいれるならそれでいい。神とか他の誰かとかじゃない。自分のためにやれ』
私の、まだ生きているこの命で何をしたいか考えてた時、浮かんだ思いを見定めるため。
「......私は」
ここに住む人達に、私の友達に、私と同じ苦しみを受けされるわけにはいかない。そのために私は、『皆のために』動ける。
でも。
『だから、今度一緒に桜を見よう』
あの人の微笑んだ顔が浮かんでくる。
「......」
今の私が望むのは、この町のこと以上に、あの人と一緒に、桜を見ること。『私のために』やりたいこと。
一度大きく息を吸う。氷のように冷たい空気が熱くなった肺に張り付く。
この感覚を味わえるくらいには、私はまだ、生きているんだ。死にたいくらい苦しくても、まだ。
「...椿先輩」
首に巻いたマフラーに手を当てる。あの時椿先輩がつけていたマフラーは、沢山の血を吸って、手で洗っても白には戻らず、濃い桜色のまま。
これをつけている限り、私はまだ、折れはしない。
『約束だ』
「私、決めましたよ」
私は_______________
それから私は、一度は神婚を受け入れ、それが人として生きることではないことが分かってからは、敢えてそのまま流されることにした。
私が神様に気に入られているというのなら、直接神様の目の前まで行った方が、話を聞いて貰えると思ったから。
私の狙いは上手くいかなくて、神樹様に取り込まれそうになったけど、東郷さん達に助けてもらって、最終的には平和な日常を、人としての生活を取り戻すことができた。
そして私は、迎えられないと言われていた春を迎えることができて__________
「そんなことが...」
「風先輩も大変でしたよ。受験がーって」
「確かに。そう考えたら俺は大赦に就職してラッキーだったかもな。受験期全部寝てたわけだし」
車椅子の車輪が小さく音を立てながら進む中、私と椿先輩は進む。
「大赦はまだ続けるんですか?」
「詳しいことはまだ聞かされてないけど、存続はするらしいからな。まぁ、世界の復興作業とかが主になってくるのかね」
「だったらちゃんとリハビリしないとですね!お付き合いしますよ!」
「それは...いや、そうだな。頼むわ」
一時期はもう二度とできないと思っていた会話が、こんなに当たり前にできることに感謝しつつ、尽きない話題を広げていく。卒業式のこととか、東郷さんのこととか、世界のこととか。
そうしていたら、あっという間に目的地までついて_____私達は二人とも、口を閉じてしまった。
「......」
「......」
椿先輩の入院している病院から近い、桜が有名な公園。満開の桜の木が、風に吹かれて揺れる。
「春、だな」
「春。ですね」
ただ桜が舞って、それを見てるだけ。それなのに、私の目からは涙が溢れてくる。
「約束。守れましたね」
「...そうだな、したもんな」
車椅子に座ったまま、手を伸ばす椿先輩。握ったその手には、桜の花びらが一枚。
「......そういや、押し花が得意なんだっけ」
「っ、はい」
「だったらここの花で作ってくれよ。入院生活中暇だから、そこそこ本読んでるんだ。栞に使わせてくれ」
「ぐすっ...勿論、です」
「やったぜ。あとは、何して...貰おう、かな」
少しずつ、私達の声が変になっていって、たどたどしくなって。気づいたら、私は膝をついて、椿先輩は車椅子をこっち向きに動かした。
「友奈...」
「椿せん、ぱい」
「......無事で、よかった」
「...ぐすっ、うぇぇぇん!!」
泣いて、それでも思いっきり笑って。
抱き合う私と椿先輩。満開の桜から舞う花びらは、まるで私達のことを祝福するように、風を受けて舞い上がった。