古雪椿は勇者である   作:メレク

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三十話 また会える

朝日が見える中。

 

『元気してた?』

「そう見えるなら、元気なんじゃないか?」

 

彼女は戻ってきた。

 

「...ほら、体貸す」

『なんだよいきなり』

 

多く語ることなんてない。

 

「やりたいこと、あるんだろ?」

『......ありがとう』

 

 

 

 

 

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友奈ちゃんと古雪先輩の面会に行けるようになったら、できれば車椅子でなく自分の足で向かいたい。その一心でリハビリを行い、なんとか松葉杖で歩けるようになった。

 

「よし...?」

 

学校へ向かうため鞄を持ったところで、インターホンが鳴る。まだ朝のため郵便などではないはずだ。

 

「こんな時間に誰かしら...!」

 

カメラに映っていたのは古雪先輩。

 

「先輩!?どうして!?」

「よ、東郷」

 

『体動かねーなー』 とメールしていた先輩は、どこも異常がなさそうだった。

 

「嫌かもしれないから先に謝っとく。ごめんな」

「え?え?」

 

先輩には謝らなきゃいけないこともお礼をしなきゃいけないこともたくさんある。何から話そうか迷っていると、いきなり謝られた上抱きしめられた。

 

「え...?」

「久しぶりだな...胸も大きくなったのは須美らしいや」

 

口ぶり、頭を撫でる手つき、なにより『須美』と呼ぶ彼が、私が思い出しつつある彼女の記憶を呼び起こす__________

 

「......もしかして」

「時間ないからこれしか出来なくてごめんね。須美......生きていてくれてありがとう。大好きだよ」

「あぁっ...!!!」

 

涙が溢れる。止めようとしても全く止まらない。

 

「泣かないで須美。笑顔で送り出して欲しいな」

「...それが、貴女の望むことなの?」

「おう!」

「......またね」

「うん、須美、またね!」

「...ありがとう。私も大好きよ。銀」

走り去っていく先輩に向けて、私は口にした。

 

 

 

 

 

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『これから俺は東郷に会った時なんて言えばいいんだ...』

「気にしない気にしない!そしたらもう一人やるんだからね!!」

『くっ...もう好きにしろ!』

「言われなくても!」

 

アタシ達は海辺へ向かう。そこには包帯を巻いていたらしい彼女がいるから。

 

 

 

 

 

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皆がお役目を終わらせて数日。神樹様は、取った供物を返してくれた。

 

(皆のお陰だね。感謝しなきゃ)

 

二年近く巻き直していた包帯を取る。もう歩けるし、腕も動くし、心臓はどくんどくんいっている。

 

真実を伝えたわっしーは壁を壊し、バーテックスは嬉々として襲いかかってきた。それを勇者部皆で止めたみたい。

 

(サプライズで、讃州中学入りたいな~それで、勇者部入って~)

 

きっとそれは昔に負けない楽しい日々だから。

 

「園子ー!!」

「?」

 

だから、逆にサプライズされるとは思わなかった。

 

「捕まえた!」

「わぷっ」

 

いきなり抱きしめられて、頭をよしよしされる。

 

「つっきーいきなり......あれ?」

「園子もおっきくなったなぁー...よしよし」

 

前にされたのとは少し違う撫で方。これは寧ろ________

 

「...ミノ、さん?」

「せいかーい!凄いな園子」

「うぅ...ミノさん、ミノさん!!!」

 

理解がついてこなかったけど、体は無意識に強くしがみついていた。もうどこにもいってほしくないから。

 

「うんうん、嬉しいなぁ...でもごめんね園子。もう時間なんだ」

「やだやだ!絶対離さない!!」

「もぅ、いつから甘えん坊になったんだ?」

 

ミノさんはつっきーの顔で呆れ顔になった。

 

「アタシは長くない。あと少しで消えちゃう。だから、最後は自由にやらせてくれないかな?」

「...ミノさん、わがままなんだから」

「ごめんね?」

「...いいよ。会いに来てくれたもん」

「ありがとう...園子、椿をよろしくね」

「...ミノさんに言われるまでもなくつっきーのことは大好きだから。寧ろミノさんいなくなるならつっきー取っちゃうから!!」

 

別にミノさんの意識が一緒にあった人だからじゃない。祀られた毎日、一人ぼっちだった時、自分も散華で辛い状況だったのに気にかけてくれたこと。頭を撫でてくれたこと__________

 

理由なんて、それだけでいい。

 

「あの、俺が気まずいんですけど...銀追い出すな!まだ抱きしめてるんだから俺がやるわけにいかないだろうが!!」

「つっきーなの?じゃあ...んー」

 

頬に唇を当てる。つっきーは顔を真っ赤にしなかった。

 

「残念アタシに戻ってまーす」

「...ミノさん嫌い!」

「え」

「......でも好き」

 

ミノさんに出来た方が今は嬉しいから。つっきーは後でいくらでもできる。

 

「あはは...またね、園子」

「うん。またねミノさん」

 

前は出来なかったお別れの挨拶をして、私はつっきーを見送った。

 

 

 

 

 

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神樹様の力で銀は戻ってきたらしい。しかし、供物は体に馴染めば完全に戻るものの、人の意識は戻らない。

 

一時間。それが、銀が俺に乗り移れるタイムリミットみたいだった。

 

『だいたい分かるんだよ。人の居場所とか時間とか。神樹様の力を一部もってるからな。今のアタシは』

 

お喋りしながら走り、東郷と園子__________銀が会いたかった二人と抱き合って。後目指す場所は一つ。

 

「たっだいまー!」

『ご両親はもう仕事だぞ』

「えー...残念だけど仕方ないか」

 

からから笑って、どたどた走ってとある部屋まで行く。

 

「金太郎!鉄夫!!」

「にぃーちゃん何で!?怪我したって」

「にーにーおはよう...」

「あーもーかわいいなー!」

 

目一杯抱き締められて、二人は苦しそうだった。

 

(椿。二人のこと、これからもよろしくね)

(俺にとっても弟なんだ。わざわざ言う必要ない)

「...よし!いいかーお前たち。これからも椿の言うことよく聞くんだぞ?」

「にーにー?」

「にぃーちゃん?」

「返事!」

「「はい!」」

「よし、いい子達だ!しっかり家の戸締まりしてから出るんだぞ!」

 

嵐の様に三ノ輪家から出ていく。最後に訪れるのは隣の家。

 

『最後が俺の家でよかったのか?』

「うん。アタシはここがいい」

『...どうだった?俺達が守った世界はさ』

「改めて見るまでもないけど、綺麗だったよ」

『そっか...』

「というかこのちょびっとだけ結んでる髪何?」

『銀の真似』

「似合わないよ椿は」

『え、マジか...本人が言うならやめるかな』

 

タイムリミットはどんどん迫っている。

 

『なぁ銀。本当にもう...』

「なんだよぉ、椿が自由にしていいぞって言うからやってたのに、お前もそんななのか?」

 

消えてほしくない。そんなことは初めから思ってる。

 

でも同時に__________消えてしまうんだと、初めからなんとなく分かっていた。

 

『...そうだよな。ごめん』

「あ、アタシが消えたら机の引き出し開けてみて」

『おう?』

「いいからいいから」

『わ、分かった』

 

イネスでジェラートを食べたとき。数学の宿題で唸ってたとき。盤を回してボードゲームをやったとき。

 

部活に代わりに出てくれたとき。複数供物として取られる満開を全て肩代わりしてもらったとき。最後の戦いで右手を貸してくれたとき。

 

いくつもの、たくさんの思い出が、頭の中を巡る。

 

『...銀』

「どうした?」

『ありがとう。俺と一緒にいてくれて』

 

二度逃した別れの言葉。やっとそれが言える。

 

「...アタシこそ。椿との生活は楽しくて、嬉しくて...うぅ」

『おいおい、涙流さないでくれよ。俺だって泣きたい気分なのに』

「......ごめんごめん、そうだよね」

『...じゃあ』

「うん。じゃあ」

 

最後は笑顔で、特別な言葉なんていらない。互いの家に帰る時のような気軽さで__________

 

 

 

 

 

「またな」『またね』

 

 

 

 

 

だって、きっとまた会えるから_______________

 

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