古雪椿は勇者である   作:メレク

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遂に、ゆゆゆいがサービス終了することになりましたね。アニオリ作品のソシャゲがあれだけのフルボイスストーリーで5年以上続いたの、本当に凄いと思う。

自分の作品も多くの影響を受けました。ゆゆゆい編が書くためのハードルが低かったのは間違いなく公式でクロスオーバーをやってくれてたから。本当に感謝します。ありがとう。


ゆゆゆい編 83話

「流石に揃えが良いな...」

 

値段的な価値がどれだけあるかは分からないが、ここにある資料がこの四国の中で最も歴史的に重要であることは理解できる。いや、重要過ぎて値段的価値はつけられないかもしれない。

 

なぜなら、ここがある意味世界を裏から操ってきた大赦の書庫だからだ。

 

すっと指を這わせて確認したタイトルは、『神世紀250年 大赦記録』

 

「これ読んだら、何が分かるんだか......」

 

口にしながらも、決して手に取ることも、中身を確認することもしない。好奇心で手を伸ばしても、俺にとって利になる大赦の資料なんてあまり考えられないから。

 

だが、タイトルそのものは目を引くものばかり。暇潰しには丁度良いだろう。

 

(折角だしな...)

 

ずっと眺めて、目に留まったのは一冊の本。タイトルで気になったのは、先程まで一緒にいた彼女の家名があること。

 

『上里家の威光』

 

大赦の保管書の割に攻撃的なそのタイトルに、俺は無意識に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「お疲れさまでした」

「はい。ありがとうございました」

 

目的を終えた私は、一礼して部屋を出る。日の光が当たった眩しさから少し目を細め、今日のやるべきことが終わったのだと感じて細く息を吐いた。

 

「ふーっ...」

 

(戻りましょうか)

 

既に年単位で訪れている場所。どこにどんな部屋があるかなんて分かっているし、広い施設内をどう歩けば早くたどり着けるかも知っている。

 

『多分ここかこっちで待ってる』

 

その上で、電話をかけず目的地まで向かおうと思った私は、足を向けて、すぐに止めた。

 

「あら」

「おっと...!申し訳ありません。上里様」

「いえ、お気になさらないでください。三好さん」

 

ぶつかりそうになったのは、沢山の本を抱えた夏凜さんのお兄さん。前が見にくくなるほどの量は、私では持ちきれないだろう。

 

「お手伝いさせてください」

 

だから、自然とその言葉は出た。

 

「申し出はありがたいですが、上里様にご迷惑をかけるわけにはいきません」

「私も勇者部です。人のためになることを勇んで実施するんですから」

「ですが...」

「......」

 

じっと三好さんを見れば、観念したように口を開く。

 

「......では、こちらをお願いできますか?」

「これだけですか?」

「これだけで視界は確保できます。これ以上は、大人であり男のプライドがありますので」

「...分かりました」

 

明らかに分配は悪いものの、そう言われてしまえば私は何もできない。恐らくこの人は敢えて家名を抜き、個人的な話を言い分としたのだろう。

 

「それで、これはどこまで?」

「ご案内します」

 

歩きだした私達は、特に話題がない。少し気まずくて何か話せないかと考えていたところ、三好さんが先に話し始めた。

 

「本日は彼と共に?」

「はい。帰りも送ると、大赦内で待ってくれています」

「そうでしたか...久々に彼と体を動かしたかったのですが、職務が貯まっていまして。残念です」

「椿さん、貴方といた次の日は大体疲れ気味ですよ」

「生身同士ならそうそう負けませんから」

 

さらっと言われるのは、椿さんが負けているということ。私の個人的な感情と、勇者部での立場から、なかなかあの人が倒される姿というのは信じられない、いや、信じたくないところではある。

 

でも、実際私も現場を見たことはあるし、『次は勝つ』と意気込む椿さんを見たことはあった。

 

「手加減なくやっちゃってください」

「よろしいのですか?」

「それが椿さんのためになりますし」

「では、上里様のお墨付きも得ましたし、次回は遠慮なく...さて、つきました」

 

通された室内は、いかにも倉庫といった場所だった。手近なスペースに持っていた本を置いた三好さんは、こちらに両手を出してくる。

 

「大変ありがとうございました。上里様。後はこちらでやりますので、彼の元へ」

「後は整理して入れるだけですよね?ここまで来たんです。お手伝いさせてください」

「ですが」

「三好さん?」

「っ、分かりました...彼が言ってたことを、ここまで理解できるとは」

 

何かを呟いた三好さんは、「ではそこから」と指示を出してくれた。私はそれに従って、ひたすら本をしまっていく。

 

「しかし、しっかりしていらっしゃいますね」

「そうですか?」

「...正直なことを申しますと、私は今この時代の上里様にもお会いしたことがあります。その上で、貴女の方が大人びていると感じます......やはり、西暦と神世紀で違いますか?」

「......確かに、そうかもしれませんね」

 

私が大人びているとしたら、それは、昔から若葉ちゃんと接してきたから。でも、もしそれが要因じゃないとしたら、残る候補は一つだけ。

 

西暦という時代は、神世紀を迎えるための戦いは、私自身を律しなければならなかった。ということ。

 

「今この時代の方が、平和だとは思います。誰もが青空を見ることができて、ニュースもほのぼのとしたものばかり」

「......」

「ですが、だからこそ。決めていますから。私は」

「何を、ですか?」

「私のやりたいことを、です」

 

例えこの世界にいる記憶を失い、元の世界に戻っても、これは変わらない。何故なら、私が決めたのは元の世界にいた頃だったから。

 

あの時代にいながら、彼が未来から来てくれたから。

 

「私は、この世界を作るために、300年先まで続くこの四国を守るためにやるべきことをやる。そう決めてるんです...この先何があろうとも、覚悟はできているつもりです」

 

だから私は、諦めない。心強い仲間もいるし、あの人との記憶もあるから。

 

「......ありがとうございます。貴女様のお陰で、今日の我々がいます」

「ぁ、いえ、そんな畏まらないでください!」

「いえ...敬服いたしました」

「......あの、椿さん達には言わないでくださいね?」

「承知しました」

 

何を感じたのか、それ以降指示以外の話はなくなり、あっという間に本の整理が終了した。

 

「では、私はこれで。大変助かりました」

「いえいえ。ではまた」

「はい。失礼いたします」

 

(最後まで、口調は崩してくれませんでしたね...)

 

三好さんと別れながら、そんなことを思う。妹さんの友達ではあるものの、私は『上里』であり、あの人は大赦の人なのだ。

 

(私は一体、これから先どんなことをするのでしょう...ある程度の算段は立てていますけど)

 

そんなことを考えながら、歩くこと数分。椿さんとの合流場所候補を巡り、一番最後の部屋にたどり着いた。どうやら今日は運が悪かったらしい。

 

(ここは...確か書庫でしたっけ)

 

「椿さん、いらっしゃいますか?」

「あぁ、ひなたか」

「はい!」

 

奥の方から椿さんが顔を覗かせて、私は声から漏れでる嬉しさを隠せないまま待った。少しして、椿さんが向かってくる。

 

「すまん。お待たせ」

「いえ、こちらこそ待たせてしまいごめんなさい。それから、ありがとうございます」

「そんなことは...いや、どういたしまして」

「はい」

「...」

「......?」

 

いつもなら何か続けてきそうなのに、何故か黙ってしまった椿さん。

 

「椿さん?」

「...ひなた」

「?」

「無理して、ないか?」

「え?」

 

突然言われたその言葉に、私は疑問を浮かべた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『上里の名は、この神世紀において特別な意味を持つ』

 

その一文から始まった本を書いたのは、どうやらひなたではないらしい。書き方や時期を見て、神世紀120年前後、男性だろうか。

 

『西暦から神世紀に移行するために、多くの犠牲が生まれ、人類はこの四国のみとなった。これを持ち直したのは大赦であり、我が祖先である。であるからこそ、今も尚大赦において、上里家と乃木家が先導者となっているのだ』

 

別段、書かれてることは自伝と大差がない。だが、文だけでありながら覇気に近いものを感じるのは何故だろうか。

 

親しい人が同じ名字だからか、それとも、親しい人が、この威光の祖そのものであるからか。

 

『だが、両家には明確な差がある。乃木家は人類存亡をかけて戦った勇者である。しかし、上里家はその限りではない。我々に通っているのは巫女の血である。神樹様の声を聞く者でありながら、その数は決して少なくない』

 

「......」

 

『その上で、乃木家と対等、大赦内に限ればより高い地位にいるのは、それだけ世界に、人類の存続に貢献し、変革をもたらした存在であることの証左だ』

 

「...っ」

 

『これを読む者が上里家を継ぐものならば、その覚悟と決意を抱け。我らは人類を導く者なのだから。そして、無関係な人間であるならば、我らの威光を受けるが良い』

 

ここまで読んで、俺は本を閉じた。

 

「すー、ふぅー...」

 

(...怨念でも込もってんのかよ。これ)

 

読んだページ数はまだまだ冒頭。それでも言い知れぬ気味の悪さを感じてしまう。

 

(上里家の現当主とかは、知らないが...)

 

この本は埃を被っていたから、最近は読まれてないのだろう。だが、俺が不安に思ったのは現当主のことじゃない。

 

「...ひなた」

 

西暦から神世紀にかけて、大赦を引っ張ってきた上里家の人間。彼女の子孫と言える者が、これだけの覚悟と決意を抱き、少なくともこんな本を作ってる意志と権力がある。

 

ならば_____その礎を築いた彼女は、一体どれだけの思いがあったのか。後世に大きな大きな影響を与える、覚悟と決意はどんなものなのか。

 

(...でも、そっか)

 

例え今この世界での記憶を失ったとしても、彼女は知ってしまっている。自分が生き抜くまでにバーテックス、天の神との関係は終わらず、根本的な解決にはならないことについて。

 

他ならぬ、俺のせいで。

 

300年後の人間が同じ相手と戦ってると言うんだから、それはそうだろう。そう考えるのが自然だ。

 

だが、それなら尚更、そんな状態で、後世に残ることを成し得た彼女は、少なくとも今の彼女から感じることができなくても、想像することはできて__________きっと、その想像を軽く越えるような何かがあるのだろう。

 

そうでなければ、こんなものが生まれるはずがない。

 

「椿さん」

「!!」

 

思考を沈めていた時、幻聴から聞こえたような声に一瞬震える。少しの間、ここが大赦の中だということすら分からなくなっていた。

 

「いらっしゃいますか?」

「あぁ、ひなたか」

「はい!」

 

声の方へ顔を出せば、嬉しそうに返事をするひなたがいた。用事は済ませたのだろう。

 

(行かなきゃ)

 

「すまん。お待たせ」

「いえ、こちらこそ待たせてしまいごめんなさい。それから、ありがとうございます」

「そんなことは...いや、どういたしまして」

「はい」

「...」

「......?」

 

俺は彼女を前に、黙ってしまう。理由はさっきの通りだ。例えそれが、今目の前の少女から感じることがなくても。

 

「椿さん?」

「...ひなた」

「?」

「無理して、ないか?」

「え?」

 

だから、そんな言葉をかけてしまった。

 

別に分かっている。突然言われたひなたが「無理してます。疲れてます」なんて言わないことに。本当にそうだとしても隠すような奴ということに。

 

今生きている彼女から、あれだけの何かを感じることは、滅多になかったということに。

 

ただ、今だけは聞かずにいられなかった。

 

「悪い、答えてくれ」

「えっと...そうですね」

 

ひなたは頷くでもなく、否定するでもなく、ただ俺の言葉を呑み込む。

 

やがて_______俺が気まずさから、「何でもない」と言いかけたところで、彼女は口を開いた。

 

「では、疲れた。ということにしておきましょう」

「...へっ?」

 

しっかり時間を置いてからの答えに、俺は変な声をあげる。

 

「確かに今日も大赦で頑張りました。普段も学校の授業、勇者部の依頼、若葉ちゃんのお世話。非常に充実していますが、疲れちゃうのも事実ですね」

 

少し早口で話す彼女は、とてもさっき見ていた『上里』ではなくて。

 

「ですからそうですね。椿さんの運転で早めに帰る...いいえ。こういう時は風を浴びるのが良いでしょうから、椿さんには普段より遠回りして送ってもらうのが良いと私は思いますね!」

「...ははっ」

 

ここでやっと、どこか張っていた緊張がほどけたようで、変な笑いが俺の口から漏れた。

 

(そりゃそうだ。ひなたはひなただもんな)

 

俺が知るのは後世に名を残す上里でも、大赦の代表格である一家でもない。

 

彼女は、俺の知る上里ひなたは、可愛い女の子だ。

 

「何で笑うんですか、椿さん。突然聞いてきたからちゃんと答えましたのに」

「いや、ごめん。ははっ...でもそうだな。分かった。しっかり送らせていただきます。ひなた様」

「...全くもう」

 

俺の態度に呆れたのか、少し赤みがかった頬を膨らませるひなた。

 

「ごめんごめん、さ、帰ろう」

 

それがいつも通りすぎて、俺は片手をあげながら歩きだした。

 

未来がなんであれ、過去がなんであれ、俺達は今を生きているから。今目の前の子が笑顔なら、それでいい。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「歌野さん」

 

「あらっひなたさん。お勤め、お疲れ様」

 

「はい。歌野さんは農作業終わりですか?」

 

「えぇ。今日もしっかり面倒みたから、きっといい子に育つわ。んっ...作業終わりの蕎麦もおいしい!」

 

「それはよかった。私もうどん、食べちゃいましょう」

 

「いいわね...それにしても今日はいつもより遅かったわね。大赦で何かあった?」

 

「いえ、大赦では何も...椿さんに送って貰いましたし」

 

「あぁ、それで」

 

「はい?」

 

「いえ。遅くなったのに、凄く笑顔だなって思ってたので」

 

「......」

 

「ひなたさん?」

 

「私、そんなに、笑顔でした?」

 

「えぇ。それはもう」

 

「......」

 

「...もしかして、椿さんの前でも?」

 

「し、仕方ないじゃないですか!言われるまでそんなの、全く...っ!!」

 

「あらあら...ひなたさんは、本人の前でどれだけ笑顔だったのかしらねぇ」

 

「歌野さん!」

 

「おっと。ご馳走さまでした!ではシーユー!」

 

「歌野さんー!!」

 

 

 

 

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