楽しんで貰えれば。
「ハフォヒィン?」
「食べながら言わないでください」
「...すみません」
須美に言われ、椿は一度お昼のうどんから口を離した。
「それで、ハロウィン?」
「そうそう!」
「...今この状況で?」
「まぁそう思うよね」
今は神世紀301年の10月。神樹様がいなくなってから約半年が過ぎた。それが意味しているのは、食料の供給等が安定していないということ。
椿が聞いてるのは、そんな中でハロウィンをやるのか。ということだろう。
「ことの始まりは須美がさ」
「えぇ。古雪先輩、こちらを」
須美が出したのは勇者部で使っているノートパソコン。
「依頼リスト...そういうことか」
「はい。去年依頼のあった幼稚園や保育園から、今年の祭典でも何かして貰えないか。というものが多数」
「それで須美が悩んでるのをアタシが見つけて、今日このメンバーを招集かけたってわけですよ」
「このメンバーなのは察しがつくけど」
「そ。友奈と夏凜は芽吹達と一緒に四国の外、樹は今歌の方が佳境で、風さんがそのサポート。一方こっちは最近まで忙しかった大赦が一段落したから動くならねってことで、このイネスに、神樹館小学校組プラスアルファを集めたわけ!!」
そこまで言うと、椿は顎に手を当てる。
「......」
「やはり、難しいでしょうか?」
「まぁ正直、皆に話しちゃうと難しくても頑張ろうとしちゃうだろうからさ。まずは椿に意見をと思って...さ」
「...まぁ、難しいだろうな。やるからには全力として、この数の菓子類の調達、訪問、事前準備を今から二日で全てこなすのは」
「「...」」
「だが」
「「!」」
「最初から諦めるなんてのは、勇者部らしくないよなぁ?」
「ッ」
年が上がってきたからか、これまての経験からか、より男らしい獰猛な笑みを浮かべる椿に、不覚にもキュンとしてしまい。
「そ、そうだよな!よく言った椿!!」
「最近社会科見学でどれだけ春信さんにしごかれたか見せてやるよ...それで、いいのか?」
そう言ってちらりと見た先にいたのは_____
「すぴー...」
「大丈夫。園子は寝ながらでも話聞いてるから」
「......まぁ、いっか。じゃあ頑張っていこう」
「はい!」「おう!」
「もう食べれないよ...つっきー」
「...俺は何を食べさせてるんだ?」
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「園児の人数把握、よし。菓子類の確保、よし、後は各所に確認の連絡をいれて、当日の移動ルートを考えて、菓子類の配布準備、それから...」
カタカタとキーボードに打ち込み続け、ちらりと時間を確認する。とうに日付は変わっているが、体を動かさなすぎるのは負担がかかるため、一度大きく体を伸ばした。
ここ最近でこうした作業にはかなりやれるようになった。元々勇者部でノートパソコンを弄ってはいたが、今回はその比じゃない。
高校の授業の一つで、社会科見学をすることになった俺は、その行き先として春信さんのいる会社を選んだ。
純粋に知人がいる場所の方が便利だろうと考えたことと、あの人が本気で活動しているところを、ちゃんと見れると考えたからだ。
『君は当然、こうなる覚悟をしてたんだよね?』
まさか、あそこまでしごかれるとは思わなかったが。隣の社員さんより働いてた(働かされてた)自信がある。
だが、当然あの人が無策でそんなことをさせるわけもなく。
(まさか、すぐ役に立つとはな...)
当初の目論見通り、彼の技術を見て学び体験し、俺の経験値にはできた。
現状、世界は緩やかに衰退している。四国の外へ活路を見出だすか、四国の中で何か新たなことをできなければ、やがて終わってしまうのだろう。
だから、そうならないために大赦は全力をあげているし、つい最近まで園子達も忙しくしていた。
(...園子が寝てたの、まだ疲れが取れてないからじゃないだろうな)
ピタリと手が止まる。思い出すのは最近のこと________
園子も、東郷も、銀も、凄く頑張っていた。俺も補助という形でついていたし、全力は尽くした。
だが、どうしても。
(処理速度が、違う)
同じ全力だとしても、俺と、園子、東郷で行っている仕事量には見て分かるだけの差があった。銀とも体力仕事で遅れを取った。
ショックはあったが、納得もあった。俺はいつも、才を手数で補っている自覚があったから。どちらも初めてやることなら差は出る。
どうしても_____少し、嫉妬してしまう。
(ッ!!)
悪い思考パターンに入っていた脳をリセットするため頬を叩く。
(違うだろ。目的を履き違えるな)
彼女達自身もそうだが、俺も疲れてることは三人とも察していた。それでもハロウィンを皆のためにやりたくて、俺がいればそれが叶うと思って相談してくれた。
俺はそれが、嬉しかった。
(だから、やる。あいつらのために)
彼女達が喜ぶ顔を見るためなら、俺は頑張れる。現金な奴だと思う人がいるなら、勝手に思うがいい。
俺が取る手段は、変わらない。
「よし」
才がないなら手数で、経験で、別の何かで補完する。大丈夫。もし本当に限界以上のことをしていたら、今回くらいのことなら彼女達が止めてくる。止めてくれるくらいには、見てくれてる。
つまり、止められるまではやれるはずだ。俺なら。
(今日は後少し作業。明日の方がもっと忙しくなる...だけど、気合いは十分)
「やるか」
そう呟き、俺は再びキーボードを打ち始めた。
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今日は激動の一日だった。
勇者部の四人で行ったハロウィンイベント。幼稚園や保育園を回り、お菓子をあげたり、仮装した姿で遊んだり。
小学校の頃を思い出す仲間だけで計画していたそれは、諦める一歩寸前までいって。
『最初から諦めるなんてのは、勇者部らしくないよなぁ?』
それを諦めずに完結できたのは、彼のお陰だった。
『春信さん...ありがたいけど恨む......』
最近、目の下に隈ができるくらい忙しくしていたのを知っている。
『それはこっちでやるよ。任せなって』
こちらの様子を見て、気を配ってくれていたのを知っている。
前日までにお菓子買い集めて、各施設に配布しておき、今日も園児と遊んでる間、バイクを常に動かして他の仲間を別の施設まで連れていき、またすぐ別の場所まで。というのを繰り返していた。
『三人ともお疲れ様。一日疲れただろ?送ってくよ』
『じゃ、お休み...え、俺?俺も寝るよ。ちょっと資料纏めてからな。ほら、他のメンバーに完全に秘密にしとくと、後からすごい言われるだろうし』
「すー...んん」
だから、電気のついている部室に来てみれば、パソコンを前に突っ伏して寝ている彼がいた。
他の二人は気づかなかったのか、気づいた上で放置してたのか、見つけられなかったのか。ここにいるのは、寝ている彼と、自分だけ。
パソコンの中を見てみると、そこには今回の経費などの纏めを大赦に出している資料と、他のメンバーに向けての連絡用資料があった。
いつの間に撮ったのか、実際の様子の写真まで載せて。
自分達がやりたいと頼んだから。それだけで、これだけのことを。いや、ただやってくれたことを誉めるわけじゃない。
こんなに、力を尽くしてくれる。自分の全力を注いでくれる。それが、堪らなく嬉しく思ってしまう。
「はぁ...」
いつだってそうだ。誰かの為に平気で無理をするし、限界を越えようとする。勇者部はそういう人の集まりでできてるようにしか思えないけど、その原因はこの人が大きいようにも思える。
それを向けられてるのが、自分達だと。自分だと。そう言われ、動揺しないほどの鋼の意志は持ってない。
「ん...」
寝言のような何かでハッとして時間を見れば、もう十分遅い時間だった。そろそろ返さないといけない。
(......)
そういえば。今日はハロウィン。だけど、自分はお菓子を貰わなかった。
そこに不満は全くないけど、目の前にいるのは無防備な彼。見えるのは、少し丸まったその背中。
(......今日は、ハロウィン)
ちょっとしたイタズラをするのは、いいだろう。そう思って、自分の指を伸ばした。
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「起きて」
「んがっ!?」
間近の声に驚いて立ち上がる。慌ててその方向を見れば、ため息をつく春信さんがいた。
「まさか本当に寝てるとは...」
「何で、貴方がここに」
「いいから撤収準備して。もう夜だ」
「......!はい」
なんとなく状況を掴んだ俺は、手早く部室から出る準備をした。持ち帰るものもあまりなくて、あっという間に部室を閉める。
「でも、何で春信さんが...?」
「迎えとして呼ばれたんだ。部室を出ていかない生徒がいるってね」
「それでも貴方が来る理由は」
「今そんなことはいいんだ。全く。体調管理も立派な自己管理の一つなんだから、こうなる前に対策を取らないとね?」
「......すみません」
「別に謝らなくていいよ。寧ろ逆。そのうち体と精神が慣れてくるから、それまでは好きなだけやるといい」
「えぇ...」
「まぁやられる度に文句は言うけど」
「ええぇ......」
げんなりするような声が漏れてしまうが、気にした様子もなく春信さんが車の鍵を開けた。
「ほら、バイクごと乗せていくから、持ってきて」
「分かりました...あ、そういえば」
「ん?」
魚の小骨が歯に挟まった時のような違和感を払拭するため、春信さんに振り向く。
「俺を起こすとき、背中揺すったりしました?」
「...いや?」
「ですよね」
まぁ、精々揺するとして肩とかだろう。
(じゃあ、夢とか...?)
恐らく寝ていた時、誰かに背中を触られた気がしたのだ。指で何かを描くように。
曖昧に覚えているそれは、夢にしてはリアルだったような気もして。
(そういえば、声もうっすらしたような...)
連鎖的に思い出されるのは、女の子の声で、内容は確か_____________
「ほら、止まってないで早く」
「!あ、すいません。取ってきます」
疑問を消化する前に、俺は小走りを始める。
その疑問を忘れ、無かったことになるまで、そう時間はかからない。
「くすっ」
だから、翌日彼女が笑っていた理由に、俺はずっと気づかなかった。
一体誰のいたずらかは、ご想像にお任せします。