古雪椿は勇者である   作:メレク

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この作品、ついに投稿開始から5年が経ちました。5周年になります。

去年から今年頭までラッシュ投稿し、その後はだいぶ細々とやっていましたが、感慨深いです。

当時はこんなに多くの人に見てもらい、応援してもらえると思っていませんでした。本当にありがとうございます。これを見ている、300話以上追ってくださってる方々は本当に猛者。

なんか完結みたいな雰囲気出してますが、全然そんなことないし、昨日今日に明日も投稿予定。楽しんで貰えれば。


短編 提出書類 古雪椿に関して

『古雪椿』

 

この名前は、もはやただの人名には当てはまらない。しかし、その存在は認識者の視点によって幾つもの差が生じている。この資料は、その差を比較しつつ纏めた物である。

 

なお、この資料は重要機密であるため、勇者部以外の人間に開示する際、注意すること。

 

 

 

 

 

file.1 通常

最も一般的な資料。

 

古雪家長男。神世紀286年2月8日生まれ。現在15歳。

 

讃州中学を卒業し、現在讃州高校一年生。担任教師や友人へ伺ったところ、成績は良い方で、取り組み姿勢も良く、友人も多い。一つ変わっているのは、高校に入っても中学の部活に所属している点くらいだろうか。

 

また、神世紀301年の今この情勢にバイクを利用することも、特異性のある点であろう。

 

 

 

 

 

file.2 大赦

神樹様を始めとした神々の事態について記載されている資料。大赦の保管用。以降閲覧者の制限をかける。

 

パスワード【akanoyuusya】

 

神世紀300年にて誕生した勇者の一人であり、全勇者通しても例外である男の勇者。その適性は後天的なものであると考えられるが、詳細は不明。

 

神世紀298年にて三ノ輪銀様が使用していた勇者システムを使用。役目を終えシステムを回収された際には、元大赦所属の三好春信との交渉の末、武器、擬似満開装置のデータ収集のため、再度提供した。その後、防人に配備されていた戦衣を代替え品として使用し、天の神が直接襲来した際も第一線で戦闘を行った。性別の差からか、同世代の勇者と比べ比較的高い戦闘能力を誇る。

 

現在は四国外調査のメンバーとしても活躍している。

 

なお、西暦似て行われた奉火祭の提唱者として『ツバキ』という精霊がいるが、こちらの関連は不明。

 

 

 

 

 

file.3 三好春信

三好春信に直接伝えられた情報を統合したもの。別途パスワードを要求。

 

パスワード【mikann0208】

 

勇者として命を落とした三ノ輪銀の魂を取り込んだ器であり、一人の人間。後天的な勇者適性の要因と考えられる。取り込めた理由は不明。縁が深かったからではないかと考えられる。

 

大赦が用意していた勇者部へ犬吠埼風から勧誘し、神世紀300年から勇者の活動開始。夏に三ノ輪銀の魂を宿さなくなったが、勇者適性が失くなることはなかった。

 

天の神、そして神樹様が消えることとなった一連の騒動の後、約300年前、西暦2018年にて当時の勇者と共に活動している。こちらは乃木家に物的証拠があることからも確定である。

 

大赦に記載されている『ツバキ』については、当時の彼の活動の結果である。こちらについては彼本人の証言と状況証拠からではあるが、信頼に欠けるわけではない。

 

この時点で、二つの時代に干渉し、バーテックスが世に残っていたのであれば歴史上の人物となってもおかしくない功績をあげている。その他、勇者の精神的な支えになっている点についても考慮する必要があるだろう。

 

しかし、その実力に関しては、功績に対して不釣り合いに弱いと言えるだろう。

 

世界の定めた勇者ではなく、彼自身も否定することが多い。大赦も例外である程度。

 

だが、ここでは敢えて一度明記しておく。彼は、古雪椿は勇者である。

 

何かを為すために己が命をかけられるのは、誰かの為に動ける人間は、その心は気高き、賛美されるものであるはずだから。

 

特に同じ勇者である三好夏凜を助けたことはとても誇らしいことである。夏凜は一昔前はツンツンしてなかなか接触しにくかったが、彼のお陰で写真は貰えるし僕への態度も軟化してきたしもう最高_______________

 

「舐めとんのかぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

彼の絶叫と共に、紙束が床に叩きつけられた。データで見れるものを敢えて紙にして見せたのは正解だっただろう。もしスマホを渡していたら、今頃修理必須の状態になっていた。

 

「貴方文章でも自分の気持ち止められないんですか!?しかも半公的文書!!!」

「何か問題が?」

「あるからいってんだろぉ!!!」

 

目の前で頭を抱える椿君は、ありったけの罵詈雑言を僕に吐き捨てた後、満足したのか諦めたのか、大きく息を吐いた。

 

「呆れるしかない...大事な資料を纏めるからって呼ばれたのに」

「大切だろう?ただでさえ君の功績を知るものは少ないのだから」

「大赦保管用に提出するものだけでよかったでしょう...はぁ」

 

どかっと椅子に座る椿君。僕はニコニコしておくだけ。

 

「それで、何か訂正して欲しい所はあるかい?」

「ないですよ。どうせあの後もう夏凜の文書でしょう。怪文書」

「全50ページ」

「今読んだ部分の三倍くらい!?じゃあもうないですないです!終わり!」

「分かったよ。はい。手間賃」

「...大体、何で春信さんがこれ作ってるんですか。もう大赦の人間じゃないでしょうに」

 

受け取ったみかんジュースを飲んで、今度こそ落ち着いた彼へ、僕は答えを返す。

 

「一番関係があった人間を呼び戻してインタビューする会社は、そんな変かな?」

「変には思いません。貴方が受けるメリットがあるようにも思えませんけど」

「メリットか...別に、今も大赦とパイプを作っておくことは悪いことじゃないからね」

 

神世紀301年、秋。今も大赦は存在していて、世界への影響も少なくない。それこそ、今はまだ以前の残りでそうなってるけど、これから先、今後の功績だけでもう一度四国を台頭する可能性がゼロではないと思わせるくらいには基盤が安定してきた。

 

「......file.3については」

「勿論、諸々編集して大赦に出すのはfile.2までさ」

「...じゃあ、本当に言うことはありません。大赦が納得するならそれで」

「もっと書いた方が良いかもと悩んだけど」

「別に有名人になりたい願望とかないですからね。俺はただやれることを、やりたいことをしただけで」

「...分かった。今度大赦からお礼がくる筈だよ」

「安芸さんだと良いですね。何か意識する必要がないので」

「意識?」

「警戒とか、監視とか」

 

彼と同い年のほとんどは、神樹様や大赦を疑うことなどない。そんなことないように育てられているから。

 

だから、幼い頃から大赦へ不信感を募らせ、神を信じないと言った彼の珍しさは、決して常人の域ではない。

 

寧ろ、幼い頃からそう思わなくちゃいけないような、酷い環境だったということになる。

 

「......」

「春信さん?」

「あぁ、ごめん」

「別にいいですけど...用が済んだなら、帰っても良いですか?」

「用事が?」

「もし時間があったら、四国の外に」

「そっか。大丈夫だよ」

 

そう言えば、彼はてきぱきと準備を始めた。今の彼の現状を考えると、重宝、もしくは酷使されているんだろう。

 

「じゃあこっちからは適当に出しておくから。またよろしく」

「またこの文書と会うのは勘弁ですけどね!!片付けましょうか!?」

「大丈夫。やっておくよ。元の原因を作ったのは僕だしね」

「じゃあ失礼します!」

 

 

 

 

 

「うん。じゃあね」

 

声だけ届かせて、閉められる扉。部屋に残ったのは家主でもある僕だけになった。立ち上がって床に叩きつけられた紙を纏める。

 

「うん。やっぱり上手くいったか...複雑だな」

 

リサイクル紙に回せるよう一纏めにしてから、スリープモードにしていたパソコンを起動する。ついさっき彼に見せていた資料と同じものを出して、恐らく彼が投げ捨てた原因となる文章から先を切り取り、別の場所に保管する。

 

「...まさか。ね」

 

自分でもまさかと思った。まさか、自分が夏凜を利用して目的を達成することになるとは。夏凜を第一の目的としないだけでなく、策の一つとして使うとは。

 

「......でも、想定通りになった」

 

僕が自分らしさを捨ててまでこうしたのは、当然理由がある。

 

『古雪椿は勇者である』この一文を記録するため。全てはそのために。

 

僕が夏凜への気持ちを彼のために使うとは、欠片も思わなかったのだろう。

 

普通に文書に載せたら、彼はきっと修正を求める。だったら、それ以上のインパクトで覆い隠せばいい。

 

例え本人が否定しようと、彼の行いは大切で、称えられるべきものだと思うから。

 

(...もしかして、本気で夏凜の優良物件だったりする?彼)

 

一度抱いた気持ちをかき消すように首を振って、息を整える。ふと窓の外を見上げると、普段と何も変わらない秋空が目に見えた。

 

「...この世界の立役者。君は、間違いなくその一人だよ」

 

乙女と共に人の世界を守り抜いた例外。彼は、いや彼も、願わくば苦労したぶんの幸せを_________

 

「さて。そうしたら...こっちも見なきゃなぁ」

 

敢えて目を逸らしていた紙の山。中身は、『古雪椿についてのインタビュー記事』。対象は彼の友人、教師、そして_____山の八割を占める、勇者部部員からのもの。

 

「...大仕事だなぁ」

 

読むのも気恥ずかしくなりそうな文章は、彼自身以外から彼を知る上で最も有用な資料。見ないわけには、纏めないわけにはいかない。

 

「パスワード、何にしようかな」

 

事前に予想していた通り、この資料を彼に伝えなくてよかったと確信するまで、後30分程度である。

 

 

 

 

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