古雪椿は勇者である   作:メレク

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五年越しに、こんな話を。



零話 銀と椿

手を合わせる。きっとそれは、別れを惜しむから。

 

手を伸ばす。きっとそれは、まだ願いがあるから。

 

花を添える。それはきっと、旅立つ人を悲しい気持ちにさせないようにできると信じているから。

 

すすり泣く。それはきっと、まだ納得ができないから。

 

 

 

 

 

じゃあ、ここにいないのは。それは、きっと__________

 

 

 

 

 

アタシはどうやら、もう死んでしまったらしい。

 

『らしい』というのは、自分ではよく分かってないものの、そうなんだろうなと思うことが起きたから。

 

目が覚めたら、そこには目を閉じたアタシがいた。

 

自分が二人。でも、相手の方はぴくりともしない。じゃあどうしてだって周りを見渡せば、そこは、見たこともない場所だった。

 

沢山の黒い服を着た大人。大赦の仮面。端から端まで飾られた花。

 

それがまるで、目を閉じたアタシを中心とするように並んでいる。ここまで確認して、アタシは自分の状況を理解し、思い出した。

 

(そっか。アタシ死んだのか)

 

バーテックス三体という大きな相手にアタシは一人で立ち向かい、そして、散った。花を咲くのは一瞬で、あとは枯れて萎むだけ。

 

その事自体に、嫌な思いはしなかった。アタシは全力で戦ったわけで、これが夢じゃないのなら、須美や園子、皆は守れたのだ。

 

(そうだ。須美と園子は?)

 

キョロキョロと見渡せば、すぐ近くに二人がいた。大赦の人が何か読んでるのを、お行儀良く聞いている。

 

(...でも、そっか。二人が無事ならアタシが体張った甲斐があったってもんだ)

 

どうせこの嬉しさのこもった笑い声に気づく人はいない。だったら好きにすれば良い。

 

(そういえば、アイツは...?)

 

次に顔を向けた時、そこには誰もいなかった。いや、人自体はさっきと何も変わらないけど、動いているのは、『動くことができる人』は、誰もいない。

 

いるのはただ、隣にいる二人の勇者だけだった。ふと目を向けて_____アタシは後悔する。

 

須美の目が、明らかに暗かった。いや、暗いなんてものじゃない。目の下には隈が目立って、瞳に宿っているのは決して朗らかなものじゃない。言うなら、殺意。

 

普段なら注意しそうな、須美の隣にいる園子も、暗い顔を隠さず、須美のことも気にできてなかった。

 

その姿に、すぐに大きく口を開けた須美に、目を瞑る園子に、ズキリと胸が痛む。

 

音はしない。アタシに聞く力がないのか何なのかは分からない。でも、この状況は理解できるし、すぐにここを出ていった二人が何処に向かったかも、想像するのは簡単だった。

 

(...一緒には、行けないんだな)

 

『そういうもの』だと、頭の中で訴えられていた。自分の体から遠すぎる場所には行けないのか。

 

じゃあ、どうしてアタシはここにいるのか。こんな、幽霊みたいになって。

 

(......悔しいなぁ)

 

何かできそうなのに、何もできない。二人を助けることも、泣いてる弟を抱きしめることも、今のアタシには叶わない。

 

成せたことがあったのに、今度は、絶対に動けない場所へ連れてこられてしまった。

 

(...)

 

無意識に、アタシの目は座席の方に向いた。一人一人確認する。誰を確認しているのかなんて、分かりきっていた。

 

たった一人の、幼馴染みだ。

 

 

 

 

 

アイツの両親はいたけど、そこにアイツはいなかった。アタシは行く宛もなく歩き回る。

 

この止まった世界で、音が聞こえない状態で、何もできないアタシが、来てるかも分からないアイツを探す。気持ちが沈んでいるのか、良くない考えばかりが浮かんでくる。

 

(行く必要はないって、思われてたのかな。いかにもこれから始まりますって時にいなかったもんな...もしかして、あいつにとってはいてもいなくても一緒だったのかな。アタシ)

 

どのくらい歩いたか。どれだけ廊下を行ったり来たりしても、いるのは大赦の人っぽいのだけ。トイレにも行ったけどいなかった。

 

(...そう思われてるのは、なんか、やだなぁ)

 

悲しい、悔しい、嫌だ。ぐちゃぐちゃな感情がこみあげてきて苦しい。なんともない筈なのに、呼吸が浅い。もうない筈なのに、胸が苦しい。

 

(..須美、園子......)

 

アタシは、体を丸めて座り込んでしまった。外への出入り口は踏み越えられない。

 

目の前にあるのに。

 

(......おかしいな。凄いことやった筈なのにな。友達を守れた筈なのにな)

 

どうして、こんなに、苦しいんだろう。

 

(アタシは、どうでもよかったのかな...ねぇ)

 

こういう時相談にのってくれたのは、家族じゃない。須美や園子のことで悩んでたことを聞いてくれたのは、新しい一歩踏み出せたのは、声高らかに叫んだの理由は、きっと__________

 

 

 

 

 

「ねぇ、答えてよ。椿......」

 

 

 

 

 

その時、視界の端っこを何かが通った。

 

「!」

 

この場に動けるのはあの二人だけ。戻ってきた訳じゃない。じゃな何で、何が動いたのか。

 

アタシは、足を進めた。重たい足取りを一歩ずつ。

 

たどり着いた先にいたのは、白い花弁と__________

 

(...やっぱり、アタシがネガティブになってただけじゃん)

 

まるで一枚絵のように、雨の中、天へ向かって大きく口をあけている椿が、そこにいた。

 

別に、アタシのことが実は嫌いだったとか、葬式にくる必要がないとか、そんなことはなかった。椿も、須美や園子と同じだった。

 

(よかった)

 

手は伸ばせない。今のアタシは椿のいるところまで行けない。そもそも行けた所で何かできるわけでもない。

 

(...無事に、生きてくれよ)

 

だから、ただ願うだけ。平和を、祈りを、幼馴染みに向ける。

 

きっと叶うと、そう信じて。

 

 

 

 

 

そこから、何故か記憶がなかった。満足して成仏でもしたのか、単純に時間切れなのか。

 

色んな考えがあったけど、次に意識がハッキリした時、アタシの考えはすぐに全て飛んだ。

 

『はぁ...帰るか』

 

理由なんてどうでもいい。今度は自分の手で、泣いてる椿を支えられる。それだけでアタシは嬉しかった。

 

だからアタシは、新たな願いを込めて_________

 

『いーや、帰る前にイネスに行くぞ!』

 

体の持ち主に、そう声をかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

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