古雪椿は勇者である   作:メレク

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明けましておめでとうございました(2月)

何故か毎年続いてるバレンタイン短編ですが、今年も書いたので載せようと思います。ちなみにゆゆゆい時空です。


短編 バレンタインで新たな一面を

「くっそが!!なんだってこんな面倒なんだよ!?」

 

すらすらと悪口はでるのに、目の前のブツは一向に溶けない。これでもかなり時間を使ってるのにも関わらずだ。

 

(湯煎は時間がかかる。レシピ本にもそう書いてある)

 

「こんなんじゃ日が暮れちまうだろうが!!くそっ!!やっぱ最大加熱で一気に」

 

(それだと美味しくないって書いてあった)

 

「けどよ!」

 

(やるって言ったのはシズクでしょ?)

 

「ぐっ...」

 

その言葉に、俺は黙ってしまう。最終的に、折れるのは俺の方だった。

 

「くそっ」

 

何度目かの悪態。周りに人は一人もおらず、心の中の相棒と、目の前で溶かされているチョコだけが、その言葉を聞いていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

私、山伏しずくには、シズクというもう一人の私がいる。基本的には例外がなければ表に出てこないし、その例外というのは主に私が困った時だ。

 

でも、今の私は何も困っていないし、変わってほしい訳でもない。徳島ラーメンもない。

 

それでもシズクが表に出ているのは、バレンタインデーに向けて『シズクが自分でチョコを作る』為だった。自分で言うのもあれだけど、好戦的で、がさつ気味で、お菓子作りとは色んな意味で無縁だったあのシズクが。

 

(理由は分かってるけど、違和感が凄い)

 

とはいえ、きっかけは分かっているからまだ良いだろう。

 

数日前、いつも通り樹海でバーテックスと戦った。シズクは久々に暴れたいと芽吹達と一緒に銃剣を振り回して、敵をバラバラにして気持ちよくなってた時のこと。

 

『オラオラオラッ!!どうしたどうした!!』

『シズクっ!』

『ん?ガッ!?』

 

慢心していた所に迫った星屑に、私達が襲われることはなく。代わりに庇った彼が噛みつかれ、空へ連れてかれた。

 

『おい!?』

『椿さんっ!?』

 

見上げれば、右腕を噛まれたままの状態になっていて、精霊の加護があるとはいえ全員に動揺が走る。咄嗟に銃剣で狙いを定めるも、少しずれれば当ててしまいそうで_________

 

『な、めんなぁぁぁっ!!!!』

 

でも、彼はそのまま、左腕に握った銃を星屑の体へ連射することで倒し、何事もなかったかのように着地。

 

『いや、大丈夫だって。この世界は精霊バリアもあるし。この通り』

『お...おい』

『ん?あぁ、シズクも気にすんな。ダメージは何もないから』

 

戦いが終ってから、心配してた皆を宥め、シズクにも噛まれていた手をプラプラして平気アピールしてみせた。

 

そう。結果だけ見ればいつも通り。負傷者は出ず、何もなかったのだ。

 

そのいつもと違うのは、庇われたのがシズクで、私を守ってくれる人格はそれを良しとしなかったこと。そして、そういうお礼をするのに適したイベントがすぐ近くにあったことだった。

 

『しずく。今度代われ』

『いいけど、どうして?』

『チョコ作るんだよ!借りを作りっぱなしは性に合わねぇ!俺が直々に作って、誰よりもウマイって言わせてやる』

 

そう意気込んで、結果は今目の前で広がっていた。あの人へ送る誰よりもは難しそうだけど、初めて作ったにしてはなかなか良いんじゃないだろうか。

 

「うし、完成だな」

 

(そうだね...)

 

何より、私は嬉しかった。シズクがお菓子作りをするなんて、想像もしてなかったから。

 

私を守るための人格。そうして生まれた彼女が、自分のことならともかく、他人のためにこうしたことをチャレンジするなんて、数年前は考えもしなかった。

 

特に、今回みたいな少し面倒な工程を挟むようなものにまで、作ろうとする意思を見せるのは。

 

芽吹と出会い、防人の皆と出会い、今の勇者部との出会いがあって。それがどれだけ奇跡的なことか、噛みしめる暇すらくれない時間。

 

『私達』になってしまった私も、本来娯楽は必要なかったであろうシズクにも、こうしている。それは、凄いことなのだ。

 

(...よかったね)

 

「おう。これであいつに渡せるぜ」

 

(ラッピングは?)

 

「いらないだろ。大事なのは中身だ」

 

(...あと一つ)

 

「なんだよ」

 

(皆の分は?)

 

「ないけど?元々バレンタインは、女子が男子にチョコを渡す日だろうが」

 

(...勇者部の皆に見られながら、あの人だけに渡せる?)

 

「そんなのかんた......」

 

シズクの口が、完全に止まった。

 

バーテックスも怖がらない私の相棒も、バレンタインが絡んだ勇者部は怖いらしい。それがなんともおかしくて、私は笑うのだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ん、んぁ...?」

 

物音で寝ぼけていた_____いや、寝ていた頭が起きていく。まだ閉じたがっている目をゆっくり開ければ、そこは見慣れた天井である、俺の部屋が見えた。

 

目を開けても、異様なまでの眠気は取れない。

 

「いま、なんじ...?」

 

スマホの液晶画面を眩しさに少し目をやられながら確認すると、時刻は午前の四時だった。まだ朝日すら昇っていない。眠い筈だ。

 

(なんだよこの時間...てか、いったい誰が...?)

 

音がしているのは、月が照らす窓ガラス。そのガラスが何度もコンコンと叩かれる。何もせずそのまま考えてみると、自然と脳が回転してきた。

 

(......こんなことするのは、あいつらくらいか)

 

思い浮かんだのは今同じ家で暮らす乃木ーズだろう。来た理由は想像がつく。なんてったって、今日はバレンタインデーだから。

 

とはいえ、こんな時間に来ることはないし、俺も眠い。

 

「あのな、何だってこんな時間に...」

 

だから俺は、眠気を削がれた苛立ちを少し出したまま、カーテンと窓を開けたのだが。

 

「......あれ?」

「よ、よぉ」

 

何故かいたのは、山伏しずく、いや、シズクだった。

 

「銀や園子は?」

「いや、俺だけだが」

「いないのか...こんなことしてくるのあいつらくらいだと思ってたけど。え、何の用?」

 

シズクがこんな夜遅くにわざわざ来る用とは何だろうか。

 

「!!まさか敵がっ!?」

「いや違う!スマホ構えなくていい!」

 

構えたスマホを抑えつけられ、幾分して落ち着いてくる。

 

「やっと落ち着いたか」

「あぁ...で、じゃあ何の用なんだ?こんな夜中に」

「......いや、ビビった訳じゃないんだがな?別に怖いとか全然ないし」

「?」

 

要領の得ない呟きが繰り返された後、彼女はすっと手を出してくる。

 

「やるよ」

「これは...チョコか?バレンタインの?」

「そうだ。この俺が作った物だ。ありがたく思え」

「あ、あぁ...」

 

シズクから、綺麗にラッピングされた袋を受けとる。

 

(あの、シズクが...?)

 

疑問に思うところはあったが、それでも俺は嬉しかった。いや、寧ろ彼女が作ってくれたというのは凄く喜ぶべきことだろう。

 

「ありがとう」

「おう」

「でも何でこんな時間に?」

「......いや別に?どうせ渡すなら最初のが良いだろうと思っただけだが!?インパクト強いだろうし!?」

「お、おう...?」

 

何かを誤魔化すように声を大きくするシズク。確かにこれは印象は強い。

 

(いやまぁ、別に印象が薄かろうと忘れることはないが...)

 

この案を採用したのは、シズクが単にこうしたことに慣れてないだけなのか、しずくは止めなかったのか、そんな疑問が湧いてくる。

 

「これで今年の一番は俺のもんだな」

 

(...ま、いっか)

 

だがそれを、俺は全て捨てた。理由なんて考えるだけ無駄なのと、考えきるだけの思考力が眠気によって消え去っていたから。

 

「!」

「本当にありがとう。大切にするよ」

「べ、別に食べてくれればそれで...!」

「うん。大切に食べる」

「!ぅ、じゃ、じゃあな!!」

「あ、あぁ。おやすみ」

 

気づけば、シズクは屋根づたいで遠くまで行ってしまった。今更ながら戦衣でここまで来てることにも気づいて、二重の意味で心配になる。

 

(...とりあえず、朝のデザートは決まりだな)

 

今年のバレンタインデーは、登校前から幸せなチョコを食べれそうだ。そう思いながら、俺は再び寝床についた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「シズク」

 

(んだよ)

 

「私は渡せなかったんだけど」

 

(お前は皆の分も作ってるんだから、学校で皆と一緒に渡せば良いだろ。一番は俺のもんだ!)

 

「むぅ...まぁいいや」

 

そう言って、しずくは帰り道を歩く。一方の俺は内側で寝転んでいた。

 

しずくにも、バレたくない。バレるわけにはいかない。バレたらどうなるか分かったもんじゃないから。

 

『本当にありがとう。大切にするよ』

 

受け取ってからのくしゃっとした笑顔と、あの言葉。

 

『な、めんなぁぁぁっ!!!!』

 

同一人物かを疑うくらいに真剣だった戦闘時と無防備過ぎるあの姿が、どうしても比較してしまう。

 

何故か、でも、どうしても_____頭から離れない。

 

(...やっぱ来年はやらねぇからな!バレンタインデー!)

 

「えー、何で?」

 

(何でも!!)

 

 

 

 

 

数時間後、口止めしてなかったせいで俺のことがあいつから勇者部にバレるまで、俺はひたすら心の中で文句を呟いた。

 

 

 

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