古雪椿は勇者である   作:メレク

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最近、アサルトリリィとのコラボやってたので少し確認したんですが、やっぱりゆゆゆいのフルボイスストーリーって頭おかしかったんだなって改めて思いました(褒め言葉)。

コンシューマー版も楽しみ。


ゆゆゆい編 85話

少し早めに目的地に着いた私は、辺りを見渡す。あの人が先にいることを見越してのことだったけど、どうやら今回は外れたらしい。

 

(珍しいな。椿さんが早く来てないの...)

 

基本的に私達と待ち合わせする時、あの人はなんだかんだ先にいる。それを確実に上回りたいなら、30分以上早くいるくらいの気持ちの方がいい。中には待ち合わせ時間そのものを遅く伝える人もいるみたいだけど。

 

とはいえ、いないのなら待つ。近くにあった建物のガラスで全身をチェック。次に少し近づいて髪周り。風で前髪が変になってることはなさそうだ。

 

春先に合う若草色のワンピース。それに合う少しヒールのある靴。少しふわふわを盛った長い髪。いつにも増して気合いの入った格好。

 

(...よし)

 

最後にほんの少しだけ手に吹きかけた香水を、首の裏につける。柑橘系の香りが鼻をくすぐる。

 

(大丈夫。ちゃんと色々考えてきたんだから。え、映画デートだって、別に私にかかれば...)

 

恋愛小説、少女漫画、人より多く読んできた私にとって、二人で映画を見るなんて何も問題ない。強いて言うならさっきからうるさい心臓の音だけだ。

 

「すーっ...はー」

「ねぇ」

 

今日は椿さんと映画鑑賞。見るのは私が勧めた恋愛漫画が劇場化したもの。ラブコメ要素もありつつキャラ一人一人が立っていて凄く素敵な作品だ。

 

「ねぇ」

 

(映画自体も楽しみだし、そ、その時に...)

 

「おーい!」

「ひゃいっ!?」

 

突然呼ばれて振り返る。そこには私の声に驚きつつ、笑顔を浮かべる________

 

「おおっ、ビックリした」

「......えっと」

「いやー驚かせてごめんね?君今一人?よければ一緒に遊ぼうよ」

「ぇ...」

 

そこにいたのは、全く知らない人だった。いっぱいになっていた頭が急に落ち着いてきて、なんとかナンパの類いだと判断できた。

 

でも、脳の処理が追いついていない。樹海化だってこんなに急じゃない。

 

「いやー、どこ行く?」

「ぇ、やっ、あの」

「滅茶苦茶可愛いし、どこでも連れてくよ!」

「い、いやっ!」

 

私の沈黙を了承と受け取ったのか、目の前の人は私の手を掴んできて________

 

「悪い、遅くなった」

 

聞き馴染みのある声と共に伸びてきた手によって遮られた。

 

「!」

「なんだよ。今俺が」

「悪いな。今日は俺が先約なんだ。じゃっ」

「あ、おい!待てよ!」

「あと、流石に中学生に声かけるのはやめた方がいいと思うぞ」

「ちゅっ、中学?」

 

どこか驚いた男性を置いていくように、私の手を握った彼が歩きだす。

 

「ほら、行くぞ」

「...はい!椿さん!」

 

私はそれに逆らうことなく、寧ろ隣に並ぶように歩きだした。

 

 

 

 

 

「悪い。大丈夫か?」

「声をかけられただけなので、平気ですよ。手を出される前に椿さんが止めてくれましたし」

「ならよかった...でも」

「?」

 

不自然に言葉が止まって、返事を待つと少し目線を外される。

 

「どうかしました?」

「...少しは自覚してくれ。全く......」

「え?何をですか?」

「何でナンパされたと思ってる」

「え?何でって...?」

「...はぁ」

 

ため息をついた椿さんは、口許を手で隠した。目線も外したまま。

 

「お前が中学生には見えないくらい美人な格好してたからだろ」

「...っ!?」

「あぁもう分かったか!?俺も動くのが遅れるくらいには良いの!お前!!少しは自覚しろ!!」

「え、あ、あの」

「ほら行くぞ!!」

 

さっきとは別の意味で私の頭は停止して、完成に沈黙してしまう。

 

でも、引っ張ってくれている手は、決して離さなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

俺の言葉に、杏は完全に固まっていたが、映画館の席につく頃には調子を取り戻していた。

 

いや、まだ顔は少し赤いが、俺も正直いっぱいいっぱいなので気にしないでおく。

 

(一度離れといてまだよかったな...)

 

ポップコーンと飲み物を買いに行く際、杏には映画パンフレットの買い物を頼んだ。さっきのことがあってからすぐ一人にさせるのは今にして思えば悪手だが、当時の俺達にそんな余裕はない。

 

お陰で、なんとか今保てているから良いのだろう。

 

「楽しみだな」

「そうですね」

 

お互い買ったものを渡しあって、後は上映を待つだけ。他の人の迷惑にもならないように、自然と口数は減る。

 

(一度落ち着けそうだ...はぁ、あれなら先に待ってりゃよかった)

 

集合時間よりかなり早くついてしまった俺は、先にチケットの発券だけ済ませに行っていた。それでも時間前についたが、今回は裏目に出たようだ。

 

(......あの時も、こんなだったな)

 

初めて彼女と話し込んだ時のことを思い出す。あの時も彼女は声をかけられており、俺はそれを遮ったのだ。

 

勇者部は本当に美人とか可愛いとかに類されるメンバーばかりだ。それこそ神樹様が顔で勇者を選んだのか疑うくらいには。

 

今でこそ慣れてきた俺だが、未だにやられるのが多いことも事実。ヘタなことをされると心臓が持たない。

 

そんな彼女達を、周りの人はどう感じるか。

 

(そりゃ、どんな時も人気者になるだろうなぁ...良くも悪くも)

 

辺りが暗くなり、隣に座る杏の顔も見るのが難しくなる。映画館の注意事項を話す映像が流れ始めたので、少し目を瞑る。

 

(ふぅー...)

 

精神的にキツかったあの時も、状況的にいっぱいな今も、案外根っこの気持ちは変わらない。

 

(守ってあげたい。と思うんだよな。多分)

 

以前、それこそ過去の時は自分の保身もあったが、元々病弱な二つ年下の女の子。

 

(...映画、見るかぁ)

 

脱線しかけた頭を切り替える。始まった映画を楽しみにして来たし、見終わってから隣の彼女とする感想会も楽しいだろうから。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

映画の内容は、転校してきた男の子が隣の席の女の子と話をしていくうちに、それぞれ相手のことが気になっていく。といった感じ。

 

女の子は以前恋した時に心に傷を負ってから内気になって、男の子は親子関係の問題から転校してきて、常に笑顔を絶やさないように振る舞っている。

 

最初は明るく楽しく接してきた男の子に女の子が違和感を持って、男の子が気持ちを吐露。その後、男の子が女の子に過去の傷を乗り越えて好きになって貰おうとして__________といった感じ。

 

原作は他のキャラも深掘りされるのだが、映画は時間的な制約のせいか、二人の話を大きな軸としている。

 

でも、全く違和感は持たないし、見ていて凄くドキドキする。

 

特に、この後に来るであろうシーンは________

 

(......似ては、ないと思う)

 

ちらりと隣を見る。映像の光に当てられて見える椿さんは、じっと前を見ていた。

 

私は過去に傷なんてないけど、タマっち先輩達に比べたら内気で。椿さんは未来からだけど、転校して明るく振る舞っていた。

 

今のこの人を見ると、当時どれだけ苦しかったのか理解できる。私達への態度も、バーテックスへの憎悪も。

 

それが、今は恋愛映画を見て夢中になっている。

 

(...でも、ちょっとだけ)

 

さっきは私のことをあんなに褒めてくれたのに、今は映画に釘付け。その事に、ちょっとだけもやもやする。

 

(妬いてる......のかな)

 

隣にいるのは私なのに、この後話せるのは私なのに。

 

「?」

「っ...」

 

気づけば、私は椿さんの手に自分の手を重ねていた。少し顔を向けられて、つい目を背けてしまう。

 

椿さんにこの行為の真意に気づいて貰えるとは思わない。人の気持ちによく気づく人だけど、それはあまりにも高望みだ。

 

でも、同時に。

 

「ッ...!!」

 

重ねた手を、まるで安心させるように繋いでくれるのは、予想していたことだった。意図を汲み取ってくれなくても、この人はこういうことをする。

 

丁度、映画でも二人が手を繋ぐ。再現したいと思われてるのかもしれない。

 

(...いっか。今はこれで)

 

だって、これだけで満たされてしまったから。

 

 

 

 

 

「良かったな」

「はい!」

 

感想を話ながら映画館をあとにする。今日はお昼過ぎに集まったから、もう夕方。後は解散するだけになってしまった。

 

「椿さんはどこが一番好きでした?」

「そうだなー、やっぱ元のを読んでた時も思ったけど、あの子の気持ちがぐちゃぐちゃになるシーンかな。あそこ見た時、初めて読んだ時より心が揺さぶられたというか、苦しさが伝わってきて...」

 

椿さんは、本当に自分の好きな所を話す。似たような話を見ても、それぞれ違うシーンをあげることが多い。私はやっぱり告白のシーンとかキュンキュンするシーンをあげがちだ。

 

「あの咄嗟に何を考えていいのか分からないって感じ、分かるなーって」

「......」

 

それは、いつのことを言っているのか。何となく分かってしまう私がいる。

 

「杏は?」

「えっはい!?」

「いや、好きなシーンどこかなって」

「あ、あぁ...えっと、そうですね」

 

何でもなく話を続ける椿さんに、私も返事をする。

 

(そっか、そうなんだ)

 

椿さんにとって、あれは思い出なのだ。辛くても、苦しくても、今何でもないように言える記憶の一つ。

 

(私は、その一因になれているかな?嫌な記憶だと思われてないかな?)

 

過ごした時間としては、私は椿さんが苦しんでいた時にいた人だ。それは、あまり良くないんじゃないか。

 

「杏」

 

そんな時、風が吹いた。反射的に振り返る。

 

夕暮れを背にしたあの人が、朗らかな笑みを浮かべて。

 

「また行こうな」

「...はい!!」

 

私はそれに頷いた。

 

難しいことなんて帰ってから考えればいい。

 

(やっぱり不思議だ。この人といると、気持ちがふわふわする。落ち着けなくなる。どんな本を読んでいるよりも...だから、今は)

 

今この瞬間だけは、誰にも邪魔されない、私達の時間だから。

 

「椿さん、映画も良いですけど、今度は私ドライブ行きたいです」

「あー、今日のあれみたいにか?出来なくはないが...」

「前から頼みたかったんですよ」

「そうだな、どっか行きたい所はあるか?ある程度なら自由に行けるだろうけど」

「そしたら、海岸線まで行ってみたいですね__________

 

 

 

 

 

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