古雪椿は勇者である   作:メレク

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前話何故あのメンバーにあの二人がいなかったのか。そんな裏話も込めて。


ゆゆゆい編 87話

「ふんふんふふ~ん♪」

「ご機嫌ねぇ」

「仕事終わりの一杯は格別だぜぇ!」

「おっさんか...まぁ、一仕事したってのは分からなくはないけどさ」

 

大赦に呼び出され、その帰り道。隣で炭酸を飲み干した園子が近くにあったゴミ箱へ駆け寄って捨てる。

 

「大赦ももう慣れたものね」

「お互い隠し事もなくなったしね。いや、今の私達にはできないが正しいか~」

「そう言われると、私達は割りと最初から知ってた方なんでしょうね...友奈達は本当大変だったんだろうなぁ」

「私はそういう家系だったから。にぼっしー達は何のために戦うのか分かってた...ゆーゆとわっしー、いっつんは、凄いと思うよ」

「椿は...あいつも例外か」

「そうだね~」

 

適当に話をしながら、歩きを進める。日も傾きかけて、風も程よく気持ち良い。

 

「そういえば、つっきーのお家とミノさん一家のお家この辺だねぇ」

「そうね。折角だし寄ってく?」

「ミノさんも呼んでご馳走になる?いいねー!」

「私には答えさせないんかい。大体椿がそれを良しとするか決まったわけでは...」

 

そんなことを言いつつ、曲がり角を抜けた先に、二人の子供がいた。

 

私達よりも小さく、小学生くらいだろうか。

 

「どっかで...」

「ミノさん兄弟だよ」

「あー」

 

名前も知らない銀の弟達_______定義的に今も弟と言うべきかは微妙かもしれないけど________が、椿の家の前にいた。

 

「へいへーい。どうしたの?」

「え、あっ、えっと...」

「椿に何か用事?」

「にーちゃん...あっ、前ににーちゃんと一緒にいた」

「部活メイトだぜ~。って、誰もいないのかな?」

「にーにーでかけてる?」

「うーん...ちょっと確認してみるね」

 

そう言って、園子は私にウインクして家の敷地に入っていく。

 

(あぁ...)

 

分かってしまうのも嫌だが、恐らく勇者になって二階の窓から椿の部屋を確認するんだろう。それをこの子達に見せるわけにはいかない。

 

「...ところで、何かあったの?急ぎなら電話するけど」

「い、いえ...沢山スイカが余ったので、それをいるか聞いてきてって」

「なるほどね」

「誰もいなさそうだったよ...また後にするか、今から呼ぶかだね」

「別に急ぎじゃないから、大丈夫です!」

「そうね。スイカを持ってくかどうかだし...」

「スイカ!?沢山あるの!?」

「あるよー!」

 

より小さい方の弟君がそう言うと、園子の口角が上がった。

 

「まさかあんた...」

「私食べたーい!つっきーの分なら貰ってもいいでしょ?にぼっしー?」

「......少なくとも、聞く相手が違うでしょ」

 

正直、椿が拒否するとは考えにくい(みかんだったら分からないけど)。だから、聞くべきはくれる相手である三ノ輪家の人達で。

 

「そしたら、今から聞いてくるから_____

 

 

 

 

 

(...で)

 

気づけば、三ノ輪家の縁側で、園子と三ノ輪兄弟と一緒にスイカを食べていた。

 

「んー!おいしー!」

 

なんなら園子が一番喜んでいる。

 

「あ、あの、ありがとうございます」

「気にしないで。元々隣に配っても余りそうなくらい届いたから」

 

「タイミングが重なってねー」と言うお母さんは、私達の横に新しいスイカを置いた。そういうことなら遠慮する方が失礼かと、私も口に運ぶ。みずみずしいスイカの果汁が口いっぱいに広がった。

 

「つっきーどこ行ったんだろうねぇ」

「そうだねー」

 

(銀の弟...椿の弟、ねぇ)

 

案外、というほどでもないかもしれないけど、私達勇者部はこの二人、というか三ノ輪家との関わりはない。

 

当然と言えば当然で、『三ノ輪銀』は勇者部に所属してないし、私達も大赦との関わりが薄くなった家族の傷を抉るようなことはしたくない。

 

『これは、俺達の問題だからな』

『そうだね。なんとかするから!』

 

何より、椿と銀からそう言われれば、私達は部外者だ。

 

「勇者部の子...であってるのよね?」

「は、はい。そうです」

「あの子から沢山話は聞いてるわ。とっても可愛いのも納得ね」

 

そう言って笑うお母さんに、私はなんとも言えないもどかしさを感じた。椿がそんなこと言ってたのか、それをこの人に言ってるのか。と。

 

(別に、椿は可愛いとか普通に言うし...)

 

「よければこれからも仲良くしてあげてね...もう、誰もいなくなって欲しくないだろうから」

「っ、ぁ」

「じゃあ、ゆっくりしていってね」

 

歩いていくお母さんに、私は声をかけられなかった。

 

今小さく呟いていたのは間違いなくあいつのことで、きっと、椿の傷ついた姿も見てきた人だからこその言葉。

 

自然と私は、園子の方を見た。

 

私には何か言う資格なんてない。当事者ですらない。なら、当事者だった園子は何を思うのか気になって。

 

「ねぇ、その」

「よし行けぇ!ボードゲームを取ってくるのじゃあ!!」

「「はーい!」」

 

バタバタと走り出す部下二人、満足げにしてる司令官一人。

 

「......何してるの。あんた」

「え?これからボードゲームやるから持ってきてもらうの。にぼっしーも参加ね」

「...あんたのことだから聞こえてたでしょ」

「うん。聞こえてたよ。でも私が何か言うことでもないよ」

「それは...」

「ミノさんの傷も、ミノさんの家族の傷も、つっきーの傷も、私達の傷も。その傷自体を治すことなんてできないから」

「......」

 

久々に見た。園子が、あの乃木若葉の子孫だと感じる瞬間。

 

この顔つきは、間違いなく普段真面目な若葉の顔にそっくりなのだ。

 

「きっと、私のことも覚えてないだろうしね。ずっと寝てたし」

「...ごめん。湿っぽい話して」

「じめっしー?」

「本当に悪かったからそれだけはやめて」

「持ってきたよー!」

「お、じゃあ負けたらじめっしーね」

「やめてほんとに!?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

にぼっしーはミノさんに似ている。多少、とつけた方が良いんだろうけど、こと勇者としての素質は。

 

もし大赦が勇者システムを新造品だけで揃えることに拘っていたら、ミノさん、つっきーが使っていた勇者システムは、にぼっしーの勇者システムの原型として消費されていたであろうくらいには。

 

「よし、これで...えっ、300万道端に落とす!?何で落としてるのよ!?」

 

でも、幸か不幸か、そうはならなかった。私自身大赦への恨みはゼロじゃない。綺麗さっぱり消しきれる訳がない。

 

だけど、それはこの家族から私へ向けられる感情と、そう違わないと思ってしまった。

 

まだ私達が小さい子供だったから、何も言われなかっただけ。ただそれだけなのだ。助けられたかもしれない友達を助けられるのは、私達だけだったのだから。

 

だから、ふと思ってしまう。

 

(もし、あの頃、にぼっしーが勇者としていてくれたら)

 

赤服のかっこよさを二人で言い合って、それをわっしーと一緒に見ていられたら。

 

(もしあの頃、つっきーが勇者としていてくれたら)

 

男の子にドキドキしながら、それでも一緒に進むことができたなら。

 

そんなたらればが、この環境においては出てきてしまう。

 

「ほら園子、あんたの番よ」

「あ、ごめんごめん。そいやー!」

 

回転させた結果出た目は8。その分自分の駒である車を動かす。

 

「右隣の人からお祝いで500万円貰う。ありがとうにぼっしー」

「何でよ!?というか何祝いよ!?」

 

そう言いつつもルールに従ってお金を渡してくるにぼっしーに笑みを返して、再びボードゲームを見る。

 

(こう、ボードゲームみたいにはいかないな)

 

上手にも、下手にも、こんな風にはならない。事実は小説より奇なりとも言うし。

 

(今は幸せ。ミノさんも隣にいるし、勇者部の皆がいる。なら明日は?その先は?)

 

『その傷自体を治すことなんてできないから』

 

さっきの自分の言葉と一緒に、ぐるぐると募る漠然とした不安感。考えても意味なんてない。それは分かってる。

 

「私は...」

「だいじょうぶ?」

「え?うん!元気いっぱいでさぁ!」

 

力こぶを作る私に、無反応な二人。

 

「ありゃ?」

「...本当にダメみたいね。私が残るから、相手してくれる?」

「にぼっしー?」

「よく分からんが了解」

 

その声に、私は固まってしまう。

 

「にーちゃんお帰り!」

「お帰りー!」

「おうただいま。アイス買ってきたからそれ一回終わったら食べな」

「スイカさっき食べた!」

「え、マジ?」

 

そこには、二人に構われているつっきーがいた。

 

 

 

 

 

「うん、美味しい。塩あったっけ」

「はい」

「サンキュー」

「宇宙旅行に6000万!?私のお金がぁ!?」

 

一人の叫び声と二人の笑い声を後ろに、縁側に座る私達。隣でスイカを食べるつっきーは、塩を振ってもう一度口にした。

 

「やっぱ賑やかなのが似合うな。ここは」

「そっか...そうだよね」

「......無理しなくても良い。何も言わなくたって、言いたいことは分かる」

「...うん」

 

私達が初めて会った時だって、話題はミノさんだった。

 

ここに来た時は、もしかしたら何かできるかもしれないと思った。謝ったり、話したり、何か。

 

でも、実際御両親に声をかけることは想像よりずっと難しくて。遊んでいても、つっきーが帰って来たことにすら気づかないほど考えてしまっていた。

 

「帰るなら送るぞ」

「ううん...もう少し、いたい」

「そっか」

「うん...ねぇ、つっきー」

「ん?」

「ここは、やっぱり賑やかだった?」

「......そうだな。近所にもっと家があったら、近所迷惑で問題の家だったかもしれない」

 

薄く微笑んで、口を開く。

 

「俺とあいつはよく騒いでたから。外で遊ぶなら庭がある程度広いここ。ゲームするならうち。みたいな感じで。あいつらが生まれてからはこっちでどんちゃん騒いでたこともあったっけ」

「そっか」

「あいつらは、血こそ繋がってないものの俺の弟達だ。銀仕込みの根性もあるし、騒ぐのも得意で気も使える...はず」

 

最後の方が小さくなっていくのに笑いながら、「だから」と続く言葉に、私は静かになった。

 

「お前が何か気にやむ必要なんてない。弟達にも、両親にも。一緒に戦った勇者が負い目を感じる必要なんて、何処にもないんだ」

「......忘れられないんだ。ミノさんのお葬式で、涙を流してた弟君のこと」

 

別に言われないだろう。弟君達も、御両親も、私を責めたり文句を言ったりはしない。ミノさんの家族はきっとそんなことしない。

 

でも、どうしても私が考えてしまう。あの時のことを思い出してしまうのだ。

 

隣に座るこの人だって、勇者だった私を責めてもおかしくないのだ。

 

「...ま、無理もないのは分かってるよ。俺だって、受け入れられなかったことではある......園子と同じだから。俺は」

「......」

「ここに銀がいた時、失ってから、何もできなかったんだ。もっとできたことがあった筈だって嘆いたからな。地獄みたいな夏休みだった」

「...そっか」

 

自分の胸を指すつっきーは、それでも笑ってて。

 

「そんな俺からは、結局好きにすればいいって言葉になるな」

「好きに?」

「逃げることは悪いことじゃない。俺だってあの時逃げた。まぁ、それ以上のことが起きて向き合わざるを得なかったわけだが...園子にこれ以上苦しんで欲しくもない。敢えて突き放すような言い方をすれば、ここは他人の家で、もう終わったことだ」

「......ありがとう」

 

どうしてこう、いつも、彼は。

 

こんなにも優しく、こんなにも前を向けさせてくれるのだろうか。

 

「今日は帰るけど、また来るよ。気持ちの整理をつけて。つっきーに言われて、このままじゃ良くないって思ったから」

「...一体そのメンタルの強さはどっから来るんだ?」

「ミノさん譲りだからね」

「それだと俺は同等以上のものを持ってないといけないんだが...」

「えへへ」

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

玄関で声をかければ、ペタペタと素足で歩く音が聞こえる。

 

「おふぁふぇひぃ~」

 

出迎えてくれたのは、煎餅を食べてるミノさんだった。

 

「もー、粉が飛ぶでしょー」

「ん、おっと...お帰り園子。晩御飯できてるよ」

「食べるー!」

「よしよし...なんか嬉しそうじゃん。良いことでもあった?」

「そうだね。今日も良かった!明日も頑張るね!」

「?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「悪かったわね。ただ来てご馳走になっただけで」

「気にするな」

「...園子は平気そう?」

「大丈夫だと思う」

「そ......ま、一緒に帰るから」

「良い奴だ」

「ち、違うから!別に園子のためとかじゃないんだからね!」

「ツンデレだ」

「つーばーきー!!」

 

夏凜の攻撃が飛んでくる前に家まで撤退する。とはいえ、戻ってきたのはさっきまでいた三ノ輪家だ。

 

「よかったな。ねーちゃん達に遊んでもらえて」

「うん!」

「たのしかったー」

「じゃあ晩御飯の前に片付けしてこーい」

「はーい」

「えー」

「しない人は料理が一品減ります」

 

走り出した二人を放置して、俺は台所まで歩く。夕飯作りの隣でさっき食べたスイカとアイスの処理をしなければならない。

 

「あら、いいの?」

「気にしないで...」

 

「ください」までつけるかどうか悩んで、結局つけなかった。銀の両親は俺にとって第二の両親であることに間違いはないが、かといって敬語を使わないのかと言うと悩むところではあった。

 

(特に、そういうのが分かってくる年齢になってくるとな...まぁ、察してくれてるのがありがたいけど)

 

「あの二人が勇者部の人達なのね」

「もっと沢山いるけどね」

「そう...あの子も確かにいたわね」

「......」

「よかった」

 

園子は三ノ輪家においての自分の存在を心配していた。だが、俺は事前に伝えていたし、向こうの思いも_____無事でいてくれてよかったと思っていることを、知っていた。

 

俺が直接言わないのは、結局俺から言ったところで不安は拭いきれないこと、本人が直接話した方が良いと思ってるから。

 

杞憂だと伝えてあげたい。でも、園子が笑顔でこの家族と接するには、きっとこうするべきだから。

 

「良い奴でしょ?あいつ」

「そうね。流石、銀の友達だわ...それに、貴方の友達らしい」

「それは...いや、本当にできた奴だよ」

 

園子も、夏凜も、皆も。

 

そして、あいつも。

 

「さて、アイスのカップは洗い終わり。スイカの皮はゴミで纏めた。あとは...」

「お皿お願いしてもいい?」

 

俺はそのお願いに、敬礼して答えた。

 

あいつらに負けない笑みを見せて。

 

「了解!」

 

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