古雪椿は勇者である   作:メレク

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あれだけじゃ皆ほとんど出てないじゃん!ということで本日二本目。

かわいい皆を書きたい。


三十三話 密着椿24時

「というわけで、付き合いなさい」

「いいけど...必要ないと思うぞ?」

「いいから!」

 

俺達は新たな勇者部部員に密着することになった。

 

ことの始まりは夏凜で、

 

「勇者部に新しく入ってきたのよ!おまけになにかしそうな不思議っ子!特に友奈は最近べったりしすぎ!」

「つまり友奈ちゃんに構ってもらえなくて寂しいと」

「そういうこと!東郷!!!」

 

逃げる東郷、追いかける夏凜。

 

(ダッシュ出来るようになったんだな東郷)

 

かなり個人的理由から始められた調査は、夏凜が引っ張ったせいでぼた餅(東郷作)を食べ損ねて涙目の友奈、そこにぼた餅を恵むため追っかけてきた東郷、なぜ呼ばれたか分からない俺というパーティーでストーカー行為をしている。

 

「...これ、いる?」

「面白いので私は構いませんよ」

 

東郷の記憶は完璧でなくとも戻りつつあり、園子との関係は良好だ。少しノリもよくなったと感じる。

 

「ともかく!追跡するわよ!」

 

その後、図書館で勉強する姿、高齢のおばあちゃんの荷物を運んであげる姿、公園でぽけーっとしてる姿を見ていった。

 

(......そろそろ離れとくかな)

 

東郷がメールを打っているのを確認して、「飲み物買ってくる」と言って一人消えた。

 

案の定夏凜は後ろから現れた園子に驚き、友奈を庇いながら叫んでいる。

 

静かに回り込み、買った冷たいみかんジュースを夏凜の首に押し付けた。

 

「ぎゃー!!!」

「おぉ、つっきーやるぅ」

 

その後回し蹴りを食らったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「てゆうのが、昨日あったんだ~」

「へー」

 

早朝集まったあたしたちに嬉しそうに語る乃木に対し、あたしはとてもつまらなさそうに答えた。

 

「で、乃木...なんでこんな朝早くに呼んだわけ?」

 

あたしと友奈、そしてそれぞれの付き添いとして樹と東郷が隣にいるが、全員何故乃木に呼ばれたのかはわかっていない。

 

「めちゃくちゃ重要だって言うから来たのに...」

「重要だと思うよ?特にふーみん先輩とゆーゆはね」

「?」

「えー...これより!第一回つっきー密着24時を始めまーす!」

「は?」

 

乃木は椿をつっきーと呼ぶが、そこは大して重要ではない。

 

「椿を密着?」

「そう!つっきーの休日、見たくない?」

「こんな朝早くから...」

「リサーチ済みなのですよいっつん。つっきー先輩は後五分したら隣の家へ向かうから」

 

皆黙ること五分。椿は確かに自分の家を出て隣の家へ入っていった。

 

その家が前に知り合った三ノ輪鉄夫君達のお宅なことは分かっている。

 

「わっしー、あれ頂戴」

「だから私を呼んだのね...はい。そのっち」

「ありがと~」

 

東郷が取り出したのは長い棒のようなもの。

 

「なんですかそれ?」

「ここから覗くとつっきーの動向が探れちゃうのだー」

 

家の塀に近づいた園子が、棒を上まで持ってから端を覗きこんだ。

 

「園ちゃん、見える?」

「ゆーゆも見る?」

「え...じゃあ」

「友奈ちゃん用のもあるからね」

「わぁ、ありがとう東郷さん!」

 

そう言って、二人して監視を始めてしまった。外から人が見たら確実に変質者で捕まってしまう。

 

「ふーみん先輩いいんですよ?興味がないなら帰ってもらっても...起こしたことは謝りますから~」

「...乃木、あたしにも寄越しなさい」

「お姉ちゃん...」

 

覗きこむと、朝食を並べている椿が見えた。ご家族皆も起きている。

 

「にぃーちゃんテレビ!ぬっこの冒険始まっちゃう!!」

 

大声で聞こえたそれは休日の子供たち向け番組だ。椿の声は小さくて塀の外まで聞こえない。

 

「あの二人...成長したわね」

「そうだね」

「あ...」

 

この二人の姉、三ノ輪銀は椿の幼なじみで、あたしも何度が会話したことがあるらしい。話していたのはどちらにせよ椿なのだが。

 

「お、皆離れてー」

 

急いで隠れると椿が出てきた。朝食を作っただけらしい。

 

かといって自分の家に戻ることはせず、どこかへ歩いていく。

 

「トレーニング...って格好でもないわね」

「追いかける人は行きましょうー!」

「あ、園ちゃん私も!」

「朝ごはんにぼた餅あるからね」

「わーい!」

 

こんなストーカー行為、部長として認めるわけにはいかない。

 

「待ちなさい。部長として一緒に行くわ」

「お姉ちゃんもっとダメだ...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「「「な...」」」

 

お姉ちゃんと友奈さんと園子さんが絶望的声をあげる。

 

見つめる先には、椿さんと_______夏凜さんがいた。

 

「休日に、夏凜と会うの...これって、デート!?」

「えぇぇ!?」

 

(違うと思うけどな...)

 

見た目は普通にデートだけど、二人の雰囲気はなんだが違って見えた。

 

とはいえそれがどう見えるかは本人の匙加減で変わってしまう。お姉ちゃんも友奈さんも顔が暗くなって、園子さんもだんまりだった。

 

「友奈ちゃんを悲しませるなんて...でも私はどうしたらいいの!?」

 

(東郷先輩が一番めんどくさそうなポジションですね)

 

決して口にはしなかった。明日の日が拝めなくなっても困るから。

 

もっと後をつけると、椿さんと夏凜さんは楽しそうに買い物をしていった。本を見たり、服を見たり、料理器具を見たり。全部子供向けだけ、若夫婦と言われても問題なさそうな感じだった。

 

(椿さん...これは言い逃れできませんよ)

 

ちくちくと痛む胸を抑えながらメールをいれてみる。お姉ちゃん達も私も、あまりこの光景を長く見たくない。

 

「夏凜が椿と付き合ってたなんて...」

「にぼっしーは盲点だったなぁ。用事があるって断られちゃったけど、これだったのかぁ」

「あ、夏凜ちゃんと椿先輩が別れましたよ!」

 

夏凜ちゃんはベンチに座って、椿さんは離れていく。

 

「うーん...ほんと、付き合ってるのかな」

「私はそう見えませんでしたけど...」

「でもでも、仲良く見えたよね...仲良いのは元からか、あははー...」

 

動揺する皆と違って、お姉ちゃんは覚悟を決めた顔をした。

 

「......あたしは正々堂々したい。乃木が今日呼んでくれたのも、そういうことでしょ?」

「私は皆でいれたらいいなと思って...部長の言いたいことも入ってますけど」

「ならあたしはちゃんとする。どうするの?乃木、友奈」

「.....私も、私も聞きます!夏凜ちゃんにも皆にも負けません!」

「私は独占でもわけあってもいいけど~...ふーみん先輩とも、ミノさんともちゃんと戦いたいな」

 

バーテックスと戦うよりも緊張が走る。

 

「「「私(あたし)は_____」」」

 

 

 

 

 

「なにしてんの?」

「「「わひゃあ!?」」」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『今日はありがとな』

『とんでもないです』

 

帰り道に樹にメールするとすぐ返事が来た。

 

今日は夏凜と一緒に幼稚園に通う子へのプレゼントを選んでいたが、後をつけられていたらしい。樹からメールが来て昨日と同じように脅かすと、涙目のやつまでいて申し訳なかった。

 

夏凜からメールが来たのは昨日で、相手は以前幼稚園でのうどん作り講習をしたとき仲良くなった子らしい。それからそのご家族とも仲良くなって、誕生日に何か買ってあげたいが、何を渡せばいいのか分からないから付き合えと。

 

実際弟のような存在を持つ俺は適任だったようで、うまく選ぶことができた。その子が気に入ってくれるといいのだが。

 

(そういえば...)

 

出掛けてる最中、夏凜の言っていた言葉。

 

『あんた、勇者部に好きな人いないの?』

『みんな好きだぞ?』

『...聞き方がおかしかったわね。恋愛感情的に好きな人っているの?』

『え?恋愛?』

『そ』

『...夏凜らしくない質問だな』

『い、いいじゃない!答えなさいよ!』

『んー...』

『......やっぱり銀って子が忘れられないの?』

『確かに銀は好きだったけど、もういないしなー...兄妹みたいな感じだし。なによりあいつ本人から恋をしろみたいなの言われたし』

『じゃあ誰かいるの?』

『そうだなぁ...一緒にいるとどきどきするのは確かだけど、夏凜含めて可愛い奴ばっかりだから、そんな奴らが俺に好意を向けること自体ないだろうし、高望みじゃないかな?』

『...あんた、バカね』

『は!?』

 

(結局、何で罵倒されたんだろ...)

 

記憶に耽っていると、ブブッとスマホが鳴る。

 

『でも、椿さんは大変ですね』

『なんのことだ?』

『いえ...椿さん。椿さんはずるい女の子、嫌いですか?』

『いきなりなんだよ?』

『......なんでもないです。これからも頑張ってくださいね♪』

 

なんとなく樹が画面の向こうでウインクしてそうだなと思ったが、結局何が言いたいのかは分からなかった。

 


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