古雪椿は勇者である   作:メレク

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三十四話 うどん

「おかわり!」

 

うどん屋『かめや』。ここは讃州中学からも近く、手頃で上質なうどんを提供してくれるということで、勇者部行きつけのお店になっている。

 

今日も女子力王は健在で、現在うどん三杯目である。「うどんは女子力を上げるのよ」という言葉も伊達ではない。

 

「相変わらず食べるなぁ...」

「肉ぶっかけは正義」

「醤油なんかもおいしいわよ」

 

夏凜もサプリや煮干し生活を送っていた頃からうどんは好きらしい。今は部長も俺もそんな生活を許さないが。

 

「でも、本当に美味しいですよねぇ...」

「うどんを食べる。私達は生きている!」

「友奈ちゃんったら...」

「すだちも美味しいですな~」

 

樹、友奈、東郷、園子も同様だ。俺は蕎麦も好きだが、どちらと問われればうどんだろう。

 

「うどんは、快楽悦楽全て入っている!」

「流石にそれは大げさ」

「そうですよ~。犬吠埼さんは相変わらずですね」

 

お店の店員さんも、風を初め俺達全員のことを知っていた。

 

「本当に美味しいんですもん!」

「ありがとう。お陰さまで『かめや』も二号店を開くことになったんですよ」

「本当ですか!おめでとうございます!」

「絶対流行ると思うわ」

 

この『かめや』は大手チェーン店と違い個人経営らしい。駅前に出るとのことで、知名度はさらに増すだろう。

 

「でも...少し不安なところもあって」

「不安...よければお聞かせ願えませんか」

 

(目がヤバい)

 

「二号店を出してもいいのかーって感じですか?」

「はい。味に自信はあります。でもこの近くにはうどんを経営する大手チェーン店が多く...今乗ってきているとはいえ、二号店を出していいものか...」

「難しいところではありますね」

「もう出すのは決定してるんですけどね」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「というわけで、アイデア考えてきた人挙手!」

 

翌日。俺達は部室でいかにして『かめや』二号店を成功させようか話し合われていた。余計なお世話と言われようが、うどんの為に勇者部が止まることはない。

 

「うぅ...」

「大丈夫樹?目がとろんとしてるけど」

「お姉ちゃんと夜遅くまで話してまして...ツッコミ疲れて寝不足だったり」

「大変だ!いっつんを治さなきゃ!わっしー!」

「えぇ!」

 

二人は必殺α波(健康に効く万能光線)を手から出し、樹を取り囲む。

 

「「健康健康健康健康健康健康」」

 

(字面で見ると気持ち悪そうだな)

 

どっかの宗教でやってそうな行為を置いといて、俺はみかんジュースを、夏凜はサプリをテーブルに置いといた。

 

「それで、挙手!」

「風はなんか考えたのか?」

「ズバリ、コスプレ店員さん!可愛い格好して店員がうどんを持ってくる」

「ふーみん先輩いい案です~」

「とても面白いけれど、お金がかかりそうですね」

 

α波を出し終えた二人が会話に戻ってきたが、風はどや顔のままだった。

 

「持続させなくていいのよ。一度うどんを食べさせるきっかけと、リピートがあれば人は寄るわ」

「風が滅茶苦茶考えてる...」

「普段考えてないみたいな言い方やめてくれる?」

「間違ってな...グーはやめて」

「椿はどうなのよ」

「看板を作って、数日間俺らが声かけすればいいかなって。同じく一度食わせればこっちのもんだからな」

「まるで合法の薬の様な扱いね...」

「中毒性が高いのは確かさ。そういう夏凜は?」

 

「そうねぇ...」と言いながら、夏凜も口を開く。

 

「私はサプリ通販で頼んでるんだけどさ。広告とかに結構釣られちゃって。だからメルマガなんてどうかと思うんだけど」

 

確かにメルマガならばそこまで経費もかからない。文を書いて、送信すれば終わりだ。

 

「いいなそれ」

「自分が良いと思った方法を真似る...基本だけど大事なことだわ」

「東郷は?」

「看板メニューの作成とか」

「そういうことならおまかせ~。全部名前アレンジしちゃうよ!」

「...個性的なうどん屋になりそうだな」

 

「祀られるくらいの人をも唸らせた釜あげうどん~」と言ってる園子に、苦笑いしかできなかった。

 

「そのっちは?何かある?」

「私は学校で放送するとか~」

「あそこのうどんは安いから、中学生でも手を出しやすいものね」

「樹ちゃん...皆凄く考えてるよ」

「でもアイデアがあるわけじゃないですし...どうしましょう」

「ゆーゆといっつんはコスプレしてくれればいいよ~」

 

悩んでいた二人に園子がぶっこんでいった。

 

「そのちゃん...うん。私はコスプレウェイトレスになる!」

「ハードル高いですね...」

「大丈夫、頑張ろう樹ちゃん!」

「友奈ちゃん。正しくは可愛い仮装店員さんよ」

「ぅ、ゾヴデジダ」

「なら条件は満たされてるだろ?」

「えぇ。古雪先輩の言うとおりだわ」

 

表情をくるくる変える二人を含めた風以外で学校側から許可を取り、風は『かめや』でプレゼンをして。

 

こうして、『かめや』二号店成功プロジェクトは始まった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

無人の勇者部部室。ここ数日はいつもそうだ。

 

「またあそこかー!」

 

急いで『かめや』二号店へ向かうと、軽い行列になっていた。割り込むこともできず、少し待ってから店内へ。

 

「いらっしゃいませー!あ、夏凜ちゃん!」

「夏凜さん、いらっしゃいませ」

 

露出の多目な店員衣装に身を包んだ二人が、声をあげた。

 

(こりゃ客も来るはずよ。根本的にうどんが美味しい上に、この店員だもの)

 

「ご相席になりますが」

「寧ろそれでお願いするわ」

 

ちらりと見れば、四人がうどんを食べている。

 

「これで全員揃ったわね」

「揃ったわね...じゃないわよ!仕事してる友奈や樹はともかく、なんであんた達全員いるのよ!」

「作戦を立てた身だから、行く末を見守ってるのよ」

「勇者部総大将として右に同じ」

「うどん食べにきました~」

「仕事だ」

 

四者様々な対応をしながら、なおうどんを食べる手を休めはしない。

 

「園子は言わなくていいわ。ほんとは?」

「決して友奈ちゃんの服装を見にきたわけじゃなく」

「可愛い樹が心配だったわけじゃなく」

「二人がかわい...仕事だから」

「うどんすすってるのが仕事なわけないでしょ!!」

「いや仕事だって」

 

「ご馳走様」といった椿はそのまま立ち上がって_______ある男の人の腕を掴んだ。

 

「お客様。こちら店頭にも記載されている通り、写真撮影はお断りさせて頂いております。ご了承ください」

 

淡々と、だけどかなり怒気の入った声。聞いた私は少し背中が凍った気がした。

 

「......ふぅ。こんな感じで監視してるんだよ。ネットに流されればスタッフ目当てで来る客は減少するし、あの二人の服はスカート丈とか危ないから東郷と風以外の写真に撮られることはさせたくないし。理想はかわいいコスプレ店員がいるって情報だけ流れることだからな」

 

普段から周りをよく見ている椿らしい仕事だった。

 

「...仕事してるのね」

「俺のうどんはまかないですから。友奈、おかわりくれ。おろし醤油」

「はーい!」

 

友奈は椿に向けてウインクしていた。

 

「なっ...」

「あ...」

「ゆーゆ大胆~」

「...か、夏凜ちゃんは何にする?」

「わ、私はじゃあ...このおすすめ!勇者盛りうどんで......というかよくするわねウインクなんて」

「やめてー...慣れてきて楽しくなっちゃってただけだから......」

「でもゆーゆ、つっきー顔真っ赤だよ?」

「言うな園子!」

 

動揺した様子の椿は年相応と言った感じで少し子供っぽいなと思う。

 

(普段が少し大人びてるからギャップありだわこれ)

 

「友奈ちゃんの写真を極秘で撮ろうとするなんて...あの客、許さない」

「東郷?戻ってこーい...」

「東郷さん、大丈夫?」

「友奈ちゃん!私は大丈夫よ。それより友奈ちゃんもスカート短いから気を付けてね」

「平気だよ。お仕事続けまーす」

「あぁ...活動記録撮らなくちゃ」

「あたしも撮らないと」

「後でデータくれ」

「つっきー本音漏れてる~」

 

樹も友奈も慣れた手つきで客へうどんを運んでいった。

 

「なんであそこまで短いやつにしたのよ...」

「それほどでもないです~」

「あんたか園子!」

「友奈ちゃん走ると危ない!」

「椿...あんた今友奈の中見たでしょ」

「っ!」

「何のことだ」

「あんたのつけてるミサンガの色は?」

「ピンク」

「ヨシコロス」

「やべっ!!!」

「お姉ちゃん落ち着いて!」

「うぅー...!」

 

(...なんだろう。うどん屋さんに私達が一番迷惑をかけている気がする)

 

市中引きずり回しの刑に処された椿を蹴りながら、ふとそんなことを考えた。

 

一応、『かめや』二号店の最初の売り上げは爆発的によかったそうな。

 

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