古雪椿は勇者である   作:メレク

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サブタイ通りです。

元が可愛い彼女達ですが、もっと可愛く書きてぇな...


三十五話 壁ドン

肘を壁に音を立ててつけ、股の間に足をいれる。

 

「椿先輩...」

 

息を上気させる友奈の髪と俺の髪がぶつかるほぼゼロ距離で、俺は彼女の耳元で囁いた。

 

「友奈、俺のものになれ」

 

ことの始まりは数分前______

 

 

 

 

 

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勇者部には様々な依頼が届く。部活、幼稚園、果ては一般企業。基本は中学生に任せられるレベルの活動だが、樹は占いだったり、夏凜は運動系だったり、東郷はパソコンだったりとハイスペックな所もあるため、それを頼ってくることもある。

 

しかし、勇者部総出でかかってもなかなか解決できないことの一つ。それが恋愛相談だった。

 

恋愛マイスター(笑)の女子力王はいるが、元から決まった解決策などなく、そのくせ同級生からの依頼は多い厄介事だ。

 

「女子がドキッとする動作を教えてくださいか...比較的簡単でよかった」

 

ここの女子が男子だと俺しか意見が言えなくなるため辛いのだ。女子なら勇者部全員から聞いて適当に返信すればいい。

 

「んじゃ意見あるか?」

「男子ならあたしのセクシーポーズでイチコロなんだけどね」

「へー」

 

棒読みで返しながら、この手の話題でそれなりに返してくれる友奈の方へ向く。

 

「難しいですね...」

「パッと思いつくもんじゃないわね」

「あ、でも定番と言えば壁ドンですよ!」

 

空中に手を出す友奈。きっと見えない壁を叩いているのだろう。様になってるのは武道をたしなんでいるからか。

 

「あー私もするわ。夜中隣の部屋がうるさいとき困るのよね」

「にぼっしーそれ違う~」

 

正規の壁ドンはそっちだという話もあるが、定かではない。

 

「実際やられると怖いところありますけどね。男の人が壁に押さえつけてくるなんて...」

「でも壁ドン、いいと思うんだけどなー」

「じゃあ検証しましょ。椿!」

「出掛けまーす」

「待ちなさい」

 

首根っこを風に捕まれてしまった。

 

「壁ドンする流れはわかったけど俺がすることないだろ!!」

「なに言ってんの。男子はあんただけでしょ」

「友奈が東郷にすればいいだろうが!!」

「それじゃ検証にならないでしょうが」

 

想像だけでトリップしてる東郷を見て頷きかけてしまったが、心を持ち直した。

 

「大体怖いって意見もあるだろ!それにそういう行動はイケメンに限るんだよ!俺にやられたら嫌だろ?」

「......ともかく!やりなさい!」

「んな殺生な!」

「決まったことなの!!嫌でもやりなさい!!」

 

本気でうるさくなる風に、俺は諦めてしまった。壁ドンする側なのに気分はダウナーである。

 

「で、やられるのは?」

「「あたし(私~)...」」

 

手を上げたのは風と園子。

 

「...ここは部長としてね」

「小説のネタにしたいんよ~」

 

二人の間に火花が散った(ように見えた)。

 

(...もう、お前ら二人でやってりゃいいじゃん)

 

「椿さん。私にやってください」

「樹...?」

「お姉ちゃんや園子さんにやるより楽だと思いますよ?」

 

正直、樹の言っていることは正しい。さっさと検証を終わらせるべきだとは思う。

 

「だけど、さっき怖いって...やるわけにはいかないよ」

「椿さんなら平気ですし、怖いって印象を持ってる私がドキドキすれば、成果になりますよね?」

「...でもなぁ」

 

樹が俺を気遣って言っているなら、申し訳ないと思う。先輩として情けない。

 

「さぁ、椿さん!」

 

と思っていたが、何故か樹の目はキラキラしていた。

 

「......わかった。じゃあ壁に立て」

「!はい!」

 

今回は樹の支援に感謝しよう。というより、あの目を断る術を俺は知らない。

 

壁にそって立った樹は少し小柄で、罪悪感がある。

 

(...覚悟を決めろ!)

 

「いくぞ、樹」

「は、はい...」

 

慣れない動きで、樹の後ろの壁に手をつける。ドンッと音が響いて、樹が体を震わせた。

 

「椿!!あんた樹になにやってるのよ!?!?」

「壁ドンの検証だってお前が言ったんだろ...どうだった、樹」

「...すっごいドキドキしました」

 

目の前で顔を真っ赤に染める樹が直視できなくて目線をそらしすぐに離れた。

 

「...これで検証終了!」

「な、な...まだよ!」

「はぁ?」

 

風は手をわなわなと震えさせながら唸った。

 

「一人だけのデータじゃ完璧とは言わないわ!あたしにもしっかりやりなさい!」

「じゃあ私も私も~」

「...樹、言ってやってくれ。こいつら__________」

 

助けを求めて樹に声をかけたが、「もう私にやったから必要ないよお姉ちゃん」なんて言葉はでなかった。

 

「かっこいいセリフも言ってあげてください!椿さん!」

「樹ぃ!?」

「私はもう満足です...」

 

突然の裏切りに俺は目の前が真っ暗になった。

 

「じゃ、じゃあ私も...」

「椿!」

「つっきー!」

「...もーやるから!わかったから黙ってくれー!!」

 

結局、全員に壁ドンした。風は樹と同じように顔を真っ赤に、東郷には「古雪先輩でもなかなか...」と言われ、夏凜はよくわからない言語を話し、園子は普段と全く違ってしおらしくなった。

 

やる度に俺の精神はそれぞれ違う香りや息づかいに削られ、その可愛さで正常ではなくなっていった。言葉もつけ、壁に手ではなく肘をつけより相手と密着する。園子に「お前は俺だけ見てればいいんだよ...」なんて言った気がする。

 

(もうだめ...なにも考えられない)

 

そして最後、残ったのは友奈。

 

体の制御が完全に効かない中、肘を壁に音を立ててつけ、股の間に足をいれる。まだどこも触れていない筈なのに、友奈の温もりを感じた。

 

「椿先輩...」

 

息を上気させる友奈の髪と俺の髪がぶつかるほぼゼロ距離で、俺は彼女の耳元に囁いた。

 

「友奈、俺のモノになれ」

「ーーっ!!!」

「東郷にも誰にも渡さない。俺は_________」

 

 

 

 

 

気づいた時には壁ドン大会は終わっていた。全員程度の差はあれど顔を赤く染め、友奈に至ってはぽーっとなっていた。

 

「えへ、えへへ...」

「......もう、帰っていいですか」

 

依頼主には「壁ドンは効果的」と送ったらしい。

 

恥ずかしさで次の日部活を休んだら、罰として壁ドンを要求されて泣いた。何故そんなものを要求するのか。うどんじゃなくていいのか。

 

 

 

 

 

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ベッドの中で、今日の先輩を思い出す。

 

『友奈、俺のモノになれ』

 

あれだけたくさんやってて、普段冷静な先輩が混乱してたのは分かってる。

 

(でも...)

 

『東郷にも誰にも渡さない。俺は、友奈を愛してる』

 

目を閉じればはっきり思い出す、顔を赤くした先輩。足の間に膝が入り込んでて、後少しで体が全部一つになりそうな距離で囁かれた告白。

 

ドキドキする仕草を分かるためなんだし、多分椿先輩自身なんて言ったか覚えてない感じもする。

 

でも、思い出すだけで心臓が速くなって、体は火照る。

 

(あんなこと言われたら...私、先輩のモノになっちゃう......)

 

その日は全然寝れなかった。

 


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