下から本編です。あなたはどっち派?
「ふっ、たぁ!!」
「そぉぉい!」
鉛をつけた木刀と、ただの木刀が音をたててぶつかり合う。
「っ!」
「てぇぇい!!」
一瞬の隙をつかれて首もとに木刀がつけられ、俺は地面に木刀を放った。
「あー負けた!」
「ふふん...完成型勇者を舐めないことね」
普通の土曜日。今日は勇者部の活動もないということで浜辺でトレーニングしてたところ、同じ目的できた夏凜もいたので戦ってみた。本当はもうやる意味もあまりないのだが、互いについた習慣はなかなか消せない。
「でも、最初に比べれば相当よ」
「嬉しいけど、ぼっこぼこにされた相手から言われてもなぁ...」
以前から何度か同じことをしてきた俺達は、寸土めの勝負ができるくらいにはなっていた。俺は実際の斧と同じ重さにするため鉛をつけている。
「流石、特訓してきた勇者だよ」
「あんたもなんだかんだで飲み込み早いから羨ましいわ」
武器の特性上スピードタイプの夏凜とパワータイプの俺。どちらも前衛の身だが戦い方はかなり違く、それでも勝負で負けが多いのは純粋に夏凜の実力だ。
「サプリ食べる?」
「いいのか?」
「別に私だけのもの!なんて言わないわよ。疲労回復に効果のあるやつ、はい」
「ありがとな」
半年近く前、入ったばかりの夏凜だったらあり得なかっただろう。彼女をこんな風に変えたのは勇者部だ。
「んー...意外とうまいな」
乾いた喉に貼り付かないよう気を付けながらサプリを飲み込む。
「よし、ご馳走さまでした」
「にぼしも食べる?」
「そのくらいしか残ってなかったら普段のお前ならすぐだろ?気にしなくていいから」
夏凜がいつも持ってるにぼしの袋には、残り僅かしかない。
「あ、買いに行かなきゃね」
「行くか?俺も買い物あるし」
俺はいつも浜辺までチャリで来てるため、目的地が同じなら二人乗りでいいだろう。
「いいの?」
「別にいいよ」
ちょっと改造が施された自転車は二人乗りがしやすくなってる。よく後ろに乗ってた銀の影響で、買い替えてからも改造してしまったものだ。
「じゃあ遠慮なく...」
「へーい」
全部で四本の木刀をかごに入れ、後ろに夏凜を乗せて、俺はバランスをとりながら発進させた。
「最近風が冷たくなってきたな」
「そうね~」
「あ、ブレーキかけるかもしれないからどっか捕まっといてくれよ」
そう言うと、横向きに座っている夏凜は俺の服の裾を掴んできた。
「ちゃんと安全運転しなさい」
「勿論させていただいてます。でも何があるかわからんからな」
結局何もなくショッピングモール『イネス』に到着。
「近くのにはしなかったのね」
「あ、悪い。つい習慣で」
「なによそれ」
「いやー二人乗りだと大体目的地ここだったからさ」
イネスマイスターを思いだしながら買い物を済ませ、自然な流れで昼食へ。
「なに食べたい?」
「そうねぇ...フードコートで適当に済ませましょ」
「適当にとか言ってるとまた風に怒られるぞ」
「ちゃんと食べるわよ。互いに自由なのにしましょってこと!」
結局、迷ったらうどんである。美味しいから全然いいんだけど。
「にしてもここ、煮干し専門店なんてあったんだな...流石イネス」
「私もみかん専門店があるなんて知らなかったわ...椿、よくジュース飲んでるわよね?」
「ん、あぁ。美味しいだろ?」
小さい頃からここで、銀は醤油ジェラート、俺はみかんジュースを飲むのがお決まりだった。
「おすすめはそこの果肉入り。めちゃくちゃ旨い」
「へー...今日は飲まないの?」
「高いから記念日以外飲まないようにしてる」
「そんなに...確かに四桁は高いわね」
「...ま、いいか」
うどんを食べ終わってから手早く買ってくる。17の引換券を貰ってリターン。
「よかったの?」
「最近は金欠もしてないし。夏凜と出かけることもなかなかないから記念日みたいなもんだろ」
「っ...本当、刺されてもしらないわよ」
「何で刺されるんだよ」
呼ばれて引換券とドリンクカップ二つと交換して、一つを夏凜に渡した。
「え?」
「飲んでみ?」
「い、いや悪いわよ!値段張るでしょ!」
「元から二つで配られる用なんだよ。生産の都合とかで」
なんでも素材を丸々使いたいからこの量を減らすこともできず、値段も高いままらしい。
「でも...」
「布教に金は惜しまないし、俺こっちのだけで十分なんだよ。捨てるの勿体ないから飲んでくれ」
「...わかったわよ」
絶妙な甘さと酸味が口のなかに広がって目を開く夏凜を見て、俺は口角を上げた。
「すっかり遅くなっちゃったな...」
「自転車だから大丈夫でしょ?」
夕陽が落ちようとしてるなか、荷物の増えた二人乗り自転車は風を切る。
「すぐついたしなー...っと、到着」
「ありがと。今日は楽しかったわ」
夏凜はお礼を言って_____それでも、裾を離さない。
「夏凜?降りないのか?」
「え、あぁごめん」
「部屋まで持ってくぞ」
「いいわよ。自分の荷物もあるでしょ?それにもう暗くなるし」
降りた夏凜に荷物を渡して、空いたスペースをバランスよく整える。
「......ねぇ、椿」
「ん?」
「また、乗せて?」
「いつでもどうぞ。また週明けな」
「うん、じゃあね」
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「何が、また、乗せて?よ!!バカァ!!」
家に帰ってきてベッドにダイブ。多分顔は赤い。
「あーもー...」
らしくないことを言った恥ずかしさが数分たってから襲ってくるのを感じて、私は足をバタバタさせる。
「......また、飲もう」
飲ませてもらったみかんの味を思い出して、もう一度飲みたいなと思った。
二人でも、皆でも。
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「はぁ...」
次の日曜日、俺は寝不足な目を擦ってまたチャリを漕いでいた。
(許さんぞあいつら...)
三ノ輪家の長男と次男は、昨日夏凜と買い物して帰ってきた俺に構って攻撃を仕掛けてきた。
最初こそそれなりに相手していたが、解放されたのは日付が変わりそうなくらいである。
(銀の弟なら休みとはいえもっと規則正しく早寝しなさい。まだ小学生でしょうが...)
寝れなかったらしいのでしょうがないが、そんな落ち込んだ時に買い忘れが見つかった時のショックはでかい。
「はぁ...」
昨日も訪れたイネスで、何度も通った道をすり抜ける。
買いたかった本だけ購入して、忘れない内に桜の栞を挟み込む。
昨日と違って、今日は暖かめ。
(......)
導かれるように外に出て、ベンチに座る。
(やべー...ねむ......)
「___きー」
「......」
「__っきー」
「んん...」
「つっきー」
「んあ?」
間抜けな声を上げて目を開けば、笑顔の園子がいた。
「あ、起きたね。おはよ~」
「...夢か......」
「まだ眠い?」
一瞬だけ起きた思考は、やすらぐ香りと頭を撫でられている手で溶けていく。
「んー...もうちょい」
「はーい」
「すいませんでした」
夢だと思ってた園子は普通に現実だった。寝てる俺を見て体勢が辛そうだったから膝枕したくなったんだとか。
30分しか寝てないはずなのに数時間寝たような快眠だった。頭も気分もさっぱりしてる。
(園子の膝でしか寝れなくなったらヤバイなぁ...)
こんな発想が出てくるくらいには、もう虜になっていた。
「私が勝手にやったことだから気にしないでいいよ~」
「そう言われても...時間も苦労もかけさせちゃったし。なんか出来ることあれば言ってくれ。やらせてもらう」
「頑固だなぁつっきーは...あ、そうだ!」
命じられたのは買い物の付き合い。別にそのくらいなら言われるまでもなくするが________と思っていた俺を、今の俺は殴りたくなった。
「なぁ、嘘だよな?冗談だよな?」
「つっきーは自分で言ったこと、断るわけないよねぇ?」
連れてこられたのは、女性下着売り場。もうこの時点で俺の心音は高まっていた。
「自分で服を買いたいな~って思ってね。折角だからイネス来たんだ~」
「自分で買ってくれ俺は関係ない!!大体なんで連れてくんだよ!!」
「大赦にいたからなかなかサイズ合うのがなくて...」
「いやそうじゃなくて!普通男子に見られたくないものだろ!!からかうのもいい加減にしてくれ頼むから!」
「さすがに冗談だよ。私も恥ずかしいもん」
なんとか下着エリアを抜け、大手衣類販売店ウニクロへ。
「助かった...」
「つっきーつっきー、私どんなの似合うかな?」
「俺が選んでいいのか?」
「つっきーに選んで欲しいんだ。私センス独特だし」
その言葉を否定はしなかった。確かに園子は普通の人とは少し違う感性を持ってる。
(別に悪いことじゃないし、自分で選んだ方がいいだろうに)
だが、 今日の俺は断る理由も断れる理由もない。
「そうだなー...」
やるからには最大限尽くそうと普段見ない女性服を漁っていく。
「んー...あ」
見つけたのは、薄紫がベースのロングワンピース。冬に向けての商品なのかワンピースの割には厚めだ。
「これなんてどうだ?」
俺も一般女子の感性なんか分からない。おまけに乃木家は大赦の中でもトップに近いらしいから安めのこれでいいのかどうか________
「わぁー!つっきー私と同じ服選んだ!」
どうやら心配は杞憂だったらしい。
それから時間をあけることなく俺達は店を出た。園子は既に買った服を着てる。
「選んだ俺が言うのもあれだが、良かったのか?それで」
女子の服選びはそれなりに時間がかかるものと割りきっていたため、なんだか拍子抜けだ。
「いいんだよ。私もこれが良かったし...似合う、かな?」
「......俺が似合うと思って選んだ服なんだ。聞くのも野暮な話だろ」
「ちゃんと言って欲しいな~」
「っ...似合ってるよ。よく」
「ありがと~」
笑顔を向けてくる園子に、俺は耐えられなくて頭をかいた。
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「ふんふんふーん」
つっきーが選んでくれた服を着て大赦が用意してくれた家まで帰る。自転車で送ろうとしてくれたけど、それは断った。
(恥ずかしいもんね...)
きっと、自分を抑えられなくて彼に抱きついてしまうから。そしたら日がくれるまでに帰れない。
膝枕してた時、寝ぼけてた時の無防備な顔。
「よかったなぁ...」
少し前まで、こんなことになるなんてちっとも思わなかった。こんな気持ちを味わうこともないと思ってた。
全部彼と、彼女を含めた勇者部のお陰。
「嬉しいなぁ~」
私の休日は、甘くて幸せだった。