古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回は短めです


四話 誰のために

「待って、東郷さん!」

「友奈ちゃん...」

「はいこれ。椿先輩のもあるかなーって思ったんだけど、私からも奢りたくて」

 

自動販売機で買ったジュースをようやく渡すことが出来た。渡された東郷さんは戸惑ったような顔をしている。

 

「でも私、奢られる様なことは何も...」

「そんなことないよ!だって東郷さんは、私達の為に怒ってくれたから」

 

東郷さんは優しい人だ。風先輩を責める様な言い方になってしまったけど、皆のために怒ってくれたのが私は嬉しい。

 

「ありがとうね。東郷さん」

「...なんだか友奈ちゃんが眩しいわ」

「?」

「あぁぁ、えっとね。私、戦いの間ずっとモヤモヤしてて、このまま変身出来なかったら、勇者部の皆の足手まといになるんじゃないかって...」

「えぇ!?そんなことないよ!」

「だからさっき、それを風先輩にもぶつけてしまって...国の一大事に友奈ちゃんは変身したのに、私は敵前逃亡...」

「と、東郷さーん?」

 

東郷さんの目が暗くなっていく。

 

「先輩の勇者集めだって国や大赦の命令でやっていたことだろうに...私はなんて女々しい」

「わーわー!東郷さん暗くなっちゃダメ!笑って笑って!」

 

東郷さんにはそんな暗い顔より笑顔の方がずっと似合うと思う。

 

「友奈ちゃんはあんな大事なことを隠されていたのに怒ってないの?」

「私...驚きはしたけど、でも私は嬉しいよ。だって適性のお陰で、勇者部の皆に会えたから!」

 

風先輩に樹ちゃん、椿先輩も皆良い人だ。勇者の適性が高くなかったら、皆とは会えなかったかもしれない。

 

「適性のお陰...そっか。私も事故で足が動かなくなって、記憶が少しなくなってて不安だったけど...友奈ちゃんがいてくれて、勇者部に誘われたからこうして楽しい学校生活を送れている。そうよね」

「これからだって楽しいよ。ちょっと大変なミッションが増えただけで」

「ふふ...友奈ちゃんは本当に前向きね」

「うん。だから私は...勇者になる!」

 

 

 

 

 

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「ごっめんねー!...これだと軽すぎるな。大変申し訳ありませんでした...これだと下手すぎ?」

「お姉ちゃんちょっと待って...今占ってるから」

 

三人が消えた部室で、樹と一緒にどうやって東郷に謝ろうかと考えるも、あまりいい解決策は出てこなかった。

 

「...これで、と。えーと...誠心誠意謝りましょう」

「元から誠心誠意込めてるわよ!」

「そうだよね...」

 

占いが得意な樹だけど、今回は有効に働かなかったみたいだ。

 

(でも、そうよね...)

 

「よし、ひとまず探して、謝ってくるか!!」

「お姉ちゃんらしいね...あ、落としちゃっ...!」

 

樹の落としたタロットカードが、空中で止まる。

 

「これって...」

「まさかもう!?」

 

 

 

 

 

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勇者アプリを開いて、書かれている説明文を片っ端から頭に入れていく。

 

「バーテックスから御霊を吐き出させる封印の儀?俺やってなくね?」

『いやー強すぎて吐いちゃったんじゃない?』

「そんな適当でいいのか...手早く倒せるならいいか」

 

俺の武器は二つの斧。装束は近接戦闘より。精霊はいないものの、致命傷になる攻撃は自動でバリアを張ってくれる。

 

封印の儀には時間制限もあるようで、途切れればバーテックスの進行は止められない。つまり世界の死を意味する。

 

『これがあったらアタシも死ななかったのになー』

「っ!!」

『あ、いや冗談だから』

「冗談ですまされるかバカ!」

 

銀の発言はあまりにも辛い。そうだ。二年前にこの機能があればきっと__________

 

その時、午前中も聞いた音楽が流れ、スマホにテロップが出た。

 

「樹海化警報...まさか今日二体目が」

 

言ってる側から世界は変わり、樹海に染められる。

 

『よっしゃ、勇者出動だ!』

「ひとまず合流するぞ。あいつらどこだ...」

 

バーテックスが見えないからか、勇者の姿になってもまだ冷静でいられた。

 

(いや...違うか)

 

『死ななかったのになー』

 

ついさっき銀に呟かれた言葉が頭をよぎる。

 

(しっかり連携して、誰も犠牲者なんて出させない!)

 

 

 

 

 

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「三体同時に来たか...」

 

前方に見えるバーテックスは、前に二体、後ろに一体の布陣で近づいてくる。

 

「樹、大丈夫?」

「大丈夫だよお姉ちゃん。行こう」

 

 

 

 

 

「この場所...またなのね」

「変身!!東郷さん待っててね。倒してくる!」

「待って、私も...」

「大丈夫だよ。東郷さん。」

「っ...」

「行ってくるね」

「友奈ちゃん!」

 

 

 

 

 

(あのバーテックス、アタシを殺した...)

 

「あ...今度は三体かよ」

『ほ、ほら頑張れよ!勇者様!』

「...今回は譲ろうか?」

『いいって!やってこい!』

 

(うぬぼれ?だっけ...そうじゃなければ、椿はきっとアタシの敵だと知ったら無茶するから...でも、本来アタシはここにいちゃいけない存在。だから...)

 

神樹様。お願いです__________まだ、ここにいさせてください。

 


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