「待って、東郷さん!」
「友奈ちゃん...」
「はいこれ。椿先輩のもあるかなーって思ったんだけど、私からも奢りたくて」
自動販売機で買ったジュースをようやく渡すことが出来た。渡された東郷さんは戸惑ったような顔をしている。
「でも私、奢られる様なことは何も...」
「そんなことないよ!だって東郷さんは、私達の為に怒ってくれたから」
東郷さんは優しい人だ。風先輩を責める様な言い方になってしまったけど、皆のために怒ってくれたのが私は嬉しい。
「ありがとうね。東郷さん」
「...なんだか友奈ちゃんが眩しいわ」
「?」
「あぁぁ、えっとね。私、戦いの間ずっとモヤモヤしてて、このまま変身出来なかったら、勇者部の皆の足手まといになるんじゃないかって...」
「えぇ!?そんなことないよ!」
「だからさっき、それを風先輩にもぶつけてしまって...国の一大事に友奈ちゃんは変身したのに、私は敵前逃亡...」
「と、東郷さーん?」
東郷さんの目が暗くなっていく。
「先輩の勇者集めだって国や大赦の命令でやっていたことだろうに...私はなんて女々しい」
「わーわー!東郷さん暗くなっちゃダメ!笑って笑って!」
東郷さんにはそんな暗い顔より笑顔の方がずっと似合うと思う。
「友奈ちゃんはあんな大事なことを隠されていたのに怒ってないの?」
「私...驚きはしたけど、でも私は嬉しいよ。だって適性のお陰で、勇者部の皆に会えたから!」
風先輩に樹ちゃん、椿先輩も皆良い人だ。勇者の適性が高くなかったら、皆とは会えなかったかもしれない。
「適性のお陰...そっか。私も事故で足が動かなくなって、記憶が少しなくなってて不安だったけど...友奈ちゃんがいてくれて、勇者部に誘われたからこうして楽しい学校生活を送れている。そうよね」
「これからだって楽しいよ。ちょっと大変なミッションが増えただけで」
「ふふ...友奈ちゃんは本当に前向きね」
「うん。だから私は...勇者になる!」
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「ごっめんねー!...これだと軽すぎるな。大変申し訳ありませんでした...これだと下手すぎ?」
「お姉ちゃんちょっと待って...今占ってるから」
三人が消えた部室で、樹と一緒にどうやって東郷に謝ろうかと考えるも、あまりいい解決策は出てこなかった。
「...これで、と。えーと...誠心誠意謝りましょう」
「元から誠心誠意込めてるわよ!」
「そうだよね...」
占いが得意な樹だけど、今回は有効に働かなかったみたいだ。
(でも、そうよね...)
「よし、ひとまず探して、謝ってくるか!!」
「お姉ちゃんらしいね...あ、落としちゃっ...!」
樹の落としたタロットカードが、空中で止まる。
「これって...」
「まさかもう!?」
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勇者アプリを開いて、書かれている説明文を片っ端から頭に入れていく。
「バーテックスから御霊を吐き出させる封印の儀?俺やってなくね?」
『いやー強すぎて吐いちゃったんじゃない?』
「そんな適当でいいのか...手早く倒せるならいいか」
俺の武器は二つの斧。装束は近接戦闘より。精霊はいないものの、致命傷になる攻撃は自動でバリアを張ってくれる。
封印の儀には時間制限もあるようで、途切れればバーテックスの進行は止められない。つまり世界の死を意味する。
『これがあったらアタシも死ななかったのになー』
「っ!!」
『あ、いや冗談だから』
「冗談ですまされるかバカ!」
銀の発言はあまりにも辛い。そうだ。二年前にこの機能があればきっと__________
その時、午前中も聞いた音楽が流れ、スマホにテロップが出た。
「樹海化警報...まさか今日二体目が」
言ってる側から世界は変わり、樹海に染められる。
『よっしゃ、勇者出動だ!』
「ひとまず合流するぞ。あいつらどこだ...」
バーテックスが見えないからか、勇者の姿になってもまだ冷静でいられた。
(いや...違うか)
『死ななかったのになー』
ついさっき銀に呟かれた言葉が頭をよぎる。
(しっかり連携して、誰も犠牲者なんて出させない!)
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「三体同時に来たか...」
前方に見えるバーテックスは、前に二体、後ろに一体の布陣で近づいてくる。
「樹、大丈夫?」
「大丈夫だよお姉ちゃん。行こう」
「この場所...またなのね」
「変身!!東郷さん待っててね。倒してくる!」
「待って、私も...」
「大丈夫だよ。東郷さん。」
「っ...」
「行ってくるね」
「友奈ちゃん!」
(あのバーテックス、アタシを殺した...)
「あ...今度は三体かよ」
『ほ、ほら頑張れよ!勇者様!』
「...今回は譲ろうか?」
『いいって!やってこい!』
(うぬぼれ?だっけ...そうじゃなければ、椿はきっとアタシの敵だと知ったら無茶するから...でも、本来アタシはここにいちゃいけない存在。だから...)
神樹様。お願いです__________まだ、ここにいさせてください。