古雪椿は勇者である   作:メレク

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今日は、出番少なめな夏凜ちゃんと東郷さん、そして前半出番がなかった園子様を出しきりたかったということでもう一話。

サブタイ通りです。


三十八話 国防仮面

「古雪ー!お前も聞いたか?」

「どうしたいきなり」

「国防仮面だよ国防仮面!」

 

クラスで人気の話題、国防仮面。それは、最近巷で現れたヒーローらしい。

 

男心をくすぐるような軍服で、正体を隠すためなのか仮面をつけ、世のため人のため善行を積んでいるんだとか。

 

「お前よく周り見てるし知ってるかなって」

「いや...そんなのいたんだな」

 

みかんジュースで口を喜ばせながら聞いていると、風が話題に乗っかってくる。

 

「ネットに動画あがってたわよ。その国防仮面とやらは。ブレブレで顔は全然分からなかったけどね」

「勇者部みたいな働きしてるよな!」

「うちはあんなコスプレしてないわよ!」

「国防仮面...ねぇ」

 

どこかで聞いたことのあるフレーズ。だが正体は掴めないままだった。

 

 

 

 

 

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「まさか...ついてない」

 

深夜。コンビニで夜食用のカップうどんを買った帰り道で俺はため息をついた。

 

暗闇の中、お釣りで渡された500円玉を落としてしまったのだ。

 

「暗いし寒いしぐずぐずしてたら怒られるし...」

 

中学生が外に出ていい時間ではない。かといって親に買わせるのも気が引けたので出掛けたが、こうなるなんて予想もしてなかった。

 

「はぁ...しゃあない。帰るか」

「待ちなさい」

「っ!?」

 

闇から這い出たのは、奇抜なデザインの服。マントと帽子、そして仮面をつけた格好が薄暗い夜にうっすら見えた。

 

「まさか...」

「私は憂国の戦士、国防仮面」

 

話題の人物、国防仮面が500円玉を握っている。

 

「貴方の落とした500円玉はこちらに」

「お、おぉ...凄いな。こんな暗いのに」

「...っ!め、目には自信があるので。それでは!」

 

何かに驚くように国防仮面が闇夜に消えた。

 

(かっけぇーなー...じゃなくて)

 

その後ろに伸びた髪。ついている水色と白のリボン。それ以前に声。

 

『いやー子供達への行事で国防仮面ってのやってさ!先生に怒られたんだよねー。あ、アタシはなってないんだけどね』

 

(お前か、国防仮面の仲間は)

 

「はぁ...なにやってるんだあいつ」

 

俺はもう一度ため息をついて、渡された500円玉片手にコンビニへ戻っていった。

 

 

 

 

 

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(そろそろ帰りましょうか)

 

これ以上活動していると今日の授業に支障がでる。既に休み時間はぎりぎりまで睡眠に使っているので、これ以上寝るわけにはいかない。

 

(それにしても、まさか古雪先輩だったとは...)

 

今日の初め、小銭を落として困っていた男性は古雪先輩だった。小銭を渡すときやっと顔が見えたので動揺して去ってしまったが______

 

(あれだけ暗かったら気づかれないと思うけれど...)

 

先程まで真っ暗だった道路は、月明かりでうっすら明るくなっている。

 

「あ...」

「おかえり。憂国の戦士さん?」

 

そして、玄関前には古雪先輩がいた。

 

 

 

 

 

「バレてしまいましたか...」

「声もそのまま、リボンもつけてたらそりゃバレるわ」

 

もう夜も遅いということで家にあげる。古雪先輩が用意して下さっていたペットボトルのお茶を一口飲んでから、私は国防仮面の理由を話した。

 

「壁を壊したこと。みんなに迷惑をかけたこと。本当に申し訳なくて...」

「それで深夜にこんなことを?」

「誰も、私は悪くないと言ってくれます。でも...私も足が治ったし、勇者部以外になにかやろうと思って」

「......気持ちはわかる」

 

壁を破壊し、世界を滅ぼそうとしたこと。皆を危険な目に遭わせてしまったこと。

 

「なにやってるんだ」と怒られそうなところを、椿先輩は神妙な面持ちで返してきた。

 

「少しでも良い方向に進ませようってのはな...俺も、やってるし」

 

後半部分はよく聞き取れなかったけれど、古雪先輩はこっちを向いてきた。

 

「でも、友奈や夏凜は心配してたぞ?教室で東郷が寝てばっかりだ。夜更かししすぎなんじゃないかーって」

「そんなことが...」

「大切な親友のために世界を壊そうとしたやつが、親友を心配させたりしないよな?」

「...はい」

 

その言葉は、どれだけ怒られるより胸が苦しくなった。

 

「国防仮面は本日をもって終了。以後は勇者部部員、東郷美森としてみんなと協力して善行を積むように!なんてな」

「ありがとうございます。古雪先輩。わざわざ」

「俺だって深夜に東郷一人でぶらつかせるわけにはいかないからな。余計な心配をかけさせないでくれよ?」

「...はい」

「じゃあ俺は帰る。また明日...いや、後でな」

 

私は帰ろうとする先輩の手を掴んだ。

 

「東郷?」

「もうこんな深夜です。先輩も中学生。帰らせるわけにはいきません」

「いやお前...」

「部屋なら余っていますよ。余計な心配はさせないでください」

「......わかったよ。泊まるから」

 

パパッとメールを打った古雪先輩は、降参して部屋へ向かう。

 

「部屋はここです。布団はこれを」

「......おう。じゃあおやすみ」

「はい。おやすみなさい」

「あの、東郷さん?」

「なんですか?」

「いや...なんで今俺に提供した布団に入ってるんですか。ていうかここお前の部屋だよな。パソコンとかあるもんな」

「部屋は余ってますが、布団は余っていないので」

「騙された!」

 

人聞きの悪いことを言う先輩が出ていこうとするのをむんずと捕まえる。

 

「ダメですよ。しっかり睡眠はとらなくちゃ」

「そこじゃどっちにしろ取れねぇよいい加減にしろ!」

 

攻防は朝方まで続き、その日の授業は二人とも寝てしまっていた。

 

 

 

 

 

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「国防仮面最近出なくなったな」

 

クラスメイトはまた国防仮面の話題をあげていた。

 

「一度は直接会って見たかったんだがなー。古雪、お前新しく聞いたこととかない?」

「んー...同じように善行を積んでりゃ誉めに来てくれるかもな」

 

きっと、仮面は被ってないけれど。

 


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