古雪椿は勇者である   作:メレク

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三十九話 花嫁

こんな形になってしまったけれど、嬉しかった。もう一度その顔を直接見ることが出来たから。

 

 

 

 

 

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「......夢?」

 

助けてと叫ばれた気がして飛び起きたが、特になにもなかった。

 

(......)

 

なんとなく左手のミサンガを握る。大切な幼なじみからの贈り物。

 

「...今日もいくか」

 

変な気分を振り払って、気合いを入れた。筋トレ、高校入試勉強、大赦との契約、なにより勇者部活動。やることはたくさんある。

 

「ただいま参りましたー」

 

時はすぐに経って勇者部活動。今日の任務はかなりバラバラで、部室に残っているのは園子だけだった。

 

「お疲れ様、つっきー...つっきー先輩?」

「好きに呼んでくれていいよ」

 

学校にきてから時々園子は俺に先輩とつけるようになったりならなかったりしてる。

 

(いや、ほとんどつけてないか...)

 

「ともかく町の清掃活動お疲れ様ですー」

「お疲れ。園子はテニス部の掃除だっけ?」

「ぱぱぱっと終わらせて少しテニスもしてきちゃった」

 

園子は俗に言う天才タイプで、初めてのことでもそつなつこなす。中学一年はずっと大赦にいたはずなのに、初回のテストで友奈と同じ点数をとるのはもう凄さが逆にわからない。流石に東郷や夏凜には届かなかったらしいが、友奈だって勉強出来ないわけじゃないのだ。

 

「他に依頼は来てるのかね...」

 

明日は予定のない土曜日なので一応活動終了となるが、その前にパソコンを立ち上げる。東郷が普段扱っている物だが、彼女は確か図書委員の手伝いだ。

 

「お、きてる」

「どれどれ~...んー」

 

依頼にきているのは結婚式場のスタッフからだった。

 

「モデル写真のエキストラねぇ...俺達の仕事か?」

 

結婚式のモデルにしては、中学生は若すぎる気がした。

 

「家族の写真とか、結婚を考えている人は?みたいな謳い文句なのかも~」

「...そんなもんか。やるのは明日。男女一人ずつ」

「!」

「...依頼受けるか風に相談かな」

「私はいいよ?」

「どっちにしろ部長の許可待ちだ」

 

(女子力王がこんなイベント逃すとは思えないけど)

 

手早くメールを送って適当な椅子に座る。そろそろ部活も世代交代の時期だろうが、うちの部活は卒業ぎりぎりまでやろうと決めていた。

 

「勇者部慣れたか?」

「うん。みんないい人達だよね。安心して眠くなってきちゃうよ...」

 

園子は緩みきった顔でほにゃーとしている。誰が彼女が少し前まで包帯まみれで祀られていたと想像できるか。

 

(よかったなぁ...)

 

七人になった勇者部は、バーテックスの襲来も満開の怪我もなく平和そのものだった。

 

「ただいまー」

「ただいま戻りました」

「おかえり。風、新しい依頼来てたから見てくれ」

「メールのやつね。なになに」

 

戻ってきた東郷と風を出迎えて、待機させていたパソコンを見せる。

 

「わっしーおかえり」

「ただいま、そのっち」

「なー!!!?」

「うるさいぞ」

 

感慨にふけっていると風の叫びが響く。

 

「んで、これ受ける?受けない?」

「受けるに決まってんでしょ!!結婚式なんて!!」

「正確にはモデルな」

「ただいま」

「なになになんの話?」

「外まで聞こえてるよお姉ちゃん」

 

風が概要を説明すると、全員黙った。

 

(え、なにこの空気)

 

「古雪はいるか?」

「あ、はい、なんでしょう?」

「お前に客だと」

「客...?わかりました」

「椿、今日はこのまま帰っていいわ。明日のことは決めたら連絡するから」

「おう、よろしく」

 

先生と風の指示に従い帰り支度を整えて門の外に出ると、春信さんがいた。

 

「...珍しいですね」

「急ぎで渡したい物ができたからね」

いつものファミレスに訪れると、資料とデータファイルを渡された。

 

「これは?」

「いずれは防人に実装したいと考えている強化プランの一つが出来たからね。簡単に言うなら擬似満開装置だ」

「!!!」

 

満開。勇者の切り札であり恐怖のシステム。使用中はバーテックスを一撃でほふる力を得るが、使用後体の一部が供物として捧げられる。

 

「君もアップデートは知っているだろう?」

「......」

 

満開システムは一新され、初めからゲージはマックス。満開する、あるいはバリアを使うとゲージは減っていく。

 

満開はゲージを全て持っていくため、バリアを使わない。さらに満開後にバリアが使えない状態に陥る。

 

代わりに体を供物として捧げずに済むからこっちとしてはありがたいが。

 

勇者に力を与えているのは神樹様、地の神だが、俺達の思いを受け取った上での仕様変更なのか。

 

「満開時のずば抜けた性能、そして空中浮遊能力。バーテックスとの戦いで望まれる二つが、これに入っている。最も、試作品だから性能はほとんど変わらず浮遊能力だけなんだけど」

「......今度テストします」

「よろしくね」

 

まだ俺は、あれ以来満開もバリアも使っていない。いつも壁の外に出てちょっと戦って帰るだけだから。一つでも傷がついてたら怪しまれる。

 

(大赦を信じきれてないのもあるが...)

 

満開の真実を言われなかったこと。勇者部全員にしていた隠し事は信頼を無くすのに十分だった。

 

「それにしても、学校まできて夏凜を見ていかなかったですね」

「見たいけど見たら変な目で見られるから...でも変な目で見られたいかも...」

「変態が」

 

こうして今日の会議は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

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次の日メールが二通きていた。一通目はクラスメイトからで、『昨日勇者部で叫び声聞こえてたけど大丈夫か?』とあった。恐らく風のだろうから気にするなとだけ返しておく。

 

そしてもう一通は園子からで、依頼についてだった。

 

「んで、到着...と」

 

指定された場所は式場。持ち物は特になし。

 

「つっきー!」

 

式場の中から声がした。俺をつっきーと呼ぶのは一人しかいない。

 

「おはよう園子」

「選ばれたのは、園子でしたー!」

「選ばれたって...」

 

どうやら俺が帰ってから依頼を誰が受けるか決めたらしい。確かに女子の憧れと呼ばれるだけあって皆で争ったのだろう。

 

「俺の分も女子枠だったら良かったのにな。もう一人いけるから」

「...相変わらずですなー」

「なんだよそれ」

「なーんでも」

「...まぁいいや。すいません、勇者部の者ですが__________」

 

 

 

 

 

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写真撮影は結婚する人の親戚の様な扱いで行われたり、ブーケ投げのシーンを撮るためにいるギャラリーだったりと脇役が多かった。

 

(主役にされても困るけどな...)

 

慣れないタキシードの襟を少し緩める。パンフレットに乗るのは恥ずかしさもあるが、気にしたら負けだろう。

 

「こうですか?」

「はい!凄く綺麗です!」

 

というか、主役のように頑張っているのは園子だった。言うまでもなく可愛く、オーダーしやすい人懐っこさ。

 

(この式場、儲かるだろうなー)

 

「つっきー、ちょっと待っててね」

 

適当にそんなことを考えてると園子の指示が飛んできて待機する。

 

数分後「きゃー!」とか「かわいい!!」とか声が聞こえて何事だろうと視線を向けると、俺は目を離せなくなった。

 

「......っ」

「えへへ~似合う?」

 

まだ散華の影響が残っているのか、少し華奢な身体に纏う純白のドレスが背後のステンドグラスの光に当てられ輝いていた。

 

長いスカートは精緻な意匠が施され、ブロンドに近い髪もまた白いベールに飾られている。ほんのり化粧もしているだろうか__________

 

「...つっきー?」

「......」

「おーい?」

「っ、ごめん見惚れてた。綺麗だな。びっくりした」

「!嬉しいな~」

 

上機嫌な園子。本来予定してなかった花嫁衣装だが、着たかった本人と写真を撮りたい式場スタッフの思いが合致したようだ。

 

「写真撮影してくれるんだって。一緒に写ろ?」

「...わかったよ」

 

正直、男性モデルはもっとカッコいい人はいる。園子に似合うのはそっちだと思う。

 

だが、園子が俺に頼んできた時点で違うんだろうな、と感じて同意した。

 

「はーい、腕組んでもらえますか!」

「もうちょい寄ってください!」

「笑顔笑顔!」

 

普段絶対ない距離にいる緊張感を笑顔を作ってごまかす。写真をとってもらっている時間はあっという間で、隣で笑う園子が頭に残った。

 

「じゃあお姫様抱っこいきましょうか!」

「え!?」

「つっきー、早く早く」

「いや、あの...ん」

 

無意識に胸を押し当ててくる園子。気恥ずかしさの原因を探られる前に、俺が彼女を抱えた。

 

「...もう、ここまでやったらちゃんと撮ってもらわないとな!」

「やたー!」

 

軽い体を持ち上げる。背中と膝の裏に手をいれ、逆に園子の手が首に回される。

 

「それじゃあ、撮りますよー?」

 

園子の笑顔が間近にあって、俺はドキドキしながら撮影を続けた。

 

 

 

 

 

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「パンフ出来たんよ~」

 

後日。そのっちが持ってきた結婚式場のパンフレットは、表紙がそのっちと古雪先輩だった。ちなみに今先輩はいない。

 

「そのっち、いい笑顔してるわね」

「ほんと幸せそうだわ...お姫様抱っこまでされてるし...あんたたち、戻ってきなさい」

 

夏凜ちゃんが魂の抜けたような顔をしている三人に声をかける。

「はっ!?」

「次の式場依頼はないかしら...」

「勇者部に依頼したんだから次も応募してくれるよね...そこなら...」

 

パソコンをチェックしたけれど、そんな依頼はなかった。というかパンフレットには勇者部の部員だと書かれていないため、気づく人は少ないだろう。

 

「......」

 

私は事実を確認しながら、そっとパソコンを閉じた。

 




そのっち書けて嬉しい。
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