古雪椿は勇者である   作:メレク

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四十話 勇者部活動報告

一段と冷え込みが強い今日この頃。

 

『勇者部活動報告ー!』

「始まったか」

 

昼休みに放送で流れてきた声は、よく聞くものだった。

 

「古雪ー、お前はいいのか?」

「俺は今日お呼びじゃないんでな」

「一定の需要はありそうだけど...」

 

月に一度、各部の活動報告が放送される。今月は勇者部の番ということで、友奈、樹、風の三人がパーソナリティー、東郷が音響担当なはず。

 

俺と夏凜と園子は出番なしということで、自分の教室でご飯を食べていた。

 

『始まりました勇者部活動報告。今回の担当、部長の犬吠埼風よ!』

『犬吠埼樹です』

『結城友奈です!よろしくお願いします!』

 

(キャスティングに不安なところはあるが...)

 

「では早速今月の報告を...』

『わーい』

『色々やりました』

 

(やっぱり)

 

クラスで聞いていた面々も笑っていた。

 

「これは面白くなりそうですね~」

「...否定はしない」

「でも可愛いんだろうなー...なんせ勇者部だし。ほんと古雪が羨ましいぜ」

 

勇者部は徐々に活動も増やし、知名度も上がってきている。この前のように全く接点のない結婚式場から連絡が来るぐらいには。

 

「うちの部長の許可が取れるなら入れてくれって挑戦してみたら?」

「無理だな」

 

クラスメイトが即答する。既に部長に突貫し、爆散済みだ。

 

『忙しくて覚えてないのよねぇ』

『そうですねー』

『日誌見ましょうよ』

『...うどん美味しかった』

『それ感想!!』

 

天然でかます友奈とボケてる風を相手する樹がかわいそうになってきた。

 

「樹がんばれ」

「樹ってあれだろ?風の妹だろ?」

「あぁ」

「あの子かわいいよな!それに大人しめだし...」

「付き合いたいなら風の壁を倒すんだな。俺も全力で阻止するが」

「うん無理だね」

 

『ではでは最初のコーナー!樹のお悩み解決!』

『です!』

『可愛い可愛い我が妹がタロット占いで皆のお悩み解決!』

 

樹のタロット占いはかなりの確率で当たると言われていて、なにかと重宝している。

 

『じゃあお便り読むわね。R.N(ラジオネーム)うどんさん。最近彼氏と上手くいきすぎて逆に怖いです。これからの私達を占ってください』

 

活動報告なのに、音が一切なくなった。

 

「......風にそれは言っちゃダメでしょ」

 

何かと青春したいと言っている風相手に、これは禁止用語だ。

 

『うるぁぁぁぁ!!!』

『お姉ちゃん落ち着いて!』

『風先輩!?』

『こんなもん送りやがってぇぇぇ!!!』

 

案の定風は暴走、あちこちにぶつかる音だったり壊れる音がしたあと、収まった。

 

『つ、続いては私が!R.N刺身さん。私は周りより胸が大きく、男子の目線が気になります。どうすればいいですか』

 

(詰んだなこれ)

 

樹の声がどんどん低くなっていって、デジャヴを感じた。

 

『胸が...胸がなんだっていうんですかー!!』

『樹ちゃん落ち着いて!』

『それを私に読ませるなんて当て付けですかー!刺身にするぞオラー!』

『オラー!?』

 

またどったばったと放送室が荒れて。

 

「今のところなんも占えてないな」

 

『じゃ、じゃあ最後は私が。R.N卒業前に彼女欲しいさん。最近友人が複数の女子に好意を持たれてるのに、気にしてる様子がありません。どうすればこの鈍感くそやろうに気づかせることができますか』

 

「あ、これ俺が書いたやつだ」

 

隣で飯を食っていたクラスメイトが反応する。

 

「メールの名前を彼女欲しいにするとか...」

「うるせぇな!」

 

『...樹ちゃん。これはしっかり占ってください』

『任されました』

 

急にトーンが変わって真面目に占い出す三人。東郷の声かけでもあったのか。

 

『......出ました』

『なになに!?』

『その方は既に気づいていますが友情の一つだと気にしていないだけです。恋愛感情だと気づかせるにはもっと直接的好意をぶつけていきましょう...』

『......』

 

「だってさ、お前の友達に言ってやれよ」

「もっと直接的好意をぶつけられる前に気づけ勘違いバカ」

「そんな感じでいいんじゃないか?」

「......はい」

 

なんとも微妙な感じでコーナーが終了。

 

『つ、続いては!友奈の応援!』

『友奈さんがリスナーさんを元気いっぱい応援します!』

『おまかせ!』

 

なんとも友奈らしいコーナーだと思って微笑ましくなる。

 

『冬休み前のテストが不安です』

『なせば大抵なんとかなる!』

『友奈ちゃんがかわいすぎて...』

『なせば大抵なんとかなる!』

 

「二個目にして私物化されてるけど」

 

『樹、かわいいよー!』

『なせば大抵なんとかなる!』

『そんな万能じゃないぞその言葉』

『これ書いたお姉ちゃん自身が言うのおかしいよ』

 

 

 

 

 

いつのまにか、時間も終わりに近づいていた。

 

『最後はこのコーナー、締めは部長に任せなさい!』

『風先輩が引いたくじにそって即興でエンディングを歌います』

『やけにハードル高いわね...』

『早速引きましょう!テーマは...クリスマス!』

『流石樹!良いの引いたわね!友奈は...』

『演歌で!』

『友奈ぁぁぁぁ!!!』

 

その後、無事に放送は終了した。風は帰ってきてから死んだ目をしていた。

 

「ふっ...お疲れ」

「笑うなー!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

 

壁の向こう。そこは未だに灼熱の空気と星屑の群れで溢れている。

 

「行くか」

 

壁の中から歩き出すと、一瞬で変わる景色は未だに慣れない。

 

(でも...)

 

勇者の装束。俺と銀しか使えなくなった服に、白銀の外装がついている。

 

「...レイルクス」

 

『周りを照らす花飾り』という意味合いを込めて呼ばれるこれは、春信さんを初め大赦で作り上げた強化パーツ。いずれは防人での実装を目的とした疑似満開装置。

 

浮遊能力と戦闘機能の底上げ、量産型勇者とも言える防人に武装顕現機能はないためウェポンラックとしても使えるようになっている。

 

既に一度使い、データは春信さんに渡した。その際勇者のデータから強化を加え、初めは浮遊能力だけだったのが機能向上と武器を拵えている。

 

「防人用だから能力向上は俺としては微々たる物だが...武装は凄いな」

 

腰には二丁の銃が備えられ、翼の一番外側は剣として使える。両翼の剣を合体させれば風の様な大剣にも。

 

試作タイプということで多めの武装が盛られているが、量産に落とす際は人に合わせて武装を絞って作るとか。

 

「...よし!」

 

全ての武装を確認してから、空を飛ぶ。本当の満開には数段劣る飛行速度で、やっと星屑を一撃で倒せるようになった銃を構えた。

 

(こんなことしてたら、怒られるのは確定なんだけどな...)

 

相談もしてなければ、これをやっているのはいつも夜。バレれば怒られるで済まされないだろう。

 

(でも、次の勇者達だけに任せるわけにもいかない)

 

一つでも、銀が、俺達が守った世界の役に立つのなら_______

 

だから、怪我をするかバレたらやめようと考えている。

 

つまりノーダメで帰らなければならない。

 

「おいでなすった!」

 

思考を止め、星屑の群れに向けて銃のトリガーを引いた。

 

単発式の銃は光を放ち、直撃した星屑をほふる。

 

「やっと一撃撃破...嬉しいもんだな!」

 

群れを避けて、あるいは倒しながら進んでいく。今日の目標は壁に立った時点で見えていた。

 

「バーテックス...!」

 

星屑が合体してできるバーテックスは、正確には俺達が倒してきたバーテックスではない。

 

作りかけのサソリ型バーテックスは御霊がない状態であり、御霊の有無はバーテックスの能力値を格段に変えている。無ければ防人でも迎撃が可能らしく、封印をする必要もない。

 

とはいえ星屑を倒すだけで精一杯な銃が通用する筈もなく、大人しく銃をしまった。

 

「ならさ!」

 

翼の端が切れ、それを合わせて大剣とする。以前俺に刀を作った影響で、近接武器はそれなりに進化が進んでいた。

 

「はぁぁぁ!!」

 

針のついた尻尾をはねあげる。御霊の無いバーテックスだと確定した瞬間だ。

 

「弱すぎるんだよ!!」

 

以前より強化された刀と大剣を縦横無尽に振り回し、あっという間にバーテックスは砂となった。

 

(帰るか)

 

これが俺のいつもの行動。御霊なしバーテックスを倒せば、その分次の世代に迫るバーテックスが弱くなる。もしくは時間がかかることになる。

 

清々しい気持ちで、俺は帰路についた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それで、見つかったと」

「まさか夜中の二時に部屋にいるなんて思わないじゃんか...」

 

結局、怪しんでいた園子が全員を招集して俺の部屋に押し入り、帰りを待っていた。夜間帯に戻ってきた俺はもう死ぬほど怒られた。友奈と風に至ってはガチ泣きである。東郷にはそれで殴られた。本気のグーだった。

 

「というわけで、勘弁してください」

 

俺は大人しく勇者アプリを返すことにした。約束通りバレたら止める。

 

「...こちらとしても、誰も使えない物を渡されても困ります。椿君が持っていてください」

「だがな」

「これだけ言われてしまえば、あってもやらないでしょう?」

「......確かにそうですけど」

「ならそのままで」

「...もっとやらせるかと思ってました」

「大赦としては戦力増強の為そうしたいですけど、ここには三好春信として来てますから」

「...本音は」

「夏凜に僕が関与してるとバレたくない」

「ですよねー」

 

今日はもうお開きとなった。

 

「来週もこの時間にはいます。個人的に話たいこともありますし...きっと、そっちも話たいことができるだろうから」

 

後半小さな声で言われて聞こえなかったが、気にせず外に出る。

 

「......ここまで、か」

 

(銀、お前は何て言うかな)

 

左手につけているミサンガを見て、ぽつり呟いた。

 




次はオリキャラ紹介文。お知らせありです。

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