古雪椿は勇者である   作:メレク

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四十一話 もう一度

勇者様の葬式。訪れた会場で遺族は泣く人もいれば喜ぶ人もいて、その光景は歪だった。

 

妹と同じ年の子を失って、それを英雄だった。英霊となった。と語る親族を見て、複雑な気持ちとなった。だがそれは神樹様に遣える身として感じてはならないこと。

 

だから、涙をこぼす勇者の弟君が、助けられなかったことを悔やむ共に戦った勇者達が、雨の中外に出て泣き叫ぶ男の子が、少しだけ羨ましかった。

 

後に世界の命運を懸けて戦う勇者の半分がここにいることを、僕はまだ知らない。

 

 

 

 

 

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「終わったー!」

「お疲れさん」

 

伸びをする風を労う俺。俺達の手元には参考書が並んでいた。

 

残り半年を切った高校入試、中三の追い込みはそれなりに始まっている。

 

風は二年までそれなりに成績が良かったものの三年、勇者を初めてから成績が落ち始め。今は俺の解説の元勇者部の時間を少し削って頑張っている。俺は成績上位をキープし続けており、志望高校の過去問も既に合格ラインに届いている。

 

「凄いわね椿は...」

「元からそれなりに出来るってのもあるが、夏休みはかなりやりこんでたからな」

 

銀が消えた喪失感に犯されていたときは、ひたすらに体を動かすか勉学にはげむかしかしていなかったため、今でも余裕になっている。

 

「とはいえ油断はできないけどな。同じ高校行きたいし、一緒に頑張ろう」

「分かってるわよ!」

 

 

 

 

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「......ここが」

 

瀬戸大橋。二年前、二人の勇者がここで戦い、一人は散り、一人は祀られることとなった。

 

その近く。かつての勇者の墓が備えられた場所に、俺はいた。

 

「...見つけたよ」

 

数ある墓の中から一つを見つけ、花束を置く。この場所は大赦にいた園子から聞いた。

 

中に骨は入っていない。それでも俺はそこにいるかの様に声をかけた。

 

「久々。元気?」

 

『三ノ輪銀』

 

墓からは勿論返事なんてない。

 

「お前と別れてから、ちゃんと墓参りしたいなと思っててさ。ご家族で用意できてないからできねーなーって思ってたら園子が教えてくれて...流石にイネスのジェラート持ってくるわけにもいかなかったから、これで勘弁してくれ」

 

銀がよく作っていた焼きそばを置く。

 

「最近はお前の弟達も美味しいって言ってくれるようになったんだ。お前のせいで焼きそばに関する舌が異様に良かったからやっと言わせられたって感じだよ」

「つっきー...やっぱり来てたんだね」

 

後ろを振り向くと、花束と愛用しているサンチョの顔をした袋を持った園子がいた。

 

「せっかく話聞いたし、俺も来たかったからな」

「私もここへ直接来るのは初めてなんだ...久しぶり、ミノさん。やっとここへ来られたよ」

 

園子と銀の二人にさせてあげようと立ち上がると、服の裾を掴まれた。

 

「園子?」

「つっきー...一緒にいてほしいな」

「...わかったよ」

 

再びしゃがみ、園子と一緒に銀の墓を眺める。

 

「あのねミノさん。私勇者部に入ったよ。讃州の...って、いたからわかるよね。皆とっても面白くて私達のチームにも負けないくらいだよ」

 

それから、園子は袋からなにかを取り出した。

 

「まさか作ったものまで一緒とは思わなくてさ...ミノさんお腹いっぱいになっちゃうね」

 

パックでおかれたのは、焼きそば。

 

「ミノさんの焼き方思い出して、自分で作ったんだ。これがミノさんのぶん。美味しかったら褒めてね..そして、これが私のぶん。これがつっきーのぶん」

「俺のもあるのか?」

「ここにいると思ったからね」

「...ありがと」

「ううん...でも」

 

三つ取り出した園子は、もう一つ容器を取り出す。

 

「つっきーのやつは多目にしたのに、なんで四つも作っちゃったんだろうね。私」

「園子が食べればいいんじゃないか?」

「そんなに食べないよ~...」

「?」

 

園子の顔が徐々に暗くなり、口元が開いていく。

 

「ぁ...ねぇつっきー」

「どうした?」

「二年前、私達勇者は何人?」

「そんなの三人だろ?」

 

三ノ輪銀、乃木園子、そして__________

 

「...!!」

「落ちてる...記憶が抜けている?」

「は、なんで、どういうことだよ...!?」

 

今あいつは勇者部にもいない。何かがおかしい。

 

『きっと、そっちも話たいことができるだろうから』

 

「!!!」

 

前に、聞き逃した筈の言葉。思考を焼ききるように出てくるのは__________

 

「...だ」

「え?」

「園子、大赦に向かってくれ。絶対知ってる」

「それって...大赦に捕らえられてるってこと!?」

「...わからない。でも何か分かるはずだ。頼む。俺は部室に全員集めるから!!」

「わかった!」

 

『来週もこの時間にはいます』

 

(もしこれが言葉通りなら、俺が大赦へ向かうとは考えられていない。つまり、大赦に殴り込む必要はない...他に、いなくなって、記憶を消す必要がある場所は...!)

 

 

 

 

 

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「椿、説明して」

 

部室に大至急集合ということで何事かと集まった私達は、集めたまま黙っている椿さんに戸惑っていた。気になるお姉ちゃんが促す。

 

「......うん。わかった。これは予想、園子が到着しないと分からないが...」

「どういうこと?」

「...今の記憶は嘘だといって、思うことはないか?」

 

椿さんの言葉に、すぐ友奈さんが反応、おまけに泣いてしまった。

 

「友奈!?」

「私...私、絶対忘れないって言ったのに!!」

「友奈!椿、どういうことよ!?」

「勇者部は六人じゃない。七人。もう一人の存在を俺達はなかったことにしている」

「っ!!」

 

思い出した。勇者部にはもう一人、大切な先輩がいた__________

 

「あいつは...あいつの名前は」

「東郷さん!忘れたりしちゃいけないのに...」

「東郷美森、彼女はここに、確かにいた!」

「!!!」

 

お姉ちゃんも顔が白くなった。

 

「あー。そういえば東郷どこよ......!!!」

「東郷、美森...え、なにこれ、どういうことよ」

 

夏凜さんもお姉ちゃんも止まらない。私も嗚咽を漏らしてしてしまった。

 

「うぅ...東郷先輩の記憶が...」

「椿!あんたなにか知らないの!?」

「詳しくはわからない...でも、全員を部室に呼ぶ前に調べたら、写真から消えてるわ学校に在籍してないわで、元からいない存在になってたよ」

「そんなのたちの悪い虐めじゃない...」

 

お姉ちゃんの言うことも最もだ。

 

「......こっから先、もし俺の予想があってるなら...東郷は壁の外にいる」

「は?なにいって」

「つっきーの言ってること、多分正解だよ」

「園ちゃん!」

 

扉を開けて入ってきた園子先輩は、アタッシュケースを机に置いた。

 

「大赦に行ってみたんだ。私」

「大赦に!?まさかまた大赦が!!」

「ううん、今回は違うみたい。大赦自身は何もしていない。そしてこれを見て」

 

アタッシュケースの中身は、私達がよく使っていたスマホ。

 

もちろん、ただのスマホなんかじゃない。

 

「勇者システム...」

「ぷんぷん怒って出してって言ったら出してくれたよ」

「ぷんぷんってなぁ...」

「もう持ってるつっきーにもまたぷんぷんしてもいいんだよ?」

「...やめてください」

 

スマホを見る先輩に、園子先輩はアタッシュケースの中の一つを指差した。

 

「ここは、わっしーの端末が入っていた場所なの。でも、私の端末のデータにわっしーの反応はない。多分わっしーは、びっくりするところにいるんじゃないかな」

「びっくりするところって...やっぱり」

「俺のにも反応はなかった。恐らくあいつは...壁の外だ」

『!』

 

壁の外。今も炎とバーテックスで覆われている神樹様の結界外。

 

「だから、勇者になって行ってみようと思って」

「なるほどな」

「つっきーあれから返してなかったんだね...」

「もうやってないよ。あんだけ怒られるのはこりごりだ」

 

既にスマホを握る二人は、互いに顔を見合わせた。

 

「...乃木、椿、あんたたちは、もう勇者の力に代償がないから、使うのよね?」

「じゃなきゃあんなことはしてない」

「私達はひどい目にあったけど、勇者が体を差し出して戦わなければ世界は終わっていた。大赦はやり方が間違っていただけで誰も悪くないと思うな」

「じゃあ私も!」

「待って友奈」

「風先輩?」

「私はもう部長として、おいそれと皆を変身させたくないの。勢いで、なんてのは絶対やめて」

「風...」

 

お姉ちゃんは、一度皆を巻き込んでしまったことを気にしている。もうあんなことはないようにと_______

 

「大赦は勇者システムについて、もう一切隠し事しないって言ってくれた。それを直接聞いて、信じようと思ったの。前とは違う。ちゃんと納得してやるから。私は行くよ」

「...勝手にやってた手前、あんま言えないけどさ。風だけに責任を負わせるような戦いは絶対しないと誓う。俺は俺の意思で、東郷を探すためにもう一度これを使うよ」

「乃木...椿...」

「...風先輩。私ちゃんと考えました。園ちゃんや椿先輩のことは信じられる。だから行きます!」

 

スマホを取る友奈さん。

 

「ま、勇者部部員は同じ部員が探さないとね!」

 

続いてとる夏凜さん。私も答えは決まっている。

 

「...お姉ちゃん。私も行くよ」

 

お姉ちゃんをじっと見つめると、「あー!」と声をあげた。

 

「部長をおいていくんじゃないわよ!」

「風...」

「あたしだって東郷が心配。大赦は信じられないけど...みんなは信じてるから」

「...あぁ」

「樹、サプリキメときなさい!」

「今回はキメて行きます!」

「夏凜、俺にもくれよ」

 

夏凜さんからサプリを貰ったり、勇者アプリの確認をしたり。

 

「よぉーし!じゃあ行こう!!」

 

友奈さんの号令で、私達は壁へ向けて動き始めた。

 


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