古雪椿は勇者である   作:メレク

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四十五話 混沌の

「怪人め!貴様と戦うならば相応しい場所へ連れていってやる!ついてこい!!」

 

観客が驚きの声をあげるのを気にせずレイルクスの翼を広げ、空を飛ぶ。相変わらず銀の見た目をした黒いバーテックスはその後をおってきた。

 

目指す先は、誰も入らないような森。

 

 

 

 

 

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今朝、取り貯めしていた夏凜写真50枚と秘蔵の体操服装備(これを確保した時はバレかけた。死を覚悟した)を渡し、装束を受け取った。

 

『あまりの物を時間の許す限り改良しました』

 

35とかかれた防人用の戦衣は、既にレイルクスも装備済みだという。最もあのバーテックスに対抗出来そうなのは改造された刀だけだろうが。

 

「用意してから言うのもあれですが、戦衣もそれなりに適性を必要とします。なれるかどうかは...」

「なら、大丈夫だな」

「...よかったですね」

 

目の前で変身は成功。あとは実践だけだ。

 

そして放課後。

 

「じゃあ出発!」

「よかったんでしょうか...」

「俺も少し微妙だ」

 

俺は東郷と園子と一緒に校門を出る。

 

(死んだと思われる)昔の友達に(壁の外まで)会いに行って(戦って)くる。嘘は決してついてないが、大事なことは何一つ言ってない。

 

(許せ...)

 

 

 

 

 

学校から浜辺まで歩いていると、それは現れた。

 

「え?」

「「......?」」

 

シルエットのような黒いもや、そこから見える鋭利な武器、そして姿。

 

俺達が戦おうとしていた黒いバーテックスが、壁の外ではなく日常世界に現れた。

 

「は」

 

目と目が合った気がして、

 

「っ!!!」

 

叩きつけられた武器を、辛うじて刀で弾いた。

 

(呼び出せる武器じゃなければ死んでたー!)

 

「え、なにが」

「わっしー早く!!」

 

園子がすぐさま勇者になって槍を刺すが、すんでのところで回避される。その動きは軽やかで、より人に近くなったと言うべきか。

 

武器の先は、変わらず俺を向いていた。

 

(狙いは...俺か?)

 

起こる事態に思考を止めないよう必死に動かす。

 

(ひとまずこんな場所で戦うのは不味い)

 

既に何人かギャラリーがいる。襲われている現状、ここで戦って余波を出すわけにはいかない。

 

「東郷、園子、ここらで一番人目がないのは?」

「あっちの森だね」

「じゃあそこまで先回りしてくれ、俺がこいつを連れていく」

「そんなこと!」

「今狙いは俺だ。ここで戦うわけにいかない。うまくやるさ」

 

園子、東郷が渋々といった感じで離れていく。

 

(俺なら、顔も知られないしな)

 

なぜかこの戦衣には目を覆うバイザーがついている。大っぴらになにかしてもバレることはないだろう。

 

「ふぅー...変身!!」

 

ギャラリーに目立つように、制服姿から若草色の装束に変えていく。

 

(風の脚本、園子の小説を間近で見てきた俺のアドリブ舐めんなよ!!)

 

「ここであったが百年目だな!怪人め!貴様と戦うならば相応しい場所へ連れていってやる!ついてこい!!」

 

 

 

 

 

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「それはないなー」

「言うな!」

 

地上から飛ばしてきた武器を大剣で弾きながら、園子と東郷が待つポイントまで飛んでいく。狙いは俺なのか神樹様なのかわからないが好都合だ。

 

電話で否定されるも、即興ヒーローショーは見ていた子供にはうけた。

 

(でも...)

 

もう一つ投げられた武器を弾いて見る。誰がどうみても、俺も以前使っていた銀の斧だった。

 

「くっ...」

 

この前のように迷うことなく攻撃してくる辺り、やはり敵なのか_______

 

(でも、まだ希望はある)

 

唯一の救いは、この状況。普通の世界に、バーテックスは現れない。侵入してきた時点で樹海化が起こるはずだから。

 

(つまり、神樹様的にこいつはバーテックスじゃない!)

 

「俺の声が聞こえるならこっちへ来い!銀!!」

 

森まで到達してから急降下、ここなら誰にもバレずに戦える。

 

見えにくいバイザーを取って刀と銃を構えた。

 

「つっきー下がって!!勇者じゃなきゃ」

「園子は援護頼む。俺がこの装備で横やりを入れた方が迷惑だからな。東郷は狙撃を」

「でも!!」

 

確かに戦衣は勇者システムと歴然とした差があり、レイルクスを装備していたところでバーテックスとは絶対的劣勢になる。大赦にいた園子はそれを知ってるんだろう。

 

でも、俺は一人じゃない。

 

「二人に命預けてた方が、俺も心おきなく戦えるからさ」

「......」

「つっきー...」

「頼む!」

「...援護します」

「......全部終わったらお説教だからね」

「ごめんな、わがままな先輩で」

 

黒いバーテックス______囚われた銀に、刀を向ける。

 

 

 

 

 

「決着をつけよう。銀を返して貰うぞ」

 

バーテックスは叫ぶことなく二本の斧を乱舞する。一撃で俺を消しとばす力があるが、戦衣、レイルクス、特訓で銀と共に振るい続けた刀(木刀)、全てを使えばいなすことが出来る。

 

「なぁ...銀、そこにいるんだろ」

 

銃で牽制するも怯むことなく立ち向かってくるので、さっさと捨てた。

 

「お前言ったよな。勇者は気合いと根性と魂だって」

 

両手で刀を構えて受け止めると、真ん中から叩き折られた。そのまま下ろされた斧は隣から飛んできた槍に弾かれる。

 

「だったらさ。魂見せろよ!!三ノ輪銀!!!」

 

距離を取った銀へ弾丸が飛んでいく。辛うじて回避したところへ俺が二本の剣を降り下ろした。

 

「東郷と園子と一緒に戦った勇者が!世界を救った英雄が!俺の幼なじみが!!」

 

一撃で剣も半ばから亀裂が走る。

 

「神ごときに縛られてんじゃねぇぞ!!!」

 

言葉が届いているのか分からない。だけど、東郷の射撃、園子の援護、俺の突貫は相手に反撃の隙を与えなくなった。

 

だが、二年前ならここは__________

 

「お前の居場所は皆の隣(ここ)だろ!!早く戻れ!!負けるな銀!!!」

 

その声が届いたのか__________一瞬、動きが止まった。

 

そんな隙を逃す筈がない。

 

「銀、また一緒にいて」

「ミノさん、つっきーの言う通りだよ」

 

言われなくても体をしゃがませれば、その頭上を園子が通り斧の一本をはね飛ばし、衝撃で崩れた体勢の中もう一本も銃弾が吹き飛ばす。

 

きっと、この正体は彼女なんだ。誰がどれだけ否定しても、俺は、俺達は肯定する。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

だから俺は、折れた刀を左手に顕現させそのまま突き刺した。

 

「......」

 

 

 

 

 

________逆手に持った刀、その持ち手が深々とめり込んでいた。

 

「はぁ...はぁ...」

 

黒い霧が薄まり、その全貌がはっきり見えてくる。

 

「...」

 

容姿は、銀が中学生になったらこんなになるだろうな。といった感じ。髪は伸ばされ、瞳を閉じて、大人びた印象。

 

「銀...」

「銀!」

「ミノさん!」

「しっかりしろ!目を開けてくれ!」

 

東郷と園子も寄ってくる。黒いもやは消えたが、彼女が三ノ輪銀としているか、その『魂』が残っているか__________

 

 

 

 

 

「...ただいま」

「「「!!!」」」

 

ぽつりと呟かれた、今にも消えそうな声。

 

俺達が望んだ声。

 

「っ...おかえり、銀」

 

俺は涙をこらえて答えた。

 

「...つっきー見ちゃダメ!!!」

「べぶっ!?」

 

 

 

 

 

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「あれ...知ってる病院だ」

 

つっきーとミノさんを病院へ運んで数分、つっきーが目を覚ました。

 

「つっきー大丈夫?」

「園子...あれ?俺森で...というか銀は!?」

「古雪先輩落ち着いてください。銀なら隣で寝てます」

 

わっしーが手を向けた先に、ミノさんも寝ていた。寝顔が凄く愛らしくて、大きくなって大人びてもいる。

 

「...よかったー。というかなんで俺寝てた......腹から血でも流れてた?」

「あー...」

「疲れてたんだよ!私が揉んであげる!」

 

つっきーの肩をほぐしながら、少しだけ反省した。

 

(だって...)

 

黒いもやから解放されたミノさんは裸だったから。興奮してたつっきーは顔だけしか見てなくて抱き抱えてたけど、落ち着いて全身を見させるわけにはいかない。

 

「園子うまいなー...」

「えへへ。そうでしょ?」

 

今ミノさんには服を着せてるし問題ない。

 

「...銀はまだ寝てるのか」

「呼吸は安定しているそうなので、目が覚めるのを待つしか...」

「そっか」

「バーテックスミノさんだからね~」

 

バーテックスから出来た存在。神の使いなんてよくわからないけど、この子は私達の知るミノさん。

 

そう、ミノさんだから。理由なんてなくても、この言葉が一番安心できる。

 

「名前聞くとすげぇなそれ...もういいよ園子、ありがとう」

「まだまだだよ~」

「はいはい...」

「そのっちったら...」

「とにもかくにも全部終わってよかった」

「あら、メール?」

 

わっしーが携帯を開いて、目を丸くした。

 

「古雪先輩!そのっち!風先輩が!!」

 

 

 

 

 

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「みんな!!!」

「友奈...」

 

震える足で急いで病院に駆けつけると、私以外のみんなが待っていた。

 

「風先輩は...?」

 

風先輩が車に跳ねられたと樹ちゃんから連絡があって、来てみたらここだった。目の前の部屋は、緊急治療中__________

 

「っ!!」

「一応、即死ではないらしい...今どうなってるかはまるでわからない」

 

椿先輩がそう言ってくれるけど、全員の顔は暗かった。

 

(まさか...そんな...)

 

無意識に左胸辺りを掴んだ。

 

(私が、風先輩にこれを話そうとしたから...?)

 

待ちはじめてから二時間近く、午後九時になろうという時になって、やっと治療中のランプが消えた。

 

「いやー参った参った。みんなわざわざ来てくれてありがとね」

 

出てきた風先輩は、いつも通り明るかった。至るところに包帯を巻かれているだけで。

 

「風...」

「なんて顔してるのよ椿、上級生なんだからしっかりしなさい」

「あの、命には...」

「全く関係ないって。大袈裟ねぇ」

「大袈裟なわけねぇだろバカ!!!」

「...ごめん」

「はぁー...でも、受験生は大変ね」

「ごめんなさい今それは言わないで!受けるから!試験は絶対受けるから!!」

 

その後、入院の手続きで樹ちゃんが呼ばれたり、園ちゃんと東郷さんがα波を出したりしてたけど、素直に喜べなかった。

 

そして、帰り道。

 

「道路交通法違反、許せない」

「日常生活での精霊バリアはアップデートで消えたのかね...」

「命に別状がなくて、本当よかったわ」

「もしもまた皆の身になにかあれば私、きっと正気じゃいられない」

「東郷...もうブラックホールはなしだからね」

「くっ...!」

 

皆と話ながら帰って、一人一人道が別れて。

 

「おやすみ友奈ちゃん」

「おやすみ東郷さん」

 

隣の家の東郷さんと別れてから、ノートを開いた。すらすらと絵を描く。

 

(私が話そうとしたら、皆に不幸なことが起きた。改めて話そうとした風先輩には事故。天の力は現実に影響を出せる存在...)

広がる呪いのように、天の神は私を苦しめる。

 

(バランスをとるため、なにかするとどこかに影響が出る)

 

「私に起きていることは言っちゃダメなことなんだ...ルールを破ると皆が不幸になる」

 

戦いはもう終わった。椿先輩が言っていた黒いバーテックスもいるけれど、もう皆苦しまなくていいはず。

 

(私が黙っていればいつも通りの日常が続く。勇者部の楽しい毎日が続く。誰も絶対に巻き込んじゃいけない...!)

 

皆のためなら、嘘だってつける。なんだってできる。

 

(私が黙っていれば、それでいいんだ)

 

私は何か言おうとしている心に蓋をして、顔をあげた。

 

「大丈夫。私は出来る!」

 

 

 

 

 

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「...やっぱり、ちょっとおかしかったな」

 

部屋で一人ごちる。左手のミサンガをいじりながら、さっきの友奈の顔を思い出した。

 

(どこか違うというか...上手く言葉にはできないけど)

 

黒いバーテックス_______銀との一件はある程度収まったが、銀はあれきり昏睡状態だし、風の入院、友奈の様子、気にすることはたくさんある。

 

「...俺にできることは。なにか...」

 

皆が笑って過ごせる為に。

 




書きたいこと書いてたら予定よりさらに短期決着になってしまった...ともかく銀再登場おめでとう!(起きてるとは言ってない)

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