特に感想。励まされるし勉強になるしでありがたいです。まだ続いていく勇者の章。是非よろしくお願いします!
この作品で原作ファンが一人でも新しく好きに(もしくはより好きに)なってくだされば...
下から本編です。
昨日、冷たい雪が降る中泣いて。
心を震えさせて帰ると大赦の人が来て、私の体について話してくれた。
それから、勇者の記録として日記をつけてほしい。と。
風先輩と樹ちゃんと椿先輩の声が聞こえた病室から逃げだして、へとへとになるまで走って。家に帰ればこんなことがあった。
幸せな空間を、勇者部みんなの楽しい出来事を潰したくない。気づかれちゃいけない。
_______でも、辛いよ。
『辛くなんてない!!私は勇者!!』
サンタさん、もし本当にいて、私のお願いを聞いてくれるなら______私のことで、皆が不幸にならないようにしてください。お願いします。
「友奈、そう言えば椿君が昨日来てたわよ」
「え?」
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なんてことなくクリスマスは終わり、ムードは一気にお正月となってきた。
鉄夫には新しいおもちゃが、金太郎には自転車が届いたらしい。俺は親から現金を貰った。
「最近彼女が出来たらしいな?」
全く出来てないけど。彼女達が夜中に来た時のことを言っているのだろうか。俺が低すぎて釣り合わないわ。
「これで良いプレゼントでも買ってあげなさい」
現金あざっす!!
とまぁこんなやりとりがあって、臨時収入を財布にしまって出かけている。やっと学校も冬休みに入ったので子供が多い。
巻いたマフラーは気休め程度でしかないが、ないよりはましだろう。
(といっても買うものは特に決まってないんだが)
取り敢えず風と結城家への土産物だけ買ってまずは病院へ。銀の元へ行ってから風に買った饅頭を渡す。
「趣味がおじいちゃん見たいね」
「じゃあやらん」
「ごめんなさい」
軽くやりとりして、余裕ぶってても油断できないから勉強しときなさいと怒られ、俺は結城家を目指した。
昨日拾った栞が友奈の物なら、本人は病院へ来てたのに病室に来なかったということになる。
おまけに、夜遅くになっても家にいなかった。
(...絶対何かあるだろ)
確信めいた疑問を持ちながら、積もった雪を蹴散らしてあっという間に結城家。
「連日すいません」
「今日も来てくれたの?でもごめんなさい...友奈、風邪引いちゃって」
「え...大丈夫なんですか?」
「軽い熱だから平気よ。あ、でもこれ皆に言わないでって言われてた...忘れて頂戴」
「...ここまで来たんです。お土産は渡させてください」
「あぁごめんなさい。寒いでしょう?」
今日は入れてくれた。一気に暖房の熱を食らってコートの前を開ける。
「これお菓子です」
「ありがとう。友奈は今寝てるから、今ならバレずにお見舞いできるけど、入る?」
「いいんですか?」
年頃の娘の部屋に勝手に入れていいのだろうか。
「椿君の話はよく聞くから信用してるわ。『頼りになる先輩なんだ』って」
「はは...ありがとうございます」
「......それに、昨日の話が本当なら、なるべく皆と会いたいでしょうしね」
「?」
よく分からなかったが、お言葉に甘えることにする。
「......」
友奈の部屋はよく整理されていて、少し甘い匂いがした。
(...気持ち良さそうに寝てるな)
なんとなく落ち着かなくて辺りを見てると、机に二つの冊子が置かれているのが目についた。
一冊はなんてことない普通のノート。二冊目は__________
「...なんだよ。これ」
自然と声が出ていた。青い表紙に書かれていたのは『勇者御記』。
(ぎょきって読むのか?これ)
無意識に手に取り、パラパラめくっていく。文字が書かれていたのは最初の方だけだった。
『クリスマスの今日。大赦の人が私の変化に気づいてやってきた』
俺は夢中で次の文を読み始めた。
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神託や研究で知ったので、神聖な記録として日記をつけてほしいらしい。
自分は以前、大きな戦いで相当な無理をした。御霊に触れたことで体中のほとんどを散華、魂が御霊に吸い込まれた。
気づくと、ブラックホールになった東郷さんを助けた時に行った場所にいた。どこまでもどこまでも広がる暗い世界。諦めかけた時、東郷さんの、皆の声が聞こえて、自分を奮い立たせた。
『勇者は気合いと根性!』
椿先輩も言っていた言葉を胸に帰ろうとすると、一羽の青いカラスが飛んできた。
飛んできたカラスは私の手に止まり、また羽ばたいていく。ついてこいと言っている気がして進み続けると、光が見えて現実に、皆の元に戻ってくることができた。
でも、体は違っていた。
散華から返ってきた体の機能は神樹様が作ったものらしい。
強引な満開をして散華してしまった私なんかは全身神樹様が作り上げたパーツになってしまったわけで、慣れるのに時間がかかった。
大赦では私のことを『御姿(みすかた)』と呼んでいるらしい。
よく言えばとても神聖なので神様に好かれる存在。
だから私は友達を助けたいという望みを叶えることが出来た。私が代わりになることで、世界のバランスを保ったのだ。
あれから大赦は私のことを調べてくれた。
わかったことは、壁の外、炎の世界がある限りこの体が治らないこと。
そして、来年の春まで持たないだろう。ということだった。
でも、誰かに話すわけにはいかない。私が話せば皆が不幸になる。風先輩は事故にあってしまった。
頑張ろう。私。
今日はここまで。明日なにかあれば書こうかな。
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「......っ」
震える手を抑える。誰にも教えようとしない友奈に気づかれるわけにはいかない。もし気づかれたら彼女が罪悪感を感じてしまう。
(おちつけ...)
置いてあった隣のノートも覗くと、言った場合どうなるか、どういった影響があったかが絵を交えて書かれていた。
『詳しく話そうとする→絶対ダメ!!』
目に止まった一文を最後に、二つの冊子を閉じた。
(......こんなことが)
ただ世界を救い、友達を助けようとしただけの友奈が、なぜ後三ヶ月しか生きられないのか。
しかも、誰にも悩みを打ち明けられない。友奈の性格からして、絶対にこれを隠し通そうとする。
「ふざけるなよ...」
やり場のない憤りを感じながら、俺は壁を殴りたくなった。
「...う、ん」
「!!!」
友奈の声に慌ててしまったが、声をこれ以上出すことはなかった。
(ひとまず撤退......)
「や、だぁ...」
苦しそうに呻き、胸元を掴む友奈。丁度ノートに書かれていた赤い丸と同じ箇所。
「......」
自然と、手を伸ばしていた。友奈の手は凄く熱い。それを両手で優しく握る。
「大丈夫だ。友奈。大丈夫だから...」
それしか言えることがなくて悔しさが込み上げるが、友奈の顔が少し落ち着いたので俺も安心した。
「......椿先輩?」
「あ」
起きた友奈と目が合う。
(ヤバいヤバい...)
友奈にいらない不安を抱かせたくない。どうしようか必死に考えていると友奈の方から口を開いた。
「...夢?」
「......あぁそうだ。これは夢だ」
まだボケてる友奈に最大限乗っかる。このまま押し通せばいける。
(普段俺がしないようなことを全力でやれ...夢だと思い込ませろ!!!)
「お前の作り出した俺だよ。だから安心して全部話すといい」
ひとまず嘘をついてる顔だとバレないよう抱き締め、頭を撫でた。
(少しでも、安心できるなら...)
友奈は人の顔色とかに機敏なので、それは全力で避けなければならない。
「ふぁー...」
(あれ、なんか俺とんでもないことしてないか?ヤバくね?あれ?)
思うことはあってももう止められない。動揺を悟られないよう甘い声に耐えながら撫で続けた。
「先輩の音が聞こえる...嬉しいな。夢にまで出てきてくれるなんて」
「友奈...」
「先輩、見てください」
友奈が胸元を見せてくる。鎖骨辺りに見えたのは________焼き印の様に赤黒く刻まれた紋様。
「っ!!!」
「東郷さんを助けた時...っ!!」
「どうした友奈!?」
「い、いえ...私が話そうとすると、先輩にも紋様が見えるんです。夢の中なのに話せないなんて...」
「っ...」
紋様が見えた相手には不幸なことが起こる。といったことだろう。
「大丈夫。友奈、全部話ちゃえ。俺は大丈夫だから...苦しい気持ち、今くらい吐き出しちゃえ。な?」
「先輩...東郷さんを助けた時からこれが出来たんです。私は神様の生け贄...せっかく、皆揃って楽しくなれるのに...こんなの」
「皆に相談、できないんだもんな」
「したら皆が大変なことになるんですよ!!出来るわけがない!!」
「あぁ...」
「私はただ、皆と一緒に楽しく日常を過ごしたいだけなのに...どうして、うぁぁぁん!!」
涙を流す友奈。俺は背中をさすってあげることしか出来なかった。
「うぅ...ひっく...」
「落ち着いたか?」
「助けて...」
「!!」
「んにゅ...椿先輩...好きぃ......」
泣きつかれて寝てしまったらしい。とりあえずしっかりベッドに戻して、布団をかけた。
(涙で濡れてる...)
服に染み込んだ涙の跡に触れる。
(助けるさ。全力で)
友奈の悲しい泣き顔なんか、もう見たくない。彼女の為に何かしてあげたい。
三度別れた銀も、取り戻せた。諦めなければなんだってできるとは思わないけど、せめて、俺の手が届く範囲ならどこまでだって手を伸ばしたい。
「...もしもし。直接会って話したいことがあります」
簡素な電話を入れて部屋を出た。
(友奈...待っててくれ)
友奈の寝顔を確認して、そっと扉を閉めた。