古雪椿は勇者である   作:メレク

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五十話 謝りたりない

「いやー、シャバの空気が美味しいわー!」

「動けなかったって意味は同じだけど、病院に失礼すぎだろ...」

 

やっと退院できた風も入れて七人で初詣にやってきた。冬休みももうすぐ終了の時期ということで人はまばらだが、人混みはそこまで得意じゃないのでありがたい。

 

「椿、痩せた?」

「...受験生なんだから、そんなもんだろ」

 

コートに隠れる傷も、昨日強化された戦衣をつけていたお陰でほとんどがかさぶたになった。頭痛も消え、クリアなコンディションが整っている。あとは血が足りないくらいか。

 

(園子や東郷なんかに余計な心配させなくてよかった...)

 

「でも、年越して新年を迎えてしまったわ」

「なによ、いいことじゃない?」

「良い女が年を一つとるのよ?三月で卒業だし」

「もう一年いてくださってもいいですよ」

「それは勘弁...」

「風、これから俺には先輩をつけるんだぞ」

「勘弁してほんとに!」

 

俺達はみんな笑っている。これからどうであれ俺達の日常が続くと思っているから。

 

(でも...)

 

苦しそうに笑っている後輩が、一人。

 

「ねぇ!あっまざけ、飲みたいなっ♪」

「っ!」

「おっ、いいわね。一杯ひっかけていきますか!」

 

園子の歌うような言葉に一瞬動揺した。揺れる仕草から口元が見えると、どうしても年末の口づけが脳裏にちらつく。

 

「つっきーどうしたの?」

「い、いや、なんでもない」

 

(落ち着け...落ち着け俺)

 

「...もう、元気にはなったみたいだね。体はまだみたいだけど」

「お見通しか.......心配かけたな」

「ううん、いいんよ。でもちゅーできないのは残念かも」

「勘弁してくれ...もう励まされなくても大丈夫だから」

「そういう意味のじゃないんだけどな~...拒まれないだけいいか」

「?」

「なんでもないよ~...ミノさんも早く起きて、一緒にいられるといいね」

「...そうだな」

 

ぼそぼそ話してる間に、まだ甘酒配りをしていた巫女さんから全員に渡る。

 

「ぷはぁー!」

「おっさんか...というか、ノンアルコールなのに場酔いしてない?」

「あはは!!よってにゃいー!!」

 

答える樹はどう考えても酔っていた。「ワタシノセイシュンー!」と隣で泣き上戸になっている風をびしばし叩きまくっている。

 

(犬吠埼家に酒は飲ませられんな...)

 

「友奈、飲まないの?」

「え、あ、うん...ちょっと熱くて」

「大変だ!わっしー!」

「えぇ!」

「「ふぅー、ふぅー」」

「あはは...ありがとう」

「友奈、自分のペースでゆっくり飲みな。あいつらみたいにならないように」

 

背中を擦ってやると、「あ、ありがとうございます...」と既に冷えていた甘酒をちびちび飲んでいった。

 

「友奈...」

「わふー!」

「おおっと...どうした樹?」

「つばしさぁーん!!」

「誰だそれ...樹ちゃんは甘えん坊さんだなー?」

 

腰にしがみついてきた樹に、三ノ輪家の弟達の同じように頭を撫でてやる。

 

「椿しゃんの撫で撫で好きですぅ...」

「はいはい」

「椿!あたしも撫でなさい!!じゃなきゃ泣くんだからぁ!!」

「お前既に泣いてるだろ...」

「おおっ、ふーみん先輩もいっつんも大胆~私も!」

「園子お前酔ってないだろ!」

「酔ってないでひゅよー」

「っっ!」

 

腰にしがみつく犬吠埼姉妹、後ろから抱きついてきて耳に息をかけてくる園子。

 

「ほら、ゆーゆも」

「え、でも...」

「......今さら一人増えたところで変わらないから、やりたきゃやれ」

「...えいっ!」

 

(ほんとにやるんか)

 

体に伝わってくる暖かさと柔らかさが増してくる。

 

(なし崩しとはいえ、友奈だけやらないのもな...ただやる必要はないと思うんだが)

 

異様に感じる右腕の熱さ、ふにっとした感じ、後ろからの密着具合の増加。

 

「煩悩退散煩悩退散...」

「友奈ちゃん...」

「椿はマスコットかなにかね...」

「夏凜ちゃんはいいの?」

「や、やらないわよ!」

「とうごうパイセン写真とりやしょー!!」

 

俺のスマホフォルダは、また一つ増えた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「風先輩、自然体で大丈夫ですよ」

「最近熱心にカメラ回してるわね?」

「もうすぐ先輩方が卒業するので、揃っての活動記録は珍しいと思いまして」

 

新学期が始まってから、東郷さんはよくビデオを撮っていた。

 

「でもあたし、卒業してもここに入り浸ると思うわよ?」

「迷惑な先輩だな」

「なんですって!?」

「そうなる予想はついてたけどね」

「あら、なぁに?嬉しそうじゃない夏凜」

「え...」

「え、なにその反応」

 

風先輩の言葉に顔を赤くしながらそむける夏凜ちゃん。

 

「二人を見てると創作意欲が湧いてくるよ。ねぇサンチョ?」

「シィー。ムーチョ」

「え、それ喋るの!?」

「めっちゃ良い声だなおい」

「ふーみん先輩とにぼっしーで想像捗っちゃったから、帰って二人の本書くね~」

「園ちゃん、また明日」

「「待ちなさーい!!!」」

 

また明日って言えることが、本当に嬉しい。

 

(楽しいなぁ...)

 

「...そ、そういえば!卒業旅行どこ行こうかしら!大赦のお金で温泉でも行っちゃう?」

「お、温泉は前も行ったので、

違う場所なんてどうでしょう?」

「その前に風、俺達は戦争があるだろ」

「止めて。今くらい言わないで!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

猫を探した今年初めの勇者部活動の時は、凄く元気だった。

 

カラオケに行った時は、会話も続けられないくらい衰弱していたので送っていった。

 

「最近、椿先輩優しいですよね...」

「気のせいだろ。ほい到着、またな」

「はい!」

 

そして、春信さんと会って。

 

「...なに飲んでるんですか?」

「鉄分たっぷり!みかんジュースです」

「...美味しい?」

「わりと」

「......まぁいいや。それで、園子様がこちらに来ることが増えまして...」

「俺が話さなくてもいくだろなそりゃ...一番そこが怪しいからな」

「明日、結果が出せそうです」

「俺ら同士で話し合っても大丈夫だから、ほぼほぼ決定してるもんだけど...それより、対処の方法、こんなのどうですか?」

 

例え真実を告げられなくても、寄り添うことしかできなくても。

 

「友奈を支えてあげたい」

 

心に留まるその一心で友奈を支える。助かる可能性がほんの一欠片でもあればそれにかける。

 

そして。

 

「全員、話がある」

 

友奈を除いた勇者部に、招集をかけた。

 

見上げた空は暗かったが、月明かりが輝いていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「友奈、ちょっといいかしら?」

「?夏凜ちゃん!」

 

夕焼けを見ていた時、夏凜ちゃんがにぼしをくれながら話かけてきた。にぼしを咥えながら流暢に話していて凄いと思う。

 

私達はそのまま海の近くまで来た。肌寒いけど、体はじんじんと熱いまま。

 

「友奈、あのね」

「その前に...夏凜ちゃん、寒くないのー?」

「あぁごめん!気づかなかった...場所変えようか?」

「んーん。こうすれば暖かいよ」

「っ!」

 

船を岸にロープで繋ぐやつ(何て言うんだろう?)に座って、夏凜ちゃんに体を預ける。

 

(安心できるな...落ち着けるな...)

 

椿先輩に抱きついた時も感じた安心感。私はこれだけで安心できる。

 

「......友奈、あんた年末辺りからおかしいわよ。絶対なにかあるでしょ。私が力になる。話を聞かせてくれない?」

 

安心していた感情は、凍りついた。

 

嬉しさと悲しさで泣きそうになりながら私はそれでも笑顔を作る。

 

「なんともないよ」

「どんな悩みでも、私は受け止めるから!!友奈のことなんだから!!!」

「夏凜ちゃん...」

「力になる!友奈のためならなんだってしてあげたい!!そう思える友達を持てることが嬉しいの...お願い友奈。話して?」

 

(あはは...)

話したくなっちゃう。どんなことでも、こんなに言ってくれる大好きな夏凜ちゃんに_______できれば、皆にも。

 

(でも...)

 

「なんでもないよ」

「っ!!」

 

私は、その優しさを拒絶した。

 

絶対話すわけにはいかない。天の神の怒りを誰にも向けちゃいけない。夢の中で椿先輩に言って以来、誰にも言ってない。

 

「本当に、なんでもないんだ」

「......」

 

悲しい顔をする夏凜ちゃん。

 

(ごめんね...)

 

「悩んだら...悩んだら相談じゃなかったの!?」

「......」

 

勇者部五箇条の一つ。始めはバカにするようだった夏凜ちゃんも、今は真剣に受け止めてくれている言葉。

 

「私、友達の力になりたかった...!!!」

「あ...」

 

涙をこぼす。私が夏凜ちゃんを泣かせてしまった。

 

「待って!夏凜ちゃん!!」

 

走りだしちゃった夏凜ちゃんを追いかけようとしても、体に力が入らない。

 

(ごめんね...)

 

「夏凜ちゃん...!」

 

視界の先で、一生懸命走る夏凜ちゃん。夏凜ちゃん__________

 

「ごめんね...ごめんね......」

 

私は、うずくまることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「あれ...」

気づいたら、自分の部屋で寝ていた。起きても牛鬼しかいない。

 

(どうやって帰ってきたんだろう...)

 

暗い部屋が怖くて電気をつけて、でもベッドから出る元気もない。

 

「...あれ?」

 

なぜか手元に置いてあったのは、マフラー。でも私のじゃない。どこか見覚えがある気もする。

 

(...もういいや。日記だけ書いて寝ちゃおう)

 

ごめんね。夏凜ちゃん________

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