古雪椿は勇者である   作:メレク

57 / 336
五十二話 本当は

大赦の人が私の家に来た。

 

「あの...頭をあげてください」

 

来てすぐ土下座した仮面の人は、私の声でやっと顔をあげる。

 

「今日は何の御用でしょうか?」

「友奈様に急ぎお知らせしなければならないことがあります」

 

お知らせとは、神樹様の寿命について。私達を300年守ってきてくれた神樹様の寿命が、もう少しなんだとか。

 

枯れてしまえば外の炎が私達の世界まで届いて、消える。

 

人類を絶滅させないためには『神婚』と言われる、神様と結婚することが必要らしい。

 

「あの、これって勇者部全員で聞いた方が...」

「まずは、友奈様にだけお話を」

 

神様________神樹様に選ばれた人間が神婚することで、人は神様の一部となって助かるらしい。

 

ただ、選ばれた人間は死んでしまう。

 

そして、選ばれたのは神に好かれる『御姿』である私。

 

「私達大赦は人類を残すため、様々な方法を模索しました。そして、この選択肢のみが残ったのです」

「...私、友達を傷つけちゃって」

 

動揺した頭にぽうっと浮かぶのは夏凜ちゃんの涙。泣かせてしまった、友達にあんな顔をさせてしまった最低な私。

 

「皆を慈しむ心。友奈様は素晴らしい勇者であると私は思います」

「やめてください...」

 

女の大赦の人の言葉を否定する。友達を傷つける勇者なんて、勇者じゃないから。

 

「その友人を、人間を救うことができるのは友奈様だけです」

「...神婚したとして、その、人が神様の一部として生きるというのは......」

「言葉通りの意味です。我々を神に管理して頂く優しい世界...」

 

それは、私達の生活と呼べるのか。

 

「それって...ちゃんと人間なんですか?」

「確かに存在できます。信仰の高い者から神樹様の元へ。共に生きれば希望が持てます」

 

大赦の人は、また土下座した。

 

「どうか...この世の全ての人をお救いください。慈悲深い選択を......」

 

その日の夜は、考えが止まらないのとたたりが痛くなったので眠れなかった。牛鬼も心配してくれてるのか、いつもはなにか噛んでいるのに私のことをじっと見つめてくれている。

 

「たたりの次は結婚だって。びっくりしちゃうね」

 

勿論牛鬼は喋らない。体が痛くなって、まだ日も昇ってないのに外に飛び出してしまった。

 

「神婚して死ぬってどういうことだろう......たたりで死ぬより、楽なのかな」

 

もう、私の命はない。

 

「勇者なんだ。私は。勇者らしいことをしなくちゃ...」

 

迷ったり、怖がったりしてる暇なんてない。

 

「勇者部五箇条、なせば大抵なんとかなる」

どうせなくなる命なら、皆のために使おう。

 

息は絶え絶え。

 

でも怖くない。

 

汗は止まない。

 

でも怖くない。

 

涙はぽろぽろ。

 

でも怖くない。

 

死ぬ。

 

「怖くない!!!私、決めたよ!!!!」

 

 

 

 

 

「そんなの、どう考えてもおかしいでしょ!」

 

全てを皆に話して、最初に風先輩に言われたのは否定する言葉だった。

 

「そんなのおかしいと思います!」

「そうだよゆーゆ!」

「今の皆の反応で分かるでしょ。友奈ちゃんの考えが間違っていることが」

「樹ちゃん、園ちゃん、東郷さん...」

 

私の話を聞かないで、大赦に乗り込もうとする四人。

 

「待って!私は神婚を引き受けるって...」

「その必要はないわよ!生け贄と変わらないじゃない!!」

「死ぬんでしょ?友奈...」

「神樹様と共に生きるってなんなのかな」

「とても幸せなこととは思えないわ」

「でも!私が神婚しないと神樹様の寿命が来て世界がなくなっちゃうんだよ!!」

「いや寿命は分かるけど、だからって友奈が行く必要はないでしょ!!」

 

あるんだよ。私が選ばれたから(選ばれてしまったから)。

 

「風先輩...勇者部は人のためになることを勇んで行う部活なんですよね?これも勇者部の活動だと思うんです...」

 

皆が黙ってくれたので、私はもっと話す。

 

「誰も悪くない。世界を救うため他に選択肢がないのなら...それしかないのなら。私は、勇者だから...」

「ゆーゆ。それしかないって考えはやめよう?神樹様の寿命がなくなる前にもっと考えればきっと...」

「そ、そうよ!」

 

それじゃだめなんだ。もう時間がないから。

 

「ダメなんだよ...私にはっ!」

 

皆に刻印が見えて、思わず口を塞ぐ。

 

「友奈ちゃん。私達皆知ってるの。友奈ちゃんの体が天の神のたたりで弱っているのを」

「っ!!!」

 

東郷さんが言った言葉。つまり、もう皆に不幸な出来事をばらまいてしまったということ。

 

「嘘...」

「その件含めて解決してみせるから」

「大体おかしいです!友奈さん一人が何でこんな目にあわなきゃいけないんですか!?」

「で、でもね樹ちゃん。私は嫌なんだ。誰かが傷つくことが、辛い思いをすることが。今回は私一人が頑張れば...」

 

そう。私が頑張れば他に誰もしなくてすむ。だからやらなきゃならない。

 

「ダメよ!!友奈ちゃんが死んだらここにいる全員どれだけ傷ついて辛い思いをすると思っているの!!!」

「っ...」

「私、想像してみたけど...腹を切って後を追うわよ!」

「で、でも...東郷さんだって、皆を助けるために火の海に行ったでしょ?」

「そうよ!でもそれは壁を壊した私の自業自得なの!今回友奈ちゃんは何も悪くないじゃない!!反対よ!腹を切るわよ!」

 

そんなの、ずるいよ。

 

「私は...私は、東郷さんの代わりに...っ!」

「友奈ちゃん......」

「友奈さんが言うように、勇者は皆を幸せにするために頑張らなきゃならないと思うんです。そこには、友奈さん自身も入ってるんですよ」

「ゆ、勇者部五箇条、なるべく諦めない!私は皆が助かる可能性にかけてるんだよ!!」

「あんたが生きることを諦めてるじゃない!!!」

「勇者部五箇条!なせば大抵なんとかなる!!なさないとなんにもならない!!!」

「友奈!!五箇条をそんな風に使わない!!」

「私は時間のあるうちに出来ることをしたいんです!!だからきちんと皆に相談した!!!」

 

なんでこんなことしてるんだろう。私のしたいことって、皆と喧嘩することだったっけ。

 

違う。そんなの絶対違う。

 

でも、どうしたら皆が納得してくれるか分からない。

 

「これじゃあ相談じゃなくて報告だよゆーゆ。相談しなきゃ...」

「してるよ!!!!」

「あの、その...友奈、無理するな...」

「無理なんかしてない!!!!」

「っ」

「ぁ...!!」

 

心配してくれてるだけの夏凜ちゃんにまで、怒ってしまった。謝らなきゃいけないのに、私が悪いのに_______

 

「友奈!皆がこれだけ言ってまだ分からないの!?」

「__て」

「だから!他に方法がないからこうやって!!!」

「待って...」

「「!!!」」

 

樹ちゃんが、泣いてた。

 

「なんで...こんな、喧嘩なんて......」

「樹ちゃん...」

「樹...」

 

風先輩に支えられる樹ちゃん。

 

(もうどうしたらいいの。私には分からないよ)

 

夏凜ちゃんを見ても、目が合わない。

 

東郷さんを見ても、園ちゃんと困惑した顔をしてる。

 

そして、あの人は__________まっすぐ、私を見てた。

 

「っ!」

「友奈」

 

そして、今まで動かなかった、声を一言も発さずにいた先輩が動き出す。

 

「多分、俺さ。口開くと感情に任せてうまく口に出来ないと思ったから今まで黙ってたんだ。友奈とそんなすれ違いしたくないから」

 

椿先輩が、私の頬に手を当ててくる。優しくて、氷のように冷たい手。

 

それとも______私の顔が、熱いのか。

 

「でも、これだけは教えてくれ。友奈はどうしたい?神婚とかたたりとか世界とかそんなものどうでもいい。お前の本心、望むことを、聞かせてくれないか?」

「私は...」

 

私が皆のために頑張れること。そのために神婚すること。それが私の望むことです。

 

 

 

 

 

そう言おうとして、口が開かなかった。

 

「わ、わ、私は...」

 

なにか、喉まで出かかった言葉。それの代わりのように涙が突然目から流れ出る。

 

「わたひは...っ!!」

 

その涙も、また皆に現れた刻印を見て止まった。特に、目の前にいる椿先輩にははっきりと見えて__________

 

「...ごめんなさいっ!!」

「友奈ちゃん!!」

「ゆーゆ!!!」

 

気づいたら、部室を飛び出してた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

友奈が部室を飛び出して、東郷と園子が後を追いに出て。部室に残ったのは涙を流す樹、友奈と樹のどちらを優先すればいいのかわからずあたふたしてる風、そして、手を伸ばしたままの椿、何も言えなかった私が残っていた。

 

「...こういうとき、なんて言うのが友達なの...なんて言えば正解なのよ...!」

 

壁に手を打ち付けて、言い表せない悔しさを噛み締める。私は友奈に、初めてできた友達に何もできなかった。

 

「前さ、友奈がいってたんだ」

 

伸ばしたままの手を下げて、ポケットを漁りながら椿は口を開く。

 

「『私はただ、皆と一緒に楽しく日常を過ごしたいだけなのに』って。『助けて』って」

「っっ!!」

 

独白のようにこぼす言葉。

 

「あれは、紛れもない友奈の本心だと思う。だから俺は、例え神が相手でも、世界が敵に回っても......あいつを、友奈を助けるために、全力をつくす」

 

スマホを取り出した椿がこっちを向いた。

 

「そうだろ?」

「...えぇ!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ひとまず風と樹を夏凜に任せて、俺は、学校の屋上へ来ていた。

 

(俺はまだ、友奈から直接本心を聞いていない)

 

夢だと信じ込んでた年末の友奈の気持ちは、部室で言った通り。だが、今の友奈の本心は聞けてない。

 

あんな震えた声を出して、目を血走らせて、逃げていってしまった彼女の気持ちを聞けてない。

 

(今助けて欲しくない。邪魔するなと言わなきゃな...友奈)

 

勇者部全員、少なくとも俺は友奈のために命をかけれる。友奈さえ願ってくれれば__________

 

「それまでは、前に言われたことに従い、俺に出来ることをしないとな」

 

スマホは既にあの人の元へ繋がっている。今から聞くのは答えだ。

 

『...僕のところに、神婚の話は一切ない』

「やっぱりそうですか」

 

春信さんから、俺は神婚について何も聞いてない。返ってきた答えも予想通りだった。

 

『僕は、君達勇者と深く関わりすぎたらしい。情報が故意に隠されていた』

「大赦、引退ですかね?」

『潮時だったのかもね...僕は、もう大赦のシステムも、神樹様についてもあまり信用できなくなってきたから...いくら世界を救うためとはいえね』

 

『退職願い書かないとなぁ...』と愚痴る春信さんは、言葉とは裏腹に明るい声だった。

 

「すいません。俺のせいで仕事が...」

『別に気にしなくていい。それよりいいかい?君達はこれからある場所へ呼ばれる。場所は_______』

 

そのあと、少しだけ会話をして電話を切った。

 

屋上に吹く風は体を凍らせるように冷たい。

 

(大赦だろうと、天の神だろうと、神樹だろうと、誰にも友奈は渡さない)

 

しかし、決意した心はその冷たさを全て感じさせない程に熱く燃えていた。

 

(もう二度と、友奈にあんな顔させない。勇者部全員でこれからも過ごすために)

 

例え、その道が絶望的なまでになくても。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。