友奈は端末を置いてどこかへ消えたらしい。そして、探す間もなく俺達はある場所へ呼び出された。
大赦からの連絡というなら、無視するわけにもいかない。
「勇者様に最大の敬意を」
「やめてください」
一度来た歴代の勇者の墓がずらりと並んだ墓地。そこに、大赦の女性が一人いた。
「私達は友奈ちゃんに会いに来たんです!」
「友奈さんはどこにいるんですか!?」
「今は大赦におられます」
「よし、じゃあ乗り込むわよ」
「風、皆も少し落ち着け」
「落ち着いてられるか!」
「お前がそんなんじゃ、皆冷静になれないだろ。お前が友奈の所に行ってしたいのは喧嘩か?」
「......」
「気持ちは痛いほどわかるけど、落ち着いてくれ」
力なく拳を下げる風を励ましながら、目の前の女性に顔を向ける。
仮面の女性が、冷めた声で告げた。
「友奈様から話は聞かれたかと。世界を救うには」
「神婚だろ?」
「はい。そして、友奈様の寿命はあと僅か」
「友奈さんのたたりを祓う方法は本当にないんですか!?」
「我々はあらゆる策を立てました。しかし、外の炎が有る限り、友奈様のたたりは存在し続ける」
「......」
そう簡単に解けるなら、誰も苦労をしていない。友奈が苦しむこともない。
「もう時間がありません。友奈様はこれより神婚の儀に入られます」
「ふざけるな...止めてやる!!」
「歴代の勇者様の多くは、お役目のため、その命を落としました。全てを生かすためやむを得なかったのです」
「やむを...得ない?」
「そんな...」
「それが、この世界の在り方」
多くの人類を救うため、犠牲になった勇者達が俺達の後ろにいる。
大を救うため小を切り捨てる。それが、今のこの世界。
それが、勇者の役目。
「二年前には三ノ輪銀様が落命。銀様は見事お役目を果たし英霊となられました。友奈様もまた、戦い方は違えど皆の為にその身を捧げようとしています。それこそが勇者であると理解して」
歴代の勇者、そして巫女は、俺達と同年代________男は例外を除いていない、少女達の墓の山。
三百年、同じことをしてきた。
「ピーマンが嫌い、だったよね」
(そう、ピーマン...ピーマン??)
園子は真面目に野菜の名前を口にしたが、俺にはなんのことか全く分からなかった。
「すごく厳しかったけど、ふとしたときに見せるチャーミングな所が私は好きだったよ。でも、今は...昔の安芸先生じゃないんだね」
「銀の時...一緒に悲しんでくれたのに!その辛さを知っているならもう犠牲なんて!!!」
「!!」
この人はきっと_______先代勇者達、銀達の担当をしていた人。
「あなた達のクラスメイトは、友達は、家族は、もうすぐ来る春を楽しみにしています。少々の犠牲で、平和を日常を送っている」
「それなら...それなら、あなた達が人柱になればいいのに」
「出来ることならそうしています。ですが、神樹様がそれを許さない...」
「...椿?」
気づいた時には安芸さんの目の前にいた。
「...えと、初めまして。古雪椿といいます。銀の幼なじみです。あいつがお世話になりました」
「っ」
この人は、銀の死を悲しんでくれた。仕方のない犠牲なんて、思ってなかった。
でも、諦めてしまったんだ。世界の残酷な所をしった大人だから。仮面を被り、大赦の歯車となって。
「貴女がどんな気持ちで今俺達の前に立っているのかわかりません。だから一方的に言わせてもらいます」
俺はまだ世界の黒いところなんて知らないただの中学生だ。世間から見たらガキ。
だから、だからこそ。
「俺は、俺達は、俺達のやりたいことをします」
小を切り捨てない。大も小も全部纏めて救って見せる。
「友奈を助けて、世界も救う。邪魔するやつは潰す」
「......そう言い切れる、あなた達だからこそ選ばれたのかもしれないわね」
ぼそっと、何かを呟いて、
「アラート!?」
「なにこれ...」
スマホから流れる樹海化警報が、歪な音を上げて止まった。
続いて大振動。
「地震!?」
「もう来るとは...」
「は?」
「あなた達の出番です。天の神は、人間が神に近づいたことに怒り、裁きをくだしたと言われています。神婚などもってのほか」
「...バーテックスが来る」
「いいえ」
空が、赤くなった。まるで元からその色だったように、赤く、赤く。
赤の世界は、こっちに迫ってきていた。形容し難い何か。無理に言うなれば、『壁』そのものが迫ってきている。
「現実の世界に敵!?」
「敵...なの?なんなのあれ」
「神婚すれば人は神の一族となる。それで皆は神樹様と共に平穏を得ます。これが最後のお役目」
神婚成立まで、敵の進行を食い止めなさい。
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大破して、空へと伸びる大橋。その上にいる俺達六人。
「......」
誰もなにも話さない。ひたすら赤い空を睨んでいる。
でも、やることなんて決まっていた。
(天の神の進行を阻み、神婚も阻止する)
具体的案なんて何一つない。でもやらなきゃいけない。
「なぁ...」
『?』
そのなかで、俺は、口を開いた。
「俺って樹海に入れるの?」
『あ』
そう、皆はいつもの勇者服。俺はレイルクス装備の戦衣。壁の外に出る為の装備だが、樹海化した中に入れるなんて言われてない。
俺はもう勇者にはなれないのだから__________
「......もしかして、俺って置いてきぼり?」
なんとも間抜けな顔をしてるだろう俺をあざ笑うように、樹海化の光が俺達を包み込んだ。
目を開けると、いつもと違うが確かに樹海の中だった。皆もいる。
「...よかったー......」
「ビビらせるんじゃないよ椿!!」
「バカ、俺が一番ビビったわ」
通常仕様の戦衣は入れないのか、防人はいない。神のいたずらか、それとも__________
(...やれるなら、やることは一つだ)
虚空から刀を取り出す。今の俺にはこれしか武器がない。
例え武器が無かろうと、やることは変わらないからそれでいい。
「やろう!!」
「行くわよ!勇者部出動!!」
次回、サブタイは、『最終決戦』。前後編にわけます。
二話を見返しとくとよりいいかも...?