古雪椿は勇者である   作:メレク

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五十三話 それでもと手を伸ばせ

友奈は端末を置いてどこかへ消えたらしい。そして、探す間もなく俺達はある場所へ呼び出された。

 

大赦からの連絡というなら、無視するわけにもいかない。

 

「勇者様に最大の敬意を」

「やめてください」

 

一度来た歴代の勇者の墓がずらりと並んだ墓地。そこに、大赦の女性が一人いた。

 

「私達は友奈ちゃんに会いに来たんです!」

「友奈さんはどこにいるんですか!?」

「今は大赦におられます」

「よし、じゃあ乗り込むわよ」

「風、皆も少し落ち着け」

「落ち着いてられるか!」

「お前がそんなんじゃ、皆冷静になれないだろ。お前が友奈の所に行ってしたいのは喧嘩か?」

「......」

「気持ちは痛いほどわかるけど、落ち着いてくれ」

 

力なく拳を下げる風を励ましながら、目の前の女性に顔を向ける。

 

仮面の女性が、冷めた声で告げた。

 

「友奈様から話は聞かれたかと。世界を救うには」

「神婚だろ?」

「はい。そして、友奈様の寿命はあと僅か」

「友奈さんのたたりを祓う方法は本当にないんですか!?」

「我々はあらゆる策を立てました。しかし、外の炎が有る限り、友奈様のたたりは存在し続ける」

「......」

 

そう簡単に解けるなら、誰も苦労をしていない。友奈が苦しむこともない。

 

「もう時間がありません。友奈様はこれより神婚の儀に入られます」

「ふざけるな...止めてやる!!」

「歴代の勇者様の多くは、お役目のため、その命を落としました。全てを生かすためやむを得なかったのです」

「やむを...得ない?」

「そんな...」

「それが、この世界の在り方」

 

多くの人類を救うため、犠牲になった勇者達が俺達の後ろにいる。

 

大を救うため小を切り捨てる。それが、今のこの世界。

 

それが、勇者の役目。

 

「二年前には三ノ輪銀様が落命。銀様は見事お役目を果たし英霊となられました。友奈様もまた、戦い方は違えど皆の為にその身を捧げようとしています。それこそが勇者であると理解して」

 

歴代の勇者、そして巫女は、俺達と同年代________男は例外を除いていない、少女達の墓の山。

 

三百年、同じことをしてきた。

 

「ピーマンが嫌い、だったよね」

 

(そう、ピーマン...ピーマン??)

 

園子は真面目に野菜の名前を口にしたが、俺にはなんのことか全く分からなかった。

 

「すごく厳しかったけど、ふとしたときに見せるチャーミングな所が私は好きだったよ。でも、今は...昔の安芸先生じゃないんだね」

「銀の時...一緒に悲しんでくれたのに!その辛さを知っているならもう犠牲なんて!!!」

「!!」

 

この人はきっと_______先代勇者達、銀達の担当をしていた人。

 

「あなた達のクラスメイトは、友達は、家族は、もうすぐ来る春を楽しみにしています。少々の犠牲で、平和を日常を送っている」

「それなら...それなら、あなた達が人柱になればいいのに」

「出来ることならそうしています。ですが、神樹様がそれを許さない...」

「...椿?」

 

気づいた時には安芸さんの目の前にいた。

 

「...えと、初めまして。古雪椿といいます。銀の幼なじみです。あいつがお世話になりました」

「っ」

 

この人は、銀の死を悲しんでくれた。仕方のない犠牲なんて、思ってなかった。

 

でも、諦めてしまったんだ。世界の残酷な所をしった大人だから。仮面を被り、大赦の歯車となって。

 

「貴女がどんな気持ちで今俺達の前に立っているのかわかりません。だから一方的に言わせてもらいます」

 

俺はまだ世界の黒いところなんて知らないただの中学生だ。世間から見たらガキ。

 

だから、だからこそ。

 

「俺は、俺達は、俺達のやりたいことをします」

 

小を切り捨てない。大も小も全部纏めて救って見せる。

 

「友奈を助けて、世界も救う。邪魔するやつは潰す」

「......そう言い切れる、あなた達だからこそ選ばれたのかもしれないわね」

 

ぼそっと、何かを呟いて、

 

「アラート!?」

「なにこれ...」

 

スマホから流れる樹海化警報が、歪な音を上げて止まった。

 

続いて大振動。

 

「地震!?」

「もう来るとは...」

「は?」

「あなた達の出番です。天の神は、人間が神に近づいたことに怒り、裁きをくだしたと言われています。神婚などもってのほか」

「...バーテックスが来る」

「いいえ」

 

空が、赤くなった。まるで元からその色だったように、赤く、赤く。

 

赤の世界は、こっちに迫ってきていた。形容し難い何か。無理に言うなれば、『壁』そのものが迫ってきている。

 

「現実の世界に敵!?」

「敵...なの?なんなのあれ」

「神婚すれば人は神の一族となる。それで皆は神樹様と共に平穏を得ます。これが最後のお役目」

 

神婚成立まで、敵の進行を食い止めなさい。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

大破して、空へと伸びる大橋。その上にいる俺達六人。

 

「......」

 

誰もなにも話さない。ひたすら赤い空を睨んでいる。

 

でも、やることなんて決まっていた。

 

(天の神の進行を阻み、神婚も阻止する)

 

具体的案なんて何一つない。でもやらなきゃいけない。

 

「なぁ...」

『?』

 

そのなかで、俺は、口を開いた。

 

 

 

 

 

「俺って樹海に入れるの?」

『あ』

 

そう、皆はいつもの勇者服。俺はレイルクス装備の戦衣。壁の外に出る為の装備だが、樹海化した中に入れるなんて言われてない。

 

俺はもう勇者にはなれないのだから__________

 

「......もしかして、俺って置いてきぼり?」

 

なんとも間抜けな顔をしてるだろう俺をあざ笑うように、樹海化の光が俺達を包み込んだ。

 

 

 

 

 

目を開けると、いつもと違うが確かに樹海の中だった。皆もいる。

 

「...よかったー......」

「ビビらせるんじゃないよ椿!!」

「バカ、俺が一番ビビったわ」

 

通常仕様の戦衣は入れないのか、防人はいない。神のいたずらか、それとも__________

 

(...やれるなら、やることは一つだ)

 

虚空から刀を取り出す。今の俺にはこれしか武器がない。

 

例え武器が無かろうと、やることは変わらないからそれでいい。

 

「やろう!!」

「行くわよ!勇者部出動!!」

 




次回、サブタイは、『最終決戦』。前後編にわけます。

二話を見返しとくとよりいいかも...?

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