「友奈ちゃん!!」
暗い世界。私の声が聞こえた友奈ちゃんが顔をあげてきた。
「東郷さん...!?どうして!?」
「帰ろう友奈ちゃん!迎えに来たのよ!!」
泳ぐように友奈ちゃんの元へ向かう。
「...!」
白い糸の様なものが、私の足や手に絡み付いてきた。そこから、感覚がなくなっていく。
「そうまでして渡したくないのね...友奈ちゃん待ってて!今いくから!」
「...ダメだよ、東郷さん。私がやらないと、世界が消えちゃう。誰かがやらないと...世界が......」
諦めたように、呟くだけの友奈ちゃん。その顔は__________全てを諦め破滅の道を歩んだかつての自分の顔に似ていた。
「友奈ちゃんが、誰かがやる必要なんてない!!もうこれ以上大切な人を奪われたくないの!!!」
一度、永遠の別れをして、今なお眠っている彼女。例えもう一度だけとしても、友達を失うことなんて絶対にしたくない。
「でも...でも...私が我慢すれば、それでいいなら!」
「友奈!!!」
「っ!!」
さっき、部室でも古雪先輩が言ってた。
『お前の本心、望むことを、聞かせてくれないか?』
「本当のことを言ってよ。怖いなら怖いって、私には言ってよ...友達だって言うなら!助けてって言ってよ!!!!」
「...よ」
私の祈るような叫び。その声に、友奈ちゃんは答えてくれた。
「死ぬのは嫌だよ!怖いよ!皆と別れるのは嫌だよぉ!!!」
「友奈ちゃん...」
涙を流して訴えかけてくる。
「私達、一生懸命だったのに...それなのに何で...嫌だよ......ずっと皆と一緒にいたいよ!!!!」
「友奈ちゃん手を!!」
「東郷さん!助けて!!!」
やっと伸ばしてくれた手。そのお陰で、私達はようやく手を繋ぐことが__________
その時、光が瞬いた。
「え!?」
幻想的な色が、私と友奈ちゃんの間に割り込む。辺りを見渡せば、六体の精霊。
「そんな、こうまでして...」
「東郷さん、たすけ...」
友奈ちゃんは、伸ばしていた手をだらりと下げた。
「そんな...いや」
私を掴んでいた糸はようやく離れ、友奈ちゃんとの距離はほぼゼロ。
でも、その薄い壁一枚がどうしても越えられない壁になっていた。
(いらない...友奈ちゃんを、友達を捨ててまで手に入れた世界なんて、いらない)
私は、その目を閉じた。
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状況は防戦一方、なんて言葉が生ぬるく感じるほどだった。
「くっ!」
見たことのある攻撃でもその全てが次元の違う力を持っている。
満開した勇者二人、勇者が一人、勇者のなりそこないが一人で持たせていた戦線だ。俺一人いきがったところで救いはない。
「らぁっ!!」
槍を盾に変形させて攻撃をなんとか防ぎきる。既に左手は内出血が外に吹き出して血まみれ。頭から流れてる血のせいで右目から映る世界が赤い。
それでも、まだ戦うことを止めなかった。
(根性見せろ!!)
一分でも、一秒でも、戦いを長引かせる。天の神に面倒な雑魚の相手をさせる。
それが大切な人を取り戻し、守ることだと信じて。
(気合いを見せろ!!!)
飛んできた矢は弾いた先から反射される。糸で少し相殺、刀で防ぎ、残りは致命傷だけ回避。
「ごほぉ...『魂』見せろー!!!!」
口から血を吐きながらなお絶叫。
視界の先で光がでて、気づいた時には体が地面にあった。攻撃をもろに喰らったんだと気づいたのは立ち上がった後だ。
(必ず帰るって...もう一度会って話すって...決めたんだ)
「諦めてたまるか...こんなところで、死んでたまるかぁー!!!!」
目の前へ迫る炎の塊に対し、穴の空いた右肩で刀を向ける。
一体、二体、刀で。
三体、四体、反動をつけた槍で。
五体。死角から迫った奴を糸で。
六体。直撃。
(......)
レイルクスの装甲が弾け飛ぶ。若草色の戦衣はほとんどが赤に染まる。
なにも考えられない。あるのは約束と決意だけ。
それだけで立ち上がれる。力がなくてもまだ戦える。
俺が無事なことを信じて待ってくれてる、託してくれてる彼女達のためにも。
涙を流して走っていった彼女のためにも。
今なお眠る彼女のためにも。
だけど。
七体目。
(......守るため。友奈と、銀と、東郷と、風と、樹と、園子と、夏凜と...皆でもう一度、笑い合うために!!!)
「そこを、どけぇぇぇぇぇ!!!!」
刀を突き刺す。至近距離で爆発して、皆の武器が手元から離れる。
一瞬、意識が飛んだ。ピントの合った景色を元に一番近くに落ちた槍へ、必死に手を伸ばす。
その手が、届かない。
(......結局、俺は自分で決めたことも、約束も、守れないのか)
あぁ。情けない。
俺の手は止まり、その瞳を閉じた。
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俺(私)は、諦めることしかできなくなった。こうまでしても世界は残酷で、救いなんてない。
神の争いに巻き込まれ、大切な人も守れない。
せめて、彼女のように大切な人を守れる存在になりたかったと、思った。
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いつまでもこない敵の衝撃を不思議に思って目を開くと、霞んだ赤い姿が映った。
自分の血じゃない。敵でもない。
「帰るってのは、体だけじゃダメなんだぜ?」
長くなった髪をなびかせ、半身である二つの斧を暴れさせ。
「ぁ...」
「いやー時間かかりすぎちゃってごめんね。知らない人から勇者の貰ってからまた時間かかって...」
「うぅ...わぁ」
紅蓮の勇者。先代勇者。
そして、俺の幼なじみ。
「ぎぃん...銀!!」
「おう!三ノ輪家の銀様ただいま登場だ!!!」
にこやかに微笑む彼女は、まさに銀そのものだった。
「詳しい話は後々。今は...あれを止めればいいんだな?下がってな。バーテックスの体を手に入れ、勇者になったアタシを止められると思うなよ!満開!!!!」
いつか、自分でも纏った翼と炎がほとばしる。
二本の斧はかつてないほど大きくなり、炎が空を切り裂かんばかりに伸びていく。
こんなこと考えている場合じゃないのに、心を埋めたのはキレイだという感情だった。
銀が、叫んだ。
「今度こそ全部守ってみせる!!!ここから...出て行けぇぇぇぇ!!!!」
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暖かい何かが近づいてきた感じがして目を開くと、赤い姿が映った。
シルエットだけでも分かる。
「...」
声にならない声で呟くと、その反対側に紫の光、白い光が集まってくる。
緑、黄、赤、それから、人型の多くの光__________
(今までの...ずっと前からの、勇者?)
神樹様。
人は、色んな人がいます。
それでも、本当に人を救おうというなら。
もし、人を人として生かしてくれるなら。
大切な人を、自分達の手で守らせてくれるなら。
人を、信じてくれませんか?
(皆...)
皆が、壁に手を当てる。
「...私達は、人としての道を進みます」
釣られるように、動かされるように手を当てると、壁は消えた。
「友奈ちゃん!!」
「東郷さん...東郷さぁん!」
これ以上相手を感じられないくらい抱き締める。二度と離さないくらいぎゅっと。
「ごめんね。私、言い過ぎた」
「私こそごめんね...私、東郷さんに、皆に酷いこといっちゃったよぉ!」
「いいの...もういいの」
「ひっく、うぅ...世界が終わっちゃうよー!!」
「友奈ちゃんのせいじゃない。これで世界が終わるなら、仕方のないことなのよ」
泣き続ける友奈ちゃんを宥める。最後の瞬間くらいは、笑顔でいてほしい。私の大好きな友奈ちゃんは笑顔で__________
「うぁーん...ぇ?」
光の花びらが散る中現れたのは友奈ちゃんの精霊、牛鬼。
その牛鬼から出た光が、私達を覆っていく。
「何を...」
「大丈夫だよ...暖かい」
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「ふぅ...終了っと。満開はないけどまだまだいくよ!」
銀の満開は圧倒的で、天まで届いた炎は天の神をかなり押し返した。
「て、その前に椿、大丈夫?」
「...へい、きだ」
本当なら体を潰してでも一緒に戦いたい。銀だけに戦わせるわけにはいかない。
でも、俺のことを守ってくれてる彼女に、帰ると話した彼女達にそれは最大の迷惑だから。
せめて邪魔をしたくない。傷だらけの体を動かして撤退を________
「うわっ」
「なななんだ!?」
地響きが鳴り、俺は体勢を崩してしまった。
「あぁ椿!早く園子達の所へ!」
「...大丈夫だよ」
「え」
見えた景色の先には、花を咲かせた神樹様。そして、その手前に一つの蕾が花開く。
(...おかえり)
肉眼で何が起きてるなんてまるでわからない。でも、言うべきだと感じた。
「私は、私達は、人として戦う!!!生きたいんだ!!!!」
本来聞こえないはずの、空耳かを疑う遠い遠い場所からの声。
友奈が、光が空へ飛んでいく。天の神は恐れているのか今までにない光量を放った。地面に当たれば、遠くの俺達さえ消し飛ばしそうな程の。
小さな光とぶつかり、空への侵入を阻む。
「勇者は不屈!!何度でも立ち上がる!!」
「友...奈」
(頑張れ...友奈)
声がかすれてる。想いだけでも。
「友奈!!」
「友奈さんの幸せのため!!」
「なせば大抵!!」
「なんとかなる!!」
「勇者部!!」
『ファイトー!!!!』
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
光が増して、空に七輪の花が咲いた。大輪の花達は光に力を与え、それでも天からの光線は突破できない。
「勇者は気合いと!!!」
「勇者は......根性ぉぉぉ!!!!」
そして、八輪目の花が咲く。最後の花が世界に炎を散らす。花びらと炎が視界を白く塗りつぶしていく。
「......とど、け」
「勇者......パァァァァァァンチ!!!!」
光は空へと届き、世界が砕ける音がした。
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「あれ」
軽くなった体で空を見上げると、赤くもなく、黄色く光輝いてもおらす、桜色の花びらが舞い散ることもなく、ただ普通の青空だった。
その景色は、平和そのもの。
「帰って、きた?世界は...」
「ちゃんと、あるね」
「神樹様は?」
「消えた...?」
「なによこれ、え?」
「全部終わった?」
「......いつもの、空」
皆の、俺以外の七人の声が聞こえる。
「あぁ...うっ」
「!!友奈!!!!」
「友奈ちゃん!どこか具合が悪いの!?」
飛び起きて友奈の声がする方を見ると、友奈は胸元をはだけさせていた。天の神の刻印はない。
「はっ...」
「消えてる...」
「消えたの!?」
思わず涙が溢れた。皆無事、俺の怪我も皆の傷も何故か治ってる。
世界は__________人としての世界は、今なおあるのだ。
なにより、勇者部全員がいるのだ。ここに。
「皆...皆、ごめんね」
「私こそごめんなさい...」
「夏凜ちゃーん!!」
「おかえり。友奈」
「...ただいま!!」
彼が『奇跡』を起こす_______具体的に言えば新勇者服を纏い満開する案はわりと初めからありました。というかそれでこの話書いたやつ手元にある。
ただ、彼はその精神が『勇者』であっても神に認められた『勇者』ではない。彼だけなら神に声は届かないし、彼の身自体には『奇跡』は起きない。
ただ、彼と助け合ってきた仲間が、勇者部が作り上げた絆が、歴代の神の使いの思いは、神に届きそれすら越える大きな『奇跡』を作り上げるだろう。そう思って書いてこうなりました。
同様に椿が死んだり意識不明になったりとかも考えたけど満開案と同じくボツ。趣味です(断言)
ここで書いたのは、ここ以外に書くスペースないなと思ったので(笑)
次回勇者の章最終回です...このあとすぐ(ボソッ)