下から本編です。
「就職先、見つかってよかったですね」
「まぁ、下請けのだけどね」
いつものファミレス、いつもの二人。俺は値段の上がったみかんジュースを飲んでいた。ドリンクバーは廃止である。
世界は、一般的に見たら破滅した。
天の神は消え、神樹様は散華。地の神の恩恵を受けていた大地は食物が安定して育ちにくくなり、来年には食糧が不足する、なんて話もある。
炎と化していた外の世界は元の姿を取り戻し、普通の大地が広がっているらしい。海の先に見える世界は幻ではなくなったのだ。
事実を隠蔽していた大赦は大部分が潰され、目の前に座る春信さんも先日就職先が決まったばかり。かといって大赦全てがなくなったわけじゃなく、かなり細々とやってるんだとか。
「まぁ、隠してた事実を必要としている人は多いからね。僕は嫌気がさして辞めたけど」
「最後の方は見捨てられてましたもんね」
「確かに」
俺達が会った安芸さんは片目を怪我したと聞いた。それでも大赦に残って大人の責任を果たす。と。
(今度銀と会わせなきゃなー...)
「君の傷跡も治ったんだっけ?」
「えぇ。最後の戦いの後に、たたりの時につけた傷は全部なくなってました」
「...あった方がよかった。なんて思ってない?」
「......今思い返せば傷痕だらけの男とかかっこいいので、ちょっとだけ。でも皆心配しますからね」
新しい時代は、俺達の大切な人を守りたい、人として生きたいという我が儘で開かれた。間違ってるかどうかなんて知らない。
「あぁそうだ。君にもお祝いの言葉を言わせて貰うよ。明日だろう?」
「ま、はい」
「卒業おめでとう」
「...ありがとうございます」
ただ、笑顔になった彼女達を見れば、これでよかったなと思えた。
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「風先輩!!椿先輩!!ご卒業おめでとうございます!!」
部室に鳴り響くクラッカーの音。
今日は卒業式。同じ高校に入学が決まって、卒業証書の筒を片手に持った先輩方は微妙な顔をしていた。
「祝って貰えるのは嬉しいが、後片付けが大変そうなのが目に見えてて...」
「椿さんやお姉ちゃんはなにもしなくていいんですよ?」
「そういうわけにもいかんだろ」
「いいですから」
「...はい」
少しトーンを落として言う樹ちゃんは、勇者部の次期部長。椿先輩も逆らわずに二つ下の後輩に引き下がってる。
「まぁこれで部室も少しは広く使えるでしょ。八人もいるとぎゅうぎゅうだもんね」
「いやー後から入ってすいません」
「別にそういうこと言いたいわけじゃないの」
八人目の勇者部、三ノ輪銀ちゃん改め、乃木銀ちゃんは後ろで纏めた三つ編みを揺らしてた。
「ミノさーん!」
「なんだよ園子、やめろよー」
「なんだか園子の甘え具合が増したわね」
「にぼっしーにもどーん!」
「きゃっ、ちょ、やめなさいよ!」
「いいねぇ。アタシも!」
「うわぁ!!?」
「主役より目立ってる後輩...椿、今日の主役あたしたちよね?」
「俺達に権利はない。黙って用意してくれたケーキとぼた餅をこいつらのぶん含めて食えばいい」
「そうね」
「ケーキー!!」
「ぼた餅ー!!」
賑やかになった勇者部に増えたのは人だけじゃなく、五箇条が六箇条になった。
『無理せず自分も幸せであること』
人のためを思いすぎた私に、他人を思いやるばかりで自分を顧みない私達にあるかのような言葉。考案してくれたのは椿先輩。
『年末の友奈見てたら、これだろ』
『つっきーもだよね~』
『...すいません』
書いてくれたとき、言葉に出来ないくらい心が暖かくなった。
「皆、写真とりましょ。準備できました」
「東郷はお母さん感が増したわね」
「たまに暴走するけどな...実際、この面子纏める樹は倒れないか心配だな」
「椿さん、たまにでいいので部室来てくださいね」
「あぁ。わかってるよ」
「妹。あたしは?ねぇあたしは!?」
絵や文字を書いた黒板に皆が並んでいく。皆、とっても笑顔。
無茶のない範囲で今日を頑張る。そうすれば、幸せな日々が続く。未来が幸せになって、振り返っても幸せになる。そう願って。
(皆が、好きだから。私、勇者部でよかった!!)
撮った写真は二枚貰った。一つは何も書かず飾り、もう一つには__________
『皆大好き!!!』
これで、勇者の章は終了です。気づけばもうすぐ二ヶ月。毎日続けて投稿...すげぇ(自画自賛)
感想、評価、本当にありがとうございます(n回目)。いや、本当にいつもいつも楽しく読ませていただいています。昨日から感想も評価も凄く多くて泣きそうでした。
これからもまだまだ受け付けていますので、是非お願いします。
さて、先程言った通り勇者の章は終了ですが...この作品の本編の終わりは、もう少し先になります。文量が少ないのはそのため。是非最後までお付き合いください。
今日はもう一話出します。