これは、かつての記憶の断片。
アタシには、小さい頃から隣の家で暮らす幼なじみがいた。容姿はカッコいい系、性格としては普段静かだけど楽しいときは一緒にバカ騒ぎもしてくれるし喧嘩もしたりする仲。
学校は違うけど、遊ぶ機会は誰より多かった。互いの家にけしかけたり、お風呂に入ったり、ゲームしたり、こたつでぬくぬくしたり、お菓子の取り合いをしたり、布団で身を寄せあって寝たり。
小学校高学年になると流石に一緒にお風呂に入ることはなかったけど、休日どっちかの家で並んで昼寝するのは最高だった。
アタシがトラブルに巻き込まれやすい体質で、弟も(途中から弟たちになったけど)面倒見なきゃいけないから、二ヶ月に一回くらいしかなかった機会。でも、心が暖まって、また明日頑張ろうって気持ちになれる。
_______お嫁さんの夢が出来たのは、この頃だ。
そんなアタシの日常が変わったのは、小学六年の時だった。
選ばれた『勇者』というお役目。一緒に戦うのは大赦でも重鎮である乃木家のぽわぽわした子と、鷲尾家の真面目な子。
バーテックスという敵と戦い、四国の壁へ追い返せなければ人類が死ぬ。これ以上にないくらいシンプルで、これ以上にないくらい重大な任務だった。
同じ勇者_______須美と園子とは、戦って、一緒に過ごして仲良くなった。
彼には何も話せないもどかしい日が続いた。お役目についてなにも言っちゃいけないのに、何かを察したのか笑顔だった。アタシが傷だらけで帰れば心配してくれる。楽しく話してるときはちゃんと聞いてくれる。アタシには勿体ないくらい出来た幼なじみだった。
アタシ達勇者が親友になって数ヶ月。遠足の日がやってくる。
お土産も買って、皆でアスレチックで遊んで、話して、楽しんで、最高の気分で帰っていた際、世界が止まった。
比喩表現じゃない。バーテックスが襲ってくる時、勇者以外の時は止まるのだから。樹海と呼ばれる世界に早変わりして、橋を渡ってくる相手を押し返す。
敵は今までと違って二体。でも、アタシ達のチームワークは完璧で押し返してみせた。
途中までは。
隠れていた三体目の奇襲で、須美と園子はぼろぼろ。アタシも軽くない傷があった。
でも、止めなきゃ。難しいことなんてわからなくていい。また皆で過ごすために。
『またね』
三体との戦いは、苛烈を極めた。
光の矢が雨みたく降って、アタシの体に穴を開けていく。とりついた敵にまともな反撃もできずもう一体に邪魔される。
無茶、無理、無謀。
それでもまた須美と園子と笑いたい。弟達の成長を見ていたい。彼の隣を歩きたい__________
『バケモノにはわからないでしょう。この力』
守りたい友達がいる。守りたい家族がいる。どんなにきつくても、それさえあれば戦える。
『これが、人間の!!気合いと!根性と!!!』
二人にあいつを紹介しなきゃいけない。お土産も届けなきゃいけない。
『魂ってやつよぉぉぉぉぉ!!!!』
(帰るんだ...守るんだ。椿を、須美を、園子を、家族を、皆を!!!!)
視界はやがて白くなって__________黒に染まった。
次に意識を持った時には、椿が一緒だった。アタシは椿の体に入り込んだ魂。二重人格が一番分かりやすい例えかもしれない。
風先輩と一緒に勇者部を作り、樹と知り合って。友奈と須美がきて。
あの頃は生きてれば同学年だけど、死んでるから小六のままか?なんて気持ちもあって、皆にさん付けだつたりそうじゃなかったり。でも、楽しかったのは確かだった。
そして、椿が中三になって勇者として選ばれる。アタシを含めればチームの二人が元勇者。必然だったのかもしれない。
満開し、供物として取られたアタシは二回目の死を味わった。三回目も含め全部意識を刈り取られるような感じだったから、苦しまないだけ幸せなのかも。
次に会ったのはほんの僅か。世界を救った椿と、供物の返却として少しだけ返されたアタシ。しっかり別れを告げた。
また会えると信じてたけど__________まさか、敵として、椿に傷をつけ、蹴り飛ばす存在として帰ってくるとは思ってなかった。
天の神に利用されたアタシは椿と戦い、取り返された。
一瞬だけ戻った意識は、バーテックスの体が拒否反応を起こして他の世界へ飛ばされた。
なにもない空間が怖い。生きているのか死んでいるのかもわからない。
(...勇者は気合いと根性!!)
もう一度皆と会いたい。その思いで必死にもがいた。途中で来た椿も追い返して、必死で。
次に起きてからは忙しかった。天の神、神婚しようとする神樹様。やるべきことはわかっていたから、勇者になって、満開して、世界の平和を取り戻すため、今度こそ生きて皆を守り抜くために戦い抜いた。
そして_____________
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「すー...」
「...へへへ」
隣じゃないと見れない位置で、椿が寝ている。顔つきなんかはかなり男っぽくなった。
久々にゲームをやろうということで椿の部屋にきて、そのまま眠くて二人して寝ていた。
中学生、片や高校生になった二人が寝転がるには少し狭いけど、昔に戻ったみたいな感じ。堪らなくそれが嬉しい。
例えこの体がおかしなものでも、誰も気にしない。皆がアタシの帰りを喜んでくれた。寧ろアタシが気にし過ぎなんじゃないかと思うくらいだ。
どうであれ、アタシにとっては感謝しかない。こうしてまたいられるから。
「...へへ」
ぷにぷにほっぺをつっついて。
「...そういや、園子もやってたな」
あまり躊躇わず、そのほっぺに口をつけた。
「...ぇへ」
アタシは幸せなまま手を繋いで、再び寝ることにした。
明日はもっと楽しくなる。
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「ぅ...あれ、寝てたか」
寝ぼけた眼をこすって背を伸ばす。久々にゲームに没頭して、それで寝てたのか。
「......」
隣には、銀。あまり女の子っぽくはないけど、銀らしく寝てる。知らぬ間に手を繋いでたのか、右手は彼女のことをがっしり掴んでいる。
その姿を見れることが、堪らなく嬉しい。
「...おかえり」
自由な左手で彼女の頭を撫でるのは、彼女が起きるまで続いた。