「ふぁーあ...」
勇者部部室。結局高校に入っても二人は部室に来ることが多かった。
そんな部室で、今は私と先輩が二人きり。
「先輩寝不足ですか?」
「あぁ。確認テストが思ったより難しくて解き直してたらあんま寝れなくて...」
「椿先輩で難しいって高校凄いですね...」
勇者部で一二を争う学力である先輩が苦戦するテストなんて受けたくない。
「まぁ普通にやってれば大丈夫だけどな。友奈もやれば分かる」
「へー...」
「この前のテストはどうだったんだ?」
「平均くらいでした」
「それだと讃州高はムズいかもな...ま、まだこれからだ」
出来れば先輩と同じ学校に行きたいと思う。この辺だとそこが一番近いし、なにより二人の先輩がいるから。
「ん、ふぁー...ホントどうにかしなければ...」
「少し寝ても大丈夫だと思いますよ?何かあれば起こしますから」
「本当か?なら頼む...」
数分後、かわいい寝息をたてて椿先輩は寝てしまった。
(なんだか可愛い...あ、そうだ)
静かに近寄って、起こさないよう体勢を変えさせる。所謂膝枕。
「んぁ...」
「へへへ...」
膝にかかる重みが気持ちいい。女の子とは違う少しごわごわした髪、少し跳ねてる寝癖、普段より幼く見える顔。
「......」
無意識に、頭を撫でていた。
『椿先輩、改めて言わせてください......ごめんなさい!酷いこといったうえ、怪我までさせて!!!』
『終わったことだろ?俺は...なんだ、友奈が無事だったならそれでいい。おかえり』
『...ありがとう、ございますっ!』
私は、全部が終わってから先輩にも謝った。それでも先輩が全く気にしていない様子だったのは、単に私の思い込みではないと思う。頭を撫でてくれた手が語っている。
ちらりと、扉を確認した。
いつのまにか気持ちは大きくなって、言葉に出さなきゃ止まらない。
「大好きです。椿先輩」
体を傾けて、先輩のほっぺに口をつける。もうそれだけで幸せな気持ちが溢れてくる。
「えへへ...」
例え迷惑でも、このことに遠慮する気持ちは全然持てない。
(大好き)
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「東郷って基本和食じゃん?洋食って作らないのか?」
古雪先輩と図書館の依頼で書庫整理をしていた時、ふとそんなことを聞かれた。
「いきなりどうしたんですか?」
「いや、こんな本があったからな」
手にもっていたのは洋食のレシピ本。
「ぼた餅が得意料理なのは知ってるけど、基本和のものなら何でも作るだろ?」
「そうですね。筑前煮とか」
「そこでそれが出てくるチョイスな...」
「でも、別に作れないわけじゃないんですよ。ハンバーグとか」
基本は友奈ちゃんが好きそうなものを片っ端からマスターした。気は乗らないがケーキなんかも作れる。
「先輩も料理出来るんでしたよね?」
「弁当とかはめんどくさかったし、今は風がくれるから作らないけどなー...三ノ輪兄弟には作らなきゃならんし」
「得意料理とかあるんです?」
「んー...目玉焼きかスクランブルエッグ」
「朝食の定番メニューですね」
「ぱぱっと作れて栄養価も高いからなぁ...これから値段が高まっていくから今のうちに食わないと」
神樹様が亡くなった影響は少しずつ出てきており、年を越す前に食糧が不足する場合もあるとか。
「......私達が選んだ道です」
「そうだな。頑張らないと...さしあたって、この本でも借りてくか」
見せてきたのは農作物の育て方。著者はホワイトさん。
「ホワイトアスパラガスでも育ててんのかね?」
「白人参かもしれません」
「え、なに、そんなのあるの?」
雑談に花を咲かせながら作業を進めていると、とある本が目に入った。
『気になる男性の落とし方100』
「っ...」
「どうした?」
「い、いえなんでも」
咄嗟に持っていた本を隠してしまった。気にする様子もなく先輩は作業を続けている。
「あの...古雪先輩」
「んー?」
「先輩って、す、好きな人いるんですか...?」
「いるぞー」
「え!?ど、ど、どなた?」
「勇者部の皆」
「あぁ...」
「?」
「なんでもありません」
そう、古雪先輩はこういう人なのだ。少なくとも友奈ちゃんとそのっちのかなり溢れてるオーラを受けてこの反応をする筋金入りの鈍感。
(いや、分かっていてこうなのかもしれないけど...)
先輩はよく周りを見ているし、気配りもできる。そんな方が恋愛感情だけ疎いとは考えにくい。
(...先輩は他に好きな人がいる?それならやっぱり銀よね...もしくは皆妹みたいに見えてる?)
可能性はあるかもしれない。ほとんどが後輩、それも皆家族のように仲の良い。
「...これはゆゆしき事態かも」
図書館の中、私は無意識に一人ごちた。
ごちて、気づく。
(あれ、私何で...)
今、古雪先輩の隣を歩く人を想像した時、出てきたのは友奈ちゃんでもそのっちでも銀でもなく__________私だったのか。
(...もしかして。私)
気づいたときには、胸の高鳴りはかなり早まっていた。
「東郷?大丈夫か?」
「は、はい...大丈夫です」
(...やっぱり、私、先輩のこと......)
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「じゃあよろしくね」
「ほーいっと」
今日のあたしは日直、椿はいつも通り樹の送り届けのためバイクへ向かう。
元大赦の人に作ってもらったバイクは、よくわからないけど勇者の力の残りで資源を使わず動かせるんだとか。乗せてもらったこともあるけど、乗り心地はよかった。
「古雪君ってお金持ちだよね。今時バイク通学なんて」
「というか気配りできるし、そこらの男子と違って物静かだし...」
「それに、ノリが悪いわけじゃないもんねー」
「かっこいいよねー!」
椿の消えた教室では讃州中学あがりじゃないクラスメイトが話をしていた。
(確かに優良物件よね...)
もし彼に勇者の適性がなければ__________銀が一緒じゃなかったら、あたしが勇者部に誘うこともなかったし、今みたいな関係を築くことも、好きになることもなかっただろう。
「それに比べて他は...」
「なんだよ!こっち向くなよな!!」
去年から同じクラスな騒がしめなクラスメイト。ムードメーカーとしてはピカ一だが、そのキャラが災いして彼女はいない。(椿談)
「まず、君達には残念だが、椿には相手がいる!!」
「風ちゃんでしょー」
「いっつも弁当渡してるもんね」
「私も弁当渡したいけど、風ちゃんの弁当に勝てる気はしないのよね...」
(聞こえてるわよー)
恥ずかしさを抑えながら黒板の文字を消していく。
椿は多分作ってこられたら断らない。余計なことを言わないよう釘を刺しておかねば。
(なんか、微妙なのよねぇ...)
現状唯一同じ高校へ通うアドバンテージに嬉しくなったものだが、放課後は勇者部、クラスは元から一緒で前とあまり変わらず。
ついでに言うなら一人だけずるいような気分にもなって、どうにも落ち着かない。
「まぁ風もそうだけど...それ以外に六人!あいつは女をたらしこんでいる!」
『!!』
「たらしこんどらんわぁ!!」
持っていた黒板消しをぶん投げた。
「ばふっ...風さんひどいっす...というか聞いてたんすか...」
「聞こえとるわアホ!大体たらしこんでるって何よ!」
「だって勇者部は椿以外女の子のハーレム部活じゃん!」
「勇者部?」
「ホームページを確認して見るといい。この前なんか結婚式のパンフレットに後輩と写ってたしよぉ...俺にも春を!!青い春を!!」
「知らないわよ!!」
「大体否定しないってことは少なくとも風は...」
「う、うるさいわよバカァ!!!」
「べぶっし!?」
ギャーギャー騒いできたクラス。椿がいなくてよかったと心から思った。
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「ではこれで、レコーディングは終了とします。お疲れさまでした」
「あ、ありがとうございました!!」
私がオーディションに合格して入った音楽会社。練習は椿さんの運送のお陰で他の人より差をつけられ、同期の中で一番最初のCDデビューができた。
「お疲れ様犬吠埼さん」
「お疲れ様です」
労いの言葉をかけてくれたのは私のレッスンを担当してくれた方。若くてカッコいいけど女性。
「CDとして出るのは一ヶ月後。ただしそっちの生産は落としてネット配信を重視していく。これであってる?」
「はい。お願いします」
今の時代いきなり名もない歌手が出たところでCDが売れる筈もない。それに私はお金とか関係なく皆に歌で元気になってほしい。だから今回はこの形でいこうと決めていた。まだ中学生だし。
(それに...好きな人にはもっと早く聞いてほしいし)
「古雪さんのこと考えてた?」
「え?い、いえそんなこと!?」
「顔に出てるわよ...とりあえずとりたてのCD、要望どうり渡しとくわね。流出だけはやめてね」
「はい」
皆にだけは早く聞いてほしくて通してもらった我が儘。ついさっき録音したものを渡してもらう。
「実際犬吠埼さんは凄いわ。最近慌ただしいのにこんな短期間でデビューまでこぎつけるなんて。元が良かったからってのもあるけど、凄い努力だものね」
「へへ...ありがとうございます」
あまり勇者部には出れてない。部長になったのに情けないが、代理を勤めてくれている夏凜さんは喉に効くサプリを渡してくれるくらい応援してくれてる。
「私には、待ってくれてる人がいるので」
夢を応援してくれる家族のような存在があるから。お姉ちゃんは最初から家族だけど。
「早く成果を見せたいんです」
「...無理はしないでね」
「分かってます」
「あーあ...私も彼氏欲しいなぁ」
「私も欲しいです...」
「え」
「え?」
「...古雪さんは?彼氏じゃないの?」
「いえ、まだただの先輩です」
「嘘ぉ!?」