「というわけで、我が妹!!樹の歌手デビューを祝って!!!椿が到着次第ここでCDを流すわよ!!」
風が盛大に場を盛り上げて、勇者部の部室は異様な熱気に包まれていた。よくアイドルのコンサートにいるような格好に身を包み、光を出す棒を握っているのはただの危ない奴だ。
「お姉ちゃんやめて!恥ずかしいから!!」
「樹ちゃんもう無理だよ。風先輩は止まらないから」
「銀さぁん...」
「いっつんのグッズ展開、本格的に考えないとねぇ」
「園子さぁん!!」
「讃州の歌姫(ディーヴァ)...それとも、歌姫(プリンセス)?」
「やめてくださーい!!!」
明らかにうるさい教室から出た。
「夏凜ちゃんどこいくの?」
「ちょっと喉乾いたから飲み物買ってくるだけ。何かいる?」
「大丈夫ー!」
「そ。じゃあ行ってくるわね」
「行ってらっしゃい!」
友奈が笑顔で送り出してくれるのにドギマギしながら自販機まで。そこにはよく見る顔が先客としていた。
「なにしてんのよ、あんた」
「ん?あぁ夏凜か。部室に行く前に先に飲み物をな」
ちょっと用事があるらしくて遅れてた筈の彼の手元には、ペットボトルとお菓子が入った袋があった。
「そんだけ買ってて?」
「こっちはお前たち用。俺はこれでいい」
相変わらずみかんジュースを押す椿。
「高校での風のテンションの高さから、このくらいは飲みきるくらい樹の歌聞き続けるだろうから...」
「樹も災難ねぇ...」
「いい姉なんだが止まらないのは難点だよな」
言いながら早速飲んでいく椿を見て、私は爆弾をぶちこむことにした。
「そういえば、この前兄貴にあったのよ」
「ぶぼっ!?」
「え、そんなに驚くこと!?」
既に椿と兄貴がそれなりに知り合いなことは知ってる。特注バイクを用意してくれたことも。もっと前から言えばあの防人の装備のことも。
「こほっ、こほっ...いや悪い。まさかお前からも出てくるとは思わなくて」
「お前からもって...何か兄貴言ってたのね」
「あー...まぁ、妹と久々に話したってな」
「...」
私と兄貴は、あまり良い関係ではなかった。私は兄貴の才能に嫉妬して、兄貴は私に嫌気をさしていた__________そう思っていた。年末の時も帰ったけど全然話さなかった。
『おかえり。頑張ったね』
でも、兄貴からそう言われたとき。全部私の勝手な思い込みだったんだと思った。
それでもやっぱり気になることは気になるわけで。
「ねぇ椿」
「ん?」
「...兄貴とは、どんな話したの?教えてくれない?」
やっぱり、私のいないところでは悪口を言っているのだろうか。長い間兄貴とは会ってなかったからわからない。
(椿はそんなこと言わないだろうけど...)
「......言ってもいいか。夏凜がどんだけ可愛いかって談義してただけ」
「なー!?」
予想外の言葉に顔が熱くなる。
「な、な...」
「な?」
「何話してるのよバカー!!」
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「何でここにいるんだ」
「え~?サプラーイズ!」
ここはつっきーの家。時間は朝早く。
膝枕は久々にしたけどつっきーは気持ち良さそうに寝ていた。起きたらそっぽを向いて「癖になるからやめてくれ...」と言われた時はキュンとした。
「ていうか鍵はどうした!?」
「お義母さんが開けてくれたよ~」
「......まぁ、俺は役得しかないからいいんだけど...他の奴に簡単にやっちゃダメだぞ?」
本気で心配してくれるつっきー。勿論私もつっきー以外の異性にするつもりなんて全くない。
「大丈夫だよ」
「ならいいけどさ。園子意外としっかりしてるし平気か」
「意外とはいらないよ?」
「普段はぽわぽわしてるだろ?今みたくさ」
頭を撫でてくれるつっきー。誰とも違うこの撫で方が癖になる。
(というか、もう虜なんだよね~)
「つっきー」
「?」
「呼んだだけ~」
幸福を漏らすようにつっきーつっきーと連呼する。隣にいるだけで、話をするだけで笑顔になれる。
「あと、ありがとう」
「...大したことはしてないから」
今日のことでお礼を言うと、つっきーは本当に大したこと無さそうに答えた。
「膝枕してー」
「え?俺が?ぁ、俺でよければ...」
ちょっと固めの膝枕。でも、サンチョよりよく寝れる気がする。
「......」
「寝つきがよろしいことで」
頭が撫でられる感じがして嬉しくなって本当に寝てしまうと、次に目を開けるとつっきーはいなかった。
「んー...」
既に部屋は私しかいない。机に置かれてた一枚の紙には『買い物といつものやってくる。今日は楽しんで』とあった。
「ありがとう。つっきー」
何度目か分からない彼の名前を口にした。
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「ほれ、行くぞ」
「おう!」
イネスで合流したアタシ達は二人で歩いていく。椿の方から誘ってくれた。
「園子との生活は慣れたか?」
「あぁ!すっごい楽しいよ!!」
アタシは一度死んだ身。三ノ輪家に戻ることも出来ず今は園子と二人で暮らしてる。名前も乃木銀になった。園子のやつ、今日は朝から消えたけど。
でも、もう二度と味わうことの出来ないと思ってたことがまた出来る。それが何よりも嬉しい。
勇者部で面白おかしく話すことも、園子とまた会えることも、成長期した弟達、家族を見ることも、こうして椿の隣を歩くことも__________全部、全部あり得ない夢物語だったから。
「銀!?」
「え?」
「何で泣いてるんだ!?どっか痛むのか!?」
「...あれ?」
気づいたら泣いてた。少し恥ずかしい。
「銀!」
「大丈夫。だから大声出さないで...恥ずかしい」
「あ、あぁ...ごめん」
「んーん。嬉しいよ」
「手、繋いでくれない?」と頼むと、すぐさま握ってくれて、別の恥ずかしさと、それ以上に嬉しさが込み上げてきた。
「...アタシさ。嬉しいんだ。まだ生きれて」
「銀...」
「思い出を、これからもいっぱい残せる。それがなにより嬉しいんだよ。椿や須美、園子をはじめとした勇者部のお陰さ」
「......これからも、いっぱい作ろうな。思い出」
「あぁ」
「じゃあとりあえず...はい」
パッと離された手を名残惜しく感じてたら、前髪に少し重みを感じる。でも全然嫌な感じじゃなくて、懐かしい__________
「これって...」
「前のは埋葬する時入れちゃったからさ。代わりにって」
長くなってた後ろ髪を切るのも勿体無くて、三つ編みにして結んだ。でも後ろばかりやってると朝前髪をいじる時間もない。
でも、かつても持ってたこれなら。
「......前も、椿がくれたんだったね」
「小一か?二か?いつだっけ...」
覚えてないくらいにくれた、花があしらわれた髪飾り。昔の奴とよく似たそれをつけたアタシは、近くにあった鏡で見て興奮する。
「ありがとう椿。凄く大切にする」
「その笑顔だけで十分だよ」
「またそんなこと言って...たらしが」
「はいはい...ほら、そろそろ時間だろ?」
「え、嘘!?」
「行ってらっしゃい」
「...行ってきます。椿も気を付けてね!」
あっという間に時間は過ぎて、アタシは今日のメイン会場へ向かう。
「揃ってる...またアタシ最後かよー」
「そうよ銀。反省したら次からは早くくること!」
「わかったよママー」
「わっしーママ!?いいよー打点高いよー!!」
「私はママじゃありません!!」
「へいへい...冗談は置いといて。んー、何て言ったらいいんですかね?お久しぶりです?」
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かつて炎だった世界へは、橋をかけられその大地へ乗り込めるようになった。
「少し飛ばす」
「分かりました!!絶対離しません!」
(そんなにくっつかれると運転に支障が出るからやめて欲しいんだけど)
その大地を友奈を乗せて加速。バイクの振動と当たる風が心地よい。
(......また、か)
外へ出るといつも見かける青い鳥。幸せを呼ぶ鳥と言われているが、どうにも俺にはそれ以上の何かに思える。
「ま、関係ないか」
「先輩?」
「なんでもないよ。行くぞ!」
いつも、青い鳥の飛ぶ方へ向かうと__________
「この辺、だな。連絡頼む」
「はい!」
バイクを止めて目の前の土を触る。
「良さそうだな...」
「椿先輩、風先輩からです」
「あぁ...もしもし、座標送れるか?」
『今送ったわ。今日は東郷もいないし大変よ』
「そっちが友奈じゃなくて良かったよ」
「あれ、私バカにされてる!?」
友奈のフォローは風に任せて俺も電話をかけた。
「もしもし。座標を転送しました。あとよろしく」
『相変わらず早い...』
「まぁ、当てずっぽうでやってるだけだから」
『しずく他三名を向かわせます。ご苦労様です』
『また古雪さんに負けたのですか!?弥勒家の者として恥ずかしい限りです!!』
『勝負じゃないから...』
相手は楠芽吹さん。かつて防人の隊長を勤めていた人物で__________今も四国外調査隊の隊長を勤めている。
遠くないうちに訪れるだろう食糧難を防ぐため、唯一車などの燃料を惜しまず行われているのがこの調査。主な任務は作物を育てられそうな土壌を見つけ、そこから食糧を作ること。メインの指導者は昔のデータを持っている大赦だ。
そして俺達の任務は、週末こうしてその土壌探しを手伝うこと。俺達はいわばボランティアで、彼女達は仕事だが、やることは変わらない。
人類はまだ生き抜くことを諦めなんてしない。心が折れかけても諦めなかったからこそ得られた世界がその大切さを教えてくれる。
「友奈、今日はまだぶらつくぞ」
「はーい。じゃあ樹ちゃん、風先輩、またあとで」
今日は同伴者が友奈、四国での連絡側が風と樹。夏凜は春信さんと会っているらしくて、さっきまで一緒だった銀、それから東郷と園子は__________
「わわっ」
「メール?」
バイクにスマホを嵌め込む前に届いたメールを開いて、俺は微笑んだ。
中身は一枚の写真だけ。写っているのは東郷、銀、園子と安芸さん。
ただ、その写真に写ってる全員が笑顔で__________なによりも嬉しかった。
俺達のやることは変わらない。
人のためになることを勇んで実施する。それがこの部活_______俺達の部活、勇者部の理念だから。
背中には世界を変えたから見れる彼女、左手には返して貰った赤いミサンガを乗せて。バイクは再び走り出した。
この先の未来が楽しくなるんだと信じて。皆で平穏な日々を過ごしていく。これからも、きっと__________
というわけで、ここで勇者の章から続いてきた二期は一つのピリオドがつきます。個人的にこの最後が気に入っていたので『卒業』の段階ではまだ続くと話してました。
さて、今後の話ですが...リクエストを取りたいと思います!!
のわゆの方を考えていたのですが、ゆゆゆはかなり早く浮かんでたアイデアが纏まらなくて...どちらもうまくかけるか分かりませんが、今後はリクエストを取りたいと。このあと活動報告に詳しい情報をのせるので作者のところをクリックしてくれれば...感想、評価合わせてよろしくお願いします。