古雪椿は勇者である   作:メレク

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明けましておめでとうございます。

本編はタイトル通りです。にぼし片手に読むと面白くなります(個人差があります)


七話 新たな勇者

神樹様の作り出す樹海には、守り手である勇者と攻め手であるバーテックスしか存在しない。戦闘が長引けば長引くほど現実に悪影響が及ぶらしいが、一ヶ月半前の戦闘ではほとんど被害はなかったそうだ。

 

残るバーテックスは八体。

 

「久々で戦い方忘れてないかな!?牛鬼出ておいで!」

「友奈さん、これですこれ」

 

勇者アプリで基礎を今更見てる友奈と樹。友奈の精霊牛鬼(好物はビーフジャーキー)は友奈に言われる前に出てきている。

 

「成せば大抵なんとかなる!ビシッとやるわよ!」

「狙撃体勢に入ります」

 

部の五箇条のうち一つを語る、さっきまでよだれを垂らして寝ていた風と、淡々と戦闘準備に入るスナイパー東郷。足が動かないという彼女の不利も、遠距離ならば大した問題はない。

 

『一発かましたれ!』

(ノリノリだなぁ...)

 

今にも踊りそうな勢いの銀と、それに反比例して落ち着いていく俺。勇者部はそれぞれの反応をしながら、バーテックスを迎え撃つ。

 

「風、前出るぞ」

 

風の武器は大剣、友奈の武器は拳、どちらも近距離寄りだが、先陣をきるのは防御もできる双斧を握る俺だろう。

 

「じゃああたしは援護に...」

 

風の言葉は最後まで聞けなかった。遠くのバーテックスが突如として爆発する。

 

「今のは...東郷?」

「私じゃないです」

「ふっ、ちょろい!」

 

謎の声と共に、バーテックスの前に一人の少女が現れた。

 

「え、何あれ」

「新しい勇者!?」

『アタシ達のに似てるな』

 

赤い装束に、握られているのは細身の双剣。

 

「はぁ!」

 

彼女は剣を投げ、バーテックスにダメージを与えた上に、封印の儀を済ませていく。

 

俺達が援護するべきか戸惑っている間にも、バーテックスは御霊を吐き出した。

 

「思い知れ!私の力!!」

「あの子、一人でやる気!?」

「殲!滅!」

 

御霊が何かアクションを起こす前に切り刻まれ、五体目のバーテックスはなすすべもなく倒された。ツインテールを靡かせドヤ顔してる彼女はそのままこちらまで向かってきた。

 

「えーと...誰?」

「...ふん、揃いもそろってぼーっとした顔してるわね。こんなのが神樹様に選ばれた勇者ですって?」

「あの...」

「なによチンチクリン」

「チン...はぅ」

 

チンチクリン呼ばわりされた友奈はしょぼんとしている。そのことも気にすることなく、少女は堂々と言った。

 

「あたしは三好夏凜。大赦から派遣された完成型勇者よ」

「完成型?」

「つまり、あなたたちは用済みってことよ。お疲れさまでしたー」

「......は?」

『えー!?』

 

さらりと言われた言葉に、俺達は理解が出来なかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

三好夏凜は俺達の戦闘データを元にアップデートされた勇者システムを持っていて、援軍として大赦から派遣された勇者らしい。だから完成型勇者というのは納得いく。

 

これを知ったのは勇者部部室である。三好は転校してきたのだ。

 

「東郷と友奈のクラスなんだって?」

「はい」

「編入生のふりをしなきゃならないんだから大変だわ」

「夏凜ちゃん凄いんですよ!編入試験ほぼ満点で!」

「へぇー...」

 

割りとどうでもいい知識ばかり増えて、飽きたという意思表示も込めてオレンジジュースをちうーと吸った。

 

「私が来たからには完全勝利ね!あんた達トーシローとは違って...」

「それで夏凜ちゃん!勇者部に入るって言ってくれたんですよ!」

「は!?なな何言ってんのよ!?」

 

(今日も平和だねー)

(どいつもこいつも自分の話したいことしか話さねぇ...)

 

友奈の弾けるような笑顔で言われた言葉にだけ三好は反応して、大声をあげた。

 

「友奈、三好は全然そんなこと思ってなさそうだけど?」

「え、さっき『あんた達を監視しなきゃならないし、入っといてやるわよ!』って」

「監視されるようなことはしてないがな...」

「ともかく、部員になっちゃった方が早いよね!先輩もそう思いますよね?」

「...俺はどっちでもいいよ」

 

三好もバーテックス討伐の為に動いている。口こそ感じ悪いが別に悪いやつではないのだろう。

 

(友奈の前で否定して、悲しい顔されても困るしな)

(友奈さんには甘いなー)

(ほっとけ。どうせ部長の風が決めるものだし、俺はどっちでもいいんだよ)

 

「樹ちゃんは!?」

「確かに部員になった方が早いと思います」

「なによあんたたち!?どんだけこの部に入れたいの!?」

「まぁまぁ。落ち着きなさいって。この書類にサインするだけでいいからさ」

「ってこれ入部届けじゃない!?」

 

ずっと作業してた風が作っていたのは入部届けだった。皆三好を受け入れる気は満々らしい。

 

「...東郷、お前はどう思う?」

「彼女は悪い方ではないと思います。なにより友奈ちゃんが言ってますから」

「成る程」

 

小さく東郷とやりとりすると、彼女も乗り気らしい。大部分は『友奈ちゃんが言ったから』な気もするが。

 

「ともかくっ!これからバーテックス討伐は私の指示に従って貰うわよ!いいわね?」

「それはいいけど、事情はどうあれ学校にいる以上、上級生の言葉には従って貰うわよ...正体を隠すのも任務のうちでしょ?」

「...しょうがないわねぇ。残りのバーテックスを殲滅するだけの短い期間だもの。我慢するとしましょう」

「え、マジ?じゃあ三好飲み物買ってこい。みかんジュースな」

「んなっ、じゃあってなによじゃあって!?」

「パシりに使えるのは先輩特権じゃないのか?」

「そんなわけないでしょ!?」

 

なんとなく三好の扱い方が分かってきたので取り敢えずからかってみると、面白いくらいに反応が良かった。

 

(面白いなこいつ)

(蹴りとか食らってもしらないからな)

 

「大体あんた、こっちの後輩達にそんなこと頼まないでしょう!」

 

三好がびしっと指差すのは後輩三人。俺はしれっと答えた。

 

「いつも頼んでるぞ」

『え』

「ほれ」

 

財布から五百円玉を取りだし、友奈に放る。

 

「自分の好きな飲み物買ってこい」

「それは奢ってるだけじゃない!!」

「ナイスツッコミ」

「うがー!!いい!?私の足引っ張るんじゃないのよ!」

 

三好は吠えながら部員から去ってしまった。

 

「...流石にからかいすぎたかな?」

「いやあんた...」

 

部室に沈黙が訪れ黙っていると、閉まった筈の部室の扉が少しだけ開かれる。

 

正体は、真っ赤な顔した三好。

 

 

「......バック忘れた」

「なにそれかわいい」

「ーっ!!!」

 

決め台詞まで決めてから、顔真っ赤にして恥ずかしそうにしている姿は思わず呟いてしまうくらいには可愛かった。

 

(...こういうのが好みなのか?)

(え?ちゃんと聞こえるように言ってくれよ)

(なんでもないよ!)

 

「あ、アンタ!ちょっと来なさい!!!」

「え、あ、なんだよ...」

 

そのままずるずると外に引きずられる。部室から出る際、残りの部員は表現するのが難しい微妙な顔をしていた。

 

 

 

 

 

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「で、わざわざ俺だけあそこから出した理由は?」

 

讃州中学の屋上に、俺と三好はいた。放課後もそれなりに時間が経った後なので、部活に励む運動部ばかり見える。

 

「単刀直入に言うわ。貴方、勇者やめなさい」

「......理由は?個人的恨みは持たれてないだろうし、そんな理由でやめさせられるもんでもないだろ?」

 

三好はバックから紙束を取りだし、俺に渡してきた。目を通す前に口が開かれる。

 

「それはあんた、古雪椿の使用している勇者システムのスペックよ。その勇者システムは、二年前、先代勇者の使っていた旧型をちょっと改造しただけの物」

「今の...俺以外の皆が使っているのは違うのか?」

「精霊がいないでしょう?それが大きな違いよ。最新の勇者システムは精霊をつけることでバリアを強固にできる。致命的な攻撃だろうとある程度防げるわ。生産がしにくくなって、今は五つだけしかないけど...でもあんたのは違う」

 

先代勇者________恐らく銀の使っていた端末が、俺の勇者システムなのだろう。

 

「数を埋めるための旧型は、バリアを辛うじて張れるようにした欠陥品。精霊はいないから、致命傷を防ぐことは出来ないわ」

「量産出来ないからこいつを新しくすることもできない...ってことか」

 

(人の奴を旧型旧型って...)

 

愛用していただろう銀が呟くのも無理はない。

 

「だから簡単には死ぬの。あんたの代わりに私が来たんだし、辞めときなさい」

きつい言い方で辞退を求められるが、俺は笑顔だった。

 

「三好はいいやつなんだな」

「は!?」

「人類存亡がかかった戦いから逃げろなんて堂々と言えないだろ?旧型を出してでも数を揃えたい状況なのに。寧ろ大赦から来たからそれを伝えて尚戦えって言うのかと思ったら」

「そ、それは私の力だけで敵を倒せるからあんたたちは邪魔なだけで!」

「でも、こうしてこの学校に転入までしてきた。本当に一人でいいなら樹海化したときだけ現れればいいのにさ」

「大赦からの指示なのよ!私の意志じゃないわ!」

「強情だなー...」

「そっちがね!」

 

ぜーはーと息を吐く三好。バーテックスとの戦いの方が疲れてなさそうだが。

 

「どっちにしろ、バーテックス討伐って目的は同じなんだ。よろしくな」

「...辞めろって言ったわよね?」

「言われたな。辞めないけど」

「...死にたいの?」

「バカか。死にたいわけないだろう。出来ることなら三好の様に勇者システムアップデートして欲しいわ」

 

思い返すのは銀の葬式。楽しみにしていた遠足が命日となり、英雄と語られて消えていった一人の幼なじみの最後。

 

「......でも、自分が死ぬより、自分の知る誰かが知らぬ間に死んだ方が辛いから」

 

(椿...)

 

もう一度そんな思いをするなら、喜んで俺は死のう。

 

「だから俺は勇者を辞めない。どうしても辞めさせるというなら俺を止めてみろ」

「っ...」

「その時は、後輩だろうと女子だろうと容赦はしない」

「...勝手にしなさい!」

「三好!また明日な!」

 

決意を込めて話すと、三好は屋上を後にした。最後の言葉に返事はなかったが。

 

「...これで、良かったんだよな」

『なぁ椿、お前は...』

「銀に出番は与えないから安心していいぞ」

『いーや、アタシも戦う!死人なんて出させない!今度こそ全部守ってみせる!』

 

死んだ時、銀は小六だった。それから二年足らずの中二がどんな経験をしたらこんな言葉を真面目に言えるのか。

 

(昔っからそうだ。銀はやるべきことには真剣で、とんでもない力を発揮する。だから昔からよく見てないとダメなんだ。遠くに行ってしまいそうで...)

 

「残りのバーテックス、頑張ろうな」

『あぁ』

 

夕焼け空の元、俺達は新しく決意を誓う。

 

バーテックスは残り七体。

 


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