全てif話。ヒロインはサブタイ通り。
本当は二つで一話の予定でしたが、前話で話した理由で時間が欲しいので一人で一話づつ。なので文字数が少なめです。ご了承ください。
それではどうぞ。
「夏凜を...俺にください!!」
高級な料理屋の和室。そこで俺は誠心誠意を込めて土下座した。隣には愛すべき彼女がいる。だから平気__________なんてことはなかった。
「さて、話を聞こうか椿君」
目の前には、下請け会社をいつの間にか誰もが知るトップ企業まで押し上げた社長(化け物)がいた。
高校に入りしばらく。俺は勇者部の皆に告白された。
俺が選んだのは夏凜だった。
『なんで私なの...?友奈とか園子とか私より良い人いるじゃない』
『...その顔がほっとけないんだよ』
儚げな顔で言う彼女にそう返事をすると、林檎みたく真っ赤にして『バカ』と言った。
その後は付き合い始めたが、別に普段と変わらなかった。勇者部に行ったり、たまにデートしたり。それだけで俺達は幸せだった。
ただ、俺も成人。夏凜も高校卒業ということで、プロポーズしたのだ。夏凜も快く了承してくれたときは嬉しくて抱き締めた。
俺は仕事、夏凜も働きたいということで忙しくなる。というわけで_______互いの親御さんと会おうと決めたのだ。
うちは全然平気だった。夏凜の良いところを前々から教えといたので、逆にガッチガチに緊張した夏凜をほぐしたりしていた。
反対に、夏凜の家は______意外なことに、こちらもすんなり許してくれた。
晴れて結婚決定。準備を始めようか__________というとき、電話がかかってきた。
『僕が長期出張の最中に凄い話になっているらしいじゃないか』
この世の声とは思えないナニカ。天の神より俺の心を震え上がらせた。
『待ってるといい』
気づいた時には食事のセッティングがされ、四人の確保がされていた。
そして今。魔王三好春信が、俺と夏凜の結婚を防ぐための壁として現れた。
「まず、君と夏凜が付き合っているなんて知らなかったんだけど」
「兄貴に言ったら騒がれるでしょ」
「うん。そうだね。なんで黙ってた答えろ」
今日は会ったときから目のハイライトがない。
「なかなか言えるタイミングが無くてですね」
「...僕と君の付き合いだ。嘘をついたってわかるよ」
「いやわりとマジなんすけど」
告白からプロポーズまではそう時間は開いていない。その間春信さんはずっと高知の端まで出払っていた。
「み、三好さん。事実です。私も知ったのは少し前ですから」
助け船を出してくれたのは楠芽吹さん。今は春信さんのところに就職が成功したらしい。今回の第三者視点(犠牲者)だ。
「......だとしても!!認めない!!!」
「......」
分かってはいた。春信さんは変態過ぎるくらいのシスコンだ。
だから俺は、これしかできない。
「それでも...お願いします。夏凜を...俺にください!!」
「...さて、話を聞こうか椿君」
土下座して、思いを伝える。どれだけ彼女を欲しているか。彼女のために尽くせるか。
「確かに春信さんが夏凜のことを愛しているのは知ってます。誰にも渡したくないくらい好きで、働かなくても養っていけるよう今の仕事を成功させていることも」
「「え」」
「それがわかっていて君は僕から奪うというのか?盗撮写真を僕に渡しているうちに気持ちが流れたくらいなら、君は相応しくない」
「「え」」
「君には他にも勇者部の子がいるだろう?それでいてなお夏凜を選び、僕に歯向かってくる理由はなんだ?」
「...好きだからに決まってんだろ!!夏凜の自信満々の顔が!予想外のこと言われてすぐ赤くなる性格が!俺を好きでいてくれる気持ちが!!あんたがどれだけ凄い人間だろうと俺は全力で抵抗する!夏凜と結婚させるから靴なめろと言われたら喜んでやってやるよ!!!」
「......」
「俺は、あんたより夏凜を愛してる!!!だから...だから!!夏凜を俺にください!お願いします!!!」
自分の思いを伝える。春信さんはしばらくして、声を発した。
「...顔をあげろ」
「......」
「...そんな泣きそうな顔するな。僕の弟になるんだから」
「!!!!」
「...夏凜を、頼むよ」
「はい!!!!」
がっしりと固い握手を交わし、隣の夏凜に笑顔を_________
「ねぇ椿。盗撮ってどういうこと?」
「...あ」
「ごめん芽吹。ちょっと抜けるわね」
「もう帰って大丈夫ですよ夏凜さん。今日の目的は達成されましたから。結婚式の日程決まったら教えてください」
「ありがと。さて椿。ちょっとお話しましょうか?」
俺の腕を掴む彼女は、泣いてて笑ってて、邪悪なオーラを纏っていた。
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「予定していた内容と、随分違いましたが」
二人が出払った後で、私は三好さんに質問した。
今日私が呼ばれたのは表向きはあの二人からで、この人を説得するための手助けをしてほしいと言われていた。だが、私は三好さんにも依頼を受けていたのだ。
内容は、三好さんが結婚を反対した時、上手く納得できるよう二人に協力して僕を攻めてくれ。というもの。
三好さんは重い口を開いた。
「...僕は自分で思ったより、椿君のことを認めていたらしい」
遠い目をしたこの人は、今まで見たことない優しい目をしていた。
「今日は付き合ってくれてありがとう。奢りだから好きに食べて」
「では遠慮なく。それから無理して開けたスケジュールの埋め合わせのため、お金だけ置いて早く仕事に戻ってくださいと秘書さんから連絡がきてます。私はあやちゃんや雀を呼んで豪遊するので余分に置いていってくださいね」
「かなり酷いな君!?」
私は変態上司を蹴飛ばして、仲間を呼んだ。
(はぁ...夏凜さん。古雪さん。どうかお幸せに)