「泉(いつみ)ー、悠(ゆう)ー、お風呂入りなさーい」
「「はーい!」」
双子の兄妹がお風呂に駆け込んでいくのが、静かに入った玄関から確認できた。
「たでーま」
「おぉおかえりなさい。連絡いれてよ」
「いれてもでなかったんだなこれが」
「ありゃ...ほんとだ。ごめん」
「いいよ。夕飯足りる?」
「うどんだから増量するわ」
「了解。頼むわ」
「んー...ちょ、やめなさいよ」
「子供達は風呂だしいいだろ?」
「......もう」
「好きだよ。風」
「あたしもよ。椿」
軽くキスしてスーツを脱いでいく。エプロン姿の風は恥ずかしそうにしながらうどんをゆで始めた。
「あの二人ももう小学生か...」
「あたしたちもう30だもの。しょうがないでしょ」
「時の流れは残酷だ...」
中学の頃知り合った俺達は、22の時結婚し、24の時二人の子を授かり、27の時この一軒家に引っ越した。
俺は春信さんが勤めていた会社に入社。事前にどんな勉強をしとけばよいのか聞いていたのでその通りやり、会社の中では若手ながらチーフマネージャーまで上がった。あの人は社長にまでのしあがった。なった位のレベルが違うが、それはさして気にならない。
風は子育てと両立して家で出来る内職の仕事を見つけた。それなりに収入もいい。
「風呂は後でいいか」
「じゃあ服着替えなさい。シャツ姿を悠が真似たらどうするの」
「はーい」
「おっきい子どもか...」
息子の名前は悠。娘の名前は泉。どちらも決めたのは風と俺で決めた大切な子供達。
「あー!パパおかえりー!」
「おかえりー!」
「ただいまってびしょびしょだな!?早く風呂戻りなさい!タオルで体をちゃんと拭かないと風邪引くし、ママが怒るから」
きゃっきゃ騒いでる二人をタオルで拭いていく。割れ物を扱うように丁寧に丁寧に。
「パパ拭けてないよ」
「へたっぴ!」
「...このやろー!」
「「きゃー!」」
「早くしなさい!うどん伸びるわよ!」
「「ごめんなさいママ!!」」
我が家のうどんは絶対である。そんな指導を受けたのか、二人はうどんには絶対服従の姿勢をとっていた。
(...血のなせる技か。俺の血も半分受け継いでるはずなんだがな)
「席についた?」
「うん」
「はーい」
「よし。じゃあ手を合わせて」
『頂きます』
たっぷり茹でられたうどん。およそ九人前。うち二人前は俺、三人前が風。四人前が悠と泉である。ちっちゃな体のどこに俺と同じくらいのうどんが入るのか。さも当然のように三人前平らげる風も風だけど。
「ごちそうさまでした!」
「お腹いっぱい~」
「よく食べるな...みかんジュース飲む人てーあげて」
「「はーい!」」
「あんたも大概よみかんバカ」
風からつっこまれながら冷蔵庫のみかんジュースをコップに注ぎ、子供達にわける。
「ほーら、歯磨き忘れないのよ」
「寝るんだからテレビはやめなさい。ほら、アイドル物語は今度見れるようにしといてあげるから」
「はいおやすみ」
「ふぅ...元気だなあの子達」
「どうぞ」
「苦しゅうない」
「なんなのよその態度。冷蔵庫のみかんジュース没収するわよ」
「ごめんなさい」
風の淹れてくれたコーヒーを二人で飲む。テレビはニュースをパラパラ紹介していた。
「そう言えば、小学校から連絡あったのよ。悠が友達の喧嘩止めたんですって」
「わざわざ連絡来たのか?」
「ほうってたらかなりの問題になってたみたいでね」
「あいつも偉くなったなぁ...」
「パパ似よね」
「え?」
「誰かに優しくするところ。そっくりじゃない」
「...ママ似だろ?勇者部を作るくらい人のことを放っておかないんだから」
「......あたしたちの子らしいってことかしらね」
「だな」
ゆったりとした二人の時間。四人の時間も好きだけど、ずっと続いてきたこの瞬間が愛おしい。
「明日はお休みでしょ?皆でショッピングでもどう?」
「お、いいな。あの二人の服、そろそろ新しいの買ってあげないとな」
「親バカ」
「お前もだ」
「「......ぷっ、ははは」」
古雪家の夜は、こうして過ぎていく。