そして、リクエスト話の扱いですが、基本は本編とはちょっと違うifとして考えて頂けると嬉しいです。呼び方を変えるネタとかも今後出ると思いますが、本編に反映させるつもりはあまりないので。今回のは本編と繋がってても問題ないですけど。
それでは下から本文です。
『遊園地』
「椿ー!ごめん!おまたせ!!!」
「ん、時間通りだな」
九時。今日は銀と遊園地に来ている。
「え、でも集合時間八時だって...あれ?アタシの勘違い?」
「いや?八時で集合かけたぜ?」
「じゃあなんで...一時間も待たせたんじゃん!ごめん!」
「またなにかあったんだろ?それを想定して八時にしたんだからいいんだよ」
「...へ?」
銀のトラブル体質は生き返っても変わらない。彼女の人がなせる技なんだろう。
それを予期して、俺は本来の予定より一時間早く集合時間を指定したのだ。もし時間通り来ても良いよう一時間半前からここで待ってたのは内緒である。
「ここの遊園地九時からだし」
「そんな...アタシがうまく来てたらどうするつもりだったんだよ~」
「お前と二人で話してれば一時間くらいあっという間だろ?」
「...バカ!」
「なんだよ...」
遊園地には小さい頃にも来たことがある。そして、リベンジマッチをするときがきた。
「ついにきたぜ。四国一のジェットコースター...!!!」
「前は椿が身長足りなかったから...」
昔は銀の方が身長が高くて、俺だけ身長制限にかかったのだ。
「行くぞ銀!今度こそ全制覇だごらぁ!!」
「あ、ちょっ引っ張らないでくれ~!」
嬉しさのあまり銀の手をとって突き進んだ。
「......」
「...まさかなぁ」
「......うっぷ」
「あぁ大丈夫か?」
「情けない...」
四国一のジェットコースターは、俺には耐えられなかった。銀が背中を擦ってくれるけど、それもなんか悲しくなる。
「他のは大丈夫なのに...銀も平気なのに......」
「まぁまぁ。ジェットコースター以外にもたくさんあるからさ!」
「...すまん」
「いいっていいって」
「...おかん」
「誰がおかんだ。せめてお姉さんだろ!」
酔い覚ましにスプラッシュに乗ったが、春先はまだ冷たかった。
場所は変わってお化け屋敷。
「...ねぇ椿。いるよね?」
「目の前にいるだろ?」
「だよね...なんか前きた時より暗いし怖くない?」
「リニューアルしたんじゃないか?」
「そ、そうなん」
『uaaaaa!!!』
「だぁぁぁぁぁ!?!?」
「...人形かー。びっくりした」
「びっくりした人の反応じゃないよそれ!!」
「...」
「え、何その顔」
「後ろ」
「っ!?!?」
「なんもないよ」
「...椿嫌い!!!」
「悪かった悪かった、怖がってるのが可愛くてついな」
「っ~!」
涙目で怖がる銀を支えるため、手を握ってあげた。その手は互いの手を絡め合う、俗に言う恋人繋ぎだが、なにも言わなかった。
「あんな怖くなってるなんて...」
「大丈夫か?」
「ありがと...って醤油ジェラート!?」
「意外と人気なんだな...新商品だって」
「ありがと!あ、お金...」
「気にすんな」
「...みかんジュース?」
「変わらないよな。互いに」
「......椿、これ食べない?」
「ん」
「はい、あーん」
「あー...うん。やっぱりわかんねぇな」
「美味しいのになぁ」
「みかんは?飲む?」
「じゃあ頂戴!」
「イネスのには劣るけどな」
「あれは値段から違うじゃん。こっちも美味しいけど。ありがと」
「はーい。昼飯も来たな。食べるか」
「あー楽しかった!」
銀が背伸びをすると、ポキッと可愛い音が鳴った。
「あっという間だなぁ...」
「またいけるといいね」
「いけるさ。すぐな」
「じゃあ次はカラオケとか!」
「イネスじゃないのか?」
「イネスは当たり前過ぎて選択肢に入ってません!」
「流石」
「へへ」
夕日に照らされた彼女の笑顔は変えがたいものだった。
『バスケをしよう』
「こっち回せ!」
「任せた!」
「シュゥゥゥゥゥト!!」
放物線を描いて放たれたボールはネットを揺らすことはなかった。
「なに外してんだ!だからネタやっても外すんだろ!」
「関係ねぇだろ椿!」
今日はクラス対抗バスケ大会が行われていた。椿はそれなりにバスケが得意で、中学の時も成績はよかったと話してた。
高校の体育は男女別で行われることが多いから、こうした機会じゃないと男子がスポーツで競うのを見ることはない。
「古雪君スポーツも出来るんだ...」
バスケの試合をしてない暇な人は他の試合を見てた。あたしもその一人だ。
相手はバスケ部が三人いるということで、かなり劣勢。
「椿ー!しゃきっとしなさい!」
あたしはあらんかぎりの声を出して応援、椿は手だけあげてくれた。他の女子の声援にはあげないのが。それだけで心が嬉しくなる。
「風ちゃん古雪君といい関係だよねー?」
「私も勇者部だっけ?入りたいなぁ」
「あれは中学のだからね。今から高校生が新入りでは入りにくいわよ」
(それ以外の理由もあるけど)
椿は高校で自分が人気になりつつあるのを知っている。今も一緒に戦う明るいクラスメイトが大袈裟に話してるのもあって、その範囲は広がっているのだ。
『嬉しいことだけど、変な視線で見られるのはやだから、あんま反応しないようにしてる』
あたしの作ったお弁当を食べてる時、椿はそんなことを言っていた。
(...それでも、あたしには反応してくれてるのよね)
「試合しゅーりょー!」
結局試合は椿達の負けだった。最後には男女混合が待っている。
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「俺達は今総合二位。この男女混合に勝てば優勝だ。優勝商品は人気店『かめや』のうどん無料券。やるぞー!」
『おー!』
二号店も安定して人気となった『かめや』がこんなところに景品として出てきたのは、俺と風がこの高校に入ったのを聞いたかららしい。ありがたいことだ。
男子が二人、女子が三人。相手はさっき負けたクラスでバスケ部が多いが、女子が混ざってるぶん大した差にはならない。寧ろチームワークが重要になるだろう。
チームワークなら、負けるつもりはない。
「...風がポニーテールって珍しいな」
「え、そう?」
その相手、風は普段二つに纏めてる髪を一つに纏め、上の方で縛っていた。
「似合ってるな」
「っ!ありがと!」
「椿ー、集中してくれよ」
「さっき女子の胸だけが気になるとか言ってた奴がなに言ってるんだ」
「ちょっとぉ!?それ本人たちの目の前でいっちゃダメでしょ!!!鬼!」
「ちゃんと集中してくれよ」
「うがー!!!」
試合は思いの他上手く進んだ。男子二人で攻めをして、運動神経の高い風がフリーになったところにパスして決めてもらう。ディフェンスは女子に任せ、攻められれば時間を稼いでいる間に俺達が戻る。
高校生にもなれば、女子が男子、それもそのスポーツを専攻している奴に敵う筈もない。だから指示としては『抜かれてもいいから時間を稼いでくれ』とだけ話した。作戦は成功だ。
お願いしたとき、『古雪君のお願いなら!』と言われたのは少しびびったが。他の奴からでも聞いてくれよ。
弱点は男子の負担が大きいことだが、それは風がカバーしてくれていた。うどんをかけたあいつはヤバい。本当に。
「あだっ」
「風!!!」
アクシデントが起きたのは、そんなときだった。相手の男子と風が接触、バスケ部員じゃない奴だからルールもよくわからない学生のバスケだしよくあることだが、あたりどころが悪かった。
お腹を抑えて踞る風に駆け寄った。
「大丈夫か!風!!!」
「ちょっ、大袈裟よ...大丈夫っ...」
「ダメじゃないか...交代しろ」
「い、言っときますけどあたしクラスの女子の中では一番上手いんだからね!交代したら...」
「うるさい。決定事項だ!」
風を抱えてエリア外まで運ぶ。
「あ、あんたこんな大勢の前でお、お姫様っ!」
「動けないんだから仕方ないだろ...保健室行ってこい」
「でも...」
「うどん食べたいのはわかったから。任せろ」
「...違うのに」
「え?」
「椿も!気を付けてね!無茶はダメよ!」
「...分かったよ」
別の女子に風を任せ空いた穴の交代を済ませると、始める前に声がかかった。
「おい椿。風は...」
「寝かせとけば大丈夫だと思う」
「そっか。よかった...」
「なぁ」
「ん?」
「勝つぞ」
それだけで理解をしてくれる辺り、良い友人だろう。
「...成る程。これ以上無理しろってことね...椿も辛いんじゃないか?」
「は?」
「ごめんなさい...椿キレてるよぉ...」
外から見た俺の形相はどんななんだろうか。風の前では笑顔でいるようにしたから反動が出てるのかもしれない。
「...覚悟しろよ」
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保健室で寝てたあたしに舞い込んだのは、うどん無料券ゲットと、『鬼神』椿が現れたという報告だった。
「なんなの鬼神って」
「......俺も知らない」
若干つっかえた椿は、気にする様子もなく弁当の中をたいらげていく。
「知らないってことないだろ椿!だって風のために」
「うるさいぞ」
「目がぁぁぁぁ!!!」
唐揚げのお供につけていたレモン(使用済み)を目に突っ込むのを見て、異名の意味が分かった気がした。
それからしばらく、女子の視線は感じなかったらしい。
(...しばらくポニーテールにしようかな)