古雪椿は勇者である   作:メレク

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八話 折り紙

「はい」

「ありがとな。風。ほいお代」

「ありがと」

 

昼休み。いつもの様に弁当箱とお金を交換して「頂きます」と手を合わせる。

 

風の作る弁当は平日毎日作って貰ってるものの、種類もバランスも落ちることはない。最近学校で一番の楽しみになってきていた。

 

感謝の意味も込めて今までコンビニで買っていた代金を渡すのも日課である。初めは『お金なんて受け取れないわよ!』なんて言ってたが、俺のしつこさが勝り最近では口答えせず受けとる。

 

「そういや、三好は部活に入ったのか?」

「朝入部届け貰ったわよ。ふふふ...ああいったお堅いタイプは張り合いがいがあるわ」

「勝負でもするつもりか、お前は」

「昨日散々からかってたあんたがよく言うわ...」

「面白くなっちゃって」

 

てへっと舌を出したが、「キモい」と風に、『キモい!』と銀に一蹴された。解せぬ。

 

「そういや、風は大赦から派遣されたって言ってたよな」

「バカ、何でここで言うのよ!」

「小さい声だし大丈夫だろ...他からしたら意味わからんだろうし。それで?」

「...そうだけど」

「ちょっと頼みがあるんだけど」

 

 

 

 

 

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「悪い、掃除で遅れた」

 

いつもより遅めに部室に入ると、三好が黒板になにやら書いていて、残りの皆はそれを見ていた。

 

「大丈夫よ椿。にぼっしーが話してるだけだから」

「にぼっしー?」

「にぼっしー言うな!!」

 

風の言葉に三好が反応する。これと口に咥えているにぼしで何があったかは確定だった。

 

「何の話してたんだにぼっしー?」

「あんたもか!?」

 

(ちょっと古雪さん家の椿さん?三好さんにすげぇ突っかかるな...)

(こいつの反応面白いんだよ)

 

「好きな女の子にいたずらしたくなる男の子みたいなもんさ」

『え!?』

「...あれ」

 

口に出してたのか、周りが驚いた様な反応をする。

 

(ちょっ、椿なに言って)

 

「いや別に、からかい甲斐のある奴ってだけだよ」

 

誰かが息をつき、誰かから睨まれた気もしたが、心の中の銀がうるさくて分からなかった。

 

「そんで、何の話してたんだ?」

「ゆ、勇者活動の注意よ!あんた達がゆるゆるだからしっかり言ってんの!!」

 

バンバンと叩かれた黒板には、辛うじてバーテックスとわかる絵が描かれている(前の風のと比べれば相当上手いが)

 

「バーテックスの出現は周期的なものと考えられていたけど...相当に乱れてる。明らかな異常事態よ」

 

(銀、前のバーテックスは周期的だったのか?)

(そんなことなかったと思うぞ?三体で来ることもあったし)

 

「一ヶ月前にも三体同時に現れましたね」

「気をつけて挑まないと、命を落とすわよ」

「命...」

 

樹が怯えるように呟く。ここまで優勢に動いているからあまり実感が分からないだろうが、いざ言葉にすると違うのだろう。

 

「他に...戦闘経験値を積むことで、勇者としてレベルアップして強くなる。これを『満開』というわ」

「へぇ~」

「『満開』を繰り返すことで、勇者はより強くなる。これが大赦の勇者システムよ」

 

昨日三好から受け取ったプリントによれば、俺の勇者システムにも『満開』システムは実装されているらしい。

 

『勇者として強くなるのはいいけど、精霊バリアの方が良かったよなー』と俺は言って、銀は『もっと強くなって手早く敵を倒せるんだろ!?良いことじゃん!!』と言っていた。見事に防御寄りの性格と攻撃寄りの性格が別れている。

 

「夏凜ちゃんは満開経験者なんですか?」

「うっ...まだ」

「なーんだ。夏凜もあたし達と同じなんじゃない」

「あ、あんたたちとは基礎経験値が違うのよ!」

「じゃあ私達も運動部みたいに朝練しようか!」

「友奈ちゃん朝起きられないでしょ」

「あははー」

 

真面目な話も笑い半分で進んでいき、風がパンと手を叩いて終わらせた。

 

「はい。じゃあ次は週末の子供会の手伝い、なにやるか決めるわよー」

「この前折り紙教室やろうって決めたよお姉ちゃん...」

「あれ?そうだったっけ?」

「樹、皆まで言わんでやれ。風はもう長くないから...」

「ちょっとー!!?」

 

勇者部の活動で三番目くらいに入る内容が、こうした子供達への催しの手伝いだ。以前に幼稚園でやった人形劇のように。

 

回数こそ少ないものの、皆に喜んでもらおうと全員の士気は高く、一回一回の思い出が深い。

 

「こんな非常時によくそんなことやれるわね」

「夏凜も手伝ってもらうわよ?」

「は?なんで私まで」

「にぼっしー入部届けだしたもんな」

「なっ...ていうかにぼっしーじゃないわよ!」

 

 

 

 

 

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「こんな非常時にレクリエーションなんて...」

 

いつものトレーニングと食事(コンビニ弁当だけど、完全食のにぼしとサプリを食べているから問題ない)と大赦への連絡を済ませ、私は子供会のプリントを眺めている。

 

「......はぁ」

 

大赦が用意した一人きりの部屋にはトレーニング器具と、一般家庭に揃っていそうな家具一式と_______日曜日に赤丸が書かれたカレンダーと、古雪椿に渡された折り紙入門書だけ。

 

『好きな女の子にいたずらしたくなる男の子みたいなもんさ』

 

「っ~!!」

 

放課後言われたことが頭によぎって顔が熱くなる。

 

(絶対、絶対本気で言ってないのにー!)

 

ぽろっとこぼした様に言っていた言葉だから、無意識だった______そしたら本気だ。

 

でも、あって二日目の奴に言う言葉なんかじゃない。だから本気じゃない__________二つのことが頭を支配する。

 

古雪だけじゃない。友奈の笑顔にも、私は引き込まれる。あれを前にすると言いたいことも言えなくなってしまう。

 

東郷も、樹も、風も_______

 

「...ふん!緊張感のないやつら!」

 

私は全部の思考を振り払うようにして、折り紙作りに集中した。

 

 

 

 

 

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「本は受け取ってくれたし、大丈夫だろ」

 

日曜日に開かれる子供会に、ひとまずにぼっしーこと三好は参加してくれるだろう。

 

「それなら安心ね。断られたらドッジボールの的でもやらせようかと思ってたわ」

「えげつねぇ...」

 

その報告に電話越しで答えているのは風。互いに折り紙で作品を作る練習をしながらの会議だった。

 

「~♪」

「随分と良いBGMが流れてるな。何のやつだ?」

「え?あぁ、樹が歌ってるオリジナルよ」

「へー...綺麗だな」

「樹に伝えとくわね」

「今度歌ってくれって追加してな」

「へいへーい」

 

その後も他愛のない会話がポンポン進んでいく。

 

「そういえば本題忘れてた。大赦から連絡来たか?」

「あぁ...来たわよ。一週間預けてくれればやってくれるって。土曜日取りに来るって話だから、金曜日に私に頂戴」

「その間はスマホ使えないのか...代替機制度ないのか?」

「ないらしいわよ」

「...別にいっか。その間にバーテックス来たら頑張れよ」

「他人事ねぇ...そうそうさっきの続き、実はさ__________」

「__________成る程、いいんじゃないか?」

「あ、次私お風呂だから」

「おう。おやすみ」

「おやすみ~」

 

ぶつっと通信が切れて、ベッドにスマホを放る。

 

「ふぅー...よし、完成」

『出来悪いなー』

「言うなよ...」

 

少しいびつな鶴は、片翼を机にくっつけていた。

 

「...楽しみだな。週末」


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