古雪椿は勇者である   作:メレク

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明日は満開祭り3!!めでたい!自分も何かしたいということで二本出します。ストック?知らん。祝うんだよ!

明日いく人は楽しんでください!待ち時間とかにこの話題がでるといいなぁ。

今日もリクです!

追記。この話は一応、短編『君の名前を』の続きになってます!


短編 その手の温度は/夫婦仲

『その手の温度は』

 

 

 

 

 

バイクを動かして樹を送り届けてから、引き返す。

 

(高校生なのに、中学の部室に通い続けるって...)

 

今日は何をやるのかまだ言い渡されていないのでとりあえず部室へ訪れた。

 

「おっつかれー」

「あ、椿先輩。お疲れ様です」

 

部室にいたのは友奈一人だけだった。

 

「皆は?」

「東郷さんと銀ちゃんと園ちゃんが体育館の物置掃除、風先輩と夏凜ちゃんが新聞部のインタビューです」

「お前は?」

「私は囲碁部のお手伝いが終わったのでパソコンの勉強中です!使えるようになりたいので!」

 

(そんな部活あったの)

 

「東郷さんばかりにやらせられません!」と意気込む友奈に思わず苦笑した。

 

(東郷なら、任されても喜びそうだけどな...)

 

「俺の仕事は?なんかあるか?」

「特に聞いてませんよ?」

「そっか...何かあったら来るだろうし、ここにいるか」

「さささ」

「おう、苦しゅうないぞ」

 

友奈が用意してくれた椅子に座り、パソコンと向き合う彼女をぼんやり眺め__________思考が狂い出した。

 

最近は、友奈を見だすと止まらなくなる。この部室、二人きり_______名前を呼びあい、俺の感覚がどこかズレたものとなったあの時と同じ状況だと、特に。

 

「あれー...先輩もパソコン使えましたよね?」

「あぁ」

「ちょっと分からないところがあるので教えて貰えませんか?」

「どこだ?」

「ここが......」

 

胸の鼓動は止まることを知らず、早鐘の様にうちならす。ひとまず俺は聞かれたことを全うした。

 

「多分ここだな」

「っ!」

 

マウスを握っていた友奈の手ごと包み込み、パソコンのカーソルを合わせる。

 

「これを直せば上手く表示できるんじゃないか?」

「あ、ありがとうございます」

「...!!」

 

顔を赤くして、パソコンに向き直る彼女が目の前にいることに後から気づいた。同じマウスを握っていればそんなのは当たり前で______なぜ気づかなかったのか。

 

(......)

 

重ねていた手をゆっくり離す。感じていた温もりが剥がれていくのが、どこか怖くて________

 

「じゃ、じゃあこれを...先輩?」

「気にしないでくれ」

 

友奈の邪魔にならないよう左手を掴み、そのまま両手で握った。

 

(左の方が少し冷たいんだな...なんか、いいな)

 

「せ、せんぱーい?」

「......」

 

友奈の声もどこか遠い。俺は自分でも止められない思考の中に入っていた。

 

「あ、あの...ツボ押しなら少し違うかなー......なんて」

「......」

「あうぅ...」

 

柔らかくて、温かい手。こんな手を使ってかつて戦っていたと誰が信じられるだろうか。

 

「ひゃうっ!?く、くすぐったい...」

 

表面をなぞってもすべすべ。男子の肌とは似ても似つかない。

 

(......あ)

 

握っていた手に小さな傷が目に入った。血も出てないし痛がってることもないからただの傷。でも、この距離じゃないと絶対に見つけられない事実が、俺を密かな優越感に浸らせる。

 

「先輩...そろそろ...」

「......友奈の手、好きだな」

「ぁ...」

 

前触れたときも、こういう感覚だったのだろうか。

 

(いや、ちょっと...違うな)

 

前触れたときは、もっと近くて、不思議な気持ちに捕らわれていた。これも幸せだけど________どこか違う。

 

(あの時は...)

 

「椿先輩...」

 

そう。この声だ。

 

「友奈...」

 

この声が聞きたい。もっと彼女を感じていたい。だから俺は、元から大してなかった距離を__________

 

 

 

 

 

「一番乗りー!って友奈と椿がいた...」

「二番乗りだぜー!...つっきーとゆーゆなにやってるの~?」

 

扉が開かれて、俺は研ぎ澄まされた記憶と感覚が消えた。

 

(...あれ、なんで俺......友奈の手を握ってたんだろう)

 

「銀ちゃん!?園ちゃん!?」

「いや、ちょっと傷入ってたから見てただけだ」

「え!?」

「え、ゆーゆ怪我してたの!?」

「大丈夫か?」

「本人も痛がってないし平気だよ」

「「よかった~」」

「え、あの...二人とも、心配かけちゃってごめんね?」

 

結局そのあとは、普通の部活が続いた。その日から俺達が目を合わせると逸らすようになったのと、心にもやがかかったような感覚が来るようになったのは、また別の話。

 

 

 

 

 

『夫婦仲』

 

 

 

 

 

「銀!こぼさない!」

「ごめんごめん...」

「謝ってるそばからこぼさない!」

「悪かったよママ~」

 

部室ではわりとこうした光景が広がったりする。まぁ、銀の行動は時々目に余るが。

 

(多分、前と同じ感覚でぼた餅握ると潰れちゃうんだろうな...)

 

あってるのかわからない推理から、今回は助け船を出してやることにした。本に桜の栞を挟んで声を出す。

 

「まぁお前、いいじゃないか。わんぱくに育って」

「椿...いやパパ!」

「あなたがそうやって甘やかすから...見てください。銀の成績、落ちてるんですよ」

 

ばっと出された手には、低い数字が羅列された成績表がうっすら見えた。

 

「やるときはやるんだよな?銀」

「そうだぜパパ!アタシはやるときはやる女!」

 

前言撤回。調子に乗り出したので陥れることにした。あと園子がノート開いた時点で悪のりしたことに後悔した。

 

「じゃあ次の試験は本気出しなさい。ダメなら美森のぼた餅はしばらくお預けです」

「!!み、みも...」

「そ、そんな...パパ。お慈悲を!」

「ダメです。無理は言いません。全科目七割です」

「え、本当に決定!?」

「椿さん!私もなにか目標つけてください!」

「樹?えぇと...じゃあ、総合順位30以内な」

「き、きつい...」

「頑張ったらご褒美に、そこで書いてる奴のノート好きにしていいから」

「え、つっきーこれ狙ってるの!?いっつん使って!?」

「何書き込んでるのか得体の知れないもんを放置しとくわけにはいかんだろ!!」

「ひえー...お慈悲を、お慈悲を~」

「ならん!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「これじゃあの二人は椿の娘ね...友奈」

「え?」

「大丈夫?ぼーっとしてたけど」

「は、はい。大丈夫です」

 

風先輩の心配を何でもないと否定する。

 

心に思ったことも、蓋をした。

 

 

 

 

(......言えない。東郷さんを...最低だな。私)

 

黒い感情は、どこかで燻った。

 


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