古雪椿は勇者である   作:メレク

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満開祭りに相応しい暖かな晴天でよかったです。

今日はリクエストじゃない、普通の短編を投稿します。




短編 パソコン争奪戦

「うどん大会?」

 

事の始まりは、勇者部のパソコンがおしゃかになったことから始まる。

 

ここ最近酷使されていた我が部のパソコン(七年物)は、寿命を迎えたのか動かなくなってしまった。春信さんを呼ぼうとなったが、その前にタイムリーな知らせが。

 

「そう!優勝商品としてノートパソコンが進呈されるのよ!」

 

うどん大会。高校生の部には、ノートパソコンが商品として出るのだ。市の活性化のためか、こうしたイベントは寧ろ前より多くなってる気がする。

 

(結局、皆盛り上がるのが好きなんだよな...気持ちは分かるけど)

 

「でも、高校生だったらふーみん先輩とつっきーだけだね」

「私達は中学生ですから...」

「須美と椿が一番良いと思うんだがなぁ」

「いや、うどん作りに関しては風が一番だろ」

 

女子力を高めた彼女にうどんに関して敵はいない。

 

「古雪先輩、風先輩、お願いできますか?」

 

一番パソコンを使っている東郷が頭を下げようとして、それを止めた。

 

「お願いされるまでもない。やるだろ?風?」

「えぇ!小細工なし。完膚なきまでに叩きのめしてやるわ!」

「...うどんの話だよな?」

「アタシ達は応援だな!」

 

 

 

 

 

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うどん大会当日。風先輩と椿先輩が舞台へ立つことはなかった。

 

「怪我?大丈夫か?」

「大した傷じゃないわ...」

「お姉ちゃん昨日遅くまでうどん作りしてて...」

「......これじゃ無理だな」

 

風先輩の怪我はかなり痛そうに指を切っていた。

 

「でも、あたしがいなかったら不戦敗に!」

 

この大会は二人一組。一人じゃ出られない。

 

「誰かが高校生に扮してやれば?」

「ぼいんの大きさ的に須美だよな...」

「銀?」

「ごめんなさい頭ぐりぐりは勘弁して!」

「年齢確認されるから無理っぽいね~」

「やっぱりあたしが...!」

「アホ。大人しくしとけ...この場所なら大丈夫だ。代打はいる」

 

椿先輩がスマホを取り出してどこかへ連絡を入れる。

 

「代打って...」

 

ここは讃州高校の友人を呼ぶには会場が遠くて間に合わない。

 

「あぁもしもし。ちょっとお願いがあるんですが...えぇ。会場はそちらに近いと思うので」

「代打って...誰なんでしょう」

「功績をあげてくれると、名家の方からもお礼が受けれると思いますよ。...はい。お願いします」

「ただいま到着ですわー!」

「ってはや!?」

 

現れたのは、園ちゃんに似た色の髪を少しカールさせた女の子。

 

(どこかで...)

 

「古雪さん!事情は聞きました。私(わたくし)も協力いたしますわ!」

「よろしくお願いします。んじゃエントリーしてきますね」

「この弥勒家の力があればうどん作りなど造作もありませんわー!!」

「弥勒さん静かにお願いします」

「楠...成る程ね」

「え?」

「あの二人は私と勇者の資格を争った元勇者候補生よ」

「あ!」

 

よく週末に行く四国外。その調査で見たことがある。

 

「...また女の人」

「樹ちゃん?」

「い、いえなんでもないです」

 

こうして、うどん作りが始まる。先輩の隣によく知らない女の人がいるのは、なにか落ち着かなかった。

 

 

 

 

 

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「参ったな...」

 

うどん作りと聞いていたから麺の方はそれなりに覚えてきた。自分で言うのもあれだが他の人より料理にも慣れてる。弥勒さんも問題はない。

 

問題は、そのうどんをつける汁も自作しなければならないことだった。

 

「弥勒さん、めんつゆとかの作り方って分かりますか?俺わからなくて」

「分かるには分かりますが、少々時間がかかりますわね...味が薄くなる上、冷ます時間はありませんわ」

 

ちらりとタイムリミットを見る。残り数分。

 

「作戦変更。温かいものにしましょう。出汁は薄くていいので手早く済ませてください」

「わかりましたわ。高知の鰹節の実力、見せつけてやりますわ!そちらは?」

「こっちは...このままだとただのかけうどんになるので、一工夫」

 

フライパンを高熱で温め、そこへ溶き卵を入れていく。

 

「二分で済ませます」

 

作るのはバター風味の抑えたスクランブルエッグ擬き。慣れた物だから時間はかからない。とろっとろの卵が会場の光を反射する。

 

「...色が足りない。ネギか...?」

「これでよろしいですわ!」

 

ノールックで放られたのは高知名産ニラ。

 

「...いいですね」

 

俺の口角は今日一番あがった。

 

ニラを程よいサイズに切り、卵にぶちこむ。軽く絡めて火を止める。

 

「弥勒さん!」

「薄い分は醤油で代用しましたわ!」

 

器にうどん、出汁、卵を乗せて、ネギをトッピング。

 

「「ニラ玉うどん。完成だ(ですわ)!!!」」

 

二人で叫んだ瞬間、調理終了のブザーが鳴った。

 

 

 

 

 

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「パソコンゲットー」

「やりましたわね!」

 

弥勒さんと古雪先輩がハイタッチする。お二人のうどんは見事優勝だった。時間がシビアだったみたいでただのうどんを提供することになった組が多かったみたいだ。

 

「助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。困っている人に手を差しのべる。それが弥勒家のなすべきことだと自負していますので!それでは!」

「......お礼言われるのはいいのか。園子に言わずに約束したからやらないならそれで別にいいんだけど...」

「...三好さん、今度会ったらまたよろしくね」

「えぇ」

 

嵐のように現れた二人は、嵐のように去っていった。

 

「っと...はい東郷」

「私にですか?」

「部長...いや、元部長よりパソコン使うし」

「私も使いません...すいません東郷先輩」

「樹はいいんだよ。ちゃんとレッスン行ってるしな」

「ねぇ椿?あたしは?あたしは!?」

「ちょい黙れ」

「辛辣!?」

 

「まーまー風先輩」と銀と友奈ちゃんに抑えられている風先輩を尻目に、古雪先輩が改めて渡してくる。

 

「...ありがとうございます。勇者部のため、しっかり使わせて頂きますね」

「おう、頼む」

「大体椿!あんただってあんま見ないでしょう!」

「お前よりはしっかり...ってどうした園子?銀?」

「いやー...今の弥勒さん。随分親しい感じでしたけど...」

「勇者部の活動以外に会ってるのかなー?」

「別にそんなこと...なんで寄ってるの?怖いよ?」

「...ふふっ」

 

パソコンをぎゅっと抱き締めて、銀とそのっちに言い寄られてる古雪先輩に微笑んだ。

 


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