「また古雪さんに抜かされたんですのー!?」
「弥勒さん落ち着いてください!」
「じゃあ今日は私がいってくるよ。メブ」
「よろしくね雀」
元防人で編成されてる四国外調査一番隊は、結成前に二つの選択肢を用意された。
一つは、世界のいざこざの被害者になること。ようはただの中学生、高校生となることだ。
そして二つ目が、学生生活をある程度過ごしながら、人のために四国の外を調査すること。
結果は_______元防人32人全員が、部隊に所属した。
『元から勉強と両立しなきゃいけなかったからねー』
『特訓がないだけ楽』
『へー......』
『ひっ!』
一応、今の時代は必要があれば中学生でも働くことができる。扱いとしてはアルバイトだけど、それでいい。
(最悪辞めれるしね...)
辞めるつもりなんてないけど、そうやって免罪符を立てて私とあやちゃんは指定された場所へ向かう。
「...あやや、まだ休んでていいんだよ?」
「いえ!皆さんが頑張っているのに私だけなにも出来ないなんてできません!」
国土亜耶ちゃん。防人ではなくて、神樹様を慕う巫女さんだ。
神同士と、勇者の戦いの時に、あややは死にかけた。神樹様をより信仰するものから、人が神に近くなる__________よくわからないけど、とりあえずあややは死にかけて、なんとか無事だった。
でも、まだ片目を覆う眼帯は取れない。
「...じゃあ、行くよ」
「はい!」
私達が別動隊として動くだけで、貴重な車を使うわけにはいかない。移動は自転車だ。
この一番隊には、もう一つ別の部隊がいる。人のためになることを勇んで実施する部のボランティア。
いつもメブに電話をかけてくるのは、一度だけ会った_______
(...そういえば、久々かも。古雪さん)
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防人に入る直前に、私は勇者部_______世界を救う勇者様達に会ったことがある。
勇者様がどんな残忍な人達なのか。自分がなったかもしれない勇者様がどんななのか気になって愛媛から香川へ行った。
初代勇者様はバーテックスを踊り食いして、先代勇者様はバーテックスは飲み物と言ったらしい。びくびくしながら勇者部の部室を訪れると、見れば見るほど考えていたことと違った。
園芸部にこきつかうのかと思えば、草むしりをやってて。図書室で自分の好きな本を並べるのかと思ったら、指示通りてきぱき動いて。
『なにやってるんだ?』
『うひゃぁ!?』
そんなとき、後ろから声をかけてきたのがその日非番だったらしい古雪椿さんだった。
『...他校の子?』
『あ、あの...勇者部の話を聞いて!』
愛媛からきたことを知った彼は驚いた。
『それで、そんなわざわざ遠くから来たってことは、なにか相談事か?』
『ぇ、えと...私臆病で勇気もなくて、そんな自分を変える方法はないかなー...って』
勇者様の動向を探るためなんて言えなくて、その場で咄嗟に言ったこと。自分に自信が持てないのは確かだから、全部嘘とは言えないけど_______話を聞いた古雪さんは、作業の終わった勇者部全員を集めてくれた。
それから、放課後の時間ギリギリまで、タロットで占ってもらったり、自信の持てるものを手に入れるため手品(マジックではない。断じて)を習ったり、うどんを頂いたり、煮干しを頂いたり。
この時点で、私は勇者様達への見方が変わっていた。
『勇気がないなんてことないよ!勇気がない人は愛媛からわざわざ来ないもの!』
『勇気がないのと臆病なのはちょっと違うと思う...勇気がある人は、臆病だろうとなんだろうと一歩踏み出せる人だと思うからな...分かりにくくてごめん』
言葉をくれた二人に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
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それから年が明ける前。古雪さんの装備が戦衣になってて、それでボロボロになってることを知った。
『あの人は私達に生きる可能性を高めた武器をくれた。それに、勇者も仲間。そうでしょ?』
最初に提案したのはメブで、勇者になるために意固地になってたメブからこんな声が出たことが嬉しかった。皆もポカンとしてたけど、頷いて、反対する人なんで誰もいなかった。
『いいね!私達にやれることがあるならやろう!』
でも、なにより一番意外だったのは即賛成した自分自身だった。
それから、神官の人に私達32人から集めた装備の一部と、メブと私で書いた手紙を渡した。
この小さな力が、役に立つように__________
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「雀先輩?」
「あぁごめんね。そろそろ?」
物思いに耽りながら漕いでたらしい。あややを事故に合わせてしまえば皆から市中引き回しを合うし、なにより良心の呵責に耐えられなくて身を投げ出す。
「はい。そろそろ...あ、見えました!」
初めて見るバイク、少し背の高くなった風貌、隣の勇者部_____手品師東郷さんと二人で待っている男の人。
「...か、加賀城雀。ただいま着任しました!」
普段よりは、滑って話せた気もする。