サブタイどおり以前の東郷ifの続きです。設定をそのまま引き継いでるので、ここから見る方は以前のを見ることをおすすめします。
下から本文です。
「プールに行きたい?」
「はい...」
俺が中学二年、東郷が中学一年になって約三ヶ月。夏休みを目前に控えた頃、彼女からそんなお願いが来た。
なんでも最近勇者部に入り、仲良くなった結城から誘われたらしい。
「いや、俺に言わず行けばいいじゃないか」
「...私、こんなですし......事前調査をしとかないと」
自分の足を不満げに眺める東郷。結城は全くそんなこと気にしないだろうが、本人の気持ちの問題なんだろう。
「んー...わかった。行くか」
「!ありがとうございます!」
「水着は?」
「学校指定のがあるので大丈夫です!」
「...結城とまずそれを買ってこい。うちのあれだと寧ろ目立つから」
風が着ていたスクール水着を思いだし、東郷にアドバイスしておく。
「_____んでくださってもいいのに...」という言葉は、強風で聞こえなかった。
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「というわけで、やってきました」
青い水、白い砂浜。
(海だー!!)
(お前が一番叫んでどうする)
「...あの、古雪さん」
「?」
「私、今度いくのはプールなのですが...」
そう。俺達が来たのは海だった。少し遠出したので既に昼時である。
「結城とくるのもここだから」
「え?」
この場所を選んだ理由は、プールとの違いがあるから。それだけだった。もう結城とも話はつけている。
プールは基本、車椅子での活動はほとんどできない。施設として泳ぐために作られているのだし当然な所だ。だが、それでは結城も東郷も気を使う。
その点海なら砂浜で遊ぶことも出来るし、広い海につかってちょっと遊ぶ位はやれるだろう。
「古雪さん...もしかして」
「まずは着替えてこい。そっから...まぁ、その後決めればいいか」
「...いってきます」
「いってらっしゃい」
更衣室に向かっていく東郷を見送って、俺はパラソルを刺したり既に穿いていた水着だけになったり、レジャーシートを並べたりした。
(自分の作業はなるべく事前に...凄い先読みの力がついてきた気がする)
(にぶちんのくせに)
(なにがだよ)
(なーんでも!)
「古雪さん」
照りつける太陽の熱を肌で感じてぼーっとしていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると_______絶世の美女がいた。
「......」
「あ、あの...おかしなところはありますか?」
色白の肌を覆うワンピースタイプの水色の水着。だが、覆い隠せない体のラインがくっきりと分かり、言葉がつまる。既に日焼け止めを塗ったのか、少し見える肌が良い意味でてかてかと__________
「...古雪さん?」
「あ、あぁ...似合ってると思う。凄く」
「っー...」
(古雪さんー。そんな固まらなくていいんですよ?)
(固まってねぇよ!!)
銀と感覚は繋がってない。絶対バレてない。
「と、とりあえず砂で城でも作るか?」
「海に入ってもいいですよ。どちらにせよ水に浸かりたいと思ってたので、車椅子も昔のを持ってきましたし」
「そうはいってもなぁ...」
びしょびしょに濡れた車椅子で帰らせる訳にもいかない。
(...えぇい。覚悟を決めろ。ここへ連れてきたのは俺だぞ!)
「ん」
「ぇ...あの、古雪さん?」
「行くぞ。まぁ、嫌ならいいけど...」
車椅子の前でしゃがむ。作戦としては、おんぶで海の浅瀬を歩こうということだ。彼女の安全のためにも遠くはいけないが、海に浸かるくらいなら容易だろう。
「...お願いします」
「任された。しっかり捕まってろよ」
「はい!」
後ろからしがみつかれ、思ってたより軽い。余裕に感じた次の瞬間には、なぜおんぶにしたのか後悔した。
「お姫様抱っこの方がよかった...」
「えぇ!?」
「...諦めろ...古雪船、発進します」
足を掴んで立ち上がり、海へと向かう。東郷の足は感覚がないらしいので、万が一変なところを触っていても問題ない。
俺が後悔したのは、自分の背中だった。
(煩悩退散...マジで。ヤバい。銀さんヘルプ!!!)
(椿が自分でやりだしたんだろー?)
(そりゃそうだけど!)
(お姫様抱っこだと顔が海についちゃうかもしれないし、我慢しなー)
(薄情者め...)
未知の柔らかさと弾力に心臓が飛び出るんじゃないかと思う。でも、それ以上に興奮する。
(俺は思春期の中学生だぞ!!)
「くくく...この程度のことで...」
「古雪さん?」
「はっ...なんでもない!」
動揺のあまり病気の方の中二になってしまった。
海に入り、俺の座骨辺りまで入ると、斜め後ろから息が漏れた。こちらとしても少し軽くなり、くっついていたのも離れた為凄くありがたい。
「久しぶり...」
「ならよかった。これで楽しめてるか?」
「はい!ありがとうございます!」
恐らく笑顔の彼女。それだけで、こうしてやっている甲斐があった。じゃぶじゃぶと海を切って歩く俺達は、しばらくそのまま楽しんだ。
「...古雪さんの方こそ、疲れたり...楽しくなかったりしませんか?」
「......バーカ。東郷とこうして一緒に遊んで、楽しくないわけないだろ」
「っ...ふふっ」
「!」
彼女の体がより密着してくる。顔がくっつきそうなくらい近づいてくる。
「女の子相手に、そんなこと簡単に言ったらダメですよ?」
耳元で囁かれる甘い声に、俺は心が溶かされていく感覚だった。
「__________」
その後夕暮れが近づいてきたので、帰宅することに。『凄く楽しかったです』と言ってくれたので、セッティングした俺も嬉しかった。
(それで?ボインの感触を味わった感想は?)
(やめろお前おっさんか!?)
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月明かりはない。豆電球もつけてない。
真っ暗な部屋の中、私は明日予定されている友奈ちゃんとの海を楽しみにしていた。
同時に、数日前のことを思い出す_________
『東郷くらいにしか、こんなこと言わないよ』
「......ふふっ」
私は幸せだ。仲の良い友達がいて、隣の家には想いを寄せる異性がいるのだから。
(いつか、この想いを...)