古雪椿は勇者である   作:メレク

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1話 ●●●●●。

「これでよし...と」

 

高校の勉強は難易度があがっても中学の延長。始めこそつまずいたものの、今は大した物じゃない。

 

「眠くないな...」

 

樹の歌が流れるイアホンを最小音量にして、桜の押し花を栞としている本を読み進める。昨日買った新刊だ。

 

「むー...今後の展開が気になるところだな」

 

内容は、『乃木』という主人公が、仲間との友情を作り上げていくものだ。

 

(乃木って名前だけで買っちゃう辺り、俺もアホだけどな)

 

知り合い_______大切な二人の名字が目に止まった時には、この本を手に取っていた。

 

乃木という名字は300年前の神世紀の始まりを作った名家だとされる。同じく上里家。歴史で習った。だからこうした本にもその名前が乗ることが多い。

 

(よくわからないけど友奈も多いんだよなぁ...あっちは縁起物みたいな扱いだけど。ま、乃木の方の子孫が園子だから...上里の人も大変だったんじゃなかろうか)

 

もう大赦の威厳はない。神樹様が消え、責任追求の対象だ。

 

(それも、四国外調査の良い報告でかなりやわらいでるけど...)

 

「...んー」

 

難しいことを適当に考えていたら睡魔が出てきてくれた。ベッドに入るのも億劫で机に突っ伏す。

 

「ふぁーあ...」

 

明日は勇者部で、皆と何しよう。そう考えてたら、いつの間にか意識が落ちていた。

 

 

 

 

 

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「お疲れさまでした。若葉ちゃん」

「ありがとうひなた」

 

しとしと雨が降る中、傘をさして寮を目指す。

 

西暦2015年。平和な日常は、バーテックスという存在に崩された。

 

異形の白い化け物。奴等の出現によって世界は蹂躙され、日本の領土は取られていった。

 

それから三年。残されたのは、ここ四国や諏訪といったごく一部。

 

(いや...諏訪も)

 

唯一四国と連絡を取り合っていた諏訪は、一人の勇者が守っていた。名前は白鳥歌野さん。

 

だが、ついこの間、その連絡は途絶え_____考えたくないが、やられたのだ_____四国にも、敵の手が迫っていた。

 

バーテックスに通常兵器は通じない。神に選ばれた少女がなれる存在、『勇者』だけが奴等に対抗できる切り札であり、人類の希望。

 

私、乃木若葉はその勇者の一人だ。隣を歩くひなたは、神の声を聞く『巫女』。

 

「しかし、インタビューというのも疲れるな...」

「勇者の報告は皆を元気づけるために必要ですから」

 

五人いる四国勇者の初陣は既に勝利で終わっている。先の戦いで正式なリーダーと決まった私は、勇者の代表としてインタビューを受けていた。

 

思い出されるのは三年前。初めてバーテックスに襲われたとき、友達になったばかりの女の子達が食い荒らされたこと。ついこの間、白鳥さんの声が連絡先から途絶えた時のこと。

 

(白鳥さん。仇は必ず討つ)

 

『何事にも報いを』それが、乃木家の生き方だから_______

 

「悪いもの(バーテックス)食べたこと、言ってませんよね?というかお腹壊しちゃいますからこれから食べないでくださいね?」

「わかってる...?」

 

相づちをうっていると、曲がり角を抜けた道の先が見えて止まる。雨をうけて倒れているのは_______

 

「っ!?」

「ひっ、若葉ちゃん人が!」

「あぁ!ひなたは救急車を!」

 

短い黒髪と顔だち、体格から若い男性。

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 

 

 

 

 

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「っは!?」

「うわっ!!」

「きゃっ!」

跳ねられたように飛び起きると、よく見る天井__________なんかでは全然なかった。

 

「はー...どこだここ」

 

周りを見渡すと、俺の方を向いて驚いている二人の少女がいた。一人は園子みたいな髪色の凛とした子、もう一人は黒に近い紫の髪の子。どちらも面識はない。

 

「目が覚めたのか!?」

「大丈夫ですか?」

「えーっと...俺、自分の部屋で寝てたんじゃ...」

「道路で倒れてたんですよ?」

「寝間着のような格好で...スマホと本だけがあったが」

「えー...じゃなかった。とりあえず助けてもらったみたいだな。ありがとう」

 

慌て出す脳を抑えてひとまず頭を下げた。色々事態は混乱してるが助けてくれたことには違いない。

 

「あ、いえ...」

「では看護師さんを呼びますね」

「若葉ちゃん!ヒナちゃん!人が倒れてたって聞いたけど!」

「...っ!」

 

入ってきた人に、心が跳ねた。

 

その顔、声はよく知った__________

 

「友奈...」

「え!?友奈知り合いなのか?」

「ん?えーと...会ったことありましたっけ?」

「は?」

「え?」

 

一瞬思考が止まる。彼女はどう見ても讃州中学三年生、勇者部部員、結城友奈__________

 

「...違う?」

「え?いえ私は友奈ですが...」

 

かしこまる彼女は俺の知る彼女ではなかった。落ち着いて細部を見れば違う。

 

(こんなよそよそしくないし、いや、それより...なんか違う)

 

形容しがたい何かが、彼女と彼女が違うことを俺に告げている。

 

「えーと...本名、聞いてもいいか?」

「私ですか?高嶋友奈です!」

「...あの、何で友奈の名前だけ知ってるのか、聞いてもいいですか?」

「知り合いに瓜二つで...怪しむ気持ちはわかるけど落ち着いてくれ...えーと」

「乃木若葉です」

「は?」

「え?」

 

デジャヴを感じた。

 

「こんな美少女クラスでそんなポンポン名字や名前が当てはまっていいのか...」

「なっ!」

「美少女...」

「若葉ちゃんの可愛さがわかりますか!?そうです彼女は

 

 

 

 

 

なんか一人だけ違う反応をしていた女の子が、言葉の途中で止まった。

 

同時に、耳が痛くなるくらいの無音が襲ってくる。鳴っていたエアコンの音さえ消えた。

 

「まさか!?」

「え、今なの!?」

 

室内に鳴り響く、何度か聞いたアラート。きっと忘れることはないと思って、でももう二度と鳴ることはないと思っていた音。

 

「......樹海化だと」

「っ!?何で貴方が動けて__________」

 

驚く乃木さんを含めた俺達を、光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

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目を開くと、忌々しき樹海_______ではなかった。

 

(...どこだここ。夢にしちゃ壮大すぎるんだが......)

 

身動きも口を開くことも出来ない、暗い暗い闇の世界。そこに、一つの光が浮かぶ。

 

『...ごめんなさい』

(お前は誰だ...)

 

『貴方にはまた、辛い思いをさせてしまう......』

 

(くっそ、夢の癖に都合悪いなおい!)

 

要領の掴めない話は、動揺しっぱなしの俺の心を苛立たせる。

 

『全てが終われば、元通りの時間、元通りの場所に戻す。だからお願い。壁が出来るまで__________救って』

 

 

 

 

 

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「......」

 

今度こそ、世界は樹海だった。

 

前のより若干町並みが残っているその景色には、見知った顔はいない。

 

(なんだよ。救ってって)

 

「な、なんで男の人がここに...」

「だ、大丈夫ですか!?」

「とにかくここは危ない。早く避難を_______」

 

(...こいつらを、助けてってことか?)

 

「......はは」

 

乾いた笑いが漏れる。

 

「...あの?」

「若葉ちゃん!敵来たよー!」

「くっ...なるべく後方へ!」

「その必要はない」

 

手元のミサンガを握りしめる。雨で濡れた本から桜の栞を取り出す。銀との、友奈との、皆との確かな証。

 

それから__________

 

(誰かが俺の...俺達の平和を奪おうというのなら)

 

見上げると、そう大した数じゃない星屑が見えた。

 

 

 

 

 

「こいよ。雑魚どもが。勇者のなりそこないが貴様らの相手だ」

 

 

 

 

 

スマホのボタンを一つ、タップした。

 

若草色の装飾はあちこちがかけ、穴があり、固まった血で半分以上が赤黒い。もうバイクの電力以外で使うことはないと思っていた戦衣(いくさぎぬ)。

 

それでも、これには戦える力が残っていた。

 

「...なんだ、それは」

「わー...」

 

右手に顕現させるのは、以前半ばから折れた刀。天の神に何回か通用した武器だ。星屑程度ならその刃は通るだろう。

 

というか、武器はこれしかないのでどうにかするしかない。

 

「......」

 

混乱する頭を置き去りに、憎悪の炎を胸に灯し、俺は樹海をかけた。

 

 

 

 

 

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「若葉ー!」

「高嶋さん...」

「ここで応戦するしかないです。タマっち先輩!千景さん!」

 

二度目の戦いにして、リーダー不在。スマホの範囲には見えない。

 

「...まぁ、タマ達よりあの二人が先にやられることはないだろ!やるぞ!」

 

スマホをしまう直前、一つ光点が後ろから出たが、気にせず消した。若葉か友奈がこっちに向かってくれてるんだろう。

 

「...くるわよ!」

 

始めに来たバーテックスにタマ達は交戦_______することなく、突然爆発した。

 

「なんだ!?杏か?」

「わ、私じゃないよ!」

 

飛び道具の杏は手をわたわた振ってる。でも隣の千景は鎌だし、タマの旋刃盤もまだ飛ばしていない。

 

「じゃあなんで...?」

 

倒したバーテックスから、何かが地面に落ちていく。

 

(...折れてる剣?)

 

勇者の力であがった視力が捉えるのと、隣を何かが凄い勢いで通ったのは同じタイミングだった。

 

「殺す!!!!」

 

聞いたことない声で放たれる明確な殺意に、背筋が凍りかけた。正直、バーテックスより怖い。

 

落ちた剣を拾ったのは、黒髪で、赤と緑のゲームに出てきそうな服を着た_______

 

「...男!?」

「勇者...なの?」

 

そいつはそのままジャンプして、バーテックスを切り刻んでいく。

 

「すげぇー...」

「球子!杏!千景!」

「皆ー、無事ー!?」

「若葉さん!」

「高嶋さん...!」

「おい若葉、友奈...あれ誰なんだ!?新しい勇者なのか!?」

「分からない。私達もさっき会ったばかりで...」

「とりあえず助けなきゃ!」

「...不味い!」

 

残りのバーテックスが全て合体して、前に倒した反射板みたくなる。友奈の拳も跳ね返す厄介なものだ。

 

(奴らは合体して進化するから...!!)

 

よく分からないけどバーテックスを蹂躙してるあいつでも、なにも知らないで攻撃するのは________

 

「一枚だけでどうするつもりだ」

 

突き刺さった刀は、あっけなく進化体を貫いた。

 

タマ達は、どんな顔をしていただろう。

 

 

 

 

 

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「はぁ...はぁ...」

 

しっかりした意識が戻ってきた時には、辺りには全てが無くなっていた。燻る炎は俺の心を焼いていく。

 

(......)

 

変な笑いが漏れたのは、それを聞けたのは俺だけだろう。

 

 

 

 

 

 




リクエストしてくださってた方、楽しみにしてくださってた方、シリアスを望んでた方、お待たせしました。追加されたタグとかサブタイとかで気づいた方もいると思います。いつもこの作品をありがとうございます。

というわけで、今回より古雪椿は勇者である。乃木若葉の章を始めたいと思います。

ホントは西暦の章とかにわけたかったんですが、今後の予定がのわゆメインでリクもたまにやる。と考えると、リクを途中に挟んだりするのに章づけするのは分かりにくいしめんどくさいということで、ナンバリングの変更で差別化します。

結構難産で、更新しない日も出るかも...というかのわゆキャラちゃんと書けてるかな。勇者であるシリーズの中でもハードシリアスなのを上手くく書けるかな......何かあれば感想でお願いします。

のわゆを知らない人が読んで、好きになってくれればいいなと思いながら書かせて頂きます。よろしくお願いします!

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