古雪椿は勇者である   作:メレク

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4話 模擬戦

勇者と巫女、七人の学校はそれ用に時間割が組み込まれている。具体的には、古き戦いの記録を学ぶため歴史の授業が多目だったり、特訓の時間も設けられている。

 

「はっ...はっ...よし」

 

走り込みを終えた俺は、飲み終わってたペットボトルに水をぶちこんどいた物を口につける。若干緑茶の味が残っているように感じた。

 

「早いな、古雪は」

「まぁ、この中唯一の男子ですから。頑張らないと」

 

時間を開けずにゴールしたのは乃木。その身体能力の高さには驚かされる。リーダーとして選ばれるのも納得だった。

 

勇者は約二年弱、こうした基礎特訓を繰り返している。勿論愛用する武器の訓練も。

 

俺が食いつけているのは、男という体力面でのアドバンテージと、約一年の筋トレ等の特訓と_______実戦を繰り返したという経験だ。

 

「フィニーッシュ!」

「友奈」

「おつかれ高嶋」

「ありがとう若葉ちゃん...椿君!」

 

この学校の生徒は人数の少なさから、あまり敬語で話すことはない。全員ほとんど同じ時を過ごしているから気にならないのだろう。

 

現に中二の高嶋は中三(本当は高一)の俺を君づけである。

 

(...先輩と呼ばれるよりはいいけど)

 

「椿君?」

「ん、あぁごめん何も聞いてなかった」

「えぇー...椿君も私のこと『友奈』って呼んでよ」

「...郡(こおり)だって呼んでないじゃないか」

「ぐんちゃんは恥ずかしいんだって!でも椿君はヒナちゃんのことひなたって呼ぶじゃん!」

 

膨れっ面になる高嶋。

 

(友奈は...っ)

 

その顔と仕草は、その名前は、どうしても脳裏に彼女を浮かばせる。気を張ってないと涙が溢れそうなくらいに。

 

(もう会えない...なんてことあるか!)

 

「大丈夫か?古雪」

「えっ?」

「随分と...その」

「あ、そっか記憶が...ごめんね椿君」

「あぁいや大丈夫。それで高嶋...友奈だから、ユウって呼ぶのはどうだ?」

「ユウ...いいね!あだ名!嬉しいよ!!」

「なら決定だな。改めてよろしく、ユウ」

「うん!よろしくね!」

 

走った後は、今回俺が入ってから初めての模擬戦が用意されていた。

 

模擬戦の武器は色んな物が木製で用意されている。今の勇者に合わせてるものもあれば、誰も使っていない短剣まで。

 

「古雪、一度手合わせ願えるか?」

 

ふと、木製の刀を握った乃木からそんなことを言われた。

 

今の勇者の中で一番強いという少女。

 

「...いいぜ」

 

俺は、大きめの木刀二本を両手に握りしめた。

 

 

 

 

 

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古雪の勇者服はぼろぼろで、刀も途中で折られている。だが、事情を聞いてもわからないの一点張りだった。

 

『こいよ。雑魚どもが。勇者のなりそこないが貴様らの相手だ』

 

(あれは、古雪も分からず言っていたのか...)

 

それでもバーテックスと戦う彼は強かった。もしその力の根拠が分かれば、私も奴等に報いを与えられる。

 

しかし_______走り込みをしてる姿も、普段の姿を見ても、特別なにかをしているわけではない。

 

「古雪、一度手合わせ願えるか?」

 

だから、直接その強さを確かめるために模擬戦を申し込んだ。

 

「...いいぜ」

 

私のより少し太めの木刀を二本手に取り、構える。

 

(......)

 

でも、この前のような強い意志は感じなかった。

 

「...本気で戦おう」

「人相手の戦いで、本気なんか出せないよ」

 

その言葉を最後に、私は鞘に納めていた木刀を抜き放った。

 

「はぁー!」

「...」

 

互いの武器が音を鳴らす。

 

(手数でもパワーでも不利...だが!)

 

何を思って二本も持ったのかは分からないが、撹乱すれば即席の二刀流などすぐに崩れる。

 

「___凜と同じくら__か」

 

右左揺さぶりをかけて剣を振っていく。古雪は正確にそれを防いでいた。

 

「刀が一本なら、読みやすい」

 

攻勢だった私が、少しずつ押されていく。

 

「ここだっ!」

「あっ...!」

 

焦った一瞬の隙をつかれ、私の木刀は高くはねあげられてしまった。

 

だが。

 

(勝負をかけるなら...ここしかない!!)

 

右手に注視していた彼は、未だ私の左手に握られている鞘の存在が薄れている。加えて、木刀を無理して弾いたため体制が崩れている。

 

(もらった!!)

 

刀と鞘は一対の武器。左手を動かして脇腹に________

 

「...そんな!」

 

いつの間にか右手の木刀を逆手に握っていた古雪は、鞘と脇腹の間にそれを滑り込ませた。

 

(っ!)

 

 

 

 

 

咄嗟に見た古雪の目は、光がなかった。何もかもを吸い込みそうな黒い瞳。

 

「これで終わりだな」

 

左手の木刀を首筋につきつけられたことに気づいたのは、少ししてからだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

乃木の実力は凄かった。二本の剣を振るう俺を一本で捌き、細身の木刀ながらパワーも互角。それも受け流すことなく真正面から向かってくる。

 

じゃあなぜ勝てたかと言えば______あれより早い二刀流を捌いてきて、人相手の素早い動きに慣れていたのと、鞘での攻撃を予測していたからだろう。

 

『...古雪、何故私が鞘で攻撃してくると思ったんだ?』

『乃木が必要ないものをわざわざ持たないだろうと思ってたからな』

 

鞘を使わないなら、初めから捨てて両手でかかってきた筈だ。

 

『......凄いな』

『凄くなんてない。必死なだけだよ』

 

俺が強くなければ、ここへ来てしまった意味がない。負けるわけにはいかない。死ぬわけにもいかない。もう一度元の世界へ帰るために________

 

(......にしても)

 

今日のことを振り返りながら、ふと思う。

 

戦いになると感じる、異常なほどに精神が纏まっていく感覚。夏凜とほぼ同じ力の乃木に、夏凜に負けることが多い俺が勝てたのは、それもある。

 

(......まぁいいか)

 

今は寝よう。寝て起きれば忘れることだ。なにより疲れた_______

 

自分のスマホから、曲を選ぶ。何曲か入っている中で選ぶのは、ついこの間配信された後輩の曲。イヤホンをさして耳に当てる。

 

(...待っててくれ。皆)

 


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