古雪椿は勇者である   作:メレク

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分かりやすく必要な描写をしなければならないとはいえ、椿がいない場所はほぼ原作通りになってしまう...どうしたものか。

それから、最近毎話起きている誤字脱字を報告してくださる方、ありがとうございます!これからも勿論ないように作りますが、またあったらどうぞよろしくお願いします...


6話 隠れる本性

「で、あるからここは~」

 

既に知っている内容を聞き流しながら、窓の外を見る。ここから見えるのは、海から生えた薄い壁。

 

(......!)

 

その壁が、ちかりと光った。

 

同時に消える音、代わりに鳴り響く樹海化を知らせるサイレン。

 

「きた...!」

「三回目!?」

「......」

 

それぞれが戸惑いや決意に満ちた顔をしながら、有無を言わさず世界が飲み込む。日常の建物が若干残る半端な樹海が姿を現した。

 

「皆行くぞ!」

 

乃木の号令で変身を遂げる。彼女達の武器は現実にある物なので、それだけ袋から取り出して装備していた。

 

俺のはスマホを押せば全て終わりで、替えがあるなら間違いなくお蔵入りになる傷だらけの戦衣は、そんな状態でも俺に力を貸してくれる。

 

「敵の数は百体前後ってところか...」

 

刃折れの刀を構える。心は静まることを知らずひたすら脳にアドレナリンを分泌させる。

 

「行くわ」

「私も行こう」

「頑張ろー!おー!」

 

乃木、郡が突出、籠手という近接型のユウが後に続く。

 

「援護します!」

「タマに任せタマえ!」

 

一方、飛び道具組の二人は後方支援。

 

(...全員を生かすために)

 

答えなど、初めから決まっていた。

 

「死ねよ」

 

先行していた乃木達を追い抜き、最前線の星屑を貫く。

 

こうして、戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

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『ねぇ...お母さん。私が勇者になって、お母さんは嬉しい?』

『...えぇ、あなたを産んでよかった。愛してるわ』

 

勇者だからこそ私には価値がある。称賛され、愛される。

 

もっともっと頑張れば、好きになってくれる。

 

(私が一番多く殺して、一番勇者として活躍する!)

 

大鎌は辺りのバーテックスを切り刻み、奇妙な声を上げさせて消滅させた。

 

(...負けない、あなた達には)

 

ちらりと見た先には、最前線でバーテックスを切っていく乃木さんと、

人間離れした動きで空の敵を狩る男がいた。後ろに待機している二人と、高嶋さんに出番はそうない。

 

「ぐんちゃんあれ!」

 

そんな高嶋さんの声で別方向を向くと、いつの間にか進化体がいた。

 

骸骨の顔の様な見た目になった敵は、ただ浮遊している。

 

「なにを...?」

「デカくなっただけ...か?」

「避けろぉぉぉ!!」

『っ!』

 

突然の大声に驚いて動きが止まる。それを読んだのか、進化体の口が開いて、流星のように矢が降り注いだ。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

土居さんは盾で防ぐ。高嶋さんは離れてたから逃げ切る。男はステップだけでひらりと避けている。範囲にいた最後の一人、私は________体を貫かれた。

 

「え...ぐんちゃん!!」

「......やめ、ろ...嘘、だろ......死んだのか?」

 

 

 

 

 

(あいつは私が殺す...無価値な自分には、絶対戻らない)

 

意識を神樹様と繋げる。数多の概念記憶にアクセスして、抽出した力を自らに顕現させる切り札『精霊』。

 

(その為なら、なんだってしてみせる!!)

 

「あれ!?ぐんちゃんがいる!?こっちにも!?忍者!?」

 

(高嶋さん、それは違うわ...)

 

飛んできた矢を気にせず突貫する。

 

今の私は複数の場所に同時に存在できる。一人減っても、二人減っても、その数は変わらない。

 

「私を殺したければ、七人同時に屠ってみなさい」

 

これぞ切り札、七人御先(しちにんみさき)__________

 

七つの鎌が、進化体の各所を同時に切りつける。他方向に逃すことの出来ない衝撃を受け、呆気なく消し飛んだ。

 

「私の武器に宿る霊力は、死者をも冒涜する呪われし神の刃『大葉刈』。死ぬには相応しい武器でしょう?」

 

 

 

 

 

「ぐんちゃんかっこよかったー!」

 

樹海化が解けた世界で真っ先に駆け寄って来たのは高嶋さんだった。

 

「ありがとう...でも、今回も半分以上乃木さんとあいつが倒してた。もっと強くならなきゃ...」

 

勇者の中で一番の功績を上げて、皆から敬われる存在に_________

 

「じゃあ特訓だね!」

「...特訓?」

 

目を輝かせる彼女に、きょとんとしてしまう。

 

「うん!そうすればきっとぐんちゃんも『ズバーン!!』と鎌が振れるはずだよ!!必殺技みたいに!!」

 

私が握っている鎌に触れる高嶋さんに、咄嗟に身構えてしまった。昔のせいで出来た癖。

 

でも、高嶋さんは気にした様子もなく、そのまま私の手に触れる。

 

「こう、『ズハァ!』って!!」

「『ズバーン』じゃなかったの?」

「同じだけど、違うんだよ!気持ちは違うの!」

 

決して分かりやすい説明ではなかったけれど、一生懸命さはあった。

 

「あとね、ぐんちゃん」

「...何?」

「私は今の戦い、ぐんちゃんが一番活躍してたと思うな」

「え?」

「若葉ちゃんや椿君に負けないくらいバーテックスに立ち向かっていったし、皆が見過ごしてたバーテックスも全部倒してた」

「っ...」

 

私が頑張って戦っていたのを、よく見ていてくれた________

 

「高嶋さん...」

「えへへ...ぐんちゃんの手はあったかいね。寒くなってきたしずっとこうしてたいな」

「...うん......ありがとう、高嶋さん」

 

目の奥が熱くなるのを感じながら、高嶋さんに触れている手を、そっと構え直した。

 

(...私は頑張ってもっと強くなる。いつかきっと...あの二人よりも...っ?)

 

 

 

 

 

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「なんでいるの」

「心配だったからに決まってるだろ。なにかおかしなところはないか?」

 

精霊の力はリスクが伴う。体力の消耗や疲労感は勇者のサポート組織である大社から事前に説明されていたが、実際やってみると思ったよりぐったりした。

 

病院での検査の結果、それ以外の負傷はないとのことで、検診だけ受けて帰宅。病院を出たすぐそこには、古雪椿がいた。

 

「...別に問題ないわ」

「そっか。よかった...精霊の力なんていうから、ヤバいもんだと......」

 

息をつく彼を見て、よくわからなくなった。ついこの間、手のひらを返して私に媚びてきた地元の人達と比べ、思い出す。

 

『死ねよ』

 

明らかな殺意を持って突き進むこの人と、

 

「全員無事かー...よかったよかった」

 

周りを気遣うこの人。それから________

 

『......』

 

戦いが終わった後に見かけた、血が通ってないと言われても不思議に思わないような死んだ顔をしたこの人。一体どれが、この人の本性なのだろう。

 

__________本当なら、他の人なら、一番最初だと思うのだ。ただ、言葉に表しにくい何かが、私の判断を鈍らせる。

 

最初はどうでもよかった。でも今は、勇者の中で一二を争うほど強いとわかっている。

 

「...そういえば、あなたどうしてあの進化体の攻撃がわかったの?」

 

ひとまず、自分が強くなるために利用することにした。

 

「え?えーと...勘みたいなもんかな?顔だけみたいな奴だったから、目からビームとかそんな感じだろうと」

「随分ゲーム脳なのね」

「いっつもゲームしてる郡に言われるのか...まぁ、ゲームは好きだけどさ」

 

寮に帰るまでの間、暫く話は続いた。

 

何故続かせたかは、私にもよく分からない。

 

 

 

 

 

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「はぁー......」

 

長い長い息をつく。今日の戦いもまた、乗り切ることができた。郡がやられたときはあまりの衝撃に動くことができなかったけど。

 

自分自身を失ったかのような。冷たい氷で体の底から凍ったような。

 

コロス。

 

(もっともっともっと、頑張らないと...)

 

思考停止で動けない。なんて場合は作らせちゃいけない。

 

やれることは全部やって、敵を殺し尽くさなきゃならない。俺も無事で、皆も無事で。そうしなきゃ俺は帰れない。

 

『なるべく諦めない!』

 

「絶対諦めないよ...俺は」

 

赤いミサンガに触れて、気づいたら意識が落ちていた。

 


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