「情熱の叫び。パンクロック」
「心揺さぶる曲調。ラブソング」
「絶対パンクロック!」
「絶対恋愛バラード!」
「珍しく言い合いをしていると思ったら」
「お二人はいつも仲良しですね」
タマと杏が聞くならどんな歌がいいのか話してると、若葉とひなたがそんなことを言ってきた。
「当然だ!タマ達はもう姉妹みたいなもんだからな!」
「昔からそんななのか?」
「初めて会ったのはバーテックスが襲ってきた時だぞ」
「思ったより最近だな。いつも、本当に姉妹の様に仲が良いからもっと長いのかと...」
「杏とは本物の姉妹より姉妹っぽいもんなー?」
「ふふ...そうだね。タマっち先輩」
「どういう経緯があったんですか?」
「それはですね...」
「え、杏、話すのか!?」
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「自分は、昔から女の子らしくなかった。喧嘩や危ない外遊びばかりして、親に心配をかけて」
『病気がちだった私は周りから気遣いと言う名前の距離を置かれていた。悪意のない特別扱いに、心が少しずつ沈んでいった』
「性格は直そうとしてもできなくて、憧れはあっても女の子らしくはなれない。それがタマだった」
『大好きな読書にのめり込んで、夢想する。それが私でした』
「『そんなとき、世界にバーテックスが現れた。目覚めた力の使い方、やるべきことはなんとなく分かって...』」
「がさつな自分らしい役目じゃないかと思った」
『でも、立ち向かうことなんてできないと思った』
「敵を倒した後、そこにいた巫女から別の場所へ向かうよう言われて、向かった先には別の勇者がいた」
『敵に怯えていたら、颯爽と一人の勇者が現れた。傷を気にせず立ち向かう彼女』
「助けた勇者を見て、話して__」
『助けてもらった勇者を見て、話して__』
「この子を守るために戦おうと決めた」『まるで王子様みたいだと感じた』
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「という感じで、仲良くなりました」
「う~ん。いいですねぇ。書籍化待ったなしです」
「全部話しやがった...」
「タマっち先輩の良いところを言っただけだよ?」
「むず痒いんだよー!隣で王子様みたいとか誉められて、どんな拷問だー!!」
頭をかく。でも、笑っている杏を見たら、それでもいいかと思ってしまった。
「もう一緒に暮らせばいいのに」
「寮の部屋が隣同士で入り浸ってるから...」
「似たようなものです」
「そうなのか?」
「若葉ちゃんだって私の部屋によく来ますよ!」
「ひなた!?何故対抗する!?」
「可愛い所だってたくさん知ってます」
「ほほう」
ひなたとタマの目が交錯する。どちらからともなく口を開いた。
「小説のキスシーンで真っ赤になるんだぞ!」
「子犬みたいな困り顔で相談をしてきます!」
「間違えて同じ小説を買ってきてへこむ!!」
「耳掃除をねだります!!」
「あぁぁぁ...」
「もう、許してくれ...」
「高嶋さん...今度、部屋にいってもいい?」
「いいよ~!」
仕返しとばかりに騒いでから、がばっと杏に抱きつく。
「とにかく!杏はこんなに可愛いんだから、タマが守ってみせる!」
「タマっち先輩...」
「うぉぉぉぉ!!遅刻回避!!」
ムードをぶち壊したのは新入りの古雪だった。
「あ、椿君おはよう!」
「おはようユウ、皆」
「随分遅かったですね」
「なかなか寝付けなくて...伊予島、この本凄い面白かった。続刊があるなら貸してくれるか?」
「ありますよ。放課後部屋から取ってきますね」
「ありがとう」
最初こそ怖いというのが印象だったが、頭を撫でられたり、杏と楽しそうに本を読んだりしてるのを見たら、そんな感情は薄れていった。
(ま、杏をたぶらかそうものなら全力で妨害するがな!)
「おい古雪!杏の部屋に入るのは認めないからな!!」
「タ、タマっち先輩!?」
「女子の部屋にずかずか入るほどの度胸はないわ...伊予島が心配だからってそんなこと言うなよな」
「人肌恋しければー、タマの部屋なら来てもいいぞ?」
「行けねぇよ...」
「っ」
一瞬言葉がつまった。さっきまで男らしい自分の話をしてたからつい誘ったが、古雪自身はタマを杏と変わらないものだと_______女の子だと判断している。
「どした?」
「...な、何でもないぞ!!」
「?」
首を傾げる古雪を見て、タマもよく分からなくなった。
(かっこよく決めるつもりだったのにー!もー!)
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前回の戦いからそう時を経たずして、樹海は広がった。
「......んー」
「あれは...進化体、か?」
星屑を置いて樹海を勢いよく走るのは、カボチャパンツをはいた人間の下半身に、背骨をぶっ指したみたいな見た目をしていた。言い直すと気持ち悪い。
(前の時は上半身もそれなりにあったっけか...こっちの方がキモいな)
飛び出したい足を抑えて、後続として続く星屑の数を確認していく。
(落ち着け。これ以上あれば俺は...)
「二足歩行か...あれは食えんな」
「食べられるかどうかで判断しないでください!ひなたさんにまた怒られますよ!!」
「今までより小型で機動力もある...見た目以上に厄介な相手になりそうね」
「ふっふっふ...ここはタマに任せタマえ!」
自信ありげな土居が取り出したのは、うどんが入った袋。
「...は?」
「それは!?」
「タマだけに!うどんタマだ!!」
見事な弧を描いて飛んだそれは、敵の進路にポトリと落ちた。
(...バカじゃねぇの)
「大社の人が言うには、バーテックスには知性がある。しかも今回のやつは人型っぽい!!」
「二足歩行だからね...」
「ならば!!この高級うどん(秘密兵器)の誘惑を無視できるはずがない!!!」
「なるほど!これなら奴にも隙ができる...」
乃木がそんな言葉を言ってるそばから、奴はうどんを通過した。
「...は、ず」
「なっ...釜揚げじゃなかったからか!?」
「そんなわけねー」
そんなもので人類が救えるなら、大社も大赦も苦労していない。
「わかりあうことは出来ないんだね」
「そのようね」
「...おふざけはそのくらいにしろ。突っ込む...!!!」
痺れを切らして特攻しようとした瞬間、二足歩行のゲテモノが加速した。
この、勇者が揃っている所まで。一瞬で。
「!!!!」
「ぐぅっ!!」
狙われた伊予島を庇う土居と、鋭い蹴りをかます奴の間に割り込んだ。
それでも、中途半端な割り込みで、二人を庇いきれず_______
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「くぅ...」
「タマっち先輩!?」
いきなりきた衝撃から立ち直ると、タマっち先輩が苦しそうな表情をしていた。
「大丈夫。心配な...ぐっ」
左手がだらんと下がったままだった。
「私を庇って...怪我を...」
「古雪も庇ってくれてたんだがなぁ...ま、そんな顔するなよ。タマが自分で守りたかったからそうしただけだ」
そう言って歩く後ろ姿は、初めて会ったときを思い出させる。
「杏を守るのはタマの使命だからな...っ」
「タマっち先輩無理しないで!」
「大丈夫だっての。あんな変態二足歩行なんかにタマが負けるわけないだろ?」
からから笑いながら、遠くを見つめる。飛ばされてきた先には、若葉さんが進化体の足止めをしてくれていた。
「早く合流しないと...あれ?」
いきなり進化体が別の方向へ走り出す。
「逃げ...た?」
「違う。あの進化体、神樹様を狙ってる!!」
スマホに映るレーダーが、若葉さんたちを引き離して神樹様へ走る進化体を示した。
遠距離武器は、私とタマっち先輩だけ。
「まず...くなさそうだ」
「え?」
スマホから目を離すと、進化体に古雪さんがくっついていた。そのまま刀を降り下ろす。なにか叫んでいるように聞こえるけど_______
「よーし。残りを一気に片づけるぞ!」
「...待ってタマっち先輩!ダメ!!」
「え?なにがだよ」
「あの進化体...もう一体いる!!」
恐らくレーダーを見ているのは私だけ。皆のいる位置からは見えない角度から、早いのがもう一体迫っていた。私達の場所からすぐにじゃないと間に合わない________
「二体目!?場所は!?」
「あっちの方!!」
「よし!杏はここで待ってろ!」
「......」
躊躇なく飛んでいくタマっち先輩を見て、私は足を踏み出した。
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平気な足で樹海を駆けていく。敵は油断しているのか速度は遅め。でもこのままだと追い付けない。
(飛び道具のあるタマがなんとかしないと...)
「でもどうやって当てたらいい。普通にやったら避けられる...」
古雪や若葉のように強くはない。でも、タマがどうにか__________
「タマっち先輩!投げて!!」
「杏!?」
後ろからした声に振り向くと、当たり前のように杏がついてきていた。
「待ってろって!」
「絶対攻撃は当たるから。力一杯投げて!!」
その顔を見て。決断はすぐだった。
「了解!」
「...そこ!」
タマの旋刃盤と、ワンテンポ遅れて杏の矢が進化体に迫る。
「っ!」
進化体は、後ろに目がついてるんじゃと言わんばかりの動きでタマの攻撃を避けた。
「大丈夫」
横を通り抜けた直後_________杏の矢が、旋刃盤とタマを繋ぐワイヤーに当たる。
軌道が逸らされた愛用の武器は、進化体を切り刻んだ。
(はじめから狙いはワイヤーだったのか!)
「私も守られてるだけじゃ、ダメだから」
「...よーし!あいつらと合流して、残りを一気に片付けるぞ!」
「うん!!」
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「......んー!うまい!!」
珠子の用意した秘密兵器(うどん)は回収され、今杏に食べさせてもらっている。
「腕は...大丈夫なのか?」
「ただの脱臼だって」
「軽い怪我でよかった」
「窮屈だから取っちまいたいくらいだけどな~」
「だめ!怪我が長引いちゃうよ!!はい、あーん」
「別に食べさせてもらわなくても...」
「あーん!」
「あ、あー...」
ちゅるちゅると音をたてて球子の中へ入っていくうどん。
「...あの、タマちゃん。私も一口もらっていいかな」
「友奈。あのうどんは球子のいわば戦利品だ。一口くれなんてはしたないぞ」
「若葉ちゃんこそヨダレヨダレ!!」
「っ!?」
口元を拭うと、確かに冷たさが手についた。
「若葉ちゃんも食べてみたいくせに~」
「そ、そんなことは!!」
「なんだ~若葉?そんなに食べたいのか~?」
騒いでいるうちに、お手洗いにひなたが消え、代わりに古雪が入ってきた。
「あ、椿君検査お疲れ!」
「そんな大したものじゃないさ。というか時間喰わされただけだった...」
「でも、庇ってもらったタマがこんな怪我なんだから、検査も当たり前だろ?」
「庇いきれてないからだよ。それは...ごめん」
「気にするな!寧ろありがとうな!」
「私からも...ありがとうございます。古雪さん」
「......どういたしまして」
ぼそっと何か別の言葉を言ったようにも聞こえたが、聞き取ることは出来なかった。
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お手洗いで、強烈な思いを伝えられる。いつも突然で、意識が刈り取られそうな。
「今のは...神託」
その内容は__________
「...不和による、危機?」