古雪椿は勇者である   作:メレク

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今日も無事投稿。読んでくださってる方ありがとうございます!

頂いた感想に、視点がころころ変わって読みにくい。とありました。のわゆキャラは口にせず思うだけなのが多いので、どうしてもそのキャラに話させようとすると変えちゃうんですよね...申し訳ない。

この話は頂いた時点で書き上げてたので無理でしたが、今後はなるべく視点変更抑えめを心がけたいと思います。確約はできませんが...ま、まぁ何はともあれ今日もお楽しみ頂ければ。

下から本文です。


8話 いつかの甘酒

「......」

 

温泉に浸かり、一人熟考する。どうせ今日は一人きりだ。

 

俺達が訪れていたのは旅館だった。巫女であるひなたが受け取った神託によれば、少しの間バーテックスの進行がないらしい。慰安もかねての温泉旅行。

 

こうして来る時期を言って貰えれば、集中力のオンオフがしやすいから助かる。

 

(...いや、そういった油断が命取りなんだ)

 

実際、俺は守りきれていない。命を落とすことはなくても、郡は一度矢に貫かれ、土居にいたっては軽くない怪我をした。

 

『死ねぇぇぇぇ!!!!』

 

この間の戦闘、後半は覚えていない。進化体に食らい付いて発した言葉を境に、次に気づいたら樹海化が終わっていた。

 

(っ...俺の装備は他の勇者より数段上なのに...)

 

切り札があっても、ある程度の優位性は俺が持ったまま。

 

(...切り札、精霊)

 

あまり良い思いがないのも当然だろう。未来の精霊は人の死すらねじ曲げていた神の使い。この世界は少しタイプが違えど、戦闘力強化のメリットばかりではない筈。

 

(......)

 

『なせば大抵なんとかなる!』

 

(...あぁ。分かってるさ。歴史が変えられないなら、きっと俺は呼ばれない。つまり、ここにいるということは、全て変えられるということだ。そうに決まってる。そうじゃなきゃ...俺は)

 

水音が、やけに耳に響いた。

 

 

 

 

 

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「身に染みるなぁー...」

「おじいちゃんみたいですよ。若葉ちゃん」

「折角の休養だしなー...旅館のご厚意で貸し切りにしてくださったんだし、満喫しないと失礼だろう」

 

緩みきった若葉ちゃんの顔を写真に収められないことを悔やみつつ見ていると、脱衣場の方から声が聞こえてくる。

 

「タマが一番風呂のつもりだったのに!三番目は渡さん!」

「タマちゃんが旅館探検いくぞ!って言い出すからじゃ...」

「若葉さんの顔、緩みきってますね」

「...」

 

各々かけ湯や体洗いをすませてお風呂に入る。

 

学校のいつもの六人で_______正確には七人だけど、椿さんは別室だ________温泉旅館に泊まる。ちょっとした修学旅行気分だ。

 

「さーて。定番の身体チェックといこうか。持たざる者を置き去りにして、遥かな高みへ成長しているのは誰だ!見せタマえ!!」

「え、えと...」

「球子、ひなたへは触れさせんぞ」

「タマっち先輩、温泉は人の体を調べる場所じゃないよ」

「...杏。お前も成長してないか?」

「え?」

「許せーん!!!」

「きゃぁっ!?タ、タマっち先輩だ、だめ...ひゃう!」

 

犠牲者が増えてしまったが、ターゲット(私)が助けに行くわけにもいかず、すすすーっと離れた。

 

「そういえば皆、病院の検査でおかしなところなかった?」

「私は特にない。友奈こそ影響はないのか?」

「切り札(一目連)の疲労が残ってる以外は健康そのものだって」

 

勇者の力は未知数な所が多く、戦いが始まってからは検査の回数も激増した。友奈さんは具風の精霊、一目連を。千景さんは同時存在の精霊、七人御先を使ったとのこと。

 

「タマも完全な健康体だ。脱臼もすぐ治ったしな」

「はぁ...わ、私も昔より体が丈夫になったくらいです」

「私も体は問題ない。敵を殺さないといけないから...怪我も病気もしてられない」

 

千景さんは実家に戻った頃から、訓練にも戦闘にも鬼気迫る勢いで挑んでいる。と若葉ちゃんから聞いていた。巫女である私は組まれている時間割が違うから、直接その姿を見たことはない。

 

(大丈夫でしょうか...)

 

熱意を注ぐのは良いことだけれど、無茶のし過ぎは体に毒。何もなければ気にすることもないけれど_______

 

(...椿さんも)

 

あの人も、どこか無理をしている気がする。記憶を無くして異性ばかりの中戦わなきゃいけないから無理をして当然なのかもしれないけれど。

 

(若葉ちゃんのことならすぐわかるんですけどね...)

 

「なにじっと見てるの?」

「い、いやなんでも...」

 

例えば、千景さんの変化に微笑んだところをつっこまれ、今は(こういうところは変わってないな)と思う若葉ちゃんとか。

 

 

 

 

 

「はー、満腹」

「じゃあな」

「え、椿君行っちゃうの?」

「ご飯食べるのも別々で良かったんだぞ?簡単に女子の部屋に男子を招き入れるな...変に緊張してるやつもいるしな」

 

ご飯を食べ終わって早々、椿さんは自室に戻っていった。

 

「つれないなー...よし、古雪はほっといてゲームでもやろう!!」

 

言い出しっぺの球子さんは、千景さんに瞬殺されて部屋の隅で体育座りしていた。杏さんも。

 

(将棋、人狼、色々やったのですが...)

 

「さすがぐんちゃん。全勝だね」

「得意...だから」

「この勝負は一勝一敗だ。今度こそ勝ち越させてもらうぞ」

 

今はトランプで遊ぶスピードの決勝戦。最初こそ慣れないゲームに若葉ちゃんが戸惑っていたけれど、どんどん上手くなってきていた。

 

「絶対...負けない...あなたには絶対...」

 

同時に、比例して険しくなっていく千景さんの顔。

 

「僅差だが、これで!」

「はむっ」

「ふぁあぁぁ!!?」

 

若葉ちゃんが最後のカードをテーブルに置く前に、耳を甘噛む。

 

(若葉ちゃんの弱点、把握していない筈がありません♪)

 

「ひなた!?急になにを!?」

「ラスト」

「あっ!!」

「勝者!ぐんちゃん!」

 

食べられてとろけた顔をする若葉ちゃんも、今落ち込んでいる若葉ちゃんも可愛い。

 

「く、くすぐったいだろう...!」

「ダメですよ。怖い顔しちゃ。ゲームなんだから楽しまないと。若葉ちゃんの弱点は把握しきれていますからね」

「弱点!?」

「どこですか!?」

「復活したぁ!?」

「ズバリ、若葉ちゃんの弱点はみ」

「こらー!!!」

 

 

 

 

 

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旅館の人から借りたパソコンとスマホを繋いで、液晶画面の文字を見る。

 

映されているのはバグのような文字列。

 

「ダメか...」

 

激化する戦いを予測して、なりふり構っている暇もあまりない。そう思った俺は、自分の切り札を取り出そうとした。

 

(戦衣のデータ...ダメなのか)

 

ある程度の量産が可能な戦衣のデータを大社に譲り、現勇者の性能上昇を計ろうとしたのだ。

 

結果は無様なものだった。

 

「くそっ。専用の機械があっても、これじゃあダメだな...」

 

一つに、解析する機械がない。大社本部ならあるかもしれないが、基本300年後のオーバーテクノロジーを把握できるものなどないのだ。

 

もう一つは______こっちの方が重要だが______この防人のシステムに、プロテクトがかかっていた。手元にきてから俺はそんなことをしていないから、情報漏洩を防ぐために春信さん含めた大赦が仕組んだものか、過去にくる時点で止められたのか。

 

「変身できるだけ助かるが、これじゃあ...はぁー」

 

既に夜。部屋の電気もつけてないため目が疲れた。

 

(......)

 

前にも、こんな光景を見たことがあった気がする。あの時も銀を失ったことで気が参っていて、世界の色が薄く見えて________

 

(...皆に、助けてもらった)

 

皆はいない。世界は暗いまま。

 

(...ちょっと、出るか)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「おい待てって」

 

部屋の出入口近くまで逃げたひなたが、ピタリと動きをとめた。

 

「...ひなた?」

「何事にも真面目に取り組む。それは若葉ちゃんの美点です...でも、自分の周りの人のことも、もっとよく見てあげてください」

「ぇ...」

 

唐突に、真面目な顔をした彼女から言われた言葉が頭に入らない。

 

「さっきだって...」

「さっき?」

「...いえ、これは自分で気づかないと意味がないことですね」

 

(...どういうことだ。ひなた。よく見ろ...?)

 

そそくさ戻ってしまうひなた。

 

(......ひなた、お前には何が見えている...)

 

 

 

 

 

それから夜も深くなり、皆眠ってしまった。悶々とした私は窓の外を眺める。

 

眼下の町は都会なだけあって、深夜になっても明かりが消えることはない。

 

(...あれ)

 

ほぼ真下を覗くと、隣の部屋で寝ているはずの古雪が歩いていた。

 

「こんな時間に...」

 

静かに部屋を出ると、階段のところで上って来ていた彼と遭遇する。

 

「乃木...なにやってるんだ?もう遅い時間だぞ」

「古雪の姿が見えたからな。手に持っているのは...?」

「甘酒。どうせ寝れないんだろ?一杯飲むか?」

 

古雪の部屋に通されるなんてことはなく、宿泊者が誰でも使える談話室に入る。貸しきりのため人は誰もいない。

 

「古雪は普段こういうもの飲むのか?」

「...いや、久々」

 

置かれていた紙コップに白く濁った液体が注がれる。

 

「それで。どうしたんだ?」

「......」

 

気づかれたことに驚きつつ、話すべきか悩む。リーダーである私が弱音を吐いても良いものなのか。

 

「...俺の気のせいか」

「...悩み事は確かにある。だがひなたに言われたんだ。自分で気づけと。だから...すまない」

 

もどかしさが体を巡る。どうにか紡いだ言葉は、なんてことないものだった。

 

「......ならいいんだけどよ」

 

ぐいっと甘酒を一気飲みする古雪。

 

「お、おい。体に悪いぞ」

「別にリットル単位で飲んでる訳じゃないから...なぁ」

「?」

「甘酒で、酔えると思うか?」

「へ?」

 

突然の質問に、一口甘酒を飲んでから答える。

 

「...これは甘酒って感じもしないし、まずアルコールは入ってない。場酔いでもしない限り無理じゃないか?」

「......だよなぁ。こんなもんで酔えるわけねぇよな」

「...なぁ、古雪は何か」

「別に何もない。早く寝ろよ?おやすみ」

 

それから数分、私は動くことができなかった。

 

残った甘酒は、上部の方だけ透けていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

買った甘酒はリットル入ってて、紙コップ二つの量使ったくらいじゃ減った感じもしない。

 

「...」

 

その残った甘酒をイッキ飲みした。途中から飽きてあまり気分は上がらない。

 

「...酔えるわけ、ねぇじゃん」

 

そのまま、容器を捨てた。

 


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