古雪椿は勇者である   作:メレク

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友奈ちゃん誕生日おめでとう!!

ということで設定話も合わせれば記念すべき2桁最後の話(100話の方が記念とか言ってはいけない)。本編の椿はだいぶあれで、暗い展開が続いてますが...祝ってもらおう。

一応アフターストーリーのとも繋げることが出来るようにしました。久々だからちゃんと甘くキャラを書けてるかな?

下から本文です。


誕生日記念短編 君と共に

「それじゃあ、行ってくるね」

「楽しんでこい」

「いってらっしゃいお母さん!」

 

あくまで普段通りを装いながら、出掛けていく彼女を見送る。

 

「ほら美桜(みお)、準備するぞ」

「は~い!」

 

まっすぐ育ってあと少しで中学入学という古雪美桜は、妻に似て可愛すぎて嫁に出したくなくなるが、ひとまずそこは置いといて。

 

「ちょっと電話するから静かにな」

「うん!」

「元気良すぎ」

「うん...」

 

静かに一週間前から準備してたわっかを飾る美桜を見ながら、スマホで電話をかけた。

 

「もしもし」

『もしもし。母さんは?』

「今出ていったよ。そっちは?」

『ケーキと食材確保。今誕プレ買ってる』

『荷物持ち私なんだけど!』

『今度お前の荷物持ちしてやるから』

『ひ、昼御飯も奢ってもらうからね!!』

 

連絡相手は息子の快斗(かいと)。今度中三で彼女持ち。

 

「自分の母親の誕生日プレゼントを彼女と一緒に買いにいくとか...」

『中三で七人もハーレム築いてた父さんに言われたくない』

「うぐっ...」

『大体、加奈(かな)は幼なじみで彼女じゃないって...家族ぐるみの付き合いだろ?』

『そうですお義父さん!!』

 

(少なくとも彼女の方は思ってなさそうだぞ...この鈍感さは...俺に似たんだろなぁ......すまん)

 

電話の向こうに聞こえないよう息をついて、また口を開く。

 

「じゃあ、六時より前に帰ってこいよ。飯作らなきゃならんし」

『分かってる』

 

クールなキャラと異常な程の気遣いが魅力的で、学校でファンクラブが出来てるとか。その上多感な中学生なのに親の誕生日を自ら祝いたいと言うくらいなのは、母親の方に似たんだろう。

 

『今日は俺も手伝うから』

「任せた。じゃあまた後でな」

「お父さん!わっかつけた!」

「よしよし...じゃあテーブルの掃除頼める?」

「わかった!」

 

続いて電話相手を変えてまたかける。数コールの後、相手と繋がった。

 

「もしもし。友奈を頼む」

『もしもし。友奈ちゃんをよろしくお願いしますね』

 

互いに淡白なものだが、事前にやりとりはしてたし、俺達にはこれでいい。

 

(二段サプライズ...気づかず喜ぶ姿が今でも思い浮かべられるのは、友奈らしいというか...想像以上にできるようがんばらなきゃ)

 

「よし...」

「お父さん」

「ん?どうした?」

「私達が生まれる前は、どうやってお母さんをお祝いしてたの?」

「え、えーと...何回も祝ったけどさ......」

 

一番記憶に残っているのは、遡ること十数年、あれは確か__________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

腕を組んでいると彼女の暖かさが心まで伝わってくるようで嬉しい。と言うと、それから出かける時ほとんど腕を組むようになった。

 

「友奈...」

「どうしました?」

「...呼んだだけだ」

「ん...嬉しいなぁ」

 

こんな無意味とも捉えられるやり取りだけで、俺は嬉しくなる。反面、不安な所はあった。

 

彼女は俺といるときいつも嬉しそうで、それが彼女らしさではある。明るくて、前向きで、皆のためになることを勇んで行う。

 

でも、俺といるときはもっと特別に喜んで欲しい。と思うのは、彼氏の傲慢だろうか。

 

(...まぁ、友奈がどう思ってても、今日で区切りをつけるんだけどな)

 

彼氏彼女の関係は今日で終わり。そう思って、バイクを起動させた。

 

ポケットに入ってる一つの箱を、大切に確認しながら。

 

 

 

 

 

「ついたぞ」

「わ~!」

 

ついたのはとあるテーマパーク。三月の末に近くなればその花々は花を咲かせる。

 

花が好きな彼女の為に調べたこの場所は、頼むととあるサービスをしてくれる。

 

(らしくないけど...やるからには思いっきりだ)

 

目玉は、夕暮れに乗る観覧車。

 

 

 

 

 

「椿先輩!!今日は本当にありがとうございました!!」

「大切な人の誕生日なんだ。寧ろ今日一日ずっと俺といてくれてありがとうな。家族で祝いたかったりするだろうに」

「お母さんもお父さんも『椿君ならいい!』って...」

「おいおい...」

 

日は段々と落ち、その花畑が見えにくくなる。

 

(調べた時間ではベストなはず...)

 

「綺麗...でも、もう少し早く乗ればよかったですね」

「そんなことないさ」

「え?」

「そっち、よく見てな」

 

建物の影に隠れて、日が一気に届かなくなる。

 

「...え?」

 

次の瞬間、頼んでいた俺ですら目を奪われた。

 

花畑の明かりを隠すことになった建物に、文字が浮かび上がる。

 

「友奈。誕生日おめでとう...?」

 

そこから一気に照らされる花畑。満開の花たちは夜空を彩る星より綺麗で。

 

事前に申し込んだ文字を浮かべてくれるプロジェクションマッピングと、それに合わせたライトアップ。

 

「こ、これって...」

「友奈」

 

おどおどしてる彼女に向けて片膝をついて、一つの箱を向ける。

 

「いや。結城友奈さん。俺はあなたのことを愛している。これを受け取って、これからも俺と一緒に過ごしてくれませんか?」

 

中に入っているのは銀色に光る指輪。

 

目を見開いた友奈の顔が面白かったが、やがて状況を理解したのか、涙を流しだした。

 

「え、友奈?」

「ううっ...椿先輩!!」

「うわっ!?」

 

彼女が押し倒して来て、頭を思い切り床に打ち付ける。指輪がどこか飛んでないか不安になったが、友奈が両手で掴んでいた。

 

「...なにすんだよ」

「だって...だって!嬉しくて!!」

 

涙目で必死に訴えてくる彼女が可愛すぎて抱きしめた。抵抗することなく体を預けてきてくれる。

 

「...私は、あなたのことが大好きです。あなたと一緒に生きたいです。こんな私でよければ、よろしくお願いします」

「...ぷっ」

「な!?」

「いや...だって...涙と鼻水でぐずぐずで」

「!は、恥ずかしい...見ないでください!」

 

俺は、こんな彼女を好きになったんだ。だから別に恥ずかしがることなんかない。

 

そんな考えが言葉に出る前に、恥ずかしがって離れていく彼女を抱きしめ、キスをした。

 

「しまりが悪いし改めてするか...結城友奈さん。俺と結婚してください」

「先輩...本当に、私でいいんですか?」

「...友奈以外、選べない」

「...嬉しいですっ!!喜んで!!」

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「お父さんキザったらしいね!それに、そのまま夕飯も食べて、朝帰りしたんでしょ?」

「待て美桜。そんな言葉どこで覚えてきた」

「ノブさん!」

「春信潰す」

 

「俺はお前を許さない」とだけメールを送りつけ、必死に弁明する。

 

「今のはな?ちょっと盛ったというか...」

「じゃあ、お母さんを愛してるのも嘘?」

「...そんなわけないだろ」

「ならいいんだよ!」

「...それもそうか」

 

あれが俺達二人らしいのかもしれない。

 

「お母さんから話聞いてたから、内容分かってたけどね!」

「...そうだよ。朝帰りまで知ってて何で俺に話させた?」

「あ、お兄ちゃんお帰り~!」

「おい美桜ちょっと話せ!」

 

結局娘からははぐらかされてなにも聞き出せなかった。

 

「父さん騒がないで。準備しないと」

「...あぁ。てきぱき動けよ。時間あんまないから」

「さっき加奈から『もうパーティー終わったからって伝えて』って連絡来たらしいよ」

「本気で急げ!!!」

「ラジャー!」

「へーい...やっぱり、父さんが一番母さんのこと好きだよな」

「今さらだよお兄ちゃん」

「...それもそうか」

「お父さんみたい~」

 

豪勢な料理をタイムアタックで作るという、一瞬で騒がしくなった俺達に気にすることなく、時間は過ぎていく__________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「うーん...」

 

花束を持って自宅へ帰る。突然皆がハッピーバースデーと言い出して、それから今日が自分の誕生日だと気づいた。

 

(でも、うちの子たちは...忘れちゃったんだろうな。昨日までそんな話してないもん)

というか、自分も忘れていた。

 

長男の快斗は加奈ちゃんとお出掛けするって言ってたし。

 

(去年は、凄く盛大に祝ってもらったんだけどな...)

 

毎年毎年、皆からのプレゼントで私の部屋は彩られていく。写真たて、美桜が書いてくれた絵。快斗が作ってくれた肩たたき権。そして__________あの人がくれた、今も左手の薬指に収まっている指輪。

 

「ただいま」

「おう、おかえりー」

 

リビングの方から聞こえる声だけで心が嬉しくなるのを思いながら、 変に思われないよう花束を玄関の見えにくいところに置いてから向かう。

 

中に入った瞬間、パンパンと音が鳴り響いた。

 

「わぁなに!?」

『ハッピーバースデー!』

「え...えぇ!?」

 

びっくりしすぎて尻餅をついてしまう。

 

「母さんは相変わらずこういうの弱いなぁ」

「お母さんお誕生日おめでとう!」

「!!!」

 

目がぶわっと潤んだ。

 

「サプライズ成功...誕生日おめでとう。友奈」

「...みんなぁぁぁ!!!!」

 

三人にがばっと抱きついて、目の前にいた夫にキスする。

 

「きゃー!」

「おおっと...」

「おいんぐ...ぷはっ、お前、子供たちが見てるからん...おいお前ら見てないで止めろ!」

「お母さんやれやれー!」

「美桜、先にご飯食べてような。母さんのメインは父さんだから」

「はーい!」

 

私の誕生日は、日付が変わるギリギリまで続いた。

 

「大好きだよ!!」

 


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