現実逃避と異世界転生者   作:「NULL」

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現実から逃げ続けていたその先で目を開けたらそこは異世界だった。

現実を受け入れる間もなく迫り来る化け物の群れに少年は、その感情を顕にした。

その先で現れる少年の中にあるもう1人の彼に、少年の視界からその色は失われるのだった。


二人の少年

そこを、言葉で表現するなら地獄だった。

 

人が焼けて焦げる臭い、飛び交う暴言や騒音、命が尽きる前の断末魔の叫び、変形する地形、鋭利な刃が交わる音、聞いたことのないような化け物の鳴き声。

 

その全てを五感が捉える。

足元に転がるのはかつて人だった者の頭部のようなもの。

まだ現状を受け入れられないでいる少年に足早に近寄る化け物の群れ。

その化け物の姿を目にした少年は本能的に死を悟った。

迫り来る小型の獣の化け物がひどく遅く感じた。

人は死を悟ると思考が加速し、いわば走馬灯のようなものを見るという。 しかし "それは"果たして。

 

化け物が低い声で唸りながら、鋭い爪を少年に向け襲いかかる。

が しかしその爪は少年をかすりもせず、空を斬る。

そのあとすぐに 化け物の群れはすぐに距離を取り、少年を中心として

取り囲むように散らばり 徐々に距離を詰めていく。

 

その瞬間、少年の中にあった何かが切れた。

 

彼は敢えて、化け物に背を向けるように佇んだ。

間もなくして群れの中でもひと回り大きな化け物が少年に向かって飛びかかったのを合図にして次々に化け物が襲いかかる中、少年の思考は落ち着いていた。彼の眼に映る有象無象は、やけに遅く "まるで色を喪った"かのように見えた。

化け物は少年の姿を捉え、次の一撃で確実に仕留めると確信したかのような捕食者の睨で少年の姿を捉えたのは1秒も満たない時間だったが次の瞬間にはもう少年の姿は化け物達の視界には居なかった。

一瞬の出来事で混乱している化け物の群れは、1匹また1匹とその数は確実に減っていった。

何が起きているのかわからぬまま化け物の中でもひときわ大きい化け物が危険を悟り本能的に逃げ出した。

ひときわ大きな化け物は地面を一蹴りいれると、その地面はひび割れ土煙を巻き起こしながら、空を飛ぶかのような勢いで走り出そうとしたその瞬間、化け物が捉えた視界にはかつて自分の一部だった身体がそこに見え、そのすぐ隣に血で染められた不敵に笑う彼の姿が見えたのを最後に今まで捕食者だった化け物に感じたことのない感情を抱きながらその感情は"恐怖"と表現するには余りにも突然すぎたのだった。

 

 

少年は落ち着いていた。その落ち着きとは反比例して高鳴る心臓の鼓動がうるさく思いながらも、化け物共が皆いっせいに飛びかかって来るのを酷く 遅く感じた。

彼の眼に映る全ては皆、"色を喪い"その全てを"封じ"、"相殺し"、"映し出す"。化け物共からすれば一瞬の出来事だろう、しかし彼にとってはどれだけ早かろうと、砂時計を逆さまにして全部の砂が落ち切るまでを待たされるような感覚に近かった。

彼は殆ど時間の止まっているかのように見える色の無い世界に足を動かし、近くに落ちていた骸が持っていた刃物を手に取り、化け物共の群れにゆっくりと近付き、その首と胴体を切り離した。生ぬるい 赤い血飛沫が彼を包み込み血塗られた顔は不敵な笑みを浮かべている事には気付かずに、一目散に逃げ出すその化け物の首と胴を切り裂いたその感覚がまだ手に残っているなか、切り離したかつて化け物の一部だった首の上に見えるその睨と目が合い、先程まで少年に向けていた捕食者の瞳はもうそこにはなく、ただ少年に向けるのは"恐怖"という名の感情だと気付くのには、余りにも遅すぎた。

 

 

「え.....なにが起きたの.....?」

眼を開けるとそこを言葉で表現するには酷すぎた。

見えるのは無残に惨殺された化け物の胴体と首が切り離された死体に、その返り血を浴びた少年が持っているのは刃の綻びた小刀だった。

返り血は浴びている物の不敵な笑みを浮かべていた彼ではなく、今にも泣き出しそうな自信のなさげな瞳をした、どこか頼りない少年だった。

 

その光景をしばらく見たあと少年は何も考えずに、ここがどこかもわからないままその場から逃げだす。

その光景はずっと前から少年が今までやっていた事と同じようにまた繰り返す行動はただの"現実逃避"だった。

 

辺りはもう薄暗く、来たことのない場所で目的地もないままに一心不乱に走り続けて少年の視界に見えたのは淡い明かりだった。

闇と影しか少年の視界に映らなかったのもあり、少年はその明かりをただ目指して心のどこかで期待をしながらもその明かりの前まで辿り着いた。

 

そこで見えたのは確かに人の居た形跡がある簡易テントに焚き火の周りに食器が並べられていた、先程見えた明かりは焚き火の火だとわかり、しばらくして簡易テントの中を見たがその中に人は居なく周りも闇に包まれているので1歩闇に足を踏み入れたらそのまま帰って来れなくなりそうな、そんなどこかこの場所だけは孤立したような感覚と安心した感覚が入り交じっていた。

 

腰を下ろそうとしたその矢先に後ろの闇から何者かに羽交い締めにされて、首筋に刃物を突き付けられた。

その瞬間、少年は先程見た無残に惨殺された化け物の胴体と首が切り離された死体を思い出し、その"恐怖"で少年の中にあった何かがゆっくりと姿を現した。

 

薄く目を開くとやはり彼の眼に映る全ては色を喪っている。目の前に見える焚き火の明かりも闇に半分紛れながら少年を羽交い締めにしている何者かも全て色を喪い、また誰も動かない孤独な世界に少年は独りで佇んでいる。しかしその顔は自信のなさげなどこか頼りない少年と違い、不気味に闇に半分紛れながら笑うその不敵な笑みは、化け物達を惨殺した時と同じ、あの少年だった。

 

彼の中には二人の人格があり、普段は自信のなさげな瞳をしたどこか頼りない少年だが、その少年の感情によってもう1人の"彼"は現れる。

"彼"と"少年"は違うように見えるがどちらも同じ"少年"だった。

 

彼は間もなくして羽交い締めにして首筋に刃物を突き付けている 何者から刃を奪い取りその刃で彼は闇に紛れている何者かの首筋を引き裂いた。

 

少年の瞳に色が戻り、また見えるのは焚き火の明かりと深い闇だった。 しかし少年の手に残っている感覚は今までと違い引き裂いたはずの何者かの死体はおろか、姿も見えなかった。

そして闇の向こうから何者かの声が聞こえてきた。

 

「あの一瞬でよく抜け出せたな?なかなかやるじゃねえの?」

 

そう言って闇の中に紛れている何者かがゆっくりと姿を現す。

深くフードを被り全身は黒いコートで包まれて、顔は見えないが少し高めの身長に芯の通った声をした男は、名前を龍斗と名乗った。

 

「何のことをいっているんだ? 僕は何もやった覚えはないんだけど....」

 

少年は思ったことをそのまま言った。彼が現れている時は少年の身体と意識は彼が使っているので、少年が覚えていることは少ない。

 

「ははっ! お前 面白いこと言うじゃねえか?気に入ったぜ、この先の街に寄っていくんだがお前も一緒に来るか?」

そう言って龍斗は明るく少年を誘ったがその眼からは何一つ真意を悟らせなかった。

 

「それじゃあ僕もそうさせてもらうよ。ちょうど行く場所もわからなかったし。」

 

「おぉ?そうかい、今日はもう日も暮れてしまったからここでキャンプして明日行こうと思うんだがそれでいいかい?」

 

「そうしてもらうと僕も助かるよ。」

 

「へぇ〜そうかい それじゃあ適当に寝といてくれ?俺は見張りがあるんでね」

意味ありげにそう言って龍斗は闇の中に姿を消した。

 

空を見上げると星はなく、目を閉じると瞼の裏に焼き付いた 忘れたい記憶が現れ、眠ると夢で見るのは不敵に笑いながら惨殺する血に塗られた彼の夢を見る。

少年は深い眠りには就けず、目を開いたら全てが夢であってほしいと願いながら思い重い瞼を閉じた。

 

 

 




今回はオリジナルという事もあって自分の書きたい世界観や主人公などを書けたのでかなり自分では満足しています!
もしなにか感想だったりアドバイスなどがあればどんどん受け付けてますのでどうぞよろしくお願いします。
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