新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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第一章 California gurls
その1


VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第一章 California gurls

 

【 1 】

 

平成二十二年(2010)の警視庁汚職事件、 そして平成二十三年(2011)の新宿神室町ゾンビ事件、その両方に巻き込まれた澤村遥に対して、心的外傷後ストレス障害を懸念した養護教諭の判断により、一ヶ月の自宅静養が決定した。遥本人は、すっかり荒事慣れしてしまっているので、特にダメージを受けたとは思っていないのだが、学校側からの申し渡しなので、喜んで休みを貰う事にした。

普段は学校に行っているのでなかなか手を付けられない、アサガオの台所の掃除を、桐生と一緒に隅々までしたりして、それはそれで楽しい日々が始まった。

そんなある日、アサガオの前に一台の車が停まった。黒いセンチュリーである。降りて来たのは、黒いスーツの男で、明らかな堅物である。

誰何した桐生に対し、男は名刺を示しながら、現防衛大臣の田宮隆造の秘書官だ、と答えた。午後七時に、市内の某料亭に二人で来て欲しい、と言う。遥は、アサガオの皆に晩ごはんを食べさせてからなら良い、と答えた。男はその答えを予期していたようで、快諾すると、午後八時頃に迎えに来る、と言い残して一度引き取った。

夕方、子供達がタ食を終えた頃に、再びセンチュリーがやって来た。二人はそれに乗り込み、某料亭へと案内された。

料亭の離れに通されると、既に料理が並べられており、そこには田宮隆造本人が座っていた。

「悪いが、先に始めさせて貰っているぞ」

田宮は猪口を差し上げて、赤ら顔をほころばせた。

桐生が遥を促して席に着くと、田宮は徳利を差し出した。桐生は猪口を一口で干すと、田宮を真正面から見据えた。

「で、用件は何だ?」

そう言う桐生に、田宮は笑って酒をあおった。

「そうせっかちでは、政治家にはなれんな」言ってから、少し表情を改める。「実はな、アメリカに居る、風間譲二から連絡があってな」

「風間から?」

桐生は眉をしかめた。

「澤村さん、何でも、今は休学中だそうだな?」

猪口を置いて、田宮が尋ねた。

「はい。そうですけど…」

遥は答えると、箸を置いた。

「まあ、これは内々の話しではあるが、君達、特に澤村さんには、新BMDシステムの件や、タナトスの件で、アメリカとしても迷惑を掛けてしまった。そこで、君のこの休学の間に、君達をアメリカに招待したい、とこう言って来たのだよ」

「えっ?アメリカですか!」

遥の中で、夢が一気に膨らんだ。ディズニーランド、ユニバーサルスタジオ、ハリウッド、サンタモニカ…。

「でも…」遥はすぐに意気消沈した。「私、パスポート持ってないし。それに、一人で行っても面白くないし」

「君達、と言ってるだろう」田宮は笑って言った。「恐らく、澤村さんはそう言うだろう、と言っていたよ。心配するな。招待するのは、君達二人だ。何なら、友達を誘っても良いぞ。パスポートの事も心配するな。米政府からの特別な計らいで、パスポートもビザも必要ない」

「そんな都合の良い話しがあるのか?」

桐生はそんな疑問を口にした。

「その問いは最もだ」田宮は手酎で酒をあおった。「そこは、裏ルー卜でどうにでもなるものさ」

「ねぇ、おじさん」瞳を輝かせて、遥が言った。「花ちゃん、呼んでもいい?」

ゾンビ事件以来、遥は花と仲良くなり、メールや手紙でやり取りを続けていた。

「ああ。花さえ良ければな」

桐生は笑って答えた。

「よし、これで話は決まったな。では、三日で用意してもらおう。花、だったかな、大至急連れて来るから、連絡だけは入れておいてくれ」

田宮はそう言うと、新しい徳利を手に取った。

「とりあえず、メシを食って、出発まで存分に鋭気を養ってくれたまえ」

 

出発の日が来た。午後三時頃に、銀とピンク、二つのサムソナイトを引いて、桐生と遥はアサガオの前に出た。そこには、黒いセンチュリーが待機していた。前に来た秘書官である。

二人は、アサガオの子供達と、事情を聞いて留守番を買って出た名嘉原に見送られて、車に乗り込んだ。二人はてっきり那覇空港に行くと思っていたのだが、到着したのは普天間基地だった。基地のゲート前に、風間譲二が立っていた。秘書官は、風間に二人を引き渡して去って行った。

「カズマ、ハルカ、よく来た」

「久し振りだ、と言いたい所だが」桐生は腕を組んだ。「アメリカに行くと聞いていたが、実は米軍基地止まりなのか?」

「No. 民間の空港より、こちらの方がイミグレーションがイージーだからだ」

「どう言う事だ?」

「すぐに判る。案内しよう。ハルカ、ユーのフレンドも来ている」

三人は、控えていたジープに乗り込み、基地内を走り出した。ジープはそのまま滑走路へ乗り入れ、駐機している飛行機の横で停まった。そこには、赤いサムソナイトの横で不安げな表情をした、花が待っていた。

花は、遥の姿を認めると、泣き顔で駆け寄って来た。

「ちょっとー、遥、何よこれー?」

遥は、花の首っ玉に抱きついた。

「花ちゃん、急にご免ね」

遥があやすように言うと、花は周りの米兵を見ながらまくし立てた。

「この人達ヒドいのよ!軍服よ、この迷彩の軍服でよ、神室町のお店までやって来て、『三時間で支度しろ』って言うのよ!さすがの社長(秋山駿)も、目が点だったわよ!」

「ホントご免ね。私が一緒に行きたいなんて言ったから」

「んーん、むしろありがとう、遥。でもね、ちょっとびっくりしちゃったの」

花はそう言って、すぐ横の飛行機を見上げた。遥と桐生もつられて見上げた。

それは、ボーイング747。俗に『エア・フォース・ワン』と呼ばれるものだった。

「これに、乗るの?」

花が呆気に取られて、呟くように言った。

「特別チャーター便だ」

それに答えて、風間が言った。

「これって、大統領専用機よね?」

「今は非番だから心配ない」

「いや、そう言う事じゃなくて…」

花は頭を抱えてしまった。明らかにフツーではないシチュエーションである。

「これなら、イミグレーションなしで入国出来る。この機内、引いてはこの基地自体が既にステーツだからだ」

そう言うと、風間は親指を立てて見せた。

 

普天間基地を午後五時に離陸して約九時間後に、エア・フォース・ワンはLAX(ロサンゼルス空港)に到着した。約十七時間の時差があるので、ロスは出発と同じ日の午前十時である。初めての海外旅行である桐生と遥は、少々面食らってしまった。

「今日の夕方に日本を出たのに、ご飯二回も食べて、結構ゆっくり寝ちゃったのに、まだ今日の朝十時なの?」

遥が目を丸くして言った。

「時差って、最初は私も手間取ったけど」花は笑って言った。「晩ご飯食べて一晩寝たら、朝陽を浴びてすぐ慣れるわよ」

「そんなもんなのか?」

カリフォルニアの四月の乾いた陽光を、サングラスで遮りながら桐生は言った。自分の体内時計が、今の明るさを認めていなかった。

巨大な空港の滑走路に立っていると、まるでテレビドラマで見たような、黄色く乾いた空気が桐生と遥の現実感を奪う。

「映画のセットみてえだな」

思わず桐生の口から、そんな言葉が転がり出た。

「そうだね」遥も笑って同意した。「『ダイ・ハード』とか『ダーティ・ハリー』とかね」

「遥、映画のチョイスが渋いね」

花が笑った。

「だって、おじさんが観るのって、そんなのばっかりだもん」

「あー、諸君、アテンション」

風間が口を開いたので、三人はそちらを見た。

「CIAの仕事はここまでだ。次に会うのは、一週間後、帰国の時になる」

「俺達はこれからどうなるんだ?」

「カズマ、ユー達の入国後のガイドは、FBIに引き継ぐ事になっている」

「FBI?」

「もうすぐオフィサーが来るはずだ」

そう言った風間の背後に、滑走路上を走って来る一台の自動車が見えた。もの凄いスピードで見る見る近付いて来ると、四人の前でドリフトで急停車した。ゴムの焼けるにおいが漂う。

「うわぁ、『ナイト2000』だ!」

花が感激の声を上げた。ドラマ『ナイト・ライダー』のハイテクカーである。

「年がバレるぜ」

桐生が笑って言った。かく言う桐生も、若い頃にトランザムの『ナイト・ライダー』カスタムを個人輸入しようと企んだ事もある。

「いいじゃないですか。好きなんだから」

そんな事を言い合っていると、ナイト2000のドアが勢い良く開き、中からビキニトップにデニムのホットパンツ、ピンヒール姿の女性が降りて来た。車の前に仁王立ちになる。ポップなサングラスで隠され、顔ははっきりと見えなかったが、桐生にはそれが誰なのか、すぐに判った。

「お、お前、まさか…」

「ああ、ホンマに一馬や。久し振りやな」桐生の機先を制するように、女性が口を開いた。「それに、遥。大きなったなぁ。メッチャ可愛いなったやん。それと、あなたは初めましてやな、花さん。来てくれておおきにやで」

呆気に取られている三人に、風間が言った。

「ユー達はもう知っているとは思うが、紹介しておこう。今日からユー達のエスコートをする、FBIオフィサー、カオル=サヤマだ」

「一馬、遥、花、Wellcome to Los Angels!」

狭山薫は爽やかに言い放った。

 

 

つづく

 

20171212

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