新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その2

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第三章 カリフォルニア・コネクション

 

【 2 】

 

ビバリーヒルズ・ホテルの少し東、ノース・ビバリー・ドライブを入って、レキシントン・ロードを越えた所に、一軒の邸宅がある。噴水を中心としたロータリー風のエントランスを持つ、一見普通の住宅だが、ここは知る人ぞ知るセレブご用達の高級レストランである。所謂"アメリカン・フレンチ"を提供するのは、パリの一流レストランで修行した日本人のシェフである。特に看板を掲げる事もなく、広告を打つ訳でもなく、口コミだけで今や政府要人やハリウッドスターも予約待ちの高級店となったのである。屋号も特にないので、シェフの鳴海(ナルミ)廣人(ヒロト)の名を取って「ナルミ」と呼ばれている。

スーツ姿の白人男性に誘導されて邸内に入ると、中も豪華なリビングといった感じで、レストランのイメージはない。

『ここは、以前私の本のミリオン記念で、出版社が招待してくれて、来た事があるの』

ブレナンが、クラリスを促して上座に案内した。シェフ自らが椅子を引いて、クラリスを掛けさせる。

『こんにちは、ナルミシェフ』サラが親しげに声を掛けた。『今日はよろしくね』

『サラさん、いつもお世話になっております』

鳴海が丁寧に頭を下げた。

『ここは、ブライアント家の行きつけのキッチンなの』

サラが事もなげに言う。

『ブライアント家の皆様には、開店以来からのお付き合いを頂いていますから』

『その長いお付き合いに免じて、ちょっとお願いがあるんだけど』

さすがに少し言いづらそうに、サラが切り出した。

『何なりと』鳴海は笑顔で答えた。『外ならぬ、サラさんのお願いだ。遠慮なくどうぞ』

 

和やかに食事が始まった。アメリカン・フレンチとはいえ、板前から修行を始めた鳴海は、適度に和食を狭んで献立を組み立てて行く。カルパッチョではなく刺身だったり、パスタではなく蕎麦だったりと、既に和食が恋しくなっている遥と花には、嬉しいメニューだった。

中休みの茶碗蒸しを口に運びながら、薫が口を開いた。

『クラリス、ちょっといい?ルパン三世って、どんな人なの?』

『カオル、ナイスな質問』ブレナンがそれに食い付いた。『噂には色々聞くけど、逆に色々ありすぎて、実像がプロファイリングしづらいのよ。本人を知ってるクラリスから見て、"快盗ルパン三世"とは、何者なのか、教えてもらえる?』

その質問に、クラリスは穏やかな微笑を浮かべた。

『ふふ、いつ聞かれるかと思ってたけど。ただ、私も彼の全てを知っている訳ではないわ。一九七九年のあの時、たった七日間だけの出逢いでしかなかったのだから』

そう言いつつ、クラリスの頬が紅く染まった。

『でも、大切な人なんでしょ?』

ブレナンに言われて、クラリスははっきりと頷いた。

『ええ。おじさまは、傷付きながらも、私の為に戦って下さったの。本人が聞いたら、茶化してしまうでしょうけど、私にとっては、悪い魔法使いから救い出してくれた、白馬の王子様なの』

その言葉を聞いて、銭形は小さく笑ったが、何も言わなかった。クラリスは、そんな銭形を見て、微笑みながら言葉を継いだ。

『おじさまは、優しくて、紳士的で、心細やかで、クールで、ひょうきんで、セクシーで、シャイで、そして誇り高い人』

「もしかして、クラリスの初恋の人?」

遥が身を乗り出すように尋ねた。クラリスは、遥に顔を向けて、晴れやかな笑顔を見せた。

『ええ、そうね。私の初めてで、唯一の心から愛した人』

その言葉に、遥は憧れの表情を向けて、大きく頷いた。

そんな遥を見て、桐生が不粋に尋ねた。

「何だ、遥、お前にもそんな男がいるのか?」

それを聞いて、遥は耳まで赤くなった。すかさず、薫が桐生の肩を肘で小突いた。

「野暮やなあ。一馬が一番言うたらあかんセリフやでそれ」

その時、サラのスマホが鳴って、すぐ切れた。表示はクドーである。サラは、銭形と桐生に目配せをする。二人は同時にワインを飲み干し、席を立った。

サーモンのムニエルを食べて、神戸牛のステーキを頬ばった所で、急に電気が消えた。まだ陽は高いので真っ暗にはならない。

裏口をこじ開ける音がして、乱暴な足音と共に、四人の男女が踏み込んで来た。

『申し訳ないが、みんな、手を挙げてもらおうか』

リーダーらしい男が、ベレッタF9を突き付けながら言った。他の三人も、てんでに銃を向ける。しかし、リーダー以外は銃の扱いに慣れていないらしく、構えも動きもたどたどしい。正規の訓練を受けているクラリス達は、むしろ危なっかしくて見ていられない。クラリス、薫、サラは思わず漏れる笑いを隠す為にうつむいてしまい、結果として誰一人動かなかった。

『どうした、ビビって動く事も出来ねえのか?』知ってか知らずか、男が居丈高に言う。『判ってると思うが、俺はルパンだ。予告通り、クラリスにはご同行頂きたいんだが…』

男は言いつつ、クラリス、ブレナン、遥、花、サラ、薫の順に目を移した。一端通り過ぎた目線がブレナンに戻って止まった。

『さあ、クラリス、一緒に来てもらおう』

『あら、光栄ね。でもご遠慮するわ。私、クラリスじゃないし』

ブレナンが答えたのと同時に、男と女の悲鳴がした。

『どうした?』

男が問うのと、照明が点くのは同時だった。

自称『ルパン一味』の二人が、銃を取り落して呻いていた。その横に、桐生と銭形が立っていた。

『お前ら、いくら何でもひどすぎるぜ』銭形は苦笑した。『クラリス姫の顔も知らないで、よくルパンを騙ろうと思ったな』

『お前は何者だ?』

『やはりわしの顔も知らんのか』銭形は肩をすくめた。『わしはインターポールの銭形だ。本物のルパンとは浅からぬ因縁がある者だ。今のわしは、お前らを逮捕する権限も持っているぞ』

『やかましい!』

男は銃を銭形に向けた。その銃を、薫が叩き落とした。もう一人は、サラに武装解除された。

『何よこのコ達、本当に素人じゃない』

サラが腰に手を当て、力なく座り込む男を見下ろした。後から部屋に入って来たクドーが、一人ずつ後ろ手にさせて、手首と親指を結束バンドで括った。

四人を一ヶ所に集めて床に座らせると、銭形は『ルパン』の前に立った。

『一応、アメリカらしく、権利を読み上げてやろう。お前らには黙秘権がある。お前らの証言は、裁判で不利になる事もある。お前らは弁護士を雇う事が出来る。雇う金がなければ、公選弁護士を呼ぶ事が出来る。…だったかな』

「何か、海外刑事ドラマみたいな感じだね」

「ミランダ警告って奴ね」

遥と花は、そんな呑気な事を言っている。

『で、ルパンくんとやら』銭形は嫌味たっぷりに呼び掛けた。『聞かせて貰おうか。先ずは名前と、生い立ちから』

『生い立ち?』

薫が怪訝な顔をした。

『こいつらがなぜ犯罪に手を染めてしまったのか、興味があってな』

銭形は、『ルパン』とその一味をねめつけながら言った。その手に、サラが一味の運転免許を渡す。クドーが回収したものだ。

『フザケてるわね、コイツら』

サラが肩をすくめて言った。銭形が見ると、その運転免許は偽造で、それぞれ『カーク』『スポック』『マッコイ』『チャペル』という名前になっていた。

『"スタートレック"かよ』銭形は鼻で笑った。『犯罪者を気取るなら、"ジャック=スパロウ"とか"ルフィ"の方が良かったんじゃねえか?』

ルパン改めカークは、憮然として口を開かない。

『本名を言う気がないなら、それでいい。そんな事は後でも判る』銭形はカークの前にしゃがみ込んだ。『お前らに、ルパンを名乗らせて、クラリス誘拐をそそのかしたのは、誰なんだ?』

カークは気丈に銭形を睨むと、小さく笑った。

『何が可笑しい?』

『俺達が簡単に吐くとでも思ってるのか?そんなに甘くはねえぜ、ゼニガタさんよ』

カークはそう言って足をだらしなく投げ出した。

「いつの間に、『ルパン一味』が『エンタープライズ号のメインクルー』になっちまったんだ?」

言いながら、桐生がカークに近付いた。それを見て、銭形が立ち上がって一歩退く。

「薫、俺の言う事をカークに訳してくれ」

桐生は振り向きながら言うと、またカークに向き直った。

「お前らのボスは誰だ?」

カークは何も答えない。

「黙秘か、いいぜそれでも。ただ、俺はインターポールで警察官の銭形とは違う。元ヤクザだ」

『ヤクザ』という単語に、カークばかりでなく、他の三人も反応した。

「ヤクザだった俺には、銭形のように警察としての制約もないし、一般人のようにお前らに気を使う必要性も感じない。聞きたい事は、拷問してでも聞き出すぜ」

薫が"torture(拷問)"の部分を強調して通訳した。スポックとマッコイ、チャペルの三人は既に怖じ気づいている。が、カークは踏んばった。

『俺を誰だと思ってんだ。いずれ闇社会を牛耳る…』

桐生は皆まで聞かず、カークの頬を右手で張り飛ばした。

「うるせえ。俺達はお前らの悪党ごっこに付き合うほどヒマじゃねえんだ。誰に雇われたんだ?言えよ」

今度は左手で張った。唇が切れ、血を滲ませたカークが口を開く前に、右側頭部をはたく。パンと大きな音がする。更に左側頭部。頭頂、後頭部を、ほぼ等間隔で張り続ける。カークが何か言おうとしても、桐生は取り合わず、ひたすら淡々と頭や顔を張り続けた。

『もう止めてくれ!!』

顔が倍くらいに腫れ上がったカークが絶叫した。

「どうした?もう降参か?日本のヤクザならあと五分は頑張るぜ」

桐生は冷酷な表情で言った。どんな脅しよりも、それはカークの心を砕くのに効果的だった。

『言うよ、言うから助けてくれ…』

蚊の鳴くような声で言うカークの前に、再び銭形がしゃがみ込んだ。

『そうかい、自白してくれるのかい。役に立つ証言をしてくれりゃあ、司法取引もあるかも知れねえぜ』

銭形の方が悪党に見える。

とりあえず一段落したらしい様子を見て、遥と花は肩の力を抜く事が出来た。思わず吐息が漏れる。

「こういう事だったんですね、『犯罪者の逮捕に協力して欲しい』って言うお願いの真意は」

遥の隣に立って、鳴海が呟いた。

「何だかご免なさいね、ご迷惑をかけて」

花が頭を下げた。

「いえいえ、中々エキサイティングなイベントでしたよ」

鳴海は笑顔で言った。

この人も尋常じゃないのね。

花は心の中で呟いた。

 

 

つづく

 

20180407

 

 

 

註:

 

※レストラン ナルミ 全くのフィクションです。

 

先ずは名前と、生い立ちから 『99.9』の深山のセリフより。

 

スタートレック アメリカのTVSFドラマ。「アメリカのレジェンド」である。「カーク」船長、「スポック」副長、「マッコイ」ドクター、「チャペル」ナース。

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