新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS 作:宝蔵院 胤舜
VACANCES IN LOS ANGELS
第三章 カリフォルニア・コネクション
【 3 】
『さて、教えて貰おうか』銭形は立ち上がってカークを見下ろした。『お前らは、誰にこんな事を頼まれたんだ?』
『俺達は、この辺りのストリートでデビューしたばかりだ。ハイスクールでやんちゃしてた延長で、ワルになるしか道はなかった。コンビニを襲ったり、ホームレスをいたぶったりしてイキがってた時に、奴が声を掛けて来たんだ』
『奴ってのは?』
『良く知らねえ。ただ、イタリア訛りで、"マフィアの一員だ"って言ったんだ。奴の仕事を手伝えば、今後バックアップしてくれるって』
『そんな甘言に乗っかったのかよ』
銭形はあきれ顔で肩をすくめた。
『良く信じたわね、そんな話』
薫も首をかしげた。
『俺達は、とにかく名を上げたかったんだ。奴は、"やっつけたい奴がいる。そいつに罪を擦り付けたい"って言って、クラリス誘拐を切り出したんだ』
『お前、クラリスがどんな人間か知らなかったのかよ』
『名前ぐらいしか知らなかったよ。で、そのやっつけたい奴ってのが、ルパンだって』
『しかもお前、ルパンすら知らねえで、本気で悪党になる気はあったか?まあ、なかったんだろうな』
銭形は苦笑いの態だ。
『誘拐の理由は"ゴート札の秘密を手に入れる為だ"とか言っとけば良いって』
『そんな裏設定まであったの』
薫とサラは顔を見合わせた。
『でも、ルパン一味を知らない時点で、そんな設定も役立たずだ』銭形は目をすがめた。『ルパンに恨みを持っている奴か…。そんなモンは"ハマノマサゴ"だな』
『"ハマノマサゴ"?』
サラが首をかしげた。
「浜の真砂は尽きるとも、世にルパン憎し奴は尽きまじ、だ」
銭形は日本語で言った。
『とにかく、ルパンに恨みを持ってる奴は多いって事よ』
薫がざっくりと説明した。
『それって、イシカワ・ゴエモンの言葉のもじりね』
クラリスが微笑みながら言った。
『クラリス、知ってるの?』
『もちろん。十三代石川五ェ門にも助けられましたからね』
『なるほど』
妙に納得して、薫は頷いた。
「イタリアン・マフィアって、ロサンゼルスにもいるのか?」
桐生が腕を組んで首をひねった。
「ニューヨークのイメージがある?」薫が答えた。「彼らはどこにでもおるで。ロスはむしろ、組織犯罪集団の群雄割拠の街やで」
そんな桐生と薫のやり取りを聞きながら、銭形はカークの言葉から生まれた異和感の元を考えていたのだが、やがてある人物像が浮かんで来た。
銭形はもう一度、カークの前にしゃがみ込んだ。
『おい、カーク。お前に声を掛けて来たイタリア訛りの男って、角刈りのゴマ塩頭で、左目に大きな傷があって、アゴのしゃくれた、デカい奴じゃなかったか?』
『ああ。その通りの奴だよ。知ってんのかよ』
カークはふて腐れて答えた。
『何よゼニガタ、心当たりがあるの?』
ブレナンの問いに、銭形はしかめ面で頷いた。
『残念ながら、ある』
『誰なの、そいつ』
『奴の特徴が間違っていなければ、元マカ=ローニ一家のアゴスティーノ=デリ=カリだ』
『デリ=カリですって?』
薫が驚きの声を上げた。
『カオル、知ってるの?』
『ええ、ブレナン。デリ=カリと言えば、最近力を付けて来たギャングの長で、何でも"シシリーの狂犬"と呼ばれてるらしいわ』
『あいつ、まだそんな名を使っているのか』銭形は大きく溜め息をついた。『奴はもともと、ルパン帝国の一員だった、マカ=ローニ一家の切り込み隊長だった。ボスのマカ=ローニがルパン二世を裏切り、帝国は壊滅したんだが、その時若手だった奴は、先峰となって殺戮の指揮を執ったんだ。血も涙もない悪魔のような男だ。まあ、マカ=ローニ一家は、ルパン三世に復讐されて、全滅したけどな』
銭形は言いつつ、カークに憐れみのこもった目を向けた。
『残念だったな、奴はお前の後ろ盾になどなってはくれない。むしろ捨て駒だろう。お前は、奴に騙されたんだ』
『そんな…』
カークは打ちひしがれて項垂れた。
『落ち込んでいる所を悪いけど、デリ=カリの居場所は知らない?』
薫がカークに問い掛けた。カークは無言で首を振る。
『いつも、あっちから連絡があって、次の行動が決まる、そんな感じだった』
カークに替わって、スポックが口を開いた。
『プリペイドで番号も非通知だったから、記録も履歴もないわ』
チャペルも口を揃える。
『ゼニガタ、あんたの言う通りだ』マッコイが真顔で言った。『俺達は騙されていた。今度は俺達の命が狙われるかも知れない。助けてくれ』
『虫の良い話だなぁ』銭形は呆れ顔をして見せた。『クラリス姫の被った精神的・肉体的苦痛を思えば、お前らなどひとからげでアゴ野郎に送り返してやりたい所なんだが…』
銭形はそう言うと、クラリスに目をやった。クラリスは、それに微笑みで答えた。
『姫の寛大なお心で、お前らは警察に引き渡され、法の保護下に置かれる。姫に感謝するんだな』
銭形はそこまで言って、近くの椅子に座り込んだ。
丁度そのタイミングで、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来た。やがて、パトカー一台と、フォードが一台やって来て、若い制服警官二人と黒人の老刑事一人が降りて来る。
刑事は『ナルミ』に入ると、広間にいる全員を見渡してから、銭形に向かってバッジを見せながら声を掛けた。
『どうも、ビバリーヒルズ署のアクセル=フォーリーです。通報はあなたからですか?』
花が小さく息を呑むのが判ったのか、フォーリーは小さく笑った。
『残念ながら、エディ=マーフィーじゃないよ、お嬢さん。ついでに言うと、彼はデトロイト市警の刑事だからね』
フォーリーの答えは慣れた感じがした。何度も同じ説明をしているのだろう。
『インターポールのゼニガタだ。通報通り、予告誘拐の実行犯を逮捕したので、身柄をそちらに預ける。さらに上の組織がいるらしいので、保護してやってくれ』
『上の組織とは?』
『恐らく、アゴスティーノ=デリ=カリの一味だ』
『デリ=カリか!』
フォーリーと制服警官達は驚いた。
『奴が誘拐の主謀者だって?信じられん。奴が人質を取るなどと考えるとは…。奴のモッ卜ーは"皆殺し"のハズだ』
『そうね、にわかには信じ難いけど、本当らしいわ』
薫がFBIのIDを示しながら会話に加わった。
『何だ、FBIまで絡んでいるのか』
フォーリーは目を丸くした。
『まあ、対象が重要人物なもので…』
言葉を濁した薫に、フォーリーは肩をすくめて見せた。
『判ってますよ。FBIの捜査には、所轄は手が出せませんからな』
『そう言う訳ではないんだけど…』
『そう卑屈になることはない』銭形はフォーリーの肩を叩いた。『何せ、こちらにおわす、クラリス=ド=カリオストロ公女が内密に、と仰せなのでな。カオルの心中も察してやってくれ』
『カ、カリオストロ公女!』
『声が高い。そう言う訳だからアクセル刑事、是非とも隠密裡に行動してくれ』
「ちょっと銭形警部。何でバラしちゃうん?」
薫は日本語で銭形に文句をつけた。
「どうせコイツらは権威に弱い。この方が言う事を聞かせやすいだろうぜ」
銭形は日本語で返すと、悪そうな笑みを浮かべた。
『なるほど、そう言う事であれば、我々としても協力は惜しみませんぞ』
急に協力的な態度で、フォーリーは言った。
『申し訳ありませんが、よろしくお願いします』
クラリスもしおらしく頭を下げた。
『いやいや、そんな勿体ない』
公女に直接声を掛けられ、フォーリーは恐縮の態だ。
「クラリスも役者よねえ」
花がポツリと呟いた。
警察関係者達が色々と駆け引きをしている間、少々手持ちぶさただった桐生だったが、ふと耳に入って来た音が気になった。
いつの間にか近付いて来た、水冷V8ターボディーゼルの低い震動を伴うエンジン音が二台分、彼らのいる『ナルミ』の前で停まった。重たいドアが開いて閉じる。その次に聞こえた複数の甲高い金属音に、桐生の背は凍りついた。銃の遊底をスライドさせる音だ。
「伏せろっ!襲撃だ!」
桐生は叫ぶと、遥と花に覆いかぶさる様に床に伏せた。銭形がクラリスを、薫がブレナンを伏せさせ、クドーが日本語に反応出来なかったサラを引き倒した。
次の瞬間、部屋中に弾丸がフル・オートで撃ち込まれた。窓という窓は砕け散り、壁を貫通した弾丸が調度品を破壊する。
状況を理解出来ず、棒立ちになっていたフォーリーと制服二人は、被弾して床に倒れた。
少し遅れて状況を把握したサラが、クドーと共に低い姿勢のままクラリス達を奥の厨房へ避難させる。
桐生達は、制服二人を引き摺って壁の陰に放り込んだ。肩などを撃たれたようだが、命に別状はなさそうである。
『何だこれは!?』
右肩を押さえて、フォーリーがわめいた。血が指の間から溢れている。
『こっちが知りたいよ!』
銭形もわめく。銃撃の音が凄まじい為だ。
しばらくして、銃撃が止んだ。薫が柱の陰から様子を窺うと、カーテンも吹っ飛ばされ、ポッカリと空いた窓から、三人の男達が見えた。二人がM4カービン、一人がMP5を手にしている。
「おかしい。今の攻撃、三人やなかったはずや」
薫の呟きを聞いて、銭形も頷いた。
「五、六人はいた感じだったがな」
二人のやり取りを聞いた桐生は、素早く厨房に向かった。途中、床に転がっていたカーク達を横目で見てみたが、どうやら無傷であるらしかった。
桐生は、表を警戒しつつ、厨房に入っていった。
つづく
20180416
註:
※マカ=ローニ一家 『ルパン三世 念力珍作戦』 東宝 1974 (実写映画)の設定より
エディ=マーフィーじゃないよ 『ビバリーヒルズ・コップ』1984 パラマウント を踏まえて。