新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

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その4

VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第三章 カリフォルニア・コネクション

 

【 4 】

 

厨房では、鳴海と料理人達が隅の方に固まって伏せていた。クラリスとブレナンの二人が、遥と花を庇うように立っており、その奥のドアの前に、MP5を持った男二人と、レミントンM870ショットガンを持った男が一人いた。一人はMP5をクドーののど元に突き付けており、もう一人のMP5は鳴海を背にしたサラに、そしてショットガンは、まともにクラリスの胸を狙っていた。

『あんたがクラリス姫だな』

『そう言うあなたは、アゴスティーノ=デリ=カリね』

『ほう』デリ=カリは目を見開いた。『お姫様に名を知られているとは、光栄だな』

『たった今知ったばかりですけど』

『まあ何でもいいさ。一緒に来てもらおう』

『お断りします』

クラリスはきっぱりと答えた。

『悪いが、あんたに選択権はねえ。それと、ブレナン博士、あんたも来て貰おうか』

『あら、光栄ね』

ブレナンは肩をすくめた。

『そこのヤクザ野郎、動くなよ』

デリ=カリは桐生に向かって言った。桐生は英語は判らないが、『フリーズ』は聞き取る事が出来た。

『ブレナン博士は解放して貰えませんか?』

クラリスは気丈に申し出た。

『だめだ』

デリ=カリは一蹴すると、銃でクラリスとブレナンを促した。遥はクラリスに付いて歩き出した。

クラリス達の後に一人がついて行き、クドーに銃を突き付けた男が残った。

『動くなよ』

男は言いながら、ドアまで身を退いた。サラがクラリスを追おうと思わず動きかけた。

『動くなっつってんだろ』

銃口がサラに向いた時、クドーが飛び掛かった。しかし一瞬早くかわされてしまった。

『バカが』

MP5が火を噴き、クドーが胸を撃たれて倒れた。

『クドーっ!』

サラが叫んで飛び掛かろうと身構えた。

『お前も死にてぇのか?』

MP5をサラに向けた男に、桐生が一気に踏み込んだ。男が反応する前に、体当たりの勢いで拳をぶち込んだ。

男は後ろのドアを突き破って外に吹き飛ばされた。肋骨が数本折れたらしく、口から大量の血を吐いて、路上に大の字になった。すぐに飛び出した桐生の目に、クラリスを引き止めようとした遥が、一緒にハマーの中に押し込まれる様子が捉えられた。

「遥!」

怒鳴った桐生に、デリ=カリが車内からグロックを突き付けた。そのグロックはすぐに倒れている仲間に向けられ、頭を一発で撃ち抜いた。

クラリス、ブレナン、そして遥を乗せたハマー二台は、猛スピードで走り去った。ご丁寧に、タホもバイパーもプジョーも、タイヤはきっちりと撃ち抜かれており、走行不能になっていた。

 

『おい!ゼニガタ、どういう事だこれはっ!』

ハリウッド署で応急手当を受けている桐生達の所に、テリー=ハラが怒鳴り込んで来た。まともに撃たれたクドー以外は、ガラスの破片などで小さな傷を負っただけで済んでいた。

『何だい部長、"大丈夫か?"とか"お前らは無事か?"とかはないのか?』

銭形は顔をしかめて言ったが、ハラはそれをスルーした。

『お前は、今回の事はイージーだと言っただろ?それを何だ、警官が撃たれた上に、公女まで誘拐されるとは』

『ニセルパンがイージーだって言っただけだ。まさかデリ=カリがバックに付いていたとは』

『言い訳は聞きたくないね。どうするつもりだ?』

『もちろん、行方を突き止めて、救出するわ』

薫が腕の治療に顔をしかめながら言った。

『あんたがFBIのカオルか』ハラは渋面を薫に向けた。『FBIがどれほどの権限を持っているかは、今さら確認したくもないが、これ程の大事となっては、我々も動かざるを得ない。それは判って貰えるな?』

『ええ、判ってますとも』

『今後、FBIと言えども勝手な行動は控えて貰う。了解したか?』

『はいはい了解』

薫がしぶしぶ答えたのを聞いて、ハラは部屋を出て行った。

薫は立ち上がると、サラの横に立った。サラは、これ以上ない程に憔悴していた。親友であるクラリスとブレナンは囚われ、忠実な部下であるクドーは撃たれて重体である。

『サラ、ご免、私達が付いていながら…』

薫は、サラの肩に手を置いた。サラはその手に自分の手を重ねて、薫を見上げた。今にも泣き出しそうな表情だ。

「桐生さん、どうしよう、遥までさらわれちゃった」

花も落ち着かない表情で言った。

「ああ。だが、殺されずに連れて行かれた、という事は、あのアゴ野郎には、人質が必要な何らかの理由があるんだろう」

「アゴスティーノね」

「アゴ野郎の潜伏先が判れば、奪還も可能なんだがな」桐生は薫に顔を向けた。「薫、何とか判らないのか?」

「とりあえず、パソコンでも使えたら、まだ捜しようもあるけど…」

薫は肩をすくめた。

そこへ、ダニエル=エスピノーザがノートパソコンを持って現れた。

『どうした、ダン』銭形がつっけんどんに尋ねた。『お前、本店の刑事だろ。何しに来た?』

『まだ俺は、ハラ部長からあんたのお目付役の任を解かれていないんでね』

ダニエルは言いつつ、ノートパソコンをデスクに置いた。

『それよりも、これを見てくれ。ついさっき、配信され始めた動画だ』

モニターには、椅子に縛りつけられたクラリスとブレナン、そして遥が写し出されていた。そこに、声だけが流れる。

『俺はルパン三世だ。クラリス姫と、ブレナン博士を誘拐した。カリオストロ公国と、ジェファソニアン研究所に、それぞれ一億ドルを要求する。俺は金に汚いから、ビタ一文まける気はない。三日準備期間をやる。期限を過ぎれば、二人は死ぬ』

動画はそこで終わった。

『何だこりゃあ?』

銭形は呆れ顔で呟いた。

『適当な感じ。偽物である事を隠す気もないのね』

薫も大仰に肩をすくめた。

『ああ、クラリス、可哀想に』サラがモニターを見つめながら言った。『こいつ、さっきのアゴ野郎よね?何が目的なの、こんなマネをして』

『そもそも、一億ドルなんて、最初から取る気がない金額だ』銭形は吐き捨てるように言った。『奴らの目的は、営利誘拐ではないって事だ』

『じゃあ何で?』

サラが銭形を詰問する。

『俺に怒るなよ』銭形は両手を胸元で上げた。『デリ=カリは、恐らくルパン三世に復讐がしたいんだ。ルパンの名を騙って卑劣な犯罪を犯し、侮辱して恥をかかせようとしているんだろうよ』

『なっ…』サラは怒りが大きすぎて、言葉を詰まらせた。『何よ、そんなつまらない理由で、クラリスやブレナン、ハルカを誘拐したって言うの!?』

『まあ、奴も一応イタリアン・マフィアだ。面子や体面にはうるせえんだろうよ。しかも、この動画にはルパン本人を誘い出す意味もあるんだろう。あいつはコケにされるのが嫌いだからな』

『現れた所で、命を取ろうって魂胆ね』

薫は言いながら、ノートパソコンを自分の前に引き寄せた。

『おい、カオル、ハラ部長に釘を刺されたろう?勝手な行動はするな、と』

ダニエルはそう言うと、タバコを手に部屋の出口へ向かった。

『俺はタバコを吸いに行く。くれぐれも、勝手にパソコンを使うんじゃないぞ』

ダニエルはわざとらしくそう言い残して、部屋を出て行った。

「ダン、ありがとう」

薫は呟きながら、FBIのメイン・サーバーにアクセスした。何層ものセキユリティを通り抜けると、日本語の表紙が立ち上がった。

「何だ、こりゃ?」

銭形は画面に顔を寄せた。

「『電子通信映像傍受監視システムβ版』か。何だこれは?」

桐生が声に出して読み上げて、首をかしげた。

「これは、今、私が開発中のテロ抑止プログラムや。"花屋"の映像解析システムを参考にして組み立てたプログラムと連動して、メタデータ・音声・映像の複合的監視システムをこしらえたんや。日本での運用を目指して、現在は全米でテスト運用中なんよ」

「これって、NSAの盗聴システムみたいなモンか?」

「そうよ銭形警部。ただ、こちらの方が多角的に情報処理が出来るから、監視能力は高いで」

薫は説明しながら、素早くデータを入力して行く。それに伴い、次々と画面が変わって行く。

「凄いな。これが本気で嫁働したら、プライバシーなどないも同然だな」

銭形は溜め息混じりに呟いた。

「何いうてんの。このデジタル化の昨今、個人情報保護なんて、風前の灯やで。むしろシステムから弾かれる方が、アイデンティティー喪失の危機や思うけど――。よし、捕まえた」

薫は言い終えて、エンターキーを叩いた。

モニター上には南カリフォルニアの地図が表示されており、その一点に緑色の印が点滅している。ベニス・ビーチ辺りである。

『これは何?』

サラが画面を覗き込んで尋ねた。

『デリ=カリは、用心してプリペイドスマホを使っているようだから、奴の手下を片っ端から検索してみたの。そしたら、"倉庫番"とあだ名されるマルクって男のスマホが引っ掛かったわ。あいつ、表の顔は雑貨商だから、スマホも車も自分名儀なのよ。この数時間、誰かと頻繁にやり取りしてるわ』

『それがデリ=カリ?』

『判らないわ。でもね』

薫は画面を切り替えた。どこかの通りの防犯カメラの映像である。男が大量の食糧品をピックアップ卜ラックに積んでいる姿が写っている。

『こいつがマルクよ。この買い出しは、恐らく籠城用に違いないわ。ただ、この映像は数時間前のものだから、他の映像と合わせてこいつの動きをたどるのには、もう少し時間が掛かりそうね』

『その近辺なら、俺の手下が聞き込みに当たっているので、すぐ発見出来ると思いますよ』

後ろからそう声を掛けられ、全員が驚いて振り返った。ドアの所に、やや顔色の悪いクドーが立っていた。

『まあ、クドー!』

サラが泣き声で立ち上がった。

『クドーさん、大丈夫なの?』

花に尋ねられて、クドーは笑顔を見せた。

『サラの事が心配で、とても病院のベッドで寝てるなんて出来ないですよ』

サラは泣き笑いの表情でクドーをハグした。クドーは控え目に『痛いですよ』と抗議の声を上げた。

「あいつの声、初めて聞いたぜ」

桐生はそこに驚いていた。

『とりあえず移動を始めましょう。基地(ベース)にする部屋は確保してあります』

クドーはそう言って皆を促した。

『待ってクドー』薫がパソコンのデータを消去しながら言った。『移動って言っても、私達の車はどうなってるの?』

『先程、ハラ部長の指示でタイヤ交換は済んでいましたよ』

クドーはそう言って笑った。

『あら、意外と気が利くじゃない、あの部長』

薫は肩をすくめた。

『よし、行くぞ。姫達を救い出すんだ』

銭形が厳しい表情で立ち上がった。

 

 

つづく

 

20180509

 

 

 

註:

 

※カリフォルニア・コネクション 日本テレビ系『熱中時代・刑事編』(1979) 主題歌 歌 : 水谷豊

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