新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS 作:宝蔵院 胤舜
その1
VACANCES IN LOS ANGELS
第四章 サンタモニカの風
【 1 】
桐生達はビバリーヒルズ署を出ると、サンタモニカ・ブールバードを西へ向かった。クドーが運転するバイパーを先頭に、タホとプジョーが続く。
バイパーはサンタモニカ・ブールバードからユークリッド・コートに右折し、今度はアリゾナ・アベニューを左折。しばらく走ってまたリンカーン・ブールバードで右折する。
「ずいぶん曲がるのね」
右に左に体を揺らしながら、花が言った。
「尾行がないかどうか確かめてるんや、多分」
薫がハンドルを切りながら答えた。
クリスティン・エマーソン・リードパークを左に見ながらリンカーン・ブールバードを走ると、カリフォルニア・アベニューで左折、そしてまた7thストリートで右折した。
しばらく広い通りを走っていたが、左折してパラセイズ・プレイス・ノースという細い路地に入った。
「何か裏道みたいね」
花が周りを見迴しながら言った。家ごとにペールが置いてある。
「そうね、言ってみれば、ゴミ回収用の道やから」
薫は言いつつ、バックミラーを確認した。後ろからポンコツプジョーが追い掛けて来るのが写っていた。
人目を避けるようにパラセイズ・プレイス・ノースを進み、とうとう行き止まりかと見えた所で、バイパーからサラが手を伸ばした。右方向を指差す。そこには、高級そうなコンドミニアムがあった。
パラセイズ・プレイス・ノースはそこで終わり、1stコートで丁字路となる。そこを右折すると、すぐ左にパーキングの入口があった。そこから地下駐車場に入って車を停めると、エレベーターで暗証番号を入力して六階まで昇る。エレベーターを降りるとそこはペントハウス式のコンドミニアムであった。
『"エル・トヴァール"。このコンドミニアムをベースキャンプとします。何故私がこの場所をセレクトしたか、と言いますと、実は…』
クドーが説明するのも聞かず、薫は備え付けてあったパソコンを起動した。Wi-Fiに繋ぐと、『電子通信映像傍受監視システムβ版』を立ち上げ、"倉庫番"マルクの検索を再開した。
やがて、システムがマルクの居場所を特定した。画面が三分割され、データ、地図、カメラ映像が表示される。
『マルクは、現在オーシャン・アベニューにいるらしいわ。荷物を降ろしているから、どうやらアジトへ行くみたいね…って、あれ?』
画面を見ていた薫が、変な声を上げた。防犯カメラの映像はリアルタイムで、南北に走るオーシャン・アベニューと東から来るアルタ・アベニューとの丁字路を、海側から南に向いて撮っている。カメラのほぼ真向かいにあるコンドミニアム"オーシャン・アイアール"の前に停めたフォードのハッチバックから、荷物を降ろしているマルクがはっきりと映っている。そしてその先の、交差点の向こうに見えているコンドミニアムの銘板も読み取れた。
「"エル・トヴァール"って、ここなんちゃうの?」
思わず日本語で言ってから、薫はペントハウスの窓に駆け寄った。桐生達もそれを追って窓に取り付いた。
六階の窓から西は、パームツリー以外遮る物もなく、沈んだ夕陽の残照に紅く染まるサンタモニカ・ビーチからの太平洋の広がりが一望出来るのだが、その真下が、丁度オーシャン・アベニューとアルタ・アベニューとの交差点で、今まさに大きな荷物を抱えているマルクの姿が肉眼で確認出来た。
『何、デリ=カリのアジトって、"オーシャン・アイアール"なの?』
薫が目を丸くしながらクドーに訊いた。
『どうやらそのようです。この一~二週間、頻繁に出入りしていたらしく、"その筋"の連中の間では話題になっていたようです。デリ=カリが何か企んでいると。実は、このコンドミニアムをセレクトした理由は、この為です』
『よくそんな話が聞き出せたわね』
サラが感心して言った。
『まあ、同業者達はやっかみで足を引っ張るつもりなんでしょう、色々と教えてくれましたよ。かなりの火器を入手しているらしい、とか』
クドーは笑いながら言った。
『中の様子が知りたいな』
窓から身を隠す位置に移動しながら、銭形が呟いた。
『今、セキュリティ会社の防犯システムにハッキングしてるから、もう少し待ってて』
薫がキーボードを叩きながら言った。
『ところでクドー』
サラが真顔でクドーに声を掛けた。
『何ですかサラ』
『この、"オーシャン・アイアール"っていうコンドミニアムなんだけど、オーナーは誰?』
『ゼネラルマネージャーは、マリッサ=ホワイトです』
『早速彼女に連絡を取って。その…』
『そのコンドミニアムは、今日から一週間、私の義兄が運営するPMC(民間軍事会社)がインドア・アタックの訓練の為に借り受ける、という契約が、もう成立しています』
サラが全てを言い切る前に、クドーが言葉を引き継いだ。
『さすがクドー。仕事が早いわ』
『と、いう事で、今晩中には、デリ=カリ一味以外の住人達は、一時的に同じ系列の他のコンドミニアムに移動するはずです』
クドーは銭形を見て言った。
『そうか、判った。では、決行は明日の早朝という事だな』
銭形は大きく頷いた。
『映像が繋がったわ』
薫が声を上げたので、全員がパソコンのモニター前に集まった。
『ここの防犯会社、ネットセキュリティがなってないわ。後で忠告してあげなきゃ』
薫はそう言いながら、カメラ映像をクリックして拡大する。
『一~二階は商業施設が入っているわ。シーフードレストランとかね。三階以降がアパートメントエリアなんだけど、ここ、二階層毎のコンパートメントなのよ』
『どう言う事?』
サラが首をかしげた。
『要は二階建てのコンドミニアムって事。三・四階が一組、五・六階が一組、七・八階が一組、そんな感じ』
『なるほど。結構リッチじゃない』
『で、十二階までは民間人の住んでいる区画なんだけど』薫は映像を切り換えた。『問題はペントハウスの、エレベーターから一番離れた部屋』
ドアの前に、ウージーを持った男が二人立っている。その隣の部屋から男が二人出て来ると、今まで立っていた男達と交替した。立っていた男達は、隣の部屋に戻って行った。新しい男達の手には、MP5がある。
『ここにいるのは間違いなさそうだな』
銭形が腕組みをして言った。
『そうね。すぐ助けに行かなきゃ』
サラが言った。今にも飛び出しそうな勢いである。
『だめよ。相手は銃で武装してるのよ。それに、隣の部屋に何人いるか判らないのに。何の用意もなしに突入するのはバカげてるわ』
『バカとは何よ!カオル、クラリスやテンペ、ハルカが心配じゃないの?』
『何で私に噛み付くのよ。心配なのは同じよ。でも、相手は情け無用のデリ=カリなの。闇雲に突っ込んでも被害が大きくなるだけよ。まだ民間人だっているんだから』
薫は諭すように言った。
『ここは、カオルの言う通りだ、サラ』銭形も口を揃える。『失敗しては元も子もない。デリ=カリとやり合うには、装備が足りない。それに民間人がいれば、それを盾に取られるかも知れん。クラリス達には、この一晩ガマンして貰おう。全ては明日だ』
その時、クドーのスマホが鳴った。
『今、俺の手下が下に来ています。武器を持って来てくれました』
すぐにエレベーターが開いて、あごヒゲをたくわえた男と、黒い長髪の男、どちらも日系人らしい二人が、大きなスチールの箱を台車で押して降りて来た。
『よう。注文の品、持って来たぜ』
ヒゲの男が低い声で言った。帽子を目深に被っているので、表情までは判らないが、声が笑っている。
『何で笑うんだ?』
クドーも笑いながら尋ねた。
『珍しい注文だからな。武器屋のおやじも"カンフー映画でも撮るのか?"って笑ってたぜ』
ヒゲの男はそう言いつつ、箱を開けた。
箱の中には、銃やスタン・グレネード、テーザー銃、それに日本刀やヌンチャクなどがぎっしりと詰まっていた。
「お、これは」
桐生が、箱の中から細長いバッグを取り出した。
「そいつは"バレットM82"対戦車ライフルだ」
ヒゲ男は日本語で言った。
「知ってる。つい最近、こいつにはお世話になった」
桐生は唇を歪ませた。
「良い銃だよな。シモノフPTRS1941より扱い易いしな」
ヒゲ男は笑って言った。
『サラにはこれを』
クドーはテーザー銃とヌンチャクをサラに手渡した。
『なぜ私はGUNじゃないの?』
『あなたには人を殺して欲しくない』
サラの問いに、クドーは強い口調で答えた。
『私は、ここで留守番で良いよね?』
花が、引きつった表情で言った。
クラリスとブレナン、遥の三人は、広いリビングルームの壁際に並べた椅子に腰掛けていた。さすがに縛られてはいないが、男達が銃を持って立っているので、迂闊には動けない。
部屋の中央のソファーに、デリ=カリが座って、チビチビとブランデーを舐めている。
『俺は別にあんたらには恨みはねえんだがな』
デリ=カリは、グラスを置いた手で、横に置いてあるグロックを撫で回した。
『それなら、今からでもブレナン博士と遥を解放して下さい』
クラリスは毅然とした態度で言った。
『それは諦めてくれ』デリ=カリは下品に笑った。『あんたらはエサなんだ。エサは何も考えなくて良い。どうせ死ぬんだからな』
『あなたはルパン三世に用があるのでしょう?それなら、この二人は無関係です』
『俺は、奴に恥をかかせればそれで良いんだ。無関係ならそれも良し、さ』
デリ=カリは一向に取り合わない。
『でも恐らく、おじさまは来ませんよ』
クラリスは微笑みながら言った。
『何故そう思うんだ?』
デリ=カリは不信げな表情でクラリスを見た。
『おじさまは、こんな割りの合わないリスクには手を出さないでしょう』
『それより、こんな派出な事をして、FBIの介入を心配した方が良いんじゃないの?』
ブレナンが肩をすくめて言った。
『別にFBIなど恐かねえ。それに、クラリス、あんたにゃ残念だろうが、ルパンの奴は来るぜ。奴はバカだからな。あんたを助けようと、俺に殺されにやって来るさ』
デリ=カリは不敵に笑うと、ソファーに大きく寄り掛かった。
『ご免なさい、テンペ』
クラリスは小さく頭を下げた。
『大丈夫よ、気にしないで。きっと何とかなるわ』
ブレナンは明るい表情で答えた。
「Haruka. I am very sorry.」
クラリスは、今度は遥に向かって頭を下げた。
花がいないので、遥には周りの会話は全く解らない。ただ、クラリスが自分の事を気使ってくれているのは、はっきりと感じられた。なので、遥は勢一杯の気持ちを込めて、答えた。
「んーん、No problem.」
それに続けて遥の口から出た言葉は、日本語の解らないその場の全員が理解出来なかった。
「大丈夫よ。おじさんが必ず助けに来てくれるから」
つづく
20180529
註:
バレットM82 米軍対戦車ライフル(対物ライフル) 。ゲーム内(OTE)では、KM.50対物ライフルという名称で、桐生のメイン・ウェポンだった。
シモノフPTRS1941 ソビエトセミオート対戦車ライフル。口径14.5ミリ 全長2140ミリ『カリ城』で次元大介が使用