新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS   作:宝蔵院 胤舜

13 / 18
第四章 サンタモニカの風
その1


VACANCES IN LOS ANGELS

 

 

第四章 サンタモニカの風

 

【 1 】

 

桐生達はビバリーヒルズ署を出ると、サンタモニカ・ブールバードを西へ向かった。クドーが運転するバイパーを先頭に、タホとプジョーが続く。

バイパーはサンタモニカ・ブールバードからユークリッド・コートに右折し、今度はアリゾナ・アベニューを左折。しばらく走ってまたリンカーン・ブールバードで右折する。

「ずいぶん曲がるのね」

右に左に体を揺らしながら、花が言った。

「尾行がないかどうか確かめてるんや、多分」

薫がハンドルを切りながら答えた。

クリスティン・エマーソン・リードパークを左に見ながらリンカーン・ブールバードを走ると、カリフォルニア・アベニューで左折、そしてまた7thストリートで右折した。

しばらく広い通りを走っていたが、左折してパラセイズ・プレイス・ノースという細い路地に入った。

「何か裏道みたいね」

花が周りを見迴しながら言った。家ごとにペールが置いてある。

「そうね、言ってみれば、ゴミ回収用の道やから」

薫は言いつつ、バックミラーを確認した。後ろからポンコツプジョーが追い掛けて来るのが写っていた。

人目を避けるようにパラセイズ・プレイス・ノースを進み、とうとう行き止まりかと見えた所で、バイパーからサラが手を伸ばした。右方向を指差す。そこには、高級そうなコンドミニアムがあった。

パラセイズ・プレイス・ノースはそこで終わり、1stコートで丁字路となる。そこを右折すると、すぐ左にパーキングの入口があった。そこから地下駐車場に入って車を停めると、エレベーターで暗証番号を入力して六階まで昇る。エレベーターを降りるとそこはペントハウス式のコンドミニアムであった。

『"エル・トヴァール"。このコンドミニアムをベースキャンプとします。何故私がこの場所をセレクトしたか、と言いますと、実は…』

クドーが説明するのも聞かず、薫は備え付けてあったパソコンを起動した。Wi-Fiに繋ぐと、『電子通信映像傍受監視システムβ版』を立ち上げ、"倉庫番"マルクの検索を再開した。

やがて、システムがマルクの居場所を特定した。画面が三分割され、データ、地図、カメラ映像が表示される。

『マルクは、現在オーシャン・アベニューにいるらしいわ。荷物を降ろしているから、どうやらアジトへ行くみたいね…って、あれ?』

画面を見ていた薫が、変な声を上げた。防犯カメラの映像はリアルタイムで、南北に走るオーシャン・アベニューと東から来るアルタ・アベニューとの丁字路を、海側から南に向いて撮っている。カメラのほぼ真向かいにあるコンドミニアム"オーシャン・アイアール"の前に停めたフォードのハッチバックから、荷物を降ろしているマルクがはっきりと映っている。そしてその先の、交差点の向こうに見えているコンドミニアムの銘板も読み取れた。

「"エル・トヴァール"って、ここなんちゃうの?」

思わず日本語で言ってから、薫はペントハウスの窓に駆け寄った。桐生達もそれを追って窓に取り付いた。

六階の窓から西は、パームツリー以外遮る物もなく、沈んだ夕陽の残照に紅く染まるサンタモニカ・ビーチからの太平洋の広がりが一望出来るのだが、その真下が、丁度オーシャン・アベニューとアルタ・アベニューとの交差点で、今まさに大きな荷物を抱えているマルクの姿が肉眼で確認出来た。

『何、デリ=カリのアジトって、"オーシャン・アイアール"なの?』

薫が目を丸くしながらクドーに訊いた。

『どうやらそのようです。この一~二週間、頻繁に出入りしていたらしく、"その筋"の連中の間では話題になっていたようです。デリ=カリが何か企んでいると。実は、このコンドミニアムをセレクトした理由は、この為です』

『よくそんな話が聞き出せたわね』

サラが感心して言った。

『まあ、同業者達はやっかみで足を引っ張るつもりなんでしょう、色々と教えてくれましたよ。かなりの火器を入手しているらしい、とか』

クドーは笑いながら言った。

『中の様子が知りたいな』

窓から身を隠す位置に移動しながら、銭形が呟いた。

『今、セキュリティ会社の防犯システムにハッキングしてるから、もう少し待ってて』

薫がキーボードを叩きながら言った。

『ところでクドー』

サラが真顔でクドーに声を掛けた。

『何ですかサラ』

『この、"オーシャン・アイアール"っていうコンドミニアムなんだけど、オーナーは誰?』

『ゼネラルマネージャーは、マリッサ=ホワイトです』

『早速彼女に連絡を取って。その…』

『そのコンドミニアムは、今日から一週間、私の義兄が運営するPMC(民間軍事会社)がインドア・アタックの訓練の為に借り受ける、という契約が、もう成立しています』

サラが全てを言い切る前に、クドーが言葉を引き継いだ。

『さすがクドー。仕事が早いわ』

『と、いう事で、今晩中には、デリ=カリ一味以外の住人達は、一時的に同じ系列の他のコンドミニアムに移動するはずです』

クドーは銭形を見て言った。

『そうか、判った。では、決行は明日の早朝という事だな』

銭形は大きく頷いた。

『映像が繋がったわ』

薫が声を上げたので、全員がパソコンのモニター前に集まった。

『ここの防犯会社、ネットセキュリティがなってないわ。後で忠告してあげなきゃ』

薫はそう言いながら、カメラ映像をクリックして拡大する。

『一~二階は商業施設が入っているわ。シーフードレストランとかね。三階以降がアパートメントエリアなんだけど、ここ、二階層毎のコンパートメントなのよ』

『どう言う事?』

サラが首をかしげた。

『要は二階建てのコンドミニアムって事。三・四階が一組、五・六階が一組、七・八階が一組、そんな感じ』

『なるほど。結構リッチじゃない』

『で、十二階までは民間人の住んでいる区画なんだけど』薫は映像を切り換えた。『問題はペントハウスの、エレベーターから一番離れた部屋』

ドアの前に、ウージーを持った男が二人立っている。その隣の部屋から男が二人出て来ると、今まで立っていた男達と交替した。立っていた男達は、隣の部屋に戻って行った。新しい男達の手には、MP5がある。

『ここにいるのは間違いなさそうだな』

銭形が腕組みをして言った。

『そうね。すぐ助けに行かなきゃ』

サラが言った。今にも飛び出しそうな勢いである。

『だめよ。相手は銃で武装してるのよ。それに、隣の部屋に何人いるか判らないのに。何の用意もなしに突入するのはバカげてるわ』

『バカとは何よ!カオル、クラリスやテンペ、ハルカが心配じゃないの?』

『何で私に噛み付くのよ。心配なのは同じよ。でも、相手は情け無用のデリ=カリなの。闇雲に突っ込んでも被害が大きくなるだけよ。まだ民間人だっているんだから』

薫は諭すように言った。

『ここは、カオルの言う通りだ、サラ』銭形も口を揃える。『失敗しては元も子もない。デリ=カリとやり合うには、装備が足りない。それに民間人がいれば、それを盾に取られるかも知れん。クラリス達には、この一晩ガマンして貰おう。全ては明日だ』

その時、クドーのスマホが鳴った。

『今、俺の手下が下に来ています。武器を持って来てくれました』

すぐにエレベーターが開いて、あごヒゲをたくわえた男と、黒い長髪の男、どちらも日系人らしい二人が、大きなスチールの箱を台車で押して降りて来た。

『よう。注文の品、持って来たぜ』

ヒゲの男が低い声で言った。帽子を目深に被っているので、表情までは判らないが、声が笑っている。

『何で笑うんだ?』

クドーも笑いながら尋ねた。

『珍しい注文だからな。武器屋のおやじも"カンフー映画でも撮るのか?"って笑ってたぜ』

ヒゲの男はそう言いつつ、箱を開けた。

箱の中には、銃やスタン・グレネード、テーザー銃、それに日本刀やヌンチャクなどがぎっしりと詰まっていた。

「お、これは」

桐生が、箱の中から細長いバッグを取り出した。

「そいつは"バレットM82"対戦車ライフルだ」

ヒゲ男は日本語で言った。

「知ってる。つい最近、こいつにはお世話になった」

桐生は唇を歪ませた。

「良い銃だよな。シモノフPTRS1941より扱い易いしな」

ヒゲ男は笑って言った。

『サラにはこれを』

クドーはテーザー銃とヌンチャクをサラに手渡した。

『なぜ私はGUNじゃないの?』

『あなたには人を殺して欲しくない』

サラの問いに、クドーは強い口調で答えた。

『私は、ここで留守番で良いよね?』

花が、引きつった表情で言った。

 

クラリスとブレナン、遥の三人は、広いリビングルームの壁際に並べた椅子に腰掛けていた。さすがに縛られてはいないが、男達が銃を持って立っているので、迂闊には動けない。

部屋の中央のソファーに、デリ=カリが座って、チビチビとブランデーを舐めている。

『俺は別にあんたらには恨みはねえんだがな』

デリ=カリは、グラスを置いた手で、横に置いてあるグロックを撫で回した。

『それなら、今からでもブレナン博士と遥を解放して下さい』

クラリスは毅然とした態度で言った。

『それは諦めてくれ』デリ=カリは下品に笑った。『あんたらはエサなんだ。エサは何も考えなくて良い。どうせ死ぬんだからな』

『あなたはルパン三世に用があるのでしょう?それなら、この二人は無関係です』

『俺は、奴に恥をかかせればそれで良いんだ。無関係ならそれも良し、さ』

デリ=カリは一向に取り合わない。

『でも恐らく、おじさまは来ませんよ』

クラリスは微笑みながら言った。

『何故そう思うんだ?』

デリ=カリは不信げな表情でクラリスを見た。

『おじさまは、こんな割りの合わないリスクには手を出さないでしょう』

『それより、こんな派出な事をして、FBIの介入を心配した方が良いんじゃないの?』

ブレナンが肩をすくめて言った。

『別にFBIなど恐かねえ。それに、クラリス、あんたにゃ残念だろうが、ルパンの奴は来るぜ。奴はバカだからな。あんたを助けようと、俺に殺されにやって来るさ』

デリ=カリは不敵に笑うと、ソファーに大きく寄り掛かった。

『ご免なさい、テンペ』

クラリスは小さく頭を下げた。

『大丈夫よ、気にしないで。きっと何とかなるわ』

ブレナンは明るい表情で答えた。

「Haruka. I am very sorry.」

クラリスは、今度は遥に向かって頭を下げた。

花がいないので、遥には周りの会話は全く解らない。ただ、クラリスが自分の事を気使ってくれているのは、はっきりと感じられた。なので、遥は勢一杯の気持ちを込めて、答えた。

「んーん、No problem.」

それに続けて遥の口から出た言葉は、日本語の解らないその場の全員が理解出来なかった。

「大丈夫よ。おじさんが必ず助けに来てくれるから」

 

 

つづく

 

20180529

 

 

 

註:

 

バレットM82 米軍対戦車ライフル(対物ライフル) 。ゲーム内(OTE)では、KM.50対物ライフルという名称で、桐生のメイン・ウェポンだった。

 

シモノフPTRS1941 ソビエトセミオート対戦車ライフル。口径14.5ミリ 全長2140ミリ『カリ城』で次元大介が使用

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。