新・龍が如く クロスオーバー VACANCES IN LOS ANGELS 作:宝蔵院 胤舜
VACANCES IN LOS ANGELS
第四章 サンタモニカの風
【 2 】
朝五時。まだうす暗い中で、桐生、薫、サラ、クドー、銭形は熟睡状態から一気に目覚めた。全員、どんな状況でも十分な休養を取る、そういう訓練を積んでいる。夜明けまでまんじりとも出来なかったのは、花だけである。
全員がリビングに揃うと、そこには昨日荷物を届けに来た日系人二人もいた。
「何や、まだおったん?どないしたん?」
薫が日本語で尋ねた。
「つれない姐ちゃんだな」ヒゲ男が笑って言った。「アフターサービスだよ。ちょっと手助けが必要だろ?」
言いながら、何やらゴトゴトとテーブルの上に置き出した。長髪の男が、それを避けながらコーヒーの入ったマグカップを人数分置く。
「何だ、これは?無線機か?」
銭形が機械を取り上げながら尋ねた。
「そう。こちらはデリ=カリより人数が少ない。それを生かすのは、連係です。花さん、あなたには司令塔になって貰います。皆は、無線で連絡を取り合って、有機的に動いて、姫達を奪還するのです」
クドーは言いつつ、無線機を全員に手渡した。
「ど、どうやって?私が司令塔って、どういう事?」
花は目を丸くして言う。
「あなたは最前線には出ない。その代わり、『電子通信映像傍受監視システムβ版』を見て、奴らの動きを的確に知らせて欲しいのです」
「そんな事、私に出来るかな?」
「大丈夫。こいつが手伝いますから」
クドーに示されて、ヒゲ男がニヤリと笑った。
「なるほど。面白いな」
銭形が無線機を取り上げて言った。
「分かれてお姫様を救けに行くって訳だな」
桐生の言葉に、クドーは頷いた。
「この無線機はこの部屋の母機を中心とした独自の電波帯を利用しているので、奴らに傍受される気使いはありません」
クドーは言いつつ、ヒゲ男と共に無線機を各人に装着させた。
「へえー、こんなに軽いのに、こんなクリアーに聞こえるんやね」
無線機のスイッチを入れた薫が、目を丸くした。
「よし、行くぞ。姫達を救出し、デリ=カリを逮捕する!」
銭形が目を怒らせて言った。
「遥、待ってろよ」
桐生は拳を握り締めた。
ほぼ同時刻。クラリス、ブレナン、遥の三人は示し合わせたように目を覚ました。三人ともかなりの修羅場を経駿しているので、妙に肚が据わっている。人質という状況にも拘わらず、しっかりと熟睡していた。
『この状況で熟睡たあ、大した玉だぜお前ら』
リビングには既にデリ=カリがおり、ソファーでタバコをふかしていた。
『何か問題でもあったの?』
ブレナンが当て付けのように尋ねた。
『ああ。大有りだ』
デリ=カリは吐き捨てるように答えた。
『昨晩、建物中で何か物音がしていましたが、それが関係しているのでしょうか?』
クラリスが静かに言う。
『畜生、判っていやがったのか。ムカツく女だ』
デリ=カリは更に苦い顔をした。
『どういう事?』
首をひねるブレナンに、クラリスは微笑みながら言った。
『恐らく、何らかの理由をつけて、ここの住民を全員どこかへ避難させてしまったのよ、あの人達。いずれ、私達を救けにここに来てくれるわ』
銭形を先頭に、桐生、薫、サラ、クドーは、"オーシャン・アイアール"のエントランスにやって来た。朝の六時過ぎは、車もほとんど通らない。
五人がエントランス前に来た丁度のタイミングで扉が開き、一組の男女が出て来た。勘違いイケメンの男に対し、女は目を見張るほどのグラマラス美女である。
『あら、クドーちゃん、おはよう。もう私達で最後よ。住人は一人も残ってないわ』
美女が妖艶に微笑みながら言った。その女に、銭形が詰め寄った。
「おい、不二子、お前こんな所で何してやがる?」
「不二子?峰不二子か?」
桐生は思わず二度見した。少々世事に疎い彼でさえ、その名前は知っている。そんな桐生に、不二子はウィンクを投げると、すぐに銭形に向き直った。
「あん、銭形警部。お久し振りなのに、不粋なセリフね。このマークと一晩中愛し合ってたに決まってるじゃない」
マークは、日本語は判らないので適当に頷いて見せた。
「不二子の居る所、必ずルパン有り、だ。おい不二子、ルパンはどこだ?」
更に詰め寄る銭形を、不二子は軽くいなした。
「やめてよ。私、ルパンのお母さんじゃないの。彼がどこで何をしてるかなんて、判る訳ないじゃない。私はたまたま、友人であるクドーちゃんに頼まれて、しばらく愛の巣から離れなくてはならなくなった、悲しい雛鳥ってだけよ」
「雛鳥って柄か?まあ何でもいい。今からデリ=カリと荒事だ。今すぐここを離れろ」
「まあ、優しいのね銭形警部」
「邪魔なだけだ」
「何よ、失礼しちゃう」不二子は小さく肩をすくめた。「まあ、ケガしないように、皆頑張ってネ。デリ=カリとルパンの因縁に巻き込まれないようにね」
「もう首までどっぷり浸ってるよ」
そう返した銭形に、不二子は背中越しに手をひらひらさせて、マークと共に立ち去って行った。
「何や、あのエロ女。一馬にまで色目使こて」
薫がむくれて不二子の背中を睨みつけた。
「相手にしないこった」銭形は笑って言った。「大先輩のやる事だ。大目に見てやれよ」
「いくつなのよ?あの人」
「言わぬが花だ」
銭形は肩をすくめた。
"オーシャン・アイアール"の階段は、西側のエントランスの近く、建物の中央近くの二本である。サラとクドーが手前、そして桐生と薫は中央の階段を通る事となった。
「銭形警部は?」
そう尋ねた薫に、銭形は満面の笑みで答えた。
「お前さん達とは別ルートを取るよ。まあ任せろ」
薫は肩をすくめたが、何も言わなかった。
「俺達は陽動だ。派出に行こうぜ」
桐生はそう言って、ライフルを構えた。薫もFN P90を構える。
サラとクドー、銭形が視界から消えたのを見届けると、桐生は目の前の廊下にバレットM82をぶっ放した。轟音が反響し、店舗のガラスが振動する。
「桐生さん、薫さん、聞こえる?」
花の声はイヤホン越しにも少し緊張しているのが判る。
「ええ、バッチリや」
「あと少しで、中央階段から二人降りてくるわ。一人目は拳銃、もう一人は機関銃みたい」
「了解」
桐生が答えた直後に、男が二人階段から降りて来た。桐生は二人の体勢が整う前に、M82を撃った。弾丸は二人目のウージーを粉々にして、爆発させた。二人はその破片を浴びて、血まみれになって倒れた。桐生は落ちているベレッタを拾い、ベルトに差した。
「今、エレベーターで三人降りて行ったわ。五階を過ぎた」
「ありがとう」
桐生は答えつつ、M82を廊下の奥、正面にあるエレベーターに向け、連射した。扉の上部に弾着を集中させ、坑内に扉をめり込ませる。
降りて来たエレベーターの箱は、その扉にぶつかり、坑内の壁に倒れ掛かって止まった。そこへ薫が走り寄り、隙間からスタン・グレネードを放り込んだ。轟音が鳴り響き、箱の中はすぐ静かになった。
「更に二人、階段から。二階から降りた所」
花の言葉を聞いて、桐生は手すりの壁越しにライフルを撃ち込んだ。すぐに、悲鳴と共に足を撃ち抜かれた二人が転げ落ちて来た。
「凄いわ。ゴッド・モードやわ」
「何だって?」
薫の言葉は、桐生には理解出来なかった。
「気にしんといて。さあ、上、行きましょ」
薫はさっさと階段を上がって行った。桐生も深くは考えず、薫の後を追った。
「連中は上へ行ったわ。しばらくは誰もいない」
花が溜め息まじりに言った。
「ゲリラ戦の鉄則やね。私達が下から来たから、体勢を立て直す為に、上階へ戻ったんやわ」
薫がそう言った時、ヒゲ男の声がイヤホンから聞こえた。
「クドー、上から四人」
その次の瞬間、廊下の向こう側の階段ホールが、爆発的に光った。フラッシュ・グレネードだ。
「あっちもやってはるね」薫はちょっと足を止めた。「銭形警部は大丈夫やろか?」
「まあ、あっちは心配ないだろ」桐生は肩をすくめた。「こっちはこっちの仕事をするだけだ」
「そうやね」
二人はまた階段を登り始めた。
下からの銃声や爆発音はデリ=カリの耳にも届いていた。
『くそう、ルパンか?』
『どうやら昨日のヤクザ達のようです』
報告に来た白人が言った。昨日のレストラン襲撃に参加していた男だ。
『そんな奴らに手間取ってんのか、あいつら』デリ=カリは荒っぽく立ち上がった。『ケリガン、お前が行って、一丁もんで来い』
ケリガンは返事もなく出て行った。それを見送って、デリ=カリは大きく舌打ちをした。
『どうしたの?予定と違ってた?』
ブレナンが嫌味な口調で言う。
『何なんだあいつらは?いちいち俺の邪魔をしやがって』
『あんたがクラリスなんか拐(さら)うからいけないのよ』ブレナンは半笑いである。『私、ルパンの事は良く判らないわ。でも、ゼニガタやカズマがあんたにとって厄介な相手だって事は判る。あんたは、クラリスに手を出すべきじゃなかったのよ』
サラとクドーは、様子を見ながら階段を登ってペントハウスを目指した。桐生達と別れてすぐ、下から銃声が聞こえて来た。サラとクドーは互いに目で確認すると、サラはヌンチャク、クドーはカリ・スティックと持ち直した。
足音を控える為、走らずに階段を登っていたサラとクドーの耳に、ヒゲ男の声が響いた。
「クドー、上から四人」
クドーは素早くアイス・ホッケーのパック大の塊を取り出すと、ピンを抜いて階段の上へ放り飛げた。二秒後、閃光が爆発し、三秒ほど周りが真っ白になった。光が収まった所へ登って行くと、MP5で武装した四人が、目を押さえてふらついていたので、サラとクドーは四人に飛び掛かり、殴って気絶させると、手早く結束バンドで縛り上げた。
『ちょっとヒゲの人、英語で言ってよ』
サラが抗議すると、ヒゲ男は笑って言った。
『悪かったなお嬢ちゃん。何せこの度は、英語がマイノリティなんでな』
『で、状況は?』と、クドー。
『奴らはセオリー通り、上階へ退いてったぜ。屋上のペントハウスへの階段にソファーやデスクでバリケードを作ってる。三人居て、バイザーをつけてる』
『なーるほど。じゃあ、閃光弾はダメって訳か。別の手を考えなきゃな』
クドーが唇の端を釣り上げて、言った。これまでにサラが聞いた事のない口調だった。
『ねぇ、クドー』そんなクドーに、サラが尋ねた。『何だか、随分と親しそうなんだけど、あのヒゲの人とはどういう知り合いなの?』
『なぁに、奴は古くからの腐れ縁ですよ』
クドーは小さく肩をすくめて見せた。
つづく
20180611
註 :
ゴッド・モード 『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』 CBC 2011年 より。